「ずっと、一緒にいてね」
ザァァァァ・・・・・・。
藤棚に咲き誇る藤の花が、風もないのに大きく騒いだ。
「ずっと、私の傍にいてね?」
少女は無邪気で、それでいて何処か神秘的な表情で笑う。
少女はまだ四歳。
しかし、その表情に、少年は魅せられ、心を捉えられ・・・。
離れられなくなる。
少年は十六歳。
己の命を投げてでも、この小さな少女を守る事を命ぜられた者。
少女に「選ばれた」者。
見事なまでに咲き誇る、満開の藤棚の下。
その下で本を読んでいた少年に、今まで花びらで遊んでいた少女は四つん這いで近付き、白い小さな小指を差し出した。
「約束・・・ね?」
「はい。お嬢様」
すぐに返ってくる、規則正しい返事。
一瞬不安げだった少女の表情は、一転してとても嬉しそうな笑顔に変わった。
天使のような、全てを包み込む優しい笑顔に。
その喜びに同調するかのように、すでに本体から抜け落ち、地面にその身を預けていた筈の花びら達が、ザァッと音を立てて少女の周りで舞い踊り始めた。
その光景を見て少女が喜んでくれている事を悟った少年は、自分もとても嬉しくなり、ニコリと笑って少女が差し出していた小指に己の小指を絡める。
「約束よ・・・神藤」
少女は微笑む。
優しく、慈愛に満ちた、天使のような純粋な心で。
「はい。紗月姫お嬢様」
少年はそう返事を返して、少女を見詰め、微笑み返す。
少女を見詰める時だけ、本当は何処か冷たい少年の瞳が、怖いほどに優しくなる。
絡み合った少年と少女の小指から、互いの思いが交わされる。
ただ、傍にいて欲しい・・・。
ただ、傍にいたい・・・。
純粋に。
一途に。
互いだけを想う、気持ち。
───それは、藤棚の下で交わされた「約束」。
怖いほど無邪気で、哀しいほどに純粋な心だけを持って交わされた・・・。
───不可能な約束。
藤の花びらは、地に落ちる事無く、二人の周りで舞い踊る。
薄紫の花びらが二人の周りで、まるで愚かな約束を交わす二人を隠してしまうかのように、次から次へと舞い上がり、雨のように舞い落ちた・・・。
二人の間に芽生える想いを、隠すように・・・。
二人の未来を、知っているかのように・・・。
───哀れ悲しむように・・・・・。
涙のように。
舞い落ちる・・・・・。
こんにちは。玉紀 直です。
今回、玉紀の作品を初めて読んでくれるという方、はじめまして。
読んだ事はあるよ。という方、今回も有難うございます。
この「迷宮の天使」は、普通の恋愛小説とちょっと違う所があります。
プロローグに出てきた少女。紗月姫ちゃん。
主人公となる彼女が、人間が持ち得ない能力を持っていることです。
その能力も物語の中に組み込まれますので、もしかしたら連載の途中で「残酷な表現」の注意カテゴリが入れられるかもしれません。
R15も入れさせて頂いています。読んでいて苦手な表現などが出てきましたら、無理をせずスルーなさって下さいね。
位置づけとしては「恋愛サイコミステリー」という事でお願いします。
メインとなる二人は、実は別の連載でよく、サブキャラとして登場しています。
今回この連載を始めてしまうと、そっちの方で出し辛くなる、という難点は有ったのですが、どうしても書きたくて連載を始めてしまいました。
取り敢えず、今年中は毎日更新。年明けからはほぼ週一更新になると思います。
可愛らしい約束をした二人ではありますが・・・。
この二人が、どういった運命を辿るのか。
長い話ではありますが、どうぞご一緒に。
二人を見守ってあげてください。
それでは、明日。
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