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てんだーぶるー。〜せかいがきれいでありますように。 作者:雛月詩音
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第十六話

「あーっもーサイアク、来週もテストってどうゆうこと?」
「ホントだよねー、まとめてやれっての。まあべつにどうせ何もしないからどうでもいいけど」
「はは、ま、そだね。テキトーにね、テキトー」
 扉を開ける様子がないので、どうやらお化粧直しか何かしに来たようです。
 彼女たちはお喋りしながら、がそごそやっています。
 すると、
「ん、沙耶子、何それ?」
 うわあ、月島さんがいるようです。何だかちょっと微妙な気分になるわたしです。
「何が?」
「これだよ」
 その場の皆が、月島さんの持っているらしい何かに興味を示したようです。
「手紙? ってうわっ! ラブレターみてー!」
 なるほど、ラブレター。
 ……え?
「えっマジ? 沙耶子、ラブレター!?」
「ちっ違うって! あたしじゃないって!」
 月島さん。ラブレター。
 何か、嫌な予感が。
 彼女も夕足先輩に、恋文を書いて渡そうとしてるんでしょうか。でも、今日? 白ちゃんが渡そうとしてるこの日に? 
 そんな偶然、あるんでしょうか。
「ま、そりゃそうだよね。やらないよなぁ普通」
「すっごいねこれ。乙女チックってゆうか……存在自体が恥ずかしくない?」
 いえてるー、と盛り上がる女子たち。何だかいたたまれない気分になってきます。
「ってかこれ、何? どしたの?」
「とりあえず中身見ようぜー」
 誰かがそんなことを言い出しました。
 背筋を、寒気が駆け下りました。
 まだ、白ちゃんのだと決まったわけじゃありません。でも。
「よし、見よう見よう」
 その場に誰も、それを止めようとするひとはいませんでした。
「えー、いいのおー、そんなことしちゃって?」
 そう言うひともいましたが、声が笑っています。本気では、ありませんでした。
 ぴりぴりとシールが剥がされ、かさりと封筒が開かれ、紙が擦れる音が、やけにはっきりと聞こえてきます。
「『夕足先輩へ』」
 ――ああ。
「『とつぜんこんなお手紙をだして……」
 読み上げられる、手紙の文面。内容は、よく知っているものでした。
 間違いなく、それは、白ちゃんの書いた恋文でした。
 朗読は、残酷に、続きます。終わるまで、わたしは固まって動けませんでした。
 どうして?
 白ちゃんの恋文が、こんなところに?
 いや、それよりも、白ちゃんは今頃恋文がなくなって困っているのでは?
 告白は?
「すっすっげー」
「ラブレターだ。マジラブレターだ」
「どうする? どうするよこれ?」
 しばらく、そんな騒ぎが続き――、
 誰かの放った言葉が、わたしの心臓を一瞬、止めました。 
「さらしちゃうのとかどう?」
 ――さらす? 白ちゃんの、恋文を?
 何を言っているのか分かりません。いえ、分かりますが、分かりたくありません。
 この世でたったひとり、先輩にだけ向けられている白ちゃんの大切な気持ちを、みんなの前に曝け出す? たった今ここで読み上げられただけでも最低のことなのに。
「うわっ、鬼!」
「それはヒドイ!」
「ね、どうよ? 沙耶子」
 誰かの声が、月島さんに問いかけます――、
「え? あ、ああ、そうね」
 そのとき、わたしの脳裏に、先輩の前で俯く月島さんの様子が浮かんできました。もしかして、月島さんなら止めてくれるんじゃないか。こんなばかなこと、やめさせてくれるんじゃないか。先輩にたしなめられて、改心した月島さんならば――。
「じゃあちょっと、あたしにやらしてよ」
 ――はっ?
 いま、このひと、なんて言いました?
「うっわー沙耶子っマジ?」
「こんな恥ずかしいのさらしちゃうなんて、ヒトデナシだ!」
 ……そうですか。
 そういうことですか。全然、反省なんかしてませんでしたか。ただの勘違い、わたしの早とちり。期待したわたしが、ばかでした。そうですよね、あれだけ、白ちゃんにひどいこと言っておいて。反省するなんてありえないですよね。
 ……つきしまさん。
 あなたと、いうひとは――!
(――うっ!)
 勢いのままに席を立とうとしたわたしは、おなかを襲う激痛に着座を余儀なくされます。半端じゃない痛みでした。こんなときに。一大事だというのに。意思とは関係なしに、顔が白くなるのが分かります。へんな汗が出てきて、きもち悪いです。ああもう、昨日お肉なんかむさぼるんじゃなかった!
「じゃっ、じゃあ、これ預かっとくからさ。もう行こうよ」
 月島さんがそう言うと、女子たちはトイレから出て行きました。
 まずい。
 早く、追いかけないと。
 白ちゃんの恋文、取り返さないと……。 
 だけど、まだおなかの痛みがおさまりません。ううっ、とっとと静まりなさいっわたしの胃腸。いいこだから!
 信じられません。月島さんめ。つきしまさんめ! そんなに、そんなに嫌がらせしたいですか。そこまで白ちゃんが嫌いですか。邪魔したいですか。
 ゆ、ゆるさないです。
 絶対つかまえて、恋文返させた上に今までのこと洗いざらい謝ってもらわないと、もう、腹の虫が治まりません。ぜったいに。ぜったいです!


 わたしはようやくトイレから脱出して、左右に伸びる廊下を見渡しました。
 月島さんの姿は、見えません。
 当たり前です。もう二十分は経ってますから。わたしの胃腸は心底、だめなやつです。
 というか、実はいまだにおなかいたいです……。
「うぅ」
 いつまでもトイレにこもってるわけにも行かないので、無理矢理中断して出てきました。
 そんなことは、でも、どうでもよくて。早く月島さんを、探さねば――。
「うわ、もみじ。顔色悪いよ」
 ああ、そんなわたしに声をかけてくれるのは誰?
 と思ったら涙未ちゃんでした。
「涙未ちゃ……」
「だ、だいじょうぶ? 保健室まで連れてこうか?」
「いえ、それより。一大事、です」
「えっ、なに?」
 わたしは痛むお腹を必死になだめつつ、かいつまんで事情を説明しました。
 最初はいつものお気楽表情だった涙未ちゃんも、説明が終わる頃には、ときどき見せる真面目顔に変わっていました。
「……やばいじゃないか」
「やばいです。早く、月島さんたちを」
「う、うん。いま、昼休みだし……教室にいるかな?」
「そうですね……わたしは、ちょっと、動けそうにないので、お願いです……」
「う、うん。あっそうだ、白たんに教えとかないと」
 いっしゅん頷きかけたわたしでしたが、
「待ってください。もし手紙なくなったことに気付いてなかったら、無駄な心配をかけることになります……先に一咲ちゃんにかけましょう」
 歩き回って体調崩されたりしたら、コトです。気付く前に取り返して、問題じたいを消滅させてしまうのが一番です。
「わかった」
「白ちゃんにはとりあえず何も伝えないでおいて、保健室に避難してもらうことに」
 頷き、涙未ちゃんは携帯を取り出して、電話をかけます。
 わたしがかけてもいいんですが、おなか痛すぎて正直携帯いじるのさえ億劫です。
 一咲ちゃんは無事捕まった様子。
「さっちゃん来てくれるって。白たんも一緒だったみたい。ちょうど保健室にいたから、薬も持ってきてくれるって」
「それは、ありがたいです……」
 飲んですぐ効くものでもないですけど、ないよりあったほうが遥かにマシです。
「あと、さっちゃんも月島サンのこと見てないって」
「そうですか……」
「じゃ、じゃあ、ぼく行くよ。まず三組に行ってみる」
「分かりました。お願いします……」
 そう言って涙未ちゃんは、心配そうな顔をわたしに向けつつも、三組――月島さんのクラスへと駆けて行きました。
 わたしはわたしで、よろよろと廊下を歩き始めます。とにかく動いてないと気が済まない状況です……うう、本当は涙未ちゃんと一緒に三組に行きたいのですが、あそこはトイレからやたらと遠い位置にあるのです。今のわたしには、この校舎のおかしな構造を全力で呪うことしかできません。
「葉桜」
 おばあさん以下の鈍足行軍を敢行するわたしの背後から、一咲ちゃんが来てくれました。
「これ」そう言って差し出してくれたのは、胃腸のお薬と、スポーツドリンク。
 一気にそれを飲み干して、わたしは一息つきます。
「大丈夫?」
「はい、すこし落ち着きました。ありがとうございます」
 まだしくしく痛みますけど、だいぶマシになりました。たぶん正確には「なった気がした」だけなんでしょうけど、薬飲むとその瞬間から体が楽になります。これもプラセボ効果の一種なんでしょうか。
「白、いま保健室にいるよ。とりあえず保健室から出ないように言っておいた。手紙なくなったこと、まだ気付いてない」
「ナイスです。じゃあ、わたしたちも探しましょう。……涙未ちゃんから連絡がないってことは、たぶん三組にもいないんでしょうが……」
 その瞬間、一咲ちゃんの携帯に着信。
「――やっぱり、三組にはいないって」
 涙未ちゃんの報告だったようです。
「葉桜は、保健室行ったほうが」
 一咲ちゃんはそんなことを言いますが、
「……いえ。この状況でそんなこと、言ってられません。手分けして」
「でも」
 聞き分けのない一咲ちゃんを、わたしはキッと睨みつけました。
「わたしの体のことなら、今無理して体壊しても、薬飲むなり、最悪病院行けば治ります。でも白ちゃんの恋は、ここで終わってしまったら、元には戻せないです」
 それでも一咲ちゃんは動きません。
「わたしの体と、白ちゃんの恋と、どっちが大切か。そんなの決まってるじゃないですか」
 一咲ちゃんの瞳が、一瞬――とても哀しそうに、ゆがみました。
「……ごめん、葉桜。私行く」
「はい。凶行、断固阻止です」
 一咲ちゃんは振り返り、駆けて行きました。
 その背を見送りながら、わたしは思います。動けないので、考えるしかないのです。
 月島さんは、どこに行ったんでしょう。
 教室にはいない。
 でも、月島さんの目的は手紙を晒すこと、です。だったらひとがたくさんいるところ、すなわち教室に行くのが筋ではないんでしょうか?
 いえ、待ってください。今は昼休み、となれば、人がたくさん集まってるところは他にもあります。学食とか。校庭――には、あんまりいないかもしれませんが……。
 ともかく、昼休みの間は、割と皆さん散らばっています。授業が近付くと戻ってきますが……。とすれば、その頃までは彼女も何もしないかもしれません。
 いや、時間的余裕があるのはいいですが、けっきょく月島さんを見つけられなかったら無意味です。じゃあどこにいるのか、というと、正直見当がつきません――。
 うう、ループです。けっきょく、しらみ潰しに校舎内を探し回るしかないのかも。
 連絡がないということは、涙未ちゃんも一咲ちゃんも、まだ発見できていないんだと思います。焦ります。どうしよう。
 ――と思った瞬間、
 わたしの携帯に着信がありました。
 どきっとして、慌てて携帯を開きます。
 かけてきたひとの名前を見て、わたしは更にびっくりしました。
 液晶に表示された、そのひとの名は――、
 衣花、白ちゃん。
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