第12章 眠りの森の罠 ★7
翌日。眠りの森。オーロラの古城付近。
「……。」
オトポリの制服を着た多くの警官が古城内や周囲を調査する中、輝矢は古城から少しはずれたところに作られた、小さな墓の前に立っていた。
「良かったのか……?」
「……っ」
そんな輝矢の横へと現れたのはハチ。
「六べぇさんとおハナさんに……オーロラのこと伝えなくてっ……」
「……。」
ハチの問いかけに、そっと目を落とす輝矢。
「良かったんですよ……」
輝矢が悲しげに微笑む。
「2人の娘は30年前にこの森で死んだ……それで……いいんです……」
「……そっか……」
輝矢の言葉に、ハチが小さく頷く。
「……“瞬花”」
――――ポンっ!!――――
「……っ」
ハチが瞬花で花を出し、その花を墓へと手向ける。
「かぁ〜っ!墓なんて作ってんじゃねぇーよっ!辛気くせぇーなぁっ!!」
「ゴンっ」
いつも通りの不機嫌面でその場へと現れたのはゴンであった。何とも煩わしそうに墓を見るゴン。
「おいっ!ハチ公っ!お前もなぁ〜に花なんか供えてんだぁ〜っ?辛気くせぇっ!!」
「何って……」
「情緒の欠片もないキツネですねぇ」
墓や花がとても気に食わない様子のゴンに、輝矢とハチが少し呆れた表情を向ける。
「だいたい俺は花っつーものが昔っから嫌いなんだよっ!」
「それはハチへの侮辱と受け取って、蹴り倒してもいいんですか?」
「何っっでだよっっ!!!」
かなり勝手な解釈をする輝矢に、ゴンが大きく突っ込みを入れる。
「あっ……そういえばっ……」
『……っ?』
何かを思い出したように声を出すハチに、言い争いをしていた輝矢とゴンが振り向く。
「誰に言われたのか忘れたけどっ…こんなこと言われたなぁ〜」
「……?何です?」
「うん……“永遠に咲く花を、人は誰も美しいとは思わない”」
「……っ」
――――私は永遠に生きるのっ……!!――――
「……。」
ハチの言葉にオーロラのことを思い出し、そっと俯く輝矢。
「“じゃあどうして、散り逝く花は美しいのか”……」
墓をまっすぐに見つめるハチ。
「“人が花はいつか散るものだと知っているから美しく見える……そうじゃない……”」
穏やかな笑顔で言葉を続けるハチ。
「“花自身が、いつか散ることを知りながら……それでも一生懸命咲くから美しいんだ”ってっ」
「……っ!」
そう言って笑顔を見せるハチに、輝矢が少し衝撃が走ったかのように口を押さえる。
「でぇも誰に言われたんだっけなぁ?」
「……っ」
考え込み、首を捻るハチの横で、小さく笑顔をこぼす輝矢。
「さっ、ここはオトポリに任せて、私たちはそろそろ行きますかっ」
「へっ?」
「サルぅ〜っ!キジぃ〜っ!どこですぅ〜っ?」
目を丸くするハチを墓の前に残して、足早に古城の方へと向かい、モンキとユキジを探す輝矢。
「何だぁ?アイツ……」
「やっぱすげぇーよっ、お前っ」
「へっ?」
首を捻っていたハチが、ゴンの言葉に振り向く。
「あっ……」
「……っ?」
ゴンの顔を正面から見た途端に、昨日のクロトとシロキとの戦いが思い出され、気まずそうに俯くハチ。そんなハチを見て、ゴンが眉をひそめる。
「ゴン……そのっ……昨日は悪っ……」
「良かったよっ。お前に殺させなくてっ」
「えっ……?」
ゴンの言葉にハチが戸惑うように顔を上げると、ゴンは穏やかな笑みを浮べていた。
「お前はこれから……たくさんのものを背負うアイツを……支えていかなきゃいけねぇーんだもんなっ……」
そう言ってゴンが、モンキやユキジと合流する輝矢を見つめる。
「それってどうゆうっ……」
「まぁ一言で言うと、良き旦那になれってことだっ!」
「だんっ……」
ゴンの笑顔に、固まるハチ。
「って、なるかぁぁぁぁぁっっ!!!」
「アッハッハっ!」
「ハチ〜っ!行きますよぉ〜っ?」
思い切り怒鳴り返すハチを見て、楽しげに笑うゴン。そんなハチを古城の方から輝矢が呼ぶ。
「ゴンと何の話をしてたんです?」
「何でもねぇーよっ」
やって来たハチに輝矢が問いかけるが、ハチは素っ気なく答える。
「怪しいなぁ〜」
「桜時、ゴンゴンに何か脅迫されてんじゃなぁ〜いっ?」
「誰がじゃっ!!」
疑いの目を向けてくるユキジに、ゴンが力強く怒鳴りつける。
「おおぉぉぉ〜〜〜いっ!かっぐやさぁぁぁぁ〜〜〜んっっ!!!」
『……っ?』
そこへ古城の調査を行っていた金汰がやって来た。
「いっやぁぁぁぁ〜〜っ!ここにおったとですかぁ〜っ!」
「金汰さんっ、調査終わったんですか?」
「んんっ?」
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――
「ああっ……粗方なっ」
「渋っ!」
「ずっと人でいりゃいいのにぃ〜っ」
ゴンの問いかけに、人化してカッコよく答える金汰に、モンキとユキジが少し呆れた表情を見せる。
「それで輝矢さん」
「はいっ?」
真剣な表情で輝矢の方を見る金汰。
「今回の件、本部に知らせたら、緊急会議が開かれることになった。オトポリ全員に召集かかっている」
「えっ?俺もですかぁ?」
「まぁ一応なっ」
「一応って……」
金汰の微妙なニュアンスの答えに、顔をしかめるゴン。
「まぁゴンさんがいない方が会議はスムーズに進むと思うっスけどねぇ〜っ!」
「……っ」
――――バギコォォォォォーーーーンッッッ!!!!――――
「うううっ……」
現れた途端に要らぬ口を叩いた羊スケに、ゴンの鉄拳が降り注いだ。
「危うく鬼人にされるところだった可愛い部下になんたる仕打ちっ……」
「あ〜あ。鬼人にされときゃあ容赦なく燃やしてやったのによぉっ」
「ヒドいっスよぉ〜っ!ゴンさぁ〜んっ!」
羊スケが泣きそうな顔で訴える。危うく鬼人にされそうだったわりには元気そうである。
「んんっ?羊スケっ、お前が目覚めたということは鉄もっ……」
「ああっ、さっき起きたっスよっ?」
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!?」
羊スケの答えを聞き、大きなリアクションをとる金汰。
――――ボォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!――――
「待ってるだべぇ〜っ!鉄ちゃぁぁ〜〜んっっ!!兄ちゃんが今すぐ行くだぁぁ〜っっ!!」
『……。』
再び熊化した金汰が、物凄いスピードで再び古城の方へと走り去っていってしまう。
「結局……何言おうとしてたんだ……?あのクマ……」
「さぁ?」
呆れた表情で問いかけるハチに、首をかしげる輝矢。
「まぁ要は〜会議があるなら情報収集できるし、輝矢さんも来たらどうっ?ってことじゃないっスかぁ?」
『なるほどっ』
代わりに言う羊スケに、ハチたちが納得したように手を叩く。
「そういえばさぁ〜オトポリの本部ってどこにあんのっ?」
「“龍国”だ」
ユキジの問いかけに、真面目な表情で答えるゴン。
「龍国……?」
「ああっ……四大国が一、御伽界・最古にして最大の国……」
「どうするんだ?輝矢」
「うぅぅぅ〜〜〜んっ……」
ハチの問いかけに、考え込むように首を捻る輝矢。
「そうですねっ、じゃあ行きましょうかっ」
「おうっ!」
「私も久々に“里帰り”したいですしっ」
「おうっ!って……へっ?」
勢いよく返事をしたハチが、何やらおかしいと思い、首をかしげる。
『へっ?へっ?』
モンキやユキジらと目を合わせ、首をかしげ合うハチ。
『えええええええっっっ!!!!?』
3匹の大きな声が響き渡った。
つづく。 |