第11章 怪盗“長靴キャット”参上! ☆7
「ふぅ〜っ……」
「……月器」
桜時が力の抜けた様子でその場に座り込み、輝矢が三日月をピアスへと戻す。
「すっげ感動したぁぁぁっっ!!!さっすが長靴キャットぉぉぉぉっっ!!」
興奮した様子の大和が勢いよく立ち上がり、長靴キャットへと歩み寄る。
「握手して下さいっ!!握手ぅぅぅっっ!!」
「……っ」
大和が右手を差し出すと、長靴キャットが無言のまま握手をする。
「くぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜っっっ!!!感動っ……!!!!」
――――ポタッ……――――
「へっ……?」
握手している大和の手に落ちるシズク。
「長靴……キャット……?」
そのシズクを零したのは、長靴キャットであった。大和が戸惑うように長靴キャットを見る。
「……っ」
大和が握手していない方の手を長靴キャットの顔へと伸ばし、その目元を覆っている仮面をはずす。
「……スズっ……」
「……っ」
仮面の下で涙を流していたスズは、仮面が取られるとともに力なくその場にしゃがみ込んだ。
「スズっ……」
大和もしゃがみ込み、俯いたスズを見つめる。
「大和様がっ……無事で良かったっ……」
「……っ」
両手で大和の右手を固く握りしめ、涙を流しながら安心したように笑みをこぼすスズ。
「……。」
そんなスズを見て大和が目を細め、左手で涙の伝うスズの頬に触れた。
「スズの方がっ……俺を守るヒーローになっちゃったなっ……」
「……っ」
大和のその言葉に、少し驚いたように目を開くスズ。
――――ボクがスズを守るヒーローになってやるよっ!――――
覚えていてくれた、大事な言葉。
「……はいっ……!」
「……っ」
笑顔で頷いたスズを、大和は強く抱きしめた。
「“あの人”って……大和のことだったのかぁ〜」
大和とスズを見て、やっとわかった様子で頷く桜時。
「はい?何の話です?」
「いやぁ、ちょっとコッチの話というか何というかぁ」
「そうですよねぇぇぇ〜〜っ…おでこキッスと抱擁をした挙句、深い話までしちゃった仲ですもんねぇ〜」
「うううえっ!?いっいやっ!だからそれはぁっ…!!」
冷たい視線を向ける輝矢に、必死に弁解する桜時。
こうして、少し変わった女怪盗を巻き込んだ、鬼人騒ぎは終わりを告げた……。
翌朝。招木家・中庭。
『怪盗を続けるっ……!?』
「はっ……はいっ」
驚いたように聞き返した輝矢と桜時に、スズが怪盗・長靴キャットの時とはまるで別人の内気な笑顔で頷いた。
「なんでまたっ?」
「まだまだ街に事件は起こってますしっ……鬼人もまた来るかも知れませんしっ……それにっ」
スズが屋敷の廊下の方を振り返る。
「ハッハッハっ!“怪盗・黒猫ヤマァート”参上っ!!必殺・“猫の手も貸しちゃう”っ!!」
「まぁ〜素晴らしいですわぁ〜っ!大和様っ!」
「昨日まで水鉄砲撃ってた方とは思えないっ!」
スズが振り返った先にいるのは、怪盗を真似て黒マントを着ながらもメイドたちを手伝って屋敷の掃除をしている大和の姿であった。生まれ変わったような大和に、感動するメイドたち。
「大和様も続けて欲しいってっ」
『へぇ〜……』
嬉しそうに微笑むスズと、呆れたように声を出す輝矢と桜時。
「おおぉ〜いっ!スズぅ〜っ!」
「……っ」
廊下からこちらへと大きく手を振る大和の方をスズが振り返る。
「皆さんには本当に色々とお世話になりましたっ……ありがとうございましたっ」
『……っ』
スズが輝矢と桜時に深々と頭を下げると、輝矢と桜時が穏やかな笑みを浮かべた。
「ではこれでっ」
「おうっ」
「あっ、そうでしたっ」
「はっ?」
何かを思い出したかのように声を出し、足を止めるスズに桜時が首をかしげる。
「よっ」
『あっ』
スズが懐から取り出した、長靴キャットの仮面を目元に付ける。
「ウフっ」
「うえっ!?」
スズとは思えない怪しげな笑みを浮かべて、桜時の腕を引き、桜時を引き寄せるスズ。
「ワンちゃんも頑張ってねっ!チュっ」
「でぇっ……!!?」
「んなっ……!!」
輝矢に聞こえないように耳元で呟いて、ついでに桜時の頬にキスをするスズ。桜時が青ざめ、輝矢が勢いよく表情を歪める。
「では失礼しますっ」
スズが仮面を取って、笑顔で屋敷の方へと戻っていく。
「性懲りもなくあの女っ……」
「ううっ……」
拳を握り締める輝矢の横で、少し振らつきながら頭を抱える桜時。
「輝矢ぁぁぁ〜〜っっ!!元気でなぁぁ〜〜っっ!!またすっげぇ技見せてくれよぉ〜っっ!!」
スズが大和の元へと行くと、大和が元気よく2人に手を振った。
「ったく、おかしなヤツらだったぜっ」
「ハチは残念ですねぇ〜せっかくあぁ〜んな仲のイイお友達ができたのにお別れしなくてはなんてぇ〜」
「へっ?」
嫌味っぽく言う輝矢の言葉に、桜時が焦ったように顔をしかめる。
「いっそこの街に残って、怪盗稼業手伝ったらどうですぅ〜?」
「いやっ……!だからそのっ……!アイツとは別にっ……!」
白い目を向けて問いかける輝矢に、桜時が必死に言葉を繋げる。
「あのっ……!何というかっ……!そのだなぁっ……!」
「フフっ」
「ふえっ?」
必死に弁解を続ける桜時を見て、輝矢が吹き出したように笑みをこぼした。輝矢の笑みに、目を丸くする桜時。
「困らせてすみませんっ」
「えっ?」
「少し、ヤキモチを焼いてしまいました」
「……っ」
そう言って笑顔を向ける輝矢を見て、桜時が目を見開く。
――――その人のことが大切になっていく程っ……“傍に居る”だけじゃ足りなくてっ……――――
――――何かをしてあげたいって……何かの役に立ちたいって……思うようになっていった……――――
「……。」
桜時の頭に過ぎる、長靴キャットの言葉。
「さぁ、私たちもそろそろ行きますかぁ〜」
輝矢が向きを変え、玄関の方へと1歩踏み出す。
「……っ!」
「えっ……?」
歩き出そうとした輝矢の手を、桜時が勢いよく掴み止める。少し戸惑うように振り返る輝矢。
「ハチ……?」
「輝矢っ……!俺っ……!」
「……っ?」
輝矢の目をまっすぐに見つめ、真剣な表情を見せる桜時。
「俺っ……!」
「俺ぇ〜?」
「もったいぶらんと早よ言えやぁ〜っ」
「だああああああああああああっっっ!!!!」
輝矢の両肩から顔を出すモンキとユキジに、桜時が思わずズッコケる。
「茶かすのではありません。ハチは“俺は輝矢が好きだ”と言おうとしていたんですっ」
「違げぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーよっっっ!!!!!」
確信を持って言う輝矢に、桜時が全力で突っ込む。
「じゃあ何て言おうとしたのっ?」
「ええっ!!?」
ユキジの問いかけに、少し焦りを見せる桜時。
「そっ……それはっ……だなぁっ……“俺は骨っ子が好きだ”ってことをっ……」
「んなこと今更主張してどないすんねんっ」
あれこれとやり取りをしながら、輝矢たちが招木の屋敷を出る。
「んっ?そういえばゴンはどうしたんだ?」
「ああ〜何か今回もまったく役に立たなかったことに逆ギレしながら本部に帰ってったよぉ〜」
「まったく面倒臭い男ですねぇ」
桜時の問いかけにユキジが答え、輝矢が呆れた表情を見せる。
「さて、では私たちも行きましょうか」
「おぉぉーーうっっ!!」
「はぁ〜い」
輝矢の言葉に、モンキとユキジが返事をする。
「ハチ?」
「えっ?ああっ」
――――ボォォォォォォォォォ〜〜ンッッッ!!!!――――
「ああっ、行こうっ!」
桜時がハチの姿となり、振り返った輝矢に笑顔で頷いた。
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