第15章 ハチともぐら ☆4
「1つ、問いかけます……」
「ああっ?」
イチゴの言葉に、黄鬼が少し眉をひそめる。
「何故……このようなことを……?」
黄鬼の周囲に破壊された村と傷つき倒れた人々を見ながら、静かに問いかけるイチゴ。
「はぁっ!?理由なんかねぇーよっ!!ただぶっ壊したかったからなだけだっ!!グワァッハッハッハッ!」
「……そうですか……」
高々と笑う黄鬼に、イチゴはそっと目を閉じ、肩を落とした。
「ならば……手加減は必要ありませんね……」
「ああっ?」
「……っ」
再び瞳を開いたイチゴが、ゆっくりと右拳を構える。
「ああっ!?俺を相手に素手で戦おうってかぁっ!?イカれた女だぜっっ!!グワァッハッハッハッ!!」
「いえっ……戦うつもりはありません……」
「何っ?」
黄鬼が眉をひそめる中、イチゴの右拳に青い光が帯びていく。
「消すだけですっ」
「……っ!」
鋭い表情でそう言った途端、イチゴがその場から消える。
「消えたっ!?どっ……どこへっ……!?」
慌てて周囲を見回す黄鬼。
「……っっ!!」
左右を見回していた黄鬼のすぐ目の前へとイチゴが姿を現す。
「いつの間にっ……!!このっ……!!」
現れたイチゴへと勢いよく爪を振り下ろす黄鬼。
「青き拳っ……龍が如く……」
イチゴが先ほどよりもさらに青い光を放っている右拳を、力強く黄鬼の体へと突き出す。
「“青拳突き”っ……!!」
――――バッコォォォォォォォォーーーンッッッ!!!!――――
「……っ!ギャアアアアアアアッッ!!」
黄鬼の巨大な胴体が繰り出されたイチゴの拳に風穴をあけられ、激しい断末魔とともに一瞬で砂となって崩れ落ちていく。
「……。」
イチゴは静かな表情で風に吹かれる砂を見つめ、ゆっくりと光を収めた拳を下ろした。
「ひっ……一突きっ……」
その光景を一部始終見つめたハチが、茫然とした表情で呟く。
「すっげぇぇぇぇぇぇっっ!!!」
茫然としているハチの横で、感激したように大声をあげるグラタン。
「さっすが龍人っっ!!カッコイイぃぃ〜〜っ!!」
「ってか強すぎだろっ……」
「だから言ったろぉ?アイツのパンチとリンゴの蹴りは、喰らった途端に人生終わるぞぉ〜」
圧倒されているハチに、ゴンが冷静に言葉をかける。
「ゴンさんっ……!私、怪我人の治療にあたりますから、本部へ応援要請お願いしますっ……!」
「んっ?あっ、おぉーうっ!」
黄鬼を倒したイチゴは、もうすでに近くに倒れている村人の救護に当たっている。イチゴの呼びかけに、手をあげて答えるゴン。
「えぇ〜っと、携帯、携帯っ」
ゴンがポケットから携帯を取り出す。
「オレも父さんと母さん、探さないとっ」
「グラタァァァァァァーーンっっ!!!」
「……っ?」
再び両親を探そうと辺りを見回していたグラタンが、自分の名を呼ぶ声に振り向く。
「おじいちゃんっ?……っ!!父さんっっ!!」
グラタンが自分の名を呼んだ白髪の老人が肩を貸している、傷だらけの男を見て、驚いたように声をあげる。
「父さんっっ!!父さんっっ!!大丈夫っっ!!?」
重傷の男の元へ、慌てて駆けていくグラタン。
「グラタンっ……無事っ……だったかっ……」
「父さんっ……!!」
グラタンを見て安心したように笑みをこぼす男に、グラタンが少し目を潤ませる。
「グラタンっ、コイツは何とか大丈夫だったんだが、ドリアさんがもう1匹の鬼人にっ……」
「……っ!母さんがっ!?」
「もう1匹、鬼人がいるのかっ!?」
老人の言葉に、それぞれ衝撃を走らせるグラタンとゴン。
「……っ。母さんっっ……!!」
「あっ……!待てっ!!グラタンっっ!!ううっ……!!」
「おいっ!大丈夫かっ!?」
厳しい表情を見て、その場から飛び出していってしまうグラタン。そんなグラタンを止めようとしたグラタンの父親が、傷の痛みに苦しげにしゃがみ込み、老人が慌てて父親を支える。
「あんのクソモグラっ……!!」
「俺が追うっ!!ゴンはここを頼むっ!」
「へっ?ちょっ……!待っ……!」
グラタンの後を追おうとしたゴンを止め、代わりに追いかけて走り去っていくハチ。ゴンが制止を促したが、ハチはあっという間に見えなくなった。
「桜時さん……大丈夫でしょうか……?」
「アイツっ……」
「……っ?」
歩み寄ってきたイチゴが、ゴンの言葉に振り向く。
「丸腰じゃなかったか……?」
「えっ……?」
表情を引きつったゴンの言葉に、イチゴもまた表情を引きつった。
モッグランドから少し西の森。
「グッヘッヘッへっ!!今日はモグラ鍋が食えるぜぇっ!!」
「うっ……ううっ……」
森を歩きながら、高らかな笑い声をあげる桃色の鬼・桃鬼。その桃鬼は脇に傷つき、弱り果てた茶色いモグラを抱えている。苦しそうな声を漏らしているこのモグラ、グラタンの母・ドリアであった。
「何味にすっかなぁっ?グッヘッヘッへっ!!!」
「待てぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!」
「ああっ?」
どこからか聞こえてくる声に、桃鬼が眉をひそめる。
――――バァァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――
「……っ!」
桃鬼の歩いていた先の地面に穴があき、勢いよく小さなモグラが飛び出してくる。
「母さんを返せっっっ!!!!」
「グラタンっ……!!」
飛び出してきたのはモグラ化したグラタンであった。グラタンの姿にドリアが思わず目を見開く。
「ああっ?このモグラのガキかぁっ?」
「痛い目に遭いたくなかったら、とっとと母さんを離せっっ!!バカ鬼人っっ!!」
「んだとぉっ!?」
「ダメよっ!グラタンっ!!逃げなさいっっ!!」
グラタンの挑発に表情を歪める桃鬼。そんなグラタンにドリアは必死に逃げるよう叫ぶ。
「よっぽど死にてぇーらしいなぁっっ!!クソガキっっ!!!」
桃鬼がドリアを抱えていない方の手を勢いよく振り上げる。
「一瞬で終わりにしてやるよぉっっ!!!“鬼爪・天回”っっ!!!」
「グラタンっっ!!!」
グラタンへ向け、5本の爪を飛ばす桃鬼。ドリアが大きく身を乗り出す。
「……っ“モグ奥義・土中隠れ”っっ!!!」
――――ドォォォォォォォォォーーーンッッッ!!!!――――
「何っ……!」
グラタンが素早く土の中に穴を掘り、その中に身を隠して鬼爪を避ける。少し眉をひそめる桃鬼。
「これなら攻撃出来っこないっ!!行くぞっ!!」
「……っ!」
土に潜ったまま、穴を掘って桃鬼の方へと突っ込んでいくグラタン。
「“モグ奥義っ」
「ダメよっっ!!!グラタンっっ!!!この鬼はっ……!!!」
「土中から意表を突く頭突っ……!!」
「へっ……」
穴を掘り進め、桃鬼の真下で発射態勢を取るグラタンを見て、桃鬼が不敵な笑みを浮かべる。
「“鬼地”っっっ!!!!」
「何っ……!?」
桃鬼が地面に勢いよく拳を突くと、辺りの地面が裂け、土が盛り上がる。
――――バァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
「うわあああああああっっっ!!!!!」
「グラタンっっ!!!」
桃鬼が起こした土砂崩れに巻き込まれ、吹き飛ばされ、遠く離れた地面へと倒れ込むグラタン。
「うっ……ううっ……」
倒れ込んだグラタンが、起き上がれないまま苦しげな声を漏らす。
「グッヘッへっ!」
そんなグラタンを見て、満足げな笑みをこぼす桃鬼。
「ガキモグラじゃあ腹の足しにもならねぇーし、とっとと殺してくかなぁっ」
「……っ!」
そう言って倒れているグラタンの方へと歩いて行く桃鬼に、ドリアが顔色を変える。
「待っ……!待ってっっ!!!」
「ああっ?」
グラタンの方へ行こうとしていた桃鬼を必死に止めるドリア。
「私はどうなっても構わないっ!!塩味でもっ!味噌味でもいいらっ!あの子っ!あの子だけはっ……!!!」
「うっせぇーなぁっ……」
ドリアの必死の叫びに、桃鬼が鬱陶しそうに表情をしかめる。
「俺は醤油派なんだよぉぉっっっ!!!!」
「きゃああああああああっっっ!!!!」
「……っ!母さんっっ!!!」
倒れ込んでいるグラタンの方へと勢いよくドリアを投げる桃鬼。
「ううっ……」
「母さんっっ!!」
地面に体を打ちつけ、力なく倒れ込んだドリアに、グラタンが何とか起き上がって駆け寄る。
「もうモグラ鍋はいいやぁっ。もっと旨いもんくらい転がってんだろっ」
指の関節を鳴らし、冷酷な笑みを浮かべる桃鬼。
「お前ら2匹とも、ここで死ねぇぇっっ!!!」
「ううっ……!」
桃鬼の言葉に、グラタンの表情が恐怖に歪む。
「グっ……グラタンっ……」
「……っ!母さんっ!?」
弱々しくグラタンを呼ぶドリアに、グラタンが不安げな目を向ける。
「あなたはっ……逃げ……なさいっ……」
「そんなことっ……!……っ」
――――自分で終わらせるのって好きじゃないんだっ。最初っから諦めるのもっ――――
思い出される自分自身の言葉。
――――どうせ見た夢ならっ、少しでも信じて何かしたいっ!――――
「……っ!」
「グラタンっ……!?」
「ああっ?」
グラタンが痛みを押して立ち上がり、倒れているドリアを庇うように立ち塞がる。鋭く睨みつけてくるグラタンに、少し眉をひそめる桃鬼。
「オレはっ……」
両手を横に広げ、グラタンが言葉を発する。
「オレはっ……龍にっ……龍になるんだっっ!!!こんな所で、お前なんかにヤラれてたまるかぁっっ!!」
必死の表情、大声で言い放つグラタン。
「はぁっ?」
しかしそんなグラタンに、桃鬼は少しバカにしたような表情で聞き返す。
「龍にぃっ?くだらねぇーこと言ってんじゃねぇーよっっ!!」
グラタンの夢を笑い飛ばす桃鬼。
「お前は今、ここでっ!しょっぼいモグラのまま、俺様に殺されるんだぁぁぁっっ!!」
「クっ……!」
グラタンへ向けて大口を開く桃鬼。グラタンが少し唇を噛む。
「死ねぇぇぇぇぇっっっ!!!“鬼口”っっっ!!!!」
――――バァァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
桃鬼の口から放たれる、高エネルギー波。
「ううっ……!!」
向かってくる鬼口に、グラタンが思わず目を閉じた。その時。
「“瞬花”っっ!!!」
――――パァァァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!!――――
「何っ……!!?」
グラタンの目の前で桜の花びらと変わる鬼口に、桃鬼が驚いたように声をあげる。
「……っ?」
やって来ない鬼口に、グラタンが恐る恐る目を開いた。
「なっ……」
桜の花びらの舞う美しい光景に、思わず目を見張るグラタン。
「ようっ!生きてっかぁ?」
「えっ……?」
聞こえてくる声に振り返るグラタン。
「あっ……!」
グラタンとドリアのすぐ後方に立ち、グラタンに笑顔を向けているのは、グラタンを追ってやって来た桜時であった。
3日前、太狼に抜かれた左眉がまだ生えきっておらず、何となく不恰好であった。
「って、誰っ?片眉のお兄ちゃん」
「俺だよっ!!俺っっ!!さっきまで一緒にいた白いイヌっっ!!!眉毛のことには触れるなっっ!!!」
首をかしげるグラタンに、桜時が勢いよく怒鳴りつける。
「ああんっ?まぁ〜た殺され志願者かぁ?」
『……っ』
桃鬼の問いかけに振り向く桜時とグラタン。
「さっきの技っ、ただの人間じゃねぇーみてぇーだなぁっ。何者だっ?」
「お前に名乗る名前なんてねぇーよっ」
一気に警戒態勢を取る桃鬼に、桜時が強気で言い放つ。
「何かちょっとカッコイイね、イヌのくせにっ」
「うっせぇっ!助けてやんねぇーぞっ!」
偉そうなグラタンの言葉に、しかめった表情を向ける桜時。
「こっからは俺が相手だっ!!行くぞっ!村雨まっ……!って、あれぇっ?」
『……っ?』
間抜けな声を出す桜時に、首をかしげるグラタンと桃鬼。
「むっ……村雨丸っ……?」
桜時が、いつも肌身離さず持っているはずの村雨丸がないことに気づく。
「やっべぇっっ!!!桃タローん家に置いて来たぁぁぁっっっ!!!」
「ええぇぇぇぇぇぇっっっ!!!?」
焦ったように叫ぶ桜時に、グラタンが驚きの声をあげた。
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