第12章 眠りの森の罠 ★5
「にっ……人間が鬼人になるなんてっ……そんなことっ……」
「……。」
信じられないといった表情で呟く桜時。横ではゴンが厳しい表情を見せていた。
「眠り姫サマの力は偉大……ボクらに尽きぬ命と強き力を与えてくれた……」
「そうゆうことっ」
シロキの言葉を聞き、クロトが楽しげに笑う。
「助けに来たお仲間さんもぉ、そろそろ鬼になっちゃってる頃じゃないっ?」
『……っ!』
「アハハっ!アハハっ!」
動揺している表情を見せる桜時とゴンを見て、クロトはさらに愉快そうな笑い声をあげた。
「惜しかったねぇ〜っ!君たちはここで俺たちに殺されるんだぁっ!“葉吹雪”っ!」
「……っ!しゅっ……!“瞬花”っっ!!」
――――パァァァァァァァァーーーンッッッ!!!!――――
あまりに衝撃的なクロトたちの正体に、明らかに動揺していた桜時が、クロトの向けた葉吹雪に対し、慌てて瞬花を唱えて桜の花びらへと変える。
「“枝槍”っ!」
「……っ!村雨丸っ!」
花びらが散る前に桜時の懐へと飛び込んでくるクロト。桜時が慌てて村雨丸で対応する。
――――カァァンッ!キィィンッ!パァァンッ!――――
桜時の村雨丸とクロトの枝槍が互角の斬り合いを見せる。
「クっ……!」
クロトと距離を取るように後方へと飛び、村雨丸を構える桜時。
「“瞬花っ……終っ……!」
――――ボクらは森の中で眠り姫サマの呪いにかかり、この城へと導かれた人間……――――
「……っ!」
思い出されるシロキの言葉に、桜時が思わず刀を止めてしまう。
「隙ありぃ〜っ!」
「……っ!」
そんな桜時に、笑顔で斬りかかって来るクロト。村雨丸を構える時間もなく、桜時が目を見開く。
「“狐火・一髪”っ」
『……なっ……!!』
――――バァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!――――
「うわああああああああああああああああああああっっっ!!!」
「クロトっ……!」
飛んで来た火炎の玉に身を焼かれ、吹き飛ばされるクロト。飛ばされたクロトの下へ、シロキが駆け寄る。
「ゴンっ……!!」
炎を放ったゴンへ、非難するような瞳を向ける桜時。
「何やってんだよっ!?」
桜時がゴンへと駆け寄る。
「聞いてなかったのかっ!?アイツらは人間っ……!」
「前は人間でも、今は鬼人だ」
「……っ」
どこか冷たい瞳で言い放つゴン。いつもとは違うゴンの様子に、桜時が戸惑うような表情を見せる。
「鬼人は倒す……」
「そんなっ……!」
ゴンの言葉に思わず声をあげる桜時。
「そんなのねぇーよっ!!アイツらだってまだっ……!元の人間に戻る可能性があるかもっ……!」
「ハチ公……」
「……っ」
冷静に桜時の名を呼ぶゴンに、桜時が言葉を止める。
「普通に考えて、人間が鬼人になる方法なんてあるはずがねぇー……だがなっ」
ゴンがまっすぐに桜時を見る。
「一度、鬼人になった人間が元に戻る方法の方が、もっとあるとは思えねぇーっ……」
「……っ」
ゴンの言葉に、桜時が表情を曇らせる。
「正解……」
『……っ?』
狐火にヤラれたクロトの体を支えながら、シロキが冷静に言い放つ。
「ボクらを元の人間に戻す方法なんてないよ……」
「そんなっ……」
「まぁもっとも……元の人間に戻ることなんて、ボクらは少しも望んでないけどね……」
「そのとぉ〜りっ!」
狐火に焼かれ、顔の一部に火傷を作ったクロトが、気味が悪いとさえ思える笑みを浮かべて立ち上がる。
「もぉ〜怒っちゃったもんねぇ〜っ!本気で行くよぉっ!シロキっ!!」
「ああ……」
遅れて立ち上がったシロキが、クロトの言葉にしっかりと頷く。
「これが今の俺たちの本当の姿だよぉっ!!」
――――バァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!!――――
『……っ!!』
強い光を放って、クロトとシロキがそれぞれ、黒鬼と白鬼へと姿を変える。その禍々しい姿はまさに鬼人そのもの。姿を変えた2人を大きく見開いた目で見上げる桜時とゴン。
「さぁっ!いよいよ死んでもらおうかぁっ!!」
「……。」
そう叫んで爪を立てる黒鬼・クロトに、ゴンが右手を身構える。
「待っ……!待てよっ……!!」
「……っ」
そんなゴンの右手を止めるように掴む桜時。
「やっぱりっ……!やっぱりこんなのっ……!!」
「覚悟がねぇーなら下がってろっっ!!!邪魔だっっっ!!!!」
「……っ!」
ゴンの怒声に、思わず掴んでいた手を離す桜時。
「……。」
戦意を失ったかのように村雨丸をも下げる桜時を横目に、ゴンがたった1人で2匹の鬼の前へと立つ。
「俺たち相手に1人で戦う気ぃ〜っ?いくら何でも強気過ぎんじゃないのぉ〜っ?お兄さんっ!」
「……悪りぃーが手加減はしねぇーぜっ……」
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!!――――
そう言い放ったゴンが白い煙に包まれ、黄金色のキツネへと姿を変える。
「獣化……?」
キツネへと姿を変えたゴンに、首をかしげる桜時。
「アハハっ!今更そんな姿になって何しようってのぉっ?子ギツネさんっ!」
「ああっ……五火からはこの姿じゃねぇーと使えねぇーもんでなっ……」
「何っ……?」
笑っていたクロトが、ゴンの言葉に眉をひそめる。
「“一髪・二目・三耳・四首……」
――――ボォォォォォォォォォウウウウッッッ!!!――――
『……っ!!』
ゴンが何やら言葉を発するとともに、ゴンの尾の横に1つずつ、炎でできた尾が増えていく。激しく赤い炎は、先ほどの火の玉とは比べものにならないほどの力を感じた。
「五臓・六腑……」
「マズいな……クロトっ……!あの技が完成する前にアイツを殺すぞっ……!」
「りょおかいっ!!」
そう言葉を交わしたクロトとシロキが、さらに炎の尾を増やしていくゴンに向けて、同時に大口を開く。
『“鬼口”っっっ!!!』
「……っ!ヤバいっ……!」
技の準備を整えているゴンに向けて、同時に鬼口を放つクロトとシロキ。2つの鬼口は1つとなって、激しい威力でゴンの元へと飛んでいく。その様子に思わず声を出す桜時。
「ゴンっっ!!!」
「七臍……」
桜時が危機を感じて叫ぶにも関わらず、ゴンはそのまま言葉を発し続ける。
「八脚……」
――――パァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
『なっ……!!!』
新しく出来た8本目の炎尾が空中で舞い、向かって来た鬼口を一瞬で掻き消す。炎尾のあまりの力に、大きく目を見開く桜時とクロト・シロキ。
「九尾”……」
最後に8本の炎尾を持ったゴンの本物の尾も、赤々とした炎が包んでいく。
「せめて苦しませずに逝かせてやる……」
9つの炎尾がさらに燃え盛り、巨大化していく。
「“九火煉獄”っっ!!!」
――――バアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!――――
『ううっっ……!!!』
9つの炎尾が、まるで洪水のように、激しい勢いでクロトとシロキに向かっていく。迫り来る巨大な炎に、思わず怯むクロトとシロキ。
「シっ……!シロキっ……!!」
「クロトっ……!!!」
互いに手を伸ばした黒き鬼と白き鬼に、激しい炎は躊躇することなく向かっていった。
――――バァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――
真っ赤な炎が2匹の鬼と、その周囲をすべて焼いていく。
「あ……れ……?」
炎の中に倒れ込んでいるのは、元の青年の姿へと戻った、かなり弱り果てた様子のクロトであった。
「確か俺……シロキと森に遊びにっ……あれ……?」
「……。」
クロトがすぐ隣に倒れている、こちらも青年の姿に戻った、深く瞳を閉じたシロキの姿を見つける。
「シロキ……?ねぇ……シロキっ……どう……したの……?」
少しも動かぬシロキに、クロトは弱々しく手を伸ばす。
「あれっ……?何だか俺もっ……もう眠いやっ……」
そう呟いて微笑んだクロトの瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。
「……っ」
――――・・・・・・・・・・・っっ――――
そのまま瞳を閉じたクロトは、隣で眠るシロキとともに、砂となって崩れ落ち、炎の中に消えていった。
「……。」
――――ボォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!――――
人の姿へと戻ったゴンが、小さくなっていく炎を見つめ、立ち尽くす。
「……っ」
強く握り締めたゴンの拳からは、炎と同じ赤い血が流れ落ちていた。
「……。」
そんなゴンを、後方から静かに見つめる桜時。
桜時は背負わせただけであった。2人の死を、ゴンに背負わせることしかできなかったのであった。
|