第11章 怪盗“長靴キャット”参上! ☆2
翌朝。
「ふぎゃああああっっ!!やめろぉぉぉっっ!!長靴キャットぉぉっっ!!」
勢いよく飛び起きる、ハチ。
「おっ……?」
目の前に広がる部屋の景色に、ハチが少し目を丸くする。そこはベッドの上。どうやらハチはこのベッドの上で眠り、夢に魘されていたようである。
「あれぇ?俺、いつの間にベッドに……」
「やぁ〜っと起きたかっ!アホイヌっ!」
「へっ?」
聞きなれた声にハチが振り向くと、部屋のソファーの上にモンキが座っていた。
「気分はどうですか?ハチ」
「輝矢っ……ユキジっ……ゴンまでっ」
ベッドの横には優しく微笑む輝矢の姿もあり、すぐ横の机にはユキジが、モンキの隣にはゴンが座っていた。
「俺……なんでっ……」
「覚えていませんか?怪盗におでこキッスされて気絶したんですよっ」
「でっ……!」
どこか引きつった笑みで話す輝矢に、ハチがすべてを思い出す。
「そうだったっ……」
思い出した途端、また青ざめて俯くハチ。
「おでこキッスした上に“また会いましょうねっ!ワンちゃん”だなんて……」
――――バキバキガッシャァァーーーーンッッッ!!!!――――
「ひぃっ!」
輝矢がユキジの座っている机に上にあった電灯を握り潰す。
「今度、会ったらただでは済ませませんっ……長靴キャットっ」
「……。」
殺意剥き出しの輝矢を見て、怯えつつも呆れたように固まるハチ。
「ちょっと同情すんなぁ〜長干しマット」
「長靴キャットやてぇ〜俺も怪盗姉ちゃんにキッスしてもらいたかったなぁ〜」
そんな輝矢を見ながら、暢気に言葉を交わすモンキとゴン。
「あっ、お連れのイヌさん、お目覚めになられたんですか?」
「へっ?」
部屋の扉が開くとともに聞こえてきた可愛らしい声に、ハチが振り向く。
「おはようございます」
そこへ入ってきたのは、1匹の茶色いネコ。ネコは普通に人語を話し、ハチに穏やかな笑顔を向ける。
「えっと……誰っ?」
「……っ」
――――ボォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!!!――――
眉をひそめて見つめるハチに、ネコが少し笑みをこぼすと、ネコの体を白い煙が包んでいく。
「スズと申します」
次の瞬間、煙の中から現れたのは、何とも愛らしい少女であった。昨日、輝矢が長靴キャットを追っていた時にぶつかった、あの少女である。
「スッズちゃんっ、かわゆぅぅぅ〜〜いっっ!!」
「え〜っとアホは放っておいて、ここはどこで、何でアンタと知り合いに?」
スズにメロメロしているモンキは見なかったことにして、スズに問いかけるハチ。
「昨日、私とぶつかったことが縁で、スズさんのお家に泊めていただいたんです」
「へぇ〜」
輝矢の説明にやっと状況を理解するハチ。
「正確には私が住み込みで働かせてもらっているお屋敷の客間なんですけど……」
輝矢の説明に、スズが遠慮がちな笑みを浮かべながら付け加える。確かにその部屋は高そうな絵などが飾られており、高級感漂う部屋であった。
「あっ、朝食を作ったので、どうぞ召し上がって下さい」
「うおおおおっっ!!飯ぃぃぃぃっっっ!!!」
スズが部屋へと朝食を運び込み、テーブルの上へ丁寧に並べていく。すべてを並べきる前にとっとと食べ始めてしまうモンキ。ハチやユキジもベッドからテーブルの方へと向かう。
「スズちゃんの手料理、めっちゃ美味いわぁっ!!」
「どうもっ」
モンキの言葉に、笑顔を見せるスズ。
「このままもう俺の嫁さんになっ……!」
「この屋敷で働いていると仰っていましたが、シェフとかですか?」
プロポーズしようとするモンキの言葉を遮って、輝矢がスズに問いかける。
「いえっ、ただのメイドです」
スズが笑顔で答える。
「ウチは先祖代々、この屋敷の御主人に仕えさせていただいておりまして」
「へぇ〜」
「そういやぁスズさん」
「はいっ?」
朝食を食べながら、ハチがスズを呼ぶ。
「長靴キャットって、随分と有名みたいだったけど、一体どういうヤツなんだぁ?」
「ほぉぉぉぉぉぉ〜〜〜うっ……気になるのですか……?」
「えっ……!?いっいやっ……!ってってか普っ通に気になるとこだろっ!!?」
鋭く問いかける輝矢に、ハチが少し焦りながら答える。
「長靴キャットは、3ヶ月ほど前から、この街を騒がせている怪盗です」
「怪盗って、一体何盗んだわけぇ〜?」
「盗んだものは……えっと、冷蔵庫の中食い荒らすドブネズミとか間違って輸入されちゃったニラとか……」
『はっ……?』
スズの言葉に、表情をしかめるハチたち。
「後、悪い人たちが街人から悪どく巻き上げたものとかっ。その物は後で街人に返してくれるんですよっ」
「フツーにいいヤツじゃんっ……」
「現代のネズミ小僧だねぇ〜」
聞かされる長靴キャットの話に、どこか間の抜けた様子で呟くハチとユキジ。
「そういやぁ〜昨日のかつお節もあの悪代官ネコが悪どく巻き上げたもんだったらしいなぁ」
「あっはい。かつお節は無事、街人に返されたそうです」
ゴンの言葉に、スズが笑顔を見せる。
「許せませんね……長靴キャット……」
「ひぃやぁっ!どう考えても私情っ!」
どう考えてもいい人な長靴キャットに憎悪を燃やす輝矢。そんな輝矢にモンキが思わず突っ込みを入れる。
「んっ?でも何でゴンが怪盗を追ってたんだっ?」
思い出したように眉をひそめたハチがゴンに問いかける。
「そうですよ。問題起こしすぎて、窃盗課に異動にでもなったんですか?」
「アホっ!オトポリには鬼人課しかねぇーよっ!」
問いかけた輝矢に、しかめっ面を向けるゴン。
「俺はこの街に出た鬼人の正体がアイツじゃねぇーかって噂を聞きつけたからだなぁっ……!」
「鬼人っ……?」
ゴンの言葉に輝矢たちが眉をひそめる。
「この街に鬼人が出たのですか?」
「あっ?何だぁ?お前ら、それ聞いたからこの街に来たんじゃねぇーのかっ?」
輝矢の問いかけに、少し驚いた顔を見せるゴン。
「出たんだとよっ。3日前の夜、この街1番の資産家の屋敷に。資産家の息子が襲われて、怪我人も出てる」
「……っ」
ゴンの話に少し考え込むように俯く輝矢。
「スズさん、長靴キャットが鬼人かも知れないという噂があるのは本当なのですか?」
「あっ……はい。鬼人が出てから……皆、急に長靴キャットが鬼じゃないかって言い出して……」
どこか浮かない表情で答えるスズ。
「私は……彼女は鬼なんかじゃないって思うんですけど……」
「確かにっ……俺もアイツが鬼人だとは思えなかったなぁ〜」
「まぁキっスまでした仲ですからねぇ」
「だっからいちいちそれを言うなよっっ!!!」
話を蒸し返す輝矢に、ムキになって怒鳴り返すハチ。
「でっ、どうすんのっ?輝矢っ」
「そうですね……」
ユキジの問いかけに、輝矢が表情を鋭くする。
「とりあえずその街1番の資産家の屋敷とやらに行ってみますか……」
「そうだなっ」
輝矢の言葉に、ハチが気合のこもった返事をする。
「あっ……あのっ……」
『んっ?』
聞こえてくる遠慮がちなスズの小さな声に、輝矢たちが振り返る。
「どうかしましたか?スズさん」
「ここっ……なんですけどっ……」
『へっ?』
スズの小さな声に、輝矢たちが耳を傾ける。
「あっ……そのっ……ここ……なんです……その屋敷っ……」
もう1度、口を開くスズ。
「ここが……街1番の資産家・“招木家”のお屋敷……です」
『へっ……?』
スズの言葉に、皆が目を丸くした。
改めて、キャングダム1の資産家・招木家の屋敷。1階・玄関ホール。
「いっやぁ〜灯台下暗しってのはこのことだよなぁ〜」
「っつーか何でゴンが知らねぇーんだよっ。普通、被害者んトコに聞き込みくらい行くだろっ」
「昨日街に着いた途端、あの代官ネコに呼び止められて怪盗追ってたもんだからよぉ」
輝矢たちが泊まらせてもらった、スズが住み込みで働いているというこの屋敷こそが鬼人の出た招木家であることを知った輝矢たちは、聞き込みのため朝食を食べ終えると早速、客間を出た。
「お待たせしましたっ……」
『……っ?』
そこへメイド服に着替えたスズがやって来る。
「うおおぉぉ〜〜っっ!!!スズちゃんっ!萌えぇぇぇぇ〜〜っっっ!!」
「屋敷内をご案内させていただきます」
萌えているモンキたちにスズが笑顔を向ける。
「仕事がありますので、あまり長くはお付き合いできませんが」
「構いませんよ。というか、その鬼人に襲われたというここの息子さんにお話が聞ければっ」
「ああ、それですかっ……」
「……?」
表情を曇らせるスズに、輝矢が首をかしげる。
「お出かけ中とかですか?」
「いえっ……いらっしゃるにはいらっしゃるのですが……」
気難しげに首を捻るスズ。
「まともにお話して下さるかどうか……」
『はっ?』
『キャアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
『……っ!』
スズの言葉に首をかしげていた輝矢たちが、聞こえてくる悲鳴に表情を鋭くする。
「何だっ!?鬼人かっ!!?」
――――プシュウウウウゥゥゥゥ〜〜〜ッッッ!!!!――――
「のわあああああああああああっっっ!!!!」
「ゴンっ!!?」
振り返ったゴンが、強い勢いでどこからともなく発射されて来た水を顔面に喰らい、後方に倒れ込む。慌てて倒れたゴンに駆け寄るハチ。
「……って、水っ?」
「うううっ……」
顔面水浸しになっているゴンを見て、ハチが首をかしげる。
「ハッハッハっ!どうだっ!俺の“スーパーハイパージェッター水鉄砲”の威力はっ!!」
『……っ』
玄関ホールに高々と響き渡る声に、輝矢たちが顔を上げる。
「俺の名はっ……!“怪盗・黒猫ヤマァァァーート”だっ!!!」
『……。』
そう言い放ち、シャンデリアの上から飛び降りてきたのは、黒いマントを翻した、黒髪に紫色の瞳の、まだあどけなさを残す顔立ちをした青年であった。飛び降りてきた怪盗の青年を見て、呆れたように固まる輝矢たち。
「大和様……またっ……」
「……?様ってもしかしてっ……」
頭を抱えるスズに、輝矢が引きつった表情を向ける。
「はいっ……この招木家のご子息、招木大和様にあられます……」
『げっ!?あれがっ!?』
スズの言葉にハチ、モンキ、ユキジが顔を引きつる。
「おいっ!スズっ!何を言っているっ!今の俺は“怪盗・黒猫ヤマァート”だって言っているだろうがっ!!」
「はぁ……」
強く言う大和に、スズが少し呆れながら頷く。
「それにしてもっ……すげぇー惨状っ……」
ハチが長い廊下に途切れることなく倒れている、顔面水浸しになっている使用人の数々と見ながら、少し唖然とした表情で呟く。すべて大和の仕業であろう。
「俺様の“スーパーハイパージェッター水鉄砲”にかかればざぁーっとこんなもんよっ!」
「ただのバカですね」
「はんっ!あ〜ゆ〜世間知らずのガキにゃあ、俺がいっちょ教育っちゅーもん、施したるわいっ!」
――――ボォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!!――――
呆れ果てた様子の輝矢の横から、モンキが人化して大和の方へと飛び出していく。
「……っ!水鉄砲っ!!」
「喰らうかいっ!!」
向かってくる門貴に水鉄砲を撃つ大和だが、門貴が軽々と飛んでくる水飛沫をかわす。
「そんなちゃっちい攻撃が俺に通じるわけなっ……!」
「あっ、キレイなお姉さんっ」
「えっ!!?どこどこっ!!?」
――――プシュウウウウゥゥゥ〜〜〜ッッッ!!!!――――
「どわぎゃああああああっっっ!!!!!」
大和の指差した方をあっさり振り向き、キレイなお姉さんを探す門貴の顔面に、容赦なく水鉄砲が降り注いだ。水を喰らった門貴が後方へ倒れ込む。
「必殺・“猫騙し”っ」
「おおぉぉ〜〜〜っ」
「ってか何で門貴が女好きだってわかったんだろぉ〜?」
「顔に書いてあったんじゃないですか?」
得意げにポーズを決める大和に、感心するハチと、暢気に言葉を交わすユキジと輝矢。
「やっ……やややや大和様っ……!いい加減にっ……!」
「うっせっ!トロスズっ!」
「きゃっ!」
止めようと勇気を振り絞って声をあげたスズに、大和がすぐさま水鉄砲を向けた。スズの顔面に水がかかる。
「つっ……冷たっ……」
「やぁぁ〜〜っぱとっれぇなぁ〜〜っ!!ハッハッハっ!」
「おいっ!いい加減にしろよっ!!クソガキっっ!!」
「……っ」
水浸しになったスズを見て楽しげに笑う大和、にハチが怒鳴り声をあげると、大和が鋭くハチを見た。
「次はイヌかっ!?」
「うげっ……!」
――――プシュウウウウゥゥゥ〜〜〜〜ッッッ!!!!――――
大和がハチへ水鉄砲を撃つ。
――――ピタっっ……!!!――――
「えっ?」
「……っ」
ハチの目の前で止まり、塊となる水に、大和とハチが目を丸くする。
「なっ……」
「あんまり悪さが過ぎると……水浸しを越えて溺死させますよ……?」
ハチの前に右手を突き出し、水鉄砲から放たれた水を止めて、大和に鋭い笑みを向ける輝矢。
「大和お坊ちゃまっ……」
――――ピュウウウゥゥゥーーンッッッ!!!!!――――
「……っ!うわわっ!!」
輝矢が指を曲げるとともに、大和の方へと戻ってくる水の塊。大和が横へ飛ぶようにして、慌てて避ける。
「さすが水力使いぃ〜っ」
「っつーかあんなマネして鬼人の話聞けなくなったらどうすんだよっっ!!!」
「それに代えてもハチを水浸しにするわけにはいきませんよぉ」
感心したような声を出すユキジと、怒鳴るように突っ込みを入れるハチ。そんなハチに輝矢がシレっと答える。
「すっ……すげぇっ……」
『へっ?』
床に腰をついたまま目を輝かせる大和に、輝矢やハチたちが首をかしげる。
「大和様っ」
『……っ?』
玄関ホールに響き渡る声に、輝矢や大和が振り向く。
「ペルシヤっ」
そこへ現れたのは黒スーツを着た、白髪・ツリ目の背の高い男であった。大和が男の名を呼ぶ。
「お止め下さい、大和様」
「いぃやぁだぁねっ!」
「これ以上、お戯れが過ぎますと…私も旦那様に報告せざるを得なくなりますが……?」
「うっ……!」
ペルシヤの鋭い言葉に、大和が表情をしかめる。
「わっ……!わぁったよっ!!」
「ではお部屋にお戻り下さい」
「へ〜へ〜」
ペルシヤに笑顔の圧迫を受け、大和が大人しく2階へと続く階段の方へと去っていく。
「失礼いたしました」
「あっ……はぁっ……」
輝矢たちに深々と頭を下げて、大和の後を追うように階段を昇っていくペルシヤ。
「スズさん、今のは?」
「えっ?あっああっ……執事のペルシヤさんですっ」
ハンカチで顔を拭いていたスズが、慌てて輝矢の問いかけに答える。
「まだお若いのにとても優秀な方で……旦那様の信頼も厚いせいか大和様も頭が上がらなくて……」
「なるほどっ……」
去っていくペルシヤの背中を見つめながら、輝矢がそっと眉をひそめた。
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