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てんだーぶるー。〜せかいがきれいでありますように。 作者:雛月詩音
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第四話

 とりあえず、屋上行きの階段のすぐ側で待機です。二人が降りてくるのを偶然そこにいただけですよみたいな感じでやり過ごすつもり。
 たったったと軽やかな足音に、と、と、と、と落ち着いたものが重なります。
「じゃあね、先輩。またね」
「うん。またね」
 月島さんが、先に階段を降りてきました。手を振ってます。
「……?」
 っと、月島さんと、目があってしまいました。怪訝そう、というにはちょっと厳しめの目つきで、わたしたちを見ています。……ばれてるわけじゃ、ないですよね。
 すると、彼女は携帯を取り出して誰かに電話をかけ始めました。
「あ、貴子ー? 用事終わったから、今からそっち行くからー」
 そんなことをでっかい声で言いながら、月島さんは階下へ消えてゆきました。
 その様子を、ぼうっと見守るわたしたち。
「結局、よくわかりませんでしたね」
「そうだねえ」
「どうしましょう」
「うーん」
 腕組みして考える(ように見える)涙未ちゃんですが、その顔が、だんだんおかしな具合に歪んできました。にやにやと。
「……先輩は、今、ひとり」
「……そうですね」そのはずです。
「これは、チャンスだね」
「何のです?」
「うふふ、拉致、監禁ですよ!」
 ラチ・カンキン。
 ……まじですか?
「監禁て。何する気ですか」
「ちっちっち、甘いね、もみじ」ひとさし指が若干うざいです。
「決まってるじゃないか。ゴーモンして、白状させるんですよ!」
 またそれですか。あなたゴーモンて言いたいだけと違いますか。……うわあなんか楽しそう。目光ってますし。
「なるほど、それはいいですけど」よくもないですが。「どこに?」
「保健室でいんじゃない? ちょうど今日、白たんもいないしさ」
「一咲ちゃんがいますけども」
 涙未ちゃん、フリーズ。
「問い詰めてたら、また一咲ちゃん内の涙未ちゃん株が下がりそうですね」
「……いや」
 自分で言っておいてなんですが、悩みすぎですし。そんなに一咲ちゃんのこと苦手なんですかこのひとは。
 でも、ある瞬間とつぜん、吹っ切れたような笑顔を浮かべました。
「何か問題?」
 脳内デリートしましたね。
 そんないい顔されると、逆に不安になります。まあ、そこまでいかがわしいことするわけじゃないでしょうし、いいんですけどね。たぶんですが。
「まあ、拷問とかは置いといて。保健室に連れ込んで尋問するのは、いいかもしれないですね」
 あそこなら、そう邪魔も入りませんし。
「よし、その方向で行きましょう。となれば、早速先輩を捕まえねば」
「おうー。で、先輩どこ?」
「もうとっくにどっか行きましたけどね。でも、生徒会室方面へ歩いてるんじゃないですか?」
「あ、そだね」


 ひょっとして見つからないまま終わるかもと心配したのですが、さいわい、先輩はすぐに見つかりました。
「ちょっと、すいません、夕足先輩」
 ゆっくり歩く先輩の背後に、声をかけるわたしです。
「うん?」
 振り向いてわたしを見る夕足先輩。
 いま初めて先輩の顔をまともに見ましたが、とりたててイケメンさんではありませんでした。まあ、わたしとしては、そのほうが話しやすくて助かるのですが……。イケメンさんは苦手であります……。
 しかし、表情は柔らかく、優しげでとっつきやすい雰囲気が滲んでいます。なるほどこれは、白ちゃんが好きになったというのも、何となあーくですが分からないでもない気がします。色白で線が細いところも、ポイント低くないです。まあわたしがどう思うかなど、どうでもいいのですが。
「ほら、涙未ちゃん」
 本題に入りたいんですが、今すぐちょっと来てくださいとは、言いづらい。いきなりですし。だから言いだしっぺに悪役になってもらうことにします。
「んぇっ」
 なんだか妙に下がった位置にいた涙未ちゃんは、わたしに腕を引っ張られるとへんな声を出して驚きました。
「ほら、用があるんでしょう? 先輩に」
「う、ぅん」
 背中を押して、先輩の目の前に突き出します。先輩は、ちょっと怪訝そうな感じ。無理もないですけど。
「あ、あの……えっと、ですね」
 しどろもどろ。さっきまでの勢いはどこいったですか。
「あの……そのぅ……」
 俯いて、もじもじと、まるで要領を得ない涙未ちゃんです。いま思い出しましたが、このひと、意外と男のひとが苦手なのでした。目を合わせるどころか顔を上げることさえできません。涙未ちゃんはへたれやろうです。
 そんなことで、ラチカンキンゴーモンリョージョクだなんて。かたはら痛しです。
「ええと……」
 先輩は、困惑の度を深めつつあります。それでも落ち着いた雰囲気が崩れないのは、さすがというべきでしょうか。
 それにしてもこの状況、今から涙未ちゃんが先輩に告白しようとしてるようにも見えなくもなくて、何か微妙です。
「ええい」
 辛抱できなくなったわたしは、へたれ涙未ちゃんを押し退け先輩の前に立ちました。仕方ないです。
「先輩、お願いがあるんですが」
「うん、何かな」
 先輩の微笑みを見た瞬間、わたしの中で、ヤル気がちょっと萎みました。
「ええと、ですね」ごめんなさいわたしもへたれでしたっぽい。
 ええい、やらいでか! これには白ちゃんの未来がかかっているのです! わたしがやらずに、誰がやる!
「先輩っ、ちょっ、ちょ……、」
「へっ?」
 うわ、そんなびっくり顔は、ちょっと心に痛いです。何言ってるんだろうわたし。
「ええと、ちょっと、保健室に来てもらえませんか?」
 普通に言えたです。
「あ、うん……、でも、どうして?」
 どうして?
 ああ、うん。そうですよね。そりゃ、理由、気になりますよね。白ちゃんがあなたのこと好きなのにあなたが他の女子と二人っきりで話してるから実際のところどうなのですか?
と聞きたいんです、けど。
「ともかく、一大事なのです!」嘘は言ってない、と思います。「ですよね、涙未ちゃん?」
「え、あ、うん」ぼさっとしてないで何か言って欲しいです。
「一大事、だね。白たんの」
「白ちゃん? 衣花さんの?」
 先輩の顔色が、さっと変わりました。おお、白ちゃん、夕足先輩は白ちゃんのことをちゃんと心配してくれていますよ……。
 でもちょっと、驚かせすぎですこれは。だって目付きが、こんなに、するどい……。ああ、一大事とか言ったら、そんなふうに思ってしまうのも無理ないことかもしれません。
「あ、いえ。一大事というか、別に白ちゃんの体がどうというわけじゃないです」
 休んでますけど、たぶんいつものちょっとした体調不良でしょうし。
「そうなんだ」すこし表情が和らぎました。
「ええ、まあ、別の意味で一大事というか。ちょっと、保健室まで来てもらえればと……」
 もう拉致でもなんでもないです。ただ普通にお願いしてるだけです。
「うん、そうだね……いいよ」
「おっ」おお、話のわかるひとです。
「意外にあっさりだね……」
 涙未すけめ、何も言えなかったくせに残念そうにするのはやめてください。

 先輩を連れて扉を開けた瞬間の、一咲ちゃんの呆れ顔は向う二日くらい忘れないと思います。覗いた上に連れてくるだなんて。信じられない。そう言ってるように見えました。すこし被害妄想っぽいですけど。
「どうぞ、お座りになってください」先生の椅子を勝手に引きずってきて、勧めます。ただの事務用椅子ですが、座布団とか何気に良質で、座り心地いいのです。いまは先生もいませんし、好き放題です。
 で、わたしたちはいつものベッドに落ち着きます。
「お茶は出せませんが……」どこにしまってあるのやら。
「いいよ、お気遣いなく」先輩は、どこか遠慮がちに椅子に腰掛けます。
「それで、どうして僕は、ここに呼ばれたのかな?」
「はい、単刀直入に言いますけど」
「うん」
 そうは言うものの、ちょっと聞きづらい話です。とはいえここまで連れてきといて、ということでもあります……ここはもう、勢いで。
「先輩、月島さんと、付き合ってるんですか?」
「ううん、付き合ってないよ」
 笑顔でさっくり否定です。
 お話し、終了。
 ……いやいや。
 これは、とても重要なことです! だから、ちゃんと確認せねば。というか大体、こういうことって隠すものじゃないですか。よく分かりませんけども。
「本当ですか?」
「本当だよ」
 ……むう。
「じゃあ……」わたしの後ろに隠れるようにして、涙未ちゃんが口を出してきました。
「さっき月島さんと、階段の上で話してたの、どうして?」
 男のひとが苦手な割に、聞きづらいことをはっきり聞くひとです。
「ああ、やっぱり、見られてたんだね」
 先輩の顔に、やましげなところはありません。
「最近、何回か彼女に誘われて、ちょっと話してただけだよ。付き合ってるわけじゃないんだ」
「では何故、ひとけのないところに?」
「彼女の希望で。僕としては、断る理由はとりあえずなかったから、いいかなと思って」
 うむう、紛らわしいです。まあ、おおっぴらに話してたとしても、結局同じ騒ぎになってたかもしれませんが……。
「じゃあ、本当に、付き合ってないんですね?」
「うん、付き合ってないよ」
「そうですか……」
 わたしの目には、先輩が、嘘を言っているようには見えませんでした。先輩のことはよく知りませんけども、このひとの雰囲気だったら、隠すことが必要になるような付き合いはしないんじゃないかと。そんな気がしました。
 それに、白ちゃんの好きなひとですし。あんまり疑いたくない気持ちも、あります。
「分かりました」
 涙未ちゃんと顔を見合わせ、頷き合います。信じることにします。
「聞きたかったのって、そのこと?」
「ええ」
 今度こそ、本当に話が終りました。すると、すこし恥ずかしい気持ちが湧いてきます。半ば無理やり保健室に連れ込んで、わたしたちは何を聞いてるんでしょう。いえ、安心はできたので、いいんですけど。
「じゃあ、僕はこれでいいかな?」
「あ、はい。すいませんでした。お忙しいところを」
「ううん、今日は忙しくなかったから。大丈夫だよ」
 やわく微笑んで、立ち上がる先輩です。そして、保健室の扉のほうへ。
 終わってみれば、ここに白ちゃんがいればよかったのにと、そんなふうに思います。まあ、問い詰めてる現場はちょっと白ちゃんには見せられないので、仕方ないといえばそうなんですが……。
「あーっ!」
 わたしは、素っ頓狂な声をあげました。
 みんなが驚いて、わたしを見ています。
「あ、いえ」恥ずかしくなりました。でも、名案を思いついたので仕方ないのです。
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