「何かある訳では無いのでしょう?」
その声は、噴水の噴き出し音に混じって少々聞こえにくかったかもしれない。
しかし、尊実にはちゃんと聞こえていたようだ。
「何が?」
何の事かは解かっている。しかし尊実はわざと訊き返した。
「他の三人の死が、まるで関連性があるかのような言い方をしたじゃない」
学がやってきて三十分ほどしてから、総司が神藤を従えて帰ってきた。
総司にも用があるからと、学が退席して間もなく尊実も帰る事にしたのだが、もう少し話がしたいと紗月姫が引き止めたのだ。
紗月姫が尊実を引き止めるなど、初めての事だろう。
もちろん感情的な物ではなく、何か探りたい事があるのだろうという事は尊実にも解かったが、彼は少々調子に乗って紗月姫を前庭へと誘ったのだ。
前庭の噴水の周りをゆっくりと歩きながら、紗月姫は尊実を引きとめた理由である用件を切り出した。
学に他の三人の件を匂わせ、精神的な不安をあおろうとした。もっとも、学にはあまり効き目が無かったようだが。
しかしこれが一般社会下で起こった事件ならば、誰もが疑問と不信感を持ってしまうだろう。
辻川の権力があるからこそ、表沙汰にはされないだけだ。
「まぁ、普通に考えれば、疑われるのは俺だよな。あの三人が死ねば、ライバルは減る、って事で」
「そうね」
紗月姫はクスッと笑う。尊実なら本当にやりそうだ。笑い事では無いが、本気でそう思ってしまった。
「あ、今、俺ならやりそうだ、とか思っただろう?」
尊実が横を歩いている紗月姫をチラッと見ると、紗月姫はちょっと反抗した。
「何でもかんでも人の心を読まないでっ。自分は相変わらず心を見せないくせに」
尊実は相変わらず思考にシールドをかけたままだ。そのくせ人の心は遠慮なく読んでしまう。
紗月姫の抗議に対して尊実はフッと笑い、「当然だろ?」 と呟くと、紗月姫に目を向け、不満そうな彼女の瞳を見詰めた。
「シールドを解いたら、俺がどれだけお前の事ばっかり考えているか、お前に知られちまうだろ?」
思わせ振りな言葉だ。
普通なら照れてしまうところだが、紗月姫はそれをサラッと返した。
「いかがわしい事ばかり考えているなら、知りたくは無いわ」
さっきの言葉に頬のひとつも染めてくれない紗月姫に、尊実は苦笑する。
「じゃぁ、知らない方がいいな」
紗月姫が楽しげにふふっと含み笑いをして、正面へ視線を戻し本題へ戻ろうとした時、尊実が真剣な声で訊いてきた。
「紗月姫……。あの御曹司は、お前の〝幸せ〟にとって、邪魔な存在か?」
紗月姫は思わず立ち止まる。
あの御曹司、とは学の事だろう。しかし、幸せの邪魔、とはどういう事だろう?
「邪魔、って。どうして? 学さんは私の大切な従兄よ。今は婚約者候補の中に名を連ねてはいるけれど」
「……じゃぁ、大丈夫かな」
「何が?」
紗月姫は少々強い口調で訊く。尊実一人で納得をしているが、彼女には訳が解からない。
尊実は紗月姫の一歩前に出て立ち止まり、彼女を正面に見据えた。
「あの三人が、どうして死んだか解かるか?」
紗月姫も足を止め、神妙な声を発する尊実を見る。
「殺されたんだよ。〝運命〟に」
「……殺された……?」
「お前の〝運命〟にな」
紗月姫は目を見開く。
これではまるで紗月姫が殺したとでも言っているように聞こえるではないか。
紗月姫は反論しようと口を開きかけるが、その前に尊実は眉をひそめ、今まで紗月姫の中から拾い上げた記憶を思い出しながら話し始めた。
「お前が初めて能力を使って人を殺めた時、その理由は、神藤と引き離されそうになった事だ。その不安と拒絶が引き金になって能力が暴走した」
紗月姫は眉を寄せ、目を細める。
いったい何を言いたいのだろう。
「二度目、研究所の所長だ。母親が脅されていた事への怒りもあるが、最大に理由は自分の身に迫った危険。『ここから出なければ、神藤に会えなくなる。神藤の元へ帰れない』 その思いが、能力を暴走させた」
紗月姫の細まっていた目が見開かれ始める。
尊実が言わんとしている事が、だんだんと解かってきた……。
「一ヶ月前の生徒会室。……お前は、神藤が傍に居ない事が辛かった。神藤以外の男が自分に触れるのを許さなかった。身体を汚される事に耐えられなかった。……そして、その哀しみと動揺が、能力の暴走を生んだ。――そして、例の三人は、神藤と引き離される原因となる人間であり、醜悪な人間の本質でお前を傷つけた。――つまりは……」
尊実は一度そこで言葉を切り、驚きに見開かれる紗月姫の瞳の奥を見据える。
その瞬間、紗月姫の脳裏に、尊実から伝えられたビジョンが映し出された!
止まらないブレーキに驚愕する九条。
夢を見ながら宙に手を差し出し、奈落へ落ちた袴田。
精神社会から抹殺された久我山。
――――!
その残酷なビジョンに、思わず紗月姫は両手で耳ごと頭を押さえる!
「お前の〝幸せ〟は、常に幼い頃から、〝神藤〟という男と共に有った……」
耳を塞いでも、尊実の声は聞こえる。
まるで罪状を読み上げるように、その声は頭に響いた。
「その〝幸せ〟を壊されると感じた時、追い詰められた瞬間に、おまえの能力は暴走する。お前が意識していなくても、潜在能力が働くんだ。――お前が誕生日を迎え、現実に神藤という〝幸せ〟から離されると決まった時から、お前の〝運命〟はお前の知らないところで暴走し始めたんだ」
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