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鬼斬り かぐや 
作:千風



第13章 御伽最大の国 ☆3



 門をくぐった輝矢たちは、リンゴに誘導され、北東に見える大きな塔へと歩いて行く。
『ふわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ……』
 敷地内にある稽古場や休憩所を見回しながら、感心したように声を漏らす3匹。
「凄いでしょっ?無駄なことに金かけるの好きなのっ、オトポリってっ」
「それって笑って言っちゃっていいことなの……?」
 笑顔で話すリンゴに少し突っ込みを入れるユキジ。
「今回のこと、私も聞いたわっ」
『……っ』
 リンゴの言葉に輝矢や、感心の声を出していたハチたちが皆、表情をしかめる。
「人間が鬼人になったってんでしょっ?」
「……。」
 歩きながら、どこか悲しげに俯く輝矢。
「まぁこっちもあんまり大した情報は入ってきてないんだけどねぇ」
 北東の塔まで辿り着くと、リンゴが右胸のポケットからIDカードのようなものを取り出し、扉の横の機械にかけて扉を開ける。
「世界各地で鬼人化した人間の目撃情報が出てるってくらいっ?」
「世界各地っ……?」
 塔の中に足を踏み入れながら、リンゴの言葉にハチが表情を曇らせる。
「でっ、アンタも戦ったわけっ?」
「……ええっ……」
 その問いかけに、少し俯き気味に答える輝矢。


――――貴女も……目の前に死が迫ったら……きっと言うわっ……“鬼になってでも生きたい”って……――――

――――人でなくなるだけでっ死ななくて済むのよっ!?だったらその方がずっとずっといいじゃないっ!――――


「朽ち逝く命を嘆き、自らの体を鬼へと変えた女性と…」
 オーロラのことを思い出し、輝矢が険しい表情を見せる。
「そうっ……」
「……。」
「……っ」
 俯く輝矢を見て、リンゴが少し目を細める。
「ほらっ!」

――――パコンッッ!!――――

「痛っ」
 リンゴが輝矢の頭を思い切り小突く。戸惑うように顔を上げる輝矢。
「そう気にすんじゃないのっ!別にアンタが悪いんじゃないんだからっ」
「……っ」
 リンゴの優しい笑顔に、輝矢が少し目を見開く。
「アンタは何でも背負い込むクセあるからねぇ〜」
「……。」
 少し照れるように、リンゴから目を逸らして俯く輝矢。
「けっこう疲れた顔してるわよっ?折角帰って来たんだから少し休みなっ」
「そうですね……」
「……。」
 リンゴの言葉に頷く輝矢を見て、横にいるハチが気難しい表情を見せた。
「まぁ会議で鬼人化した人間の発生地域くらいは絞れるかも知んないから、それでっ……んっ……!」
『……っ?』
 急に表情を鋭くするリンゴに、輝矢たちが首をかしげる。
「そこぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

――――バギコォォォォォォーーンッッッ!!――――

『のわああああああっっ!!!』
 塔内の柱に向かって右足を振り切るリンゴ。リンゴの足が当たった途端に、大きく太い頑丈そうな柱が一瞬にして砕け散り、2階の天井が少し傾く。塔崩壊の危機を感じ、思わず叫ぶ3匹。
「ふぅっ……」
「いっきなり何してんだよっ!!アンタはっ!!」
「はぁ〜っ……」
『……っ?』
 一息ついたリンゴにハチが怒鳴り込んでいる中、崩れ去った柱の方からかすかに小さな声が聞こえてきて、皆が一斉に振り返る。
「ビックリしたぁ〜っ……」
『いいぃぃぃぃっっ!!?』
 崩れた柱のすぐ横から姿を現したそのものを見て、大きく目を見開く3匹。
 姿を見せたのは、青い皮膚に金色の角を持った、いわゆる1つの“竜”であった。細身ではあるが巨体で、長い首を持っている。その強そうな外見とは裏腹に、可愛らしい声を出す竜。
「ドっ……ドラゴォォォォーーーーンっ……?」
「うっわぁ〜ボク、龍って初めて見たぁ〜」
「すっげぇ迫力っ……」
「えっ?あっああっ……!こっこんにちはっ……」
 3匹から集まる視線に、焦った表情を見せながら挨拶をする竜。
「何だぁ〜っ、イチゴじゃないっ」
「おっ……お姉ちゃんっ……」
 右足を下ろし、間の抜けた様子で竜の名を呼ぶリンゴ。竜も驚いたようにリンゴを見る。
「何だぁ〜っ!てっきり侵入者かと思ったぁ〜っ!紛らわしくコソコソ隠れてんじゃないわよぉ〜っ!」
「ごっ……ごめんなさいっ……」
 豪快に笑うリンゴに、小さく謝る竜。
「姉妹っ……?」
「ええっ」
 引きつった表情で問いかけるユキジに、輝矢が一言。
「まぁ見ての通り、オシドリ姉妹です」
「見た感じ、種族から違うけど……?」
 輝矢の言葉に、ユキジが思わず突っ込みを入れる。
「しかも、もうちょっとでリンゴがあの竜、蹴り殺してたぞっ?」
「リンゴは私の蹴りの師匠ですからね」
「絶対、逆らわないでおこう……」
「あっ……」
「……っ?」
 リンゴの蹴りにも危機を感じて呟いていたハチが、自分の方を見て声を出す竜を見て、首をかしげる。
「あっ……あのっ……」
「……っ?」
 竜がハチの前へと立ち、勇気を振り絞るように声を出す。

――――ボォォォォォォォォォォォーーーーンッッッ!!!――――

 竜が白い煙に包まれる。
「えっとっ……」
『……っ』
 次の瞬間、煙の中から姿を現したのは、水色の長い髪を2つに束ねた、大きく真っ赤な瞳の、まだ幼さを残す顔立ちをした、美しくもどこか大人しそうな少女であった。16,17歳くらいであろうか。オトポリの黒い制服を身に纏い、ミニスカートからは長く細い足が惜しみなく露出されている。その左胸にはオトポリのマークの入った銅色のバッチを付けていた。
「“龍人”っ……」
「彼女も青守一族ですからね」
 竜から人へと姿を変えたイチゴに、ユキジが目を見張る。
「うっひょぉぉぉぉ〜〜〜〜っっ!!これまた可愛いぃぃぃぃ〜〜〜っっ!!」
「うげっ……!女っ……!」
 モンキがテンションを上げる横で、ハチが怯えたように後退する。
「動物の姿の時は近づかれても平気なんだぁ〜」
「竜じゃあ女か何かわかんねぇーだろうがっ」
 感心したように言うユキジに、ハチがしかめっ面で答える。
「おっお久しぶりですっ……桜時さんっ……あっあのっ……私っ……」
「へっ?」
 イチゴの言葉に、ハチが少し困惑した表情を見せる。
「えっと……そのっ……」
「ああ〜っ、ダメダメっ!ソイツ、私らのこと、覚えてないわよぉっ」
「えっ……?」
 リンゴの言葉に驚いた表情を見せるイチゴ。
「覚えて……ない……?」
「“あんなこと”があったせいで記憶から抹消しちゃったみたいっ」
「だから何だよっ?“あんなこと”って」
「そうですか……」
「……っ?」
 リンゴに“あんなこと”の内容を聞こうとしたハチが、前方から聞こえてくる暗い声に顔を上げる。
「覚えて……らっしゃらないんですか……」
「うっ……」
 あからさまに悲しげな表情を見せるイチゴに、ハチが困ったように表情をしかめる。
「おっ俺っ、何か悪いことしたかなっ?」
「まぁ覚えてないってのはねぇ〜、酷すぎるにもほどがあるんじゃなぁ〜いっ?」
「そっ……そうなのかっ?」
 煽るように言うユキジに、さらに困った顔となるハチ。
「あっあのよぉっ……!えっとっ……そのっ!覚えてなくて悪かっ……!」
「まぁいいです……」
「いいのかよっっ!!!!」
 あっさりと引くイチゴに、謝ろうとしていたハチが勢いよく突っ込む。
「切り替えの早さはこの姉妹の特徴です」
「変な遺伝、受け継いでんじゃねぇーよっ……」
 輝矢の解説に呆れた表情を見せるハチ。
「ってか、イチゴぉ〜アンタ、こんなとこで何してんのよぉ〜っ?」
「えっ……?」
 リンゴの問いかけに、イチゴが少し焦ったような表情を見せる。
「えっえとっ……おっ……お父様に頼まれて……輝矢さんたちの道案内にっ……」
「パパにぃ〜っ?」
 イチゴの答えに、リンゴが眉をひそめる。
「パパって国主やっけぇ?」
「ええ。2人のお父上はオトポリの長官でもあるんですよ」
「それでリンゴさんが副長官なのかぁ〜」
 輝矢の説明に、ユキジが納得したように頷く。
「パパに頼まれてたんだったら、もうちょい早く来なさいよねぇ〜っ」
 リンゴが呆れたように言い放つ。
「コイツら、危うく正門で連行されるトコだったのよぉ〜?」
「うっうんっ……見てた……」
「はっ?見てたっ?」
 俯きながら答えるイチゴに、リンゴが思わず大口を開く。
「でっでも中々、声かけるタイミングがなくって……」
「はぁ〜〜っ……アンタねぇっ……」
 リンゴが深々と頭を抱える。
「イチゴはとてつもなく内気なんです」
「性格はまったく似てないみたいだね」
「俺はどっちもキレイやから好きやぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っっ!!!」
『アホっ』
 両手を広げて愛を告白するモンキに、皆から一斉に突っ込みが入る。
「どわあああっっ!!」
『……っ?』
 廊下の奥から聞こえてくる大きな声に、輝矢たちが振り向く。
「何だぁっ!?この柱ぁぁぁっ!」
『あっ』
 リンゴが蹴りで柱を粉砕したせいで変に傾いてしまった天井に、上へと続く塔の階段から、下りにくそうにして姿を現したのはよく見覚えのあるゴンであった。
「ゴっ……」
「ゴンっ」
「……っ?」
 自分よりも先にゴンの名を呼ぶリンゴに、輝矢が少し首をかしげる。
「ああっ?げっ」
 階段を下りきって、輝矢やリンゴの方を見たゴンが少し表情をしかめる。
「おっおうっ!久々だなぁ〜っ!リンゴっ!」
「ってかアンタ、今、小さく“げっ”って言ったでしょ?」
 皆の方へと歩いてきながら、無理やり作ったような笑顔とともにリンゴに手を挙げるゴン。そんなゴンにリンゴが鋭く問いかける。
「お2人は知り合いだったのですか?」
「えっ?ああっ、同期なのっ。それ以外にも色々と腐れ縁でねっ」
「ほぉ〜んと、懲り懲りしてんだよっ」
「何か言った?」
「いえっ」
 懲り懲りしていたゴンが、リンゴに鋭く睨みつけられ、すぐさまリンゴから視線を逸らす。確かに親しそうな空気は出ていた。
「……っ」
「……っ?」
 少し疲れたように肩を落とすゴンを見て、リンゴが眉をひそめる。
「何かあったの?」
「ああっ?別に何もねぇーよっ」
「……。」
 言い捨てるように答えて、そっぽを向くゴンに、リンゴはさらに表情を曇らせる。
「それよかリンゴ、てめぇーまぁたっ、柱破壊しやがったなぁっ」
 ゴンが無理に話題を変えるように言い出し、崩れ去っている柱の方を見る。
「まぁ〜た反省文1000枚決定だなっ。副長官がこれじゃあ、他の警官に示しがつかねぇーぜっ」
「ああっ!!?」
 トゲのある言葉を吐いたゴンに、リンゴが勢いよく表情を歪める。
「年間トラブル警官賞のアンタに言われたくないわっ!アンタは1日で反省文1000枚行くでしょうがっ!」
「んだとぉっっ!!!?」
「まぁまぁ〜ここは穏便にぃ〜っ」
『うるさいっっっ!!!!』
「ひぃぃぃぃぃっっっ!!!!」
 仲裁に入ろうとしたモンキであったが、2人に一斉に怒鳴られて、イチゴの陰へと隠れる。
「あぁ〜あ〜もうっ」
「放っておいて大丈夫ですよ……」
「へっ?」
 困った表情を見せたモンキに、イチゴが優しく微笑みかける。
「“バカにつける薬はない”って言いますから……」
「イチゴっ……ちゃんっ……?」
 大人しい笑顔でわりとキツイことを言うイチゴに、モンキが少し引きつった表情を見せた。
「んっ……」
 柔らかな痛みを頭に感じ、思わず頭を押さえる輝矢。
「んんっ……」
 眩暈が襲い、景色がかすみ始め、足元がふらついていく。
「……っ」
『……っ?』
 力なくその場に倒れていく輝矢に、皆が気づく。

――――グラァァァァァァァァァーーッッッ!!!!――――

『……っ!!』
 輝矢が倒れたすぐ近くの柱が、リンゴが柱を破壊した影響で倒れていき、輝矢の真上から覆いかぶさっていく。
「輝矢っ……!!」
「竹取っっっ!!!」
 思わず身を乗り出すゴンとリンゴ。
『……っ!!』
 ハチ、モンキ、ユキジが表情を鋭くして、その場から飛び出していく。

『……っ』

――――バァァァァァァァァァーーンッッッ!!!!――――

 輝矢の真上へと倒れ込む柱。その衝撃で床が割れ、辺りを衝風が立ち込める。

「あちゃ〜……こりゃ反省文2000枚かもっ……」
 煙の晴れた先に広がる悲惨な光景に、気まずい表情を見せるリンゴ。
「って、輝矢はぁっ!?」

『痛つつつつつつっ……』

「……っ!」
 リンゴが振り向いた先には、人化して輝矢の前に立ち、身代わりとなって柱を受け止めた桜時、門貴、由雉の姿があった。リンゴが少し驚いたように目を見開く。

「ふぅ〜っ……“瞬花”っ」

――――パァァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!――――

『……っ』
 桜時が受け止めていた柱を、桜の花びらへ変えて散らせる。散っていく花びらに、目を見張るリンゴとイチゴ。
「ってか、もっと早くそれやってよねぇ〜お陰で可愛いボクまで柱で背中打っちゃったじゃ〜んっ」
「悪りぃ悪りぃっ」
「危険なんわかってて自分から出てきたんやろぉ?ユッキーっ」
「そっそれはっ……」
 由雉に悪戯っぽく笑いかけながら、門貴が倒れていた輝矢を抱えあげる。
「輝矢っ!!?」
「竹取っ!!」
 門貴が抱えあげた輝矢の元へ、ゴンやリンゴが少し焦った表情を見せながら駆け寄ってくる。
「何だっ!?どうしたんだっ!?」
「まさか……お姉ちゃんの蹴りが入ったんじゃ……」
「何っ!?そりゃ致命傷じゃねぇーかっ!」
「何で私が輝矢を攻撃すんのよっっ!!」
「いやぁ〜目立った外傷はないなぁっ」
 ゴンとリンゴ、イチゴの言い争いを気にすることなく、門貴が輝矢の容態を確認する。
「とっとにかく救護室だっ!」
「そっそうねっ」
 ゴンとリンゴに言われ、門貴が輝矢を抱えたまま立ち上がる。
「……っ」
 門貴の抱えた、深く目を閉じた輝矢を見て、桜時はどこか不安げに目を細めた。








千風のブログ「千風の押入れ」へっ!←裏話満載っ!の予定です。


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