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2章です〜
第2章 ヒツジが1匹、キツネも1匹? ★1
『ようこそっ!“冥土カフェ”へっ!わんこサマっ』
「うげっ!」
 ハチを出迎える、メイド服の愛らしい多くの“子冥土”たち。

「お風呂に入れて差し上げますっ」
「私の特製・骨っ子食べてくださいなっ」
「萌え燃えジャンケンしましょ〜っ」
「だあああーっ!いらんいらんっ!全部パスだっ!パスっ!」
『ええぇ〜っ』
 様々な誘惑とともに近づいてくる子冥土たちを必死に拒絶するハチ。ハチに拒絶され、子冥土たちは悲しげな表情を見せた。

「とにかくっ!こんな店、とっとと出ようっ!うんっ!」
「そうは行きませんよ」
「へっ?」

 “冥土カフェ”を出ようとしたハチの前に立ち塞がる一つの影。

「うっ……!おっ……!お前はっ……!!」

「フフっ」
 それはメイド服を身に纏い、いつものように爽やかでどこか腹黒い笑みを浮かべている輝矢であった。

「……っ」
「ひいっ!」
 輝矢が笑顔のまま、ハチの体を抱き上げる。

「バっ……!離っ……!俺の半径一メートル以内に近づくんじゃっ……!」

「逃がしませんよっ、ハチっ」

「……っ!」







「うっぎゃあああっ!!」

 顔全体で恐怖を表し、近くの木の鳥たちも飛び立っていくほどの大声で飛び起きたのは、ごく普通の白いイヌ、ハチであった。

「はぁっ……はぁっ……夢かっ……」
 目の前に広がる穏やかな山の景色。“冥土カフェ”ではないらしきその場所に、ハチは安心したように肩を落とす。

「ふわぁ〜っ……良かっ……」
「んっ……んん〜〜っ……後五分っ……」

「たっ……?」
 妙に近くから聞こえてくる声に、ハチが戸惑うように首をかしげる。

「……。」
 恐る恐る自分のすぐ横を振り向くハチ。

「……っ!!」

「んん〜っ……」
 そこにはハチの体にピッタリくっつき、ハチの尻尾を握り締めながら気持ち良さそうに寝息を立てている輝矢。ハチの表情が凍りつく。

「あっぎゃああっ!!」

「んっ……?もう五分経っちゃいましたかぁ〜……?」
 ハチの悲鳴で、輝矢はゆったりと目を覚ました。






 一時間後。
「だっから何度言ったらわっかんだよっ!俺の半径一メートル以内に近づくなっつってんだろーがぁっ!!」

「いえねぇ、ハチの尻尾の触り心地があまりに良かったものでついっ……」
「ついじゃねぇーよぉっ!ついじゃあっ!!」

 強気に輝矢を責めつつも、その距離はきっちり一メートル以上開き、輝矢に近寄るなと言わんばかりに前足を突き出しているハチ。何となく情けない姿である。

「以後、気を付けます。毎朝毎朝、一時間気絶されても困りますし」
「うっせぇっ!一時間で起きただけマシな方なんだよっ!!」

 刺々しく言う輝矢に怒鳴り返すハチ。隣で寝ている輝矢を見つけ絶叫した後、一時間ほどハチは気を失っていたのである。

「はぁっ……やっぱ無謀だったかなぁ……女と旅なんてっ……」

 鬼人退治屋を務める、かの“桃タロー”の弟子・竹取輝矢と出会い、朱実の家を出て雀国を旅立ってからまだたったの一日。すでに後悔の連続のハチ。

「とにかく行きましょうか。一時間のロスを取り戻さないと」
「いちいち嫌味なヤツだなぁ〜」
 支度を整え、素早く歩き出していく輝矢を、ハチが不満げな顔を見せながらも追う。雀は山に囲まれた国なので、他のどの国へ行くにも山を越える必要があり、昨日からもう随分と山道が続いていた。山での野宿はそういいものではないが、初めて外の世界に出たハチとしては何もかも新鮮であった。

「んでっ?次はどこの国に行くんだっ?」
「さぁ〜」
「へっ?」

 首をかしげる輝矢に、ハチが眉をひそめる。

「決めてないのかぁっ!?」
「ええっ」
 ハチの大声の問いかけに、あっさりと頷く輝矢。

「旅は風の吹くまま、足の向くままですよぉ〜」
「おっ前、退治屋だろっ!?フツーは依頼が来たぁとか、鬼人の目撃情報があったぁとかで動くもんじゃっ」
「私、“さすらい”って言葉、好きなんです」
「だから……?」
 輝矢の言葉に、呆れた表情を見せるハチ。

「はぁっ……何だよ、適当かぁ〜」
「ハチはどこか行ってみたい国はあるのですか?」
「えっ……?」
 輝矢の急な問いかけに、ハチが少し驚いたように顔を上げる。

「例えばぁ〜……お父様の居場所の心当たりとか……」
「……。」
 
 ハチが輝矢の言葉に少し俯く。ハチが雀国を出たもう一つの理由、父親探し。輝矢はしっかりと気にかけていてくれたのだ。

「心当たりとか……ねぇーから……」
「えっ?」
 輝矢が表情を曇らせる。

「父さんっ……母さんと引き裂かれるようにして朱実の一族に、無理やり雀国から追い出されてさっ……」
「……っ」
 辛そうに語るハチに、目を細める輝矢。

「母さんも俺が小っせぇ頃に死んじゃったから、父さんの話とかも全然聞いたことなくって……」
 ハチが歩く足を止める。
「だからホントはっ…生きてんのかどうかだってっ……」

「生きておられますよ」

「……っ」
 ハチが見上げると、そこには輝矢の穏やかな笑顔があった。

「まずは信じないとっ」
「……そうだな……」
 輝矢の言葉に、ハチも笑顔を見せた。

「さぁーて、じゃあまぁとりあえず、あちらの方へ行ってみましょうかっ」
「鬼人の気配でも感じんのかっ!?」
「いえっ、勘ですっ」
「……。」
 雀国を旅立ってまだ一日。やはり後悔の連続のハチなのであった。






 その日、夕刻。

「いっやぁ〜適当に歩いてて着くもんですねぇ〜街っ」
「まぐれだろっ……」
 輝矢の勘で歩き続けた輝矢とハチは、山岳地帯の途中にある、とある街へと奇跡的に辿り着いていた。得意げな笑顔を見せる輝矢に、冷静に一言入れるハチ。

「それにしてもっ……」
 輝矢が街を見渡す。


「よぉ〜ってらっしゃいっ!メェってらっしゃいっ!ウール百パーセントっ!着心地最高のガウンだよぉっ!」
「ラム肉たっぷりラム肉まんっ!!メェ〜っちゃ安いよぉ〜っ!」
「迷える子羊よ……我が教会に立ち寄るがメェ〜案でしょう……」

 ウール百パーセントのガウンを売るヒツジ、ラム肉まんを売るヒツジ、教会への呼び込みを行っているヒツジ。その街は道を行く人、来る人、皆、ヒツジであった。


「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹っ……くぅ〜っ」
「寝るなぁっ!!」
 行き交うヒツジを眺め、寝入ってしまう輝矢に、ハチが全力で突っ込みを入れる。


「いやぁ見渡す限りのヒツジですねぇ〜」
「ここは“(ヨウ)の国”だな。雀の東にある小さな国だって聞いたことある」
「へぇ〜」
「へぇーってお前なっ……」
 初めて雀の国から出たハチよりも外のことに疎い輝矢に、ハチが呆れた表情を見せる。

「羊の国の方々は、大々的に旅人を歓迎する習慣でもあるのですかぁ?」
「はぁっ?そんなん聞いたことねぇーけどっ……なんでっ?」
「あれっ」
「……?」

 輝矢が指差すままに、街の奥を見つめるハチ。


『どゅおおおっ!!』

「んなぁーっ!?」
 街の奥から入口に立っている輝矢とハチの元へと駆け込んでくるのは、鉄製の面を付けた、明らかに武装しているヒツジの軍団。物凄い勢いでこちらへと迫ってきている。悲鳴にも似た声を出すハチ。


「怪しいヤツらっ……!!捕まえろぉ!!」
『おおぉぉーっ!!』
 士気を高めて、さらに迫り来るヒツジ軍団。


「なっ……!何か明らかに敵意剥き出しだぞぉっ!?」
「あははぁ〜面白いですねぇ〜」
「全っ然面白かねぇっ!!」
 暢気な輝矢に、少し泣きそうな表情で突っ込むハチ。


『どゅおおおっ!!』
「あっぎゃああっ!!」








――ガッシャーーンッ!


「……。」
 目の前で強く締まる牢の戸に、茫然とした表情を見せるハチ。

「何故っ…何故なんだぁっ!?」

 苦悩するように叫びあげる、牢屋の中のハチ。

「ハチが入ると、牢屋というよりペットショップですねっ」
「じゃかましいっ!!」
 牢屋の中でも笑顔を絶やさない輝矢に、ハチが強く怒鳴りつける。怒涛のヒツジ軍団に、あっけなく捕まった輝矢とハチは、詳しい事情も呑み込めないまま牢屋に入れられてしまったのである。

「この状況でお前はなんでそう落ち着いてられんだよっ!?」
「だってこんな牢屋、私の力なら一瞬ですもんっ」
「……。」
 鬼人のような化け物を粉砕する女が、このような牢屋にうろたえるはずもない。黙り込んでそう考え付いたハチは、落ち着いてその場に座り込む。

「まっ、俺も至って冷静だがな」
「すっごいウソくさいですねっ」
 冷静を装うハチに、輝矢が穏やかな笑顔を向けた。

「はぁっ……何だってこんなことにっ……」
「ハチがいかにも羊肉好きそうな顔してるからですよ」
「ヒツジ聞きの悪いこと言うなっ!」
「こちらですっ!メリー様っ!!」
『……?』
 牢の外側から聞こえてくる声に、何やかんやと騒いでいた輝矢とハチが振り向く。

「ご苦労様。あなた達は下がってなさい」
『はっ!』

 輝矢たちを捕らえた武装ヒツジたちに偉そうに命令をしながら、牢の前へと現れたのは、輝矢と同じような年頃のまだ幼い少女であった。柔らかそうな白い巻き髪に大きな紫色の瞳の美しい、暖かそうなモコモコのドレスを身に纏った少女である。少女の横には執事らしきメガネの老人が立っていた。

「あなた達ね?街の入口をうろついてたってゆー怪しい連中は」
「怪しいだなんてそんなっ……!」
「アナタの着グルミのようなドレスの方がよっぽど怪しいですよ、小娘」
「んなっ……!?」
「なぁーに言ってんだよっ!お前はっ!」
 輝矢が笑顔満面で言った一言に、表情を引きつりまくる少女。そんな輝矢をハチが思い切り睨みつける。

「ハチもそう思ったでしょう?」
「えっ?いやぁ〜まぁ〜そりゃあちょっとはぁっ……」
「メェェ〜っ!!」
「うおっ」
「……っ」
 少女の急な雄たけびに、少し怯えるように後退するハチと輝矢。

「さぁ〜っきから聞いていれば好き勝手言いまくりまくってっ……」
 怒りを煮えたぎらせるように籠もった声で言う少女。

「私をどこの誰だと思っているのぉっ!?私はねぇっ……!」
「羊の国・国主、日辻芽里ひつじめり様にございます」
「何でアンタが私より先に言うのよぉーっ!!」
「ぐほおおうっ!!」
 芽里より先に芽里の正体を明かしてしまった執事の老人に、芽里の強烈な突っ込みエルボーが炸裂する。

「ったく、もうっ!」
「ちなみにわたくしが芽里様の側役、メェ蔵でございます」
「はぁ……」
 芽里のエルボーを喰らった腹部を押さえながらも自己紹介をするメェ蔵に、呆れた表情を見せながら頷くハチ。

「とぉーにぃーかぁーくっ!とっとと正体を見せなさいっ!鬼人っ!」
『はぁっ?』
 強く輝矢たちを指差して言い放つ芽里に、大きく口を開けて首をかしげる輝矢とハチ。

「鬼人だぁ〜っ!?バッカ言うなよっ!俺たちが鬼人のはずっ……!」
「惚けないでぇっ!もうお見通しなのよ!いっくら誤魔化したって無駄なんだからっ!」
「はぁ〜っ!?」
 完全に輝矢とハチのことを鬼人だと思っている芽里に、ハチが表情をしかめまくる。

「イヌなんて可愛らしいもんに化けてくるなんて考えたんでしょうけどっ!騙されないわよっっ!!」
「あんなぁっ!俺たちはっ……!」
「どう言っても疑いは晴れませんよ、ハチ」
「ええっ!?」
 何とかしようと必死に訴えるハチを止めたのは、相変わらず平静な顔をした輝矢であった。

「けどよぉっ!このままじゃっ……!」
「人化して下さい」
「へぇっ?」
 輝矢の言葉に、ハチが大きく首をかしげる。
「何でっ……」
「いいから早く」
「はいっ」
 輝矢の有無を言わせぬ眼力に、大人しく頷くハチ。

――ボォォォォ〜〜ンッ!

『……っ』
 ハチが輝矢の言われた通りに人化し、鮮やかな桃色髪の青年・桜時の姿となる。その姿を見て、驚いた表情を見せる芽里とメェ蔵。

「でぇ、牢を桜に」
「へっ?」
「いいから早く」
「はいっ」
 輝矢に言われるがままに、桜時が両手を牢の鉄格子に当てる。

「……“瞬花”っ」

――パァァァーーンッ!

「……っ!」
 桜時の両手から桃色の光が発せられた瞬間、鉄格子が桜の花びらへと代わり、美しく散っていく。その光景に芽里が目を大きく見開く。

「え〜こちらっ、雀国国主・朱実孔雀様の甥方にあられますっ」
「おっおいっ!」
「えっ!?」
「朱実っ!?」
 勝手に正体を明かす輝矢に桜時は驚くが、もっと驚いたのは芽里とメェ蔵の方であった。

「朱実の“花力”っ……間違いないわっ……」
 床に散った桜の花びらを見つめ、呟く芽里。

「もうっしわけありませんでしたぁっ!」
「うおっ」
 激しく叫んで、その場に土下座する芽里。

「朱実の方とも知らず何てことをっ……!!」
「本当にもぉ〜メリー様には困ったものでぇ〜」
「アンっタも謝んなさいっ!!」
「ぎゃあっ!!」
「……。」
 他人事のように話していたメェ蔵の頭を、芽里が無理やり床にこすり付ける。悲鳴をあげるメェ蔵を、呆れた表情で見下ろす桜時。

「ふぅ〜っ、無事、疑い晴れましたねぇ」
 ゆっくりと立ち上がり、牢から出る輝矢。

「ハチはやっぱり使えますねっ」
「やっぱり一緒に旅するのやめようかな……」
 輝矢の屈託のない笑顔に、桜時がこっそり呟いた。



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