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お嬢様の交渉

「知識も財産の1つ、ですか…」


「ええ」


「ですが、今の医者というのは数が少ないからこそ希少で価値があるのです。もしも数が増えればその価値は下がるかと…」



「何を仰いますか。今でも足りてないですよ」


民達は、街に住んでいれば町の医者にかかることができる。とはいえ、あまりちゃんと教育されていない為、効果は期待できない。そして辺境の地域となると、町医者すらいないため、怪しげな呪い師に頼ることも少なくないという。



「薄利多売とまでは言いませんが…民達皆も医者に通うことができるような環境になれば、医者の器具や薬を取り扱う商会は儲かる筈。また、その研究機関で新薬が開発されればそれはより期待できるでしょう」


見れば、医薬系を取り扱う商会の会頭はウズウズしている。うん、少しは興味を引けただろうか。


「領官科と会計科は、将来の我が領をより豊かにするため、人材を育て上げることを目標とします。…特に会計科は皆様に関係が出てくるかと思いますよ?」


「領官科は何となく分かりますが…会計科というのが我々に関係する理由とは?」


「資料の3枚目をご覧下さい」



「これは……」



「これは、アズータ商会の帳簿の一部を抜粋したものです」


「これが、帳簿なのですか!?」


皆が驚いたようにしげしげと、それを見ていた。この世界、何と未だに複式簿記がないのよ!あんな便利なものがないなんて、信じられない。「複式簿記は人智の産んだ最も立派な発明の一つである」と言われている程だというのに。更に信じられないことに、形式が全く統一されていないのだ。ある商会では単式簿記を使っているし、ある商会では記帳法や口別商品勘定を使っていたり…というような形になっている。資本主義形式を推し進めたい私にとって、これはいただけない。


「これは入りと払いがすぐ分かるようになっております。他にも、こちらは貸借対照表と言って現在の資産負債がすぐに分かるようになっておりますし、損益計算書では収益と費用がすぐに分かります。これによって、“定量的”に商会を見ることができますの」


商人の勘と経験によって舵取りされるのも良いのだけと思うけれども、今後の事を考えると今統一すべきであろう。まあ…会計に関しては前世の私の仕事もあって明瞭であって欲しいと切に思うのもあるけれども。


「銀行の融資を受けるときにはこの書式を提出いただくことを必須としますし、何より今後税制の改革後は人頭税を無くす代わりに、この帳簿によってどれだけ利益を上げているのかというのをキッチリ報告してもらい、それに見合った税率で収めていただくようになります。勿論、税制には抜け道もありますから、税制に明るい方がいれば資産の圧縮を通して節税ができそうですわね。ということを考えますと、皆様にとって大きな助けになるかと思いますよ」


「……貴方に、税の改正まで権限があると?」


「ええ。私はただの領主代行ではありません。この書状に書いてあります通り、領の運営に関しては私が役職を降りるまで、領主と権限が同等ですわ」


「……学園に入れば、貴方の商会の帳簿の形式が学べるのですね?」


見る人が見れば、この帳簿の形式の価値に気づく筈だと思っていたけれども…正しく、商会の会頭たちはこの帳簿の価値に気づいてくれたようだ。


「ええ、勿論」


「参った……餌が大きいと、鞭もそれだけ大きなものになることは多々あるが…」


「ええ。旨味は他にもありますわよ?例えば農科で今の野菜や穀物の品種改良を研究して貰い、それでできたものは今回出資をしてくださる商会にその権利を移譲します。どうです?美味しいでしょう?」


「ああ、美味しいな」


「さて、これより先は出資をして下さる商会のみにお話をさせていただきましょう。関係のない方々のお時間までいただく訳にはいきませんから」


私の提案に、けれども席を立ったのは2人だけだった。あら、半数ぐらいはいなくなるかと思ったけれども。


「随分残りましたわね……。こう言っては何ですが、良かったのですか?」


「アイリス様。我々は“商人”の前に“一流の”と、つけることができると自負しておりますぞ?目先の利益に囚われず、先々の大きな利益を得るために動くのが商人。大きな利益には、それだけのリスクがあるのも当然。そのリスクとリターンを勘案し、決断を下すのが我々の頭の使い所。そして、その大きな利益の好機を前にして、見逃す手はない」


「まあぁ……それもそうですわね」


「貴女がただの貴族のお嬢様であれば、夢物語として切って捨ててたでしょう。ですが、貴方は既に己が手で商会を切り盛りし、僅かの間に我々と同じ格…いやより高くまで押し上げた。そんな貴方の手腕を、我々は買っているのですよ」


「……私もまた、貴方達を誇りに思います。貴方達一流どころが、我が領を盛り立ててくれているのでしょうから」




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