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鬼斬り かぐや 
作:千風



第11章 怪盗“長靴キャット”参上! ☆5



30分後。大和の部屋。
「だっから長靴キャットは鬼人じゃねぇーんだってっ!!俺はこの目で確かに見たんだっっ!!」
「わかっております……大和様」
 必死に訴える大和を諭すようにそう言ったのは、招木家の執事・ペルシヤであった。
「私は大和様のお言葉を疑ってなどいません。しかしっ……」
 ペルシヤの表情が曇る。
「どうやら長靴キャットが鬼人になるところを見たという情報が流れたらしく……兵士たちはそれを信じて……」
「そんなっ……」
 ペルシヤの言葉に、大和が辛そうな顔を見せる。
「彼女が捕まれば、鬼人でないことも証明できましょう……このペルシヤも尽力を尽くします」
「……ありがとう……ペルシヤ……」
「いえっ……では失礼いたします」
 大和に深々と頭を下げると、ペルシヤは大和の部屋から出て行った。

「恐らくは……本物の鬼人の仕業だろうな……」
「そうですねぇ」
「えっ……?」
 ゴンと輝矢の言葉に、大和が戸惑いながら振り返る。
「長靴キャットを自分の身代わりにしようって企んでんだろう」
「そんなっ……!」
 大和が思わず声をあげる。
「彼女はっ……!彼女は俺を助けてくれただけなのにっ……!」
「やはりそうですよねぇ〜」
「へっ?」
 妙に深々と頷く輝矢に、大和が首をかしげる。
「キツネ、サル、大和をお願いします。キジは私について来て下さい」
『へっ?』
 輝矢の言葉に皆が目を丸くする。
「ついてくってぇ〜どこへっ?」
「決まっているでしょう?」
 不思議そうに問いかけたユキジに、輝矢が笑顔を向ける。
「長靴キャットの所へ、ですよ」






「んっ……んんっ……」
 蝋燭の灯りのみに照らされた暗い部屋で、ゆっくりとその瞳を開いたのは桜時であった。
「あれっ……?俺っ……痛つっ……!」
 起き上がった桜時の右手に痛みが走る。先ほど長靴キャットを庇った時に、右の前足を矢が突き刺さったのであった。傷は痛むが、右手は包帯で丁寧に止血がされていた。
「これっ……」
「体力を保たせるために、体が勝手に人化したようね……」
「……っ?」
 聞こえてくる声に、桜時が顔を上げる。
「長靴キャットっ……」
 そこには蝋燭の光に照らされ、長靴キャットが立っていた。
「お前がこれを?」
「一応、助けてもらったしね」
「サンキュっ」
「……っ」
 曇りなく微笑み、礼を言う桜時を見て、長靴キャットが眉をひそめる。
「いいのぉ?私にそぉ〜んな可愛い笑み向けてっ」
「えっ!?」
 桜時の目の前に顔を突き出して微笑む長靴キャットに、桜時が焦ったように背筋をピンと伸ばす。
「ちょっ……!だっ……!俺の半径1m以内に近づくんじゃっ……!!」
「あの滅茶苦茶怖そうな飼い主さんもいないことだしぃ〜、私と楽しぃ〜いことしちゃうっ?」
「いぃええええええっっっ!!!?」
 迫り来る長靴キャットに、手を突き出しながら必死に抵抗する桜時。
「うっぎゃあああああっっ!!やめろぉぉぉっ!!」
「なぁ〜んてねっ!ウソウソっ」
「だあああああああああああああっっっ!!!」

 そう言ってあっさり離れる長靴キャットに、桜時が思わず後ろに倒れ込む。
「残念だった?」
「んなわけねぇーだろっ!!」
 勢いよく起き上がり、全力で否定する桜時。

「私にもねっ、飼い主がいるのっ」
「……っ?」
 急に話を始める長靴キャットに、桜時が少し目を丸くする。
「その人が私の悲しみを消してくれた……私に生きる喜びを与えてくれたわっ」
 どこか懐かしむように、話を続ける長靴キャット。

「感謝してもしきれなかった……何でもいいから、この人の役に立ちたいって思った……」
「それで……怪盗を……?」
「……ええっ」
 長靴キャットが少し微笑んで頷く。
「物好きだなぁ〜んなことやったせいで鬼人にまで間違われてさぁ」
「うんっ。それはちょっとビックリしたけどっ、でも怪盗になったことは後悔してないかなっ……」
 呆れたように言った桜時に、笑顔を見せる長靴キャット。

「何か……何でもいいから、あの人の役に立ちたかったから……」

「……っ」
 長靴キャットのその純粋な言葉に、桜時が少し驚いたような表情を見せた。

「初めはね、“傍に居たい”ってそれだけだったし、傍に居られたらそれだけで満足だったの……でもっ……」
 温かい笑みをこぼす長靴キャット。
「その人のことが大切になっていく程っ……“傍に居る”だけじゃ足りなくてっ……」
 長靴キャットが顔を上げて、桜時を見つめる。

「何かをしてあげたいって……何かの役に立ちたいって……思うようになっていった……」

「……っ」
 どこかハッとしたような顔を見せる桜時。



――――ハチはいいんですよ。何もしなくて……――――

――――まぁ、全部私に任せておいて下さいっ――――


 あの時、走った胸の痛みの意味。

「……。」
 桜時がふと左手を左胸に当てる。

「でも実際はっ……何の役にも立ててないのかも知れないけどっ……」
「いやっ……すげぇーよっ……お前っ……」
「えっ?」
 笑顔を見せる桜時に、長靴キャットが首をかしげる。

「俺なんか……何かしてあげたいって思っても、何もできない上に何もしなくてっ……」

――――大丈夫ですよ、ハチ――――


「いっつもアイツに助けられてばっかりで……そんな自分がもどかしくってしょうがなくってっ……」

「ワンちゃんっ……」
 長靴キャットがまっすぐに桜時を見つめる。
「お前のその行動力、正直ちょっと羨ましいっ……」
 桜時が長靴キャットに微笑みかける。

「お前の飼い主っ、幸せもんだよっ」

「……っ」
 屈託のない笑顔を見せた桜時に、長靴キャットの表情が止まる。

「……っ」
「うえええええええっっっ!!!?」
 長靴キャットが勢いよく抱きつくと、目玉が飛び出そうなほどに目を開く桜時。
「ぬがっ……!だぎゃっ……!がぼっ……!!のっ……!!」
 女に抱きつかれたショックで、桜時が顔をユデダコにし、よくわからない擬音語ばかりを口にする。
「おっ……おいっ……!」

「ありがとっ……」

「……っ」
 囁かれたお礼に、桜時は引き離そうとした手を思わず止めた。

「でもっ……貴方の飼い主も大概、幸せ者だと思うわよっ?」
「えっ……?」
 小声で呟く長靴キャットに、桜時が首をかしげる。


「随分と仲のよろしいことですねぇ……」
「うぎゃあああああああああああああっっっ!!!!!」
 いきなり目の前に現れた輝矢に、桜時が勢いよく悲鳴をあげて、長靴キャットを引き離す。

「これはお邪魔サマでしたかぁ〜〜〜っ?」
「ちっ……!違っ……!これはそのっ……!何というかっ……!って、ててててゆ〜かお前、今の話聞いてっ……!?」
「はいっ?」
 必死に言葉を繋げる桜時に、輝矢が冷たい目を向ける。
「まったくもって聞いていませんけど?」
「そっそうかっ」
 輝矢の答えに、桜時が安心したように胸を撫で下ろす。
「ほぉぉぉぉ〜〜〜っ、そんなに私に聞かれたくないお話をしていたのですかぁ〜」
「えぇっ!?いやっ!そういうわけじゃっ……!!」
「ああ〜何だかワンちゃんのすべてを知った気分だわぁっ!ウフっ」
「何言い出しちゃってんだよっ!!お前はっっ!!!」
 妙に楽しげな長靴キャットの言葉に、桜時が慌てて怒鳴り返す。

「そうですよねぇ〜ハチが身を挺してまで庇うくらいですもんねぇ〜」
「あれはお前がっ……!」
「へっ?」
「あっ……」
 不思議そうに聞き返す輝矢に、思わず口を押さえる桜時。
「何でもっ……ない……」
「……?」
 そう言った桜時を見て、輝矢が首をかしげる。
 あの時、ハチが長靴キャットの前へと飛び出して行ったのは、そうしなければ輝矢が飛び出していったと思ったから。ハチが飛び出して行かねば、輝矢は矢を受けてでも長靴キャットを庇ったと思ったからであった。

「まったくっ……由雉、癒羽をっ」
「はぁ〜いっ」
 差し出された輝矢の手に、黄色い羽根を乗せる由雉。
「さてと……」
「へっ……?」

――――グサァァァァァァァァッッッ!!!――――

「だああああああああああああっっっ!!!!」
 矢で射抜かれた桜時の右手に、由雉の癒羽を勢いよく突き刺す輝矢。桜時があまりに痛みに悲鳴をあげる。
「これっ……こんな強く突き刺すもんだっけ……?」
「強く刺した方が早く治るんですよ」
「絶対、ウソっ……」
 爽やかな中に怒りを感じる笑みを浮かべて言い放つ輝矢に、桜時が力なく呟いた。

「アナタも……ハチにキっスした上、抱きついた代償は払っていただきますよ……?」
 輝矢がまっすぐに長靴キャットを見つめる。

「怪盗・長靴キャット……いえっ……」







 その頃、大和の部屋。
「あっああ〜暇やなぁ〜俺も輝矢んと一緒が良かったなぁ〜」
「あのぉ〜っ……」
「おおっ!!!?」
 輝矢たちに置いて行かれ、大和・ゴンとともに暇を持て余していたモンキが、部屋へと入ってきた可愛らしいメイドたちに目を輝かせる。
「玄関ホールの修繕をしてるんですけど人手が足りなくてっ……お2人、手を貸していただけませんか?」
「喜んでいっっ!!」
「おいおいっ!サルっ!俺たちはこのクソガキをだなぁ〜」
「行って来ていいぞぉ〜」
「あっ?」
 大和を警護しておかねばならないと言おうとしたゴンに、大和が軽い口調で言い放つ。
「1階なら全力で悲鳴あげれば聞こえんだろ?」
「まっ……まぁそうだがっ……」
「精々たっぷり働いてきてぇ〜っ」
「……っ」
 適当に手を振る大和に、ゴンが少し顔を引きつる。
「しゃーねぇーなぁっ……」
「よっしゃっ!行こ行こっ!!」
 モンキがメイドたちとやる気満々に出て行くと、ゴンが面倒臭そうに後に続いた。部屋に大和が1人残される。

「はぁっ……」

――――コンっ、コンっ――――

「……?何っ?忘れ物?」
 扉をノックする音に、大和が立ち上がり、ゆっくりと扉を開ける。

「お前はっ……」





後、2話…くらい…です…。






千風のブログ「千風の押入れ」へっ!←裏話満載っ!の予定です。


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