第14章 伝説の男 ★1
御伽界最大の国・“龍国”へとやって来た輝矢たち一行であったが、オトポリ本部を訪問中に輝矢が倒れ、しかも謎のメイドたちに輝矢をさらわれてしまった。
輝矢を取り返すべく敵のアジト“エセお菓子の家”へと赴いたハチ、モンキ、ユキジの3匹であったが、3匹の前に“狼人”らしきオオカミと、2人のメイド・ヘンゼルとグレーテルが立ちはだかった…。
“エセお菓子の家”空間内の“桃の苑”。桜時vsオオカミ。
「お前、人化はっ……?」
村雨丸を抜いた桜時が、鋭い表情でオオカミに問いかける。
「ん〜、オオカミのままでキツくなってきたらしようかとは思ってるけどっ……」
穏やかな笑みを口調で話すオオカミ。
「僕の予想では、この姿で十分な感じかなっ」
「……っ」
桜時を挑発するように笑うオオカミに、桜時が表情をしかめる。
「そうかよっ……」
しかめた表情のまま、村雨丸を構える桜時。
「だったらっ……すぐにでも人化させてやるよっ……!!」
「……っ」
勢いよく飛び込んでくる桜時を見て、オオカミは怪しげな笑みを浮べた。
一方、同じく“桃の苑”。門貴vsヘンゼル。
――――カンッ!キンッ!ガンッ!カッキィィィーーンッッ!!――――
「クっ……!」
「うっ……」
如意棒と大剣を激しく交錯させていた門貴とヘンゼルが、それぞれ後方に飛んで、互いに距離を取る。武器を構えなおしながらも肩で息をし始める両者。剣技はほぼ互角である。
「ふぅっ……なかなかやりますわね……」
少し楽しげに微笑むヘンゼル。
「何だか恋に落ちてしまいそうですわっ……」
「マジでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!?」
ヘンゼルの言葉に、門貴が本気で嬉しそうに声をあげる。
「じゃあじゃあっ!初デートはバナナ園にバナナ狩りってことでぇっ……!」
「でも残念っ」
「へっ?」
ウキウキにデートプランを提案していた門貴に、ヘンゼルが鋭い瞳を向ける。
「私っ、好きな人には本気で攻撃しちゃうタイプですのっ!」
「へっ……?」
「“微巣決土”っっ!!」
「……っ!」
――――バァァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
ヘンゼルが大剣を床に突き刺した途端に、門貴の立っている辺りの床に亀裂が入り、所々が盛り上がる。
「うおっ!」
砕ける床に足を取られ、バランスを崩す門貴。
「……っ」
「うっ……!如意棒っ!」
そんな門貴の目の前にヘンゼルが現れ、門貴に向かって大剣を振りかぶる。慌てて如意棒を構える門貴。
「第1の舞っ……“くっ……!」
「ウフっ」
「うぅっ……!!」
目の前で微笑みかけてくるヘンゼルに、門貴が思わず如意棒を止める。
「はいっ、どうぞっ!」
「うっ……!!」
――――ブシュッッッ……!!!――――
「うぐぅぅぅぅぅっっっ……!!!」
ヘンゼルの大剣が、門貴の胴体を勢いよく切り裂き、門貴の表情が痛みに歪む。真っ赤な血を流しながら、後方に吹き飛ばされていく門貴。
「はいっ」
「うっ……!!」
吹き飛ばされていく門貴の真上へと現れるヘンゼル。
「終わりっ!」
「クっ……!」
ヘンゼルが門貴に大剣を突き出す。
「“右翼・裂羽”っ」
「何っ……!?」
門貴に剣先を突き出そうとしたヘンゼルに、横から向かって飛んでくる青い羽根。
「クっ……!」
――――バァァァァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!――――
ヘンゼルがギリギリのところでかわした羽根が、部屋の壁に突き刺さり、大きな穴をあけた。
「勝負はっ……1対1ではなかったのですかっ?」
「あっ、そうなのぉ〜っ?」
着地したヘンゼルが、羽根の飛んで来た方向へ鋭い瞳を向ける。
「ごめんごめぇ〜ん、聞いてなかったもんだからさぁ〜」
「……っ」
そこに立っていたのは嘘臭いほど爽やかな笑みを浮べた由雉であった。そんな由雉にヘンゼルが眉をひそめる。
「グレーテル……」
「ごっ……ごめんなさいっ……お姉さまっ」
由雉の相手をしていたグレーテルが、姉の睨みに申し訳なさそうに俯いた。
「ったく、世話かけないでよねぇ〜っ」
「おっおうっ、ユッキー、サンキューなぁっ。助かったわっ」
由雉が呆れた表情を見せながら、深手を負って地面へと倒れ込んだ門貴の元へ近寄っていく。由雉にあまり力のない笑みを向ける門貴。
「押されっぱなしじゃんっ」
「それがな、ユッキー……聞いてくれるかっ……?」
「……っ?」
やけに深刻な表情を見せる門貴に、由雉が眉をひそめる。
「実は……大変なことに気づいてもたんやっ……」
「なっ……ななっ……何っ……?」
つられて真剣な表情となった由雉が、恐る恐る問いかける。
「俺なっ……」
「うんっ……」
「俺っ……あんなカワイ子ちゃんメイドに攻撃できへんわぁぁぁ〜〜っっ!!」
「……。」
悩ましげに叫ぶ門貴に、凍りつく由雉。
「あんなカワイ子ちゃんメイドに“空”とか絶対絶対できへんもぉぉぉ〜〜〜んっ!!」
「……。」
「ああ〜〜〜っっ!!!どないしょっ!!?ユッキーっっ!!!」
「とりあえず死んだら?」
――――プスっ!――――
「ぎゃああああああっっ!!」
冷たい表情の由雉が、門貴の傷口へ容赦なく黄色い羽根を突き刺す。
「なっ何やっ……“癒羽”かっ」
黄色い羽根が光を放ち、門貴の傷口を塞いでいく。それを見てホッとしたように汗を拭う門貴。
「ったく、桜時に“お前じゃメイドは無理やろぉ〜”とか言っときながら、なんてザマだよっ」
「ううぅ〜ん……俺っ、自分で思とったより紳士やったみたいっ」
「はぁっ……」
体を起こしながら笑顔を見せる門貴に、由雉が少し頭を抱える。
――――シュゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!――――
「……っ」
その時、横から飛んで来た鎖鎌が、由雉の左手に巻きつく。
「いつまで女性を待たせるおつもりですっ?」
「……。」
由雉に巻きついた鎖鎌の一方の端を持ち、由雉に笑いかけたのはグレーテルであった。そんなグレーテルに由雉が少し表情を鋭くする。
「というわけで、ご使命入っちゃったからこれ以上は手ぇ貸せないよぉ?」
「アホうっ!これぁ俺が受けた勝負やっ!こっちかてなぁ、お前の手なんか借りる気ゼロやわっ!」
「あっそ。じゃあとっととあの大剣メイドさん、倒しちゃってよぉ」
「そんなん、お前に言われんでもすぅぅーーぐになぁっ……!」
門貴が強気に立ち上がり、ヘンゼルの方を見る。
「ウフっ」
「アハっ!」
可愛らしく微笑み手を振ってくるヘンゼルに、何のためらいもなく手を振り返す門貴。
「やっぱ無理かもっ」
「知ぃぃ〜らないっ」
「ああっ!!ユッキーっっ!!!」
そんな門貴を見捨てて、由雉は左手に鎖鎌を巻きつかせたまま、端を持っているグレーテルの元へと飛び出していく。
「薄情なキジやわぁ〜っ」
「傷はもうよろしいんですか?」
「へっ?」
立ち上がった門貴に、声をかけながらゆっくりと歩み寄って来るヘンゼル。
「ああ〜っ!もうすっかりっ!」
そんなヘンゼルに、門貴が癒羽を取りながら笑顔で答える。癒羽のお陰で、ヘンゼルに切り裂かれた胴の傷はすっかり癒えていた。
「そうですかっ。それは良かった」
「ヘンゼルちゃんっ……!」
ホッとしたような笑顔を見せるヘンゼルに、門貴が目を輝かせる。
「そんなに俺のことをぉぉぉぉぉ〜〜〜〜っっっ……!!」
「また切り裂いて差し上げますわねっ♪」
「……。」
笑顔で大剣を構えるヘンゼルに、門貴が下に垂れ下がった笑顔のまま固まる。
「せやろなぁ〜……」
少し落ち込んだように呟きながら、笑顔を消す門貴。
「どないしょっ……」
門貴は戸惑った様子で、再び如意棒を構えた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「よっ」
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「よっ」
「クっ……!」
桜時が全力で振り切る村雨丸を、軽々とかわしていくオオカミ。幾度も空を斬る村雨丸に、桜時が少し表情をしかめる。
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
肩で大きく息をする桜時。まだ戦いを始めて10分程度。その間、オオカミからの攻撃は1度もない。桜時がただ村雨丸を振って、オオカミはただそれを避けているだけだった。
「ちっとも当たんねぇーっ……」
額の汗を拭い、オオカミをまっすぐに見つめながら、桜時が戸惑うように呟く。
「アイツの速さっ……門貴や由雉とも比べもんになんねぇっ……」
野原に立ち、余裕に見える穏やかな笑みを浮べているオオカミに、桜時が眉をひそめる。桜時も犬人であるためスピードには自信があったが、オオカミのそれはまるでレベルが違っていた。
「あのオオカミっ……一体っ……」
「筋はいいよぉ」
「……っ?」
軽い口調で話しかけてくるオオカミに、桜時が戸惑うように顔を上げる。
「でも形が雑だなぁ。刀は自己流かい?」
「……っ何でんなこと、聞くんだよっ?」
オオカミの質問に、桜時が怪訝そうに聞き返す。
「興味があるからさっ。それにっ……」
「……っ?」
「トークででも楽しまないと、君のノロノロした攻撃、避けてるだけじゃ暇だしねぇ」
「……っ!」
挑発するように笑うオオカミに、桜時が村雨丸を握る力を強める。
「これならどうだっ!」
「……っ?」
オオカミに村雨丸の刃先を向ける桜時。
「“瞬花っ……終刀”っ……!!」
「……っ」
――――パァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!――――
村雨丸の刃先から放たれたピンク色の強い光が、まっすぐオオカミに向かっていく。
「……。」
避ける素振りも見せず、平然とした表情でその場に立ち尽くすオオカミ。
「直撃する気かっ……!?」
「……っ」
桜時が戸惑ったように見つめる中、オオカミが向かってくる光に対し、その尾を一振りさせる。
――――バァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
「……っ!!」
オオカミの小さな尾に、何倍もある大きさの光があっさりと弾き飛ばされ、天井に直撃して大きな穴をあけた。その光景に大きく目を見開く桜時。
「そっ……そんなっ……」
桜時が天井にあいた穴を見上げながら、信じられないといった様子で呟く。
「尻尾だけでっ……俺の瞬花終刀をっ……?」
「ふぅぅぅ〜〜っ……」
尾を左右に振りながら、一息ついたように肩を落とすオオカミ。
「思ったより威力あったねぇ。尻尾の毛が2,3本抜けちゃったよぉ〜ツルツル尻尾になっちゃうかなぁ?」
「……っ」
オオカミの軽い冗談に、何の反応も出来ずにただただ茫然とする桜時。
「さてとっ、じゃあそろそろコッチからも攻撃しようかな」
「えっ……?」
「……っ」
まだ茫然としている桜時に対し、オオカミが態勢を低くし、目つきを鋭くする。
「“機微団子弾”っ」
「……っ?」
オオカミの周囲に現れる無数の小さな玉に、桜時が眉をひそめる。
「バッキューンっ☆」
――――バァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
「うっ……!!」
オオカミが声を発した途端に、オオカミの周囲に浮かんでいた無数の玉が、桜時に向かって一斉に飛び出してくる。焦ったように左手を突き出す桜時。
「“瞬花”っ……!!」
――――・・・・・・・・・・・・っっ――――
「……っ!!」
しかし機微団子弾は、桜の花びらとなることなく、まっすぐに桜時に向かってくる。
「そんなっ……!“瞬花”が効かないっ……!?」
戸惑うように声を出す桜時。
「うっ……!!」
そんな桜時に、機微団子弾は迫り来る。
「うわあああああああああっっ!!!」
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