第14章 伝説の男 ★2
「……っ。桜時っ……!」
「隙アリっ!」
「……っ!」
桜時の叫び声に気を取られた由雉に、すかさず鎖鎌が襲いかかる。
「うっ……!」
飛んで来た鎌が由雉の右腕をかすめ、由雉が少し表情をしかめた。
「私以外の人を見つめちゃイヤンですわっ」
「……。」
由雉の右腕をかすめた鎌をキャッチして、慣れた手つきで鎖鎌を回すグレーテル。血の流れる右腕の傷を左手で押さえながら、由雉が鋭い目を見せる。
「自己中な女っ……君っ、モテないでしょっ?」
「それは乙女のNGワードですわっ……」
由雉の言葉に、グレーテルが少し引きつった笑みを見せながら、鎖鎌を構える。
「……っ?」
今まで見せたことのない構えを取るグレーテルに、少し眉をひそめる由雉。
「“螺無根”っ!!」
「……っ!!」
グレーテルの鎖鎌が幾重にも分裂し、無数の鎌が由雉の八方から一斉に襲いかかる。
「串刺しですわっ!」
「……冗談っ!」
楽しげに声を出すグレーテルに、少し焦ったような表情を見せながら懐から羽根を取り出す由雉。
「“癒羽”・“裂羽”っ」
由雉が右手に青い羽根を、左手に黄色い羽根を構える。
「“合翼っ……」
2つの羽根を合わせる由雉。合わさった羽根から光が放たれ、やがて1枚の緑の羽根となる。
鎌の向かってくる上空へと、その緑の羽根を放り投げる由雉。
「包羽”っっ!!!」
――――パァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
包羽が光を放った瞬間に、由雉にすべての鎌が降り注いだ。
「やったかしら……?」
巻き起こる衝風の中を、目を凝らして見つめるグレーテル。
「んっ……?」
目を凝らしていたグレーテルが、晴れていく煙の中から見えてくるものに、そっと眉をひそめる。
「あれはっ……」
煙が晴れ、由雉のいた付近に見えてきたのは、大きな緑色の球体であった。よく見れば、無数の緑の羽根で構成されている。
その球体が降り注いだグレーテルの鎌をすべて受け止めていた。
「ふぅ〜っ……」
球体を構成していた緑の羽根が、頂点から崩れ落ちていく。すると球体の中から由雉が姿を現した。
「“包羽”使ったのに3個も喰らっちゃったよぉ〜」
そう言いながら由雉が足や肩に負った傷を見る。確かに傷は負っているが、グレーテルの攻撃の大きさを考えれば、それは無傷に近かった。
「……っ」
少し唇を噛み締めるグレーテル。
「なかなか……やりますわねっ」
「当然っ」
絞りだすように言ったグレーテルに、由雉が余裕の笑みを向ける。
「なかなかやらなきゃっ、輝矢のお供なんて務まんないからねっ」
「……ですが、他の方はそうでもないようですわよ……?」
「えっ?」
「うわああああっっ!!!」
「……っ!」
グレーテルの言葉に眉をひそめていた由雉が、後方から聞こえてくる叫び声に振り返る。
「門貴っ……!」
由雉が振り返った先では、ヘンゼルの攻撃を喰らい、傷だらけとなった門貴が床に膝をついていた。
「クっ……!」
床に如意棒を突き刺し、傷だらけの体を何とか支える門貴。
「こっ……!今度こそっ……!」
そう言って門貴が鋭い目つきで顔を上げる。
「ウフっ」
「アハっ!」
しかしその鋭い顔つきは、笑顔のヘンゼルと目が合った途端に一瞬で崩れ去る。
「あかんっ……!可愛すぎやっ……!」
再び俯いた門貴が、悩み込むように頭を抱える。
「すぐ楽にして差し上げますわぁ〜っ!」
「……っ!」
ヘンゼルが大剣を構え、そんな苦悩している門貴の元へ飛び込んでいく。
――――・・・・・・・・・・・・っっっ!!!――――
「うがあああああああああああああっっ!!!!」
門貴の叫び声とともに、真っ赤な血が空に舞った。
「……っ」
再びヘンゼルに切り裂かれ、倒れていく門貴を見つめ、表情をしかめる由雉。
「あのバカザっ……」
――――シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!――――
「なっ……!」
門貴の方に気を取られていた由雉の胴に、勢いよく巻きつく太い鎖。
「グっ……!」
鎖はきつく由雉を縛り、両手の動きも封じる。
「だから言いましたでしょう……?」
由雉を縛った鎖を持ったグレーテルが、ゆっくりと由雉の前へと歩み寄る。
「私以外を見つめちゃイヤンですわって……」
「……っ」
グレーテルの笑みに厳しい表情を見せる由雉。
「まぁもう……誰も見つめることなんてできないですけど……」
そう言ってグレーテルが鎌の刃先を由雉へ向ける。
「クっ……」
由雉がどこか悔しげに歯を食いしばる。
「安心して下さい。貴方様のお仲間はお兄様がちゃあ〜んとっ……」
「“お兄様”っ?」
由雉がグレーテルの言葉に敏感に反応する。
「えっ?あっ……!」
グレーテルが急に焦ったような表情となり、思わず口を押さえる。
「ちっ……違いますわっ!“お姉様”ですっ!“お姉様”っ!」
「ふぅ〜ん……そういうことぉ……」
「うっ……!」
見透かしたように笑う由雉に、グレーテルが益々、焦った表情を見せる。
「違っ……!だからっ……!今のはちょっとした言い間違いでっ……!」
「……っ」
「……っ?」
俯く由雉に、必死に言い繕っていたグレーテルが表情を曇らせる。
「“脚翼っ……」
「何っ……!?」
鎖に縛られ両手を封じられている由雉が、不意に右足を上げる。由雉の右足の靴には、まるで飾りのように青い羽根が付いていた。それに気づき、一気に表情を変えるグレーテル。
「まさか足にもっ……!?」
「裂羽”っ!!」
「しまっ……!」
由雉が靴に付けていた青い羽根を、門貴を攻撃しようとしているヘンゼルへと飛ばす。
「さぁそろそろ終わりにしましょうねぇっ!」
「はぁ〜いっ!って、ちゃうちゃうっ!俺が負けたら輝矢んがぁぁ〜〜〜っっ!!」
大剣を構え門貴ににじり寄るヘンゼルと、ヘンゼルに攻められ、何とかしようと思いながらも苦悩している門貴。どちらもヘンゼルに飛んできている裂羽には気づいていない。
「危ないっっっ!!!!!」
思わず身を乗り出して叫ぶグレーテル。
「避けてっっっ!!!!お兄様っっっ!!!!」
「……っグレーテルっ?」
「お兄様ぁ〜っ?」
グレーテルの叫びに、一斉に振り返る門貴とヘンゼル。
「うっ……!」
振り返ったヘンゼルが、自分に飛んできている裂羽に気づく。
「クっ……!!」
ギリギリのところで何とか裂羽をかわすヘンゼル。
――――バァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!――――
ヘンゼルにかわされた裂羽が壁に直撃し、大きな穴をあけた。
「ふぅっ……あっぶねぇーっ」
素となった表情と先ほどまでとはえらい違いの低い声を出しながら、無造作に額の汗を拭うヘンゼル。
「じぃぃぃぃぃぃ〜〜〜っ」
「ハッ!」
そんな無造作ヘンゼルが、こちらをじっと見つめている門貴に気づき、我に返る。
「危なかったですわぁぁ〜〜〜っっ!!オホホホホぉぉぉ〜〜〜っっ!!」
「……。」
明らかに不自然な高笑いをするヘンゼルに、門貴がさらに疑いの目を向ける。
「今……グレーテルちゃん、“お兄様”て……」
「聞き間違いですわよぉぉっっ!!私はどう見たってお姉さっ……!」
「門貴ぃぃぃ〜〜〜っっ!!」
ヘンゼルの言葉を遮るようにして聞こえてくる、門貴を呼ぶ由雉の声。
「この2人ぃぃ〜〜っ、“姉妹”じゃなくって“兄妹”みたいだよぉぉ〜〜〜っっ」
「ちっ……!違いますわっ!!」
由雉の言葉を必死に否定するグレーテル。
「たっ……!確かにお兄様は男ですけどっ……!心は完璧女ですしっ……!いわゆる1つのオカマであって……!!」
『……。』
「って、あっ……」
思い切りヘンゼルの秘密をバラしてしまったことにやっと気づき、固まるグレーテル。
「あっ……えとっ……そのっ……」
「だってぇ〜っ」
「おぉぉうっ」
由雉の声に返事をしながら、如意棒を支えにし、ボロボロの体でゆっくりと立ち上がる門貴。
「よぅわかったわっ……」
「うっ……」
顔を上げた門貴は、鋭い笑みを見せていた。そんな門貴に少し動揺した様子で1歩下がるヘンゼル。
「ふっ……バレてしまったものは仕方ありませんわねぇっ」
ヘンゼルが開き直ったように声を出しながら、再び大剣を構える。
「色香で惑わすのもそろそろ飽きてきましたし、終わりにいたしましょうかっ!」
「えっらい甘い夢、見させてもろたわぁ〜」
唇の端から流れていた血を拭い、どこか得意げに笑う門貴。
「けどっ、こっから先は思いっきりやらせてもらうでぇ?」
「フフっ」
自信ありげに笑う門貴を、ヘンゼルが軽く嘲笑う。
「今更、そんなボロボロの体で何をしようというんですの?」
「何でもするわぁっ」
如意棒を持つ手に力を込める門貴。
「輝矢んのためならっ」
「笑止っ……」
まっすぐな瞳で答える門貴に、ヘンゼルが冷たい笑顔を見せる。
「すぐにトドメを刺して差し上げますわっ……!!」
ヘンゼルが大剣を床に突き刺す。
「“微巣決土”っっ!!!」
――――バァァァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!――――
ヘンゼルの技にまたしても門貴の周囲の床に亀裂が入り、門貴の足元が崩れ始める。
「これでっ……!」
バランスを崩すであろう門貴の元へと飛び出していくヘンゼル。
「終わりですわっ!!」
「……如意棒・第2の舞っ……」
足元が崩れる中、門貴が冷静な表情で如意棒を構える。
「“浄”っっ!!!」
――――ビュウウウウゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!――――
「何っ……!?」
ヘンゼルが門貴に切り込もうとした途端、門貴の周囲に強い竜巻のような風が巻き起こる。
「うわああああああああっっ!!!」
風に勢いよく弾き飛ばされるヘンゼル。
「うっ……ううっ……」
風に切り裂かれ傷ついたヘンゼルが、ゆっくりと痛む体を起き上がらせる。
「……。」
「ううっ……!!」
やっと起き上がったヘンゼルの前に、いつの間にか立っている門貴。門貴の鋭い視線に、ヘンゼルの額から汗が流れた。
「待っ待ってっ……!私っ……!男には生まれてきちゃったけどっ……!心は超乙女ってゆうかっ……!」
「よぅ覚えときぃっ……」
両手を突き出し、必死に言葉を繋げるヘンゼルに、門貴が言い放つ。
「俺ぁ、女にはめっちゃ甘いけどっ……」
門貴がヘンゼルを見て笑う。
「その分っ、男にはめっちゃ厳しいねんっ!」
「待っ……!!」
「如意棒・第1の舞っ……」
門貴がヘンゼルに向けて如意棒を振り上げる。
「“空”っっっ!!!」
――――ビュウウウウウゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!――――
「うがああああああああっっっ!!!」
門貴の真空波に吹き飛ばされ、傷だらけとなったヘンゼルが力なく地面に落ちた。
「ううっ……ホントっ……惚れそうなくらい強いわぁっ……ううっ……」
そう呟いて、ヘンゼルはそっと瞳を閉じた。
「ふぃぃ〜〜っ」
倒れたヘンゼルを確認し、如意棒を下ろす門貴。
「純情男心っ、騙したりするからやっ」
門貴vsヘンゼル、勝者:門貴、勝因:オカマ。
「お兄様ぁぁぁぁっっ!!!」
門貴に敗北したヘンゼルを見て、身を乗り出すグレーテル。
「お兄様っ……」
「あぁ〜あ〜負けちゃったぁ〜」
落ち込むように肩を落とすグレーテルに、鎖に縛られたままの由雉が軽い口調で声をかける。
「君がうっかり口滑らせたりしなきゃ勝てたのにねぇ〜」
「……っ」
由雉の挑発めいた言葉に、目つきを鋭くして由雉を睨みつけるグレーテル。
「せめてっ……貴方だけでもっ……」
そう言ってグレーテルが鎌を構える。
「倒しますわっ……!」
「できないと思うよぉ〜君にはっ」
「ハッ!その状態で、よくそんな強気な発言ができますわねぇっ!」
鎖に縛られ両手を動かすこともできない状態で、強気な発言をする由雉に、グレーテルが小バカにしたように言い放つ。
「いつまでも私がお間抜けなことばかりやっているとは思わない方がいいですわよっ!」
「君こそ……」
「……っ?」
由雉がグレーテルに鋭い瞳を向ける。
「いつまでもトリを捕まえてられるなんて、思わない方がいいよっ」
「何っ……?」
――――ボォォォォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!!――――
「うっ……!!」
「……っ」
由雉がキジに姿を変えて、鎖から逃れる。
「しまったっ……!」
上空に飛び上がったキジの姿を見て、表情をしかめるグレーテル。
「けどっ……」
グレーテルが素早く鎖鎌を構える。
「格好の餌食ですわっ!!“螺無根”っっ!!!」
グレーテルの鎖鎌が再び幾重にも分裂し、無数の鎌が上空を飛んでいるユキジを八方から狙い撃ちにする。
「今度こそ串刺しですわっ……!」
「だからっ……」
ユキジが鋭い表情を見せ、その青々とした美しい羽根を広げる。
「冗談じゃないって言ってるでしょっ?……“千滅羽”っ……!!」
――――パァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
「なっ……!!」
青いキジが巻き放った千の赤い羽根が、グレーテルの鎖鎌を1つ残らず掻き消す。
驚きのあまり、大きく目を見開いて上空を見つめるグレーテル。
「そっ……そんなっ……私のラムネがっ……」
「ああ、ちなみにっ」
「……っ!」
唖然としていたグレーテルの背後に、先ほどまで上空を飛んでいたユキジが現れる。
「いつの間にっ……!」
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――
グレーテルが振り返った途端に、ユキジが白い煙に包まれて再び人化する。
「ボクは特に可愛い女の子に甘いとかないからっ」
「うっ……!!」
そう微笑んで、由雉がグレーテルに青い羽根を見せる。
「待っ……!」
「“右翼・裂羽”っ」
「……っ!!」
制止を促したグレーテルを完全に無視して、由雉がグレーテルに青い羽根を投げ放つ。
「うっ……!きゃああああああっっ!!」
――――バァァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!――――
裂羽に吹き飛ばされたグレーテルが壁に激突し、力なく床に倒れ込む。
「うっううっ……無念っ……ですわっ……ううっ……」
弱々しくそう呟いて、グレーテルはそっと瞳を閉じた。
「ふぅっ」
そんなグレーテルを見て、由雉が一息ついたように肩を落とす。
「いっやぁぁぁぁっっ!グレーテルちゃぁぁぁぁんっっ!!」
「……。」
聞こえてくる門貴の叫びに、由雉が急激に表情を引きつる。
「大変やぁぁぁぁぁっっっ!!!気ぃ失っとぉぉぉっっ!!」
倒れたグレーテルに駆け寄り、困ったように頭を抱え込む門貴。
「ユッキーっ!!早く癒羽をっ!!」
「バカっ……?」
由雉vsグレーテル、勝者:由雉、勝因:根性の悪さ。
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