第11章 怪盗“長靴キャット”参上! ☆1
欠けた月の照らす夜。御伽界・南南東のとある街。とある大きな屋敷。
「おおっっ!!」
驚きと喜びの交じる大きな声を出す、金ぴかの着物を着た、偉そうな1匹のネコ。前に差し出された箱の中身を見て、ネコが目を輝かせる。
「街人から巻き上げたものにございます。お代官様っ」
代官ネコにいやらしい笑みを向けるデブネコ。
「越後屋っ……そちも悪よのぉ……」
「お代官様こそっ……」
箱を挟んで笑い合う代官ネコと越後屋ネコ。
『ニャっハッハッハっハッハッハっハっ!!』
――――パリィィィィィィィィィーーーンッッッ!!!――――
『ニャっ……?』
高々と笑い上げていた代官ネコと越後屋ネコが、勢いよく割れる部屋の窓ガラスに眉をひそめる。
「なっ……何だニャっ?」
「あれはっ……!!」
「……。」
割れた窓に佇む、1つの影。
『なっ……!“長靴キャット”っっっ!!!?』
「ウフっ……」
月明かりに照らされ、仮面を付けた女が微笑んだ。
「だはぁぁぁ〜〜やぁぁぁ〜っと街だぁぁぁ〜っっ……」
間延びした情けない声を出すのは、1匹の白いイヌ。ハチである。
「もうダメだっ……もう歩けねぇっ……」
「だから途中で“抱っこしてあげましょうか?”と言いましたのに」
「んなことされるくらいなら歩けなくなった方がマシだぁっ!!」
横にいる輝矢に、わりと元気よく怒鳴り返すハチ。柿之木山を旅立って数日。野宿の続いた輝矢一行であったが、久しぶりに街に辿り着いたのである。
「でもほぉ〜んと疲れたよねぇ〜可愛いボクにはいい迷惑っ」
「お前は俺の頭の上、乗っとっただけやろがっ…」
モンキの頭の上で、やれやれと言った表情で言い放つユキジに、モンキが下から冷たい視線を送る。
「ん〜っと何々っ?“ようこそっ!猫の街・キャングダムへっ!”だって」
「ネコの街っ?」
街の入口にある看板を読んだユキジに、ハチが表情をしかめて聞き返す。
「ネコかぁ〜おしかったなぁ〜っ!イヌぅぅ〜っ!」
「言っとくけど、別に近かねぇーかんなっ。イヌとネコはっ」
「出たぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」
『んっ……?』
街の中から聞こえてくる声に、輝矢たちが反応する。
「出た?」
「まさか鬼人かっ!?」
「行ってみましょうか」
輝矢たちが鋭い表情を見せ、足早に街の中へと入っていく。
「出たぞぉぉぉっっ!!またアイツが出たぞぉぉぉっっ!!」
『ザワザワザワザワっ……』
街の中央で叫んでいる1匹のネコ。ネコの声が聞こえたのか、家の中から次々と人やネコが姿を現す。
「またアイツが出っ……!!!」
「おいっ……!!」
「……っ?」
叫んでいたネコの元へと、駆けつけるハチ。その後から輝矢たちもやって来る。
「イヌっ?」
「出たって何が出たんだっ!?」
眉をひそめるネコに、ハチが勢いよく問いかける。
「そりゃもちろんっ……」
『ああああああああああっっっ!!!!』
『……っ?』
一斉に声をあげる街人に、ハチとネコも顔を上げる。
『……っっ!!!』
顔を上げたハチや輝矢たちが、思わず目を見開いた。
「ウフっ……」
月明かりの下、夜空を華麗に舞い、建物と建物の間を軽々と飛び移る1人の女。仮面で目は隠しているが、赤い口紅の塗られた唇を美しくも怪しげに微笑ませている。猫の耳と尻尾をつけ、真っ赤なボディースーツに長靴を履いた、何やらコスプレのような格好をしていた。
『かっ……“怪盗・長靴キャット”だああああっっ!!!』
「怪盗っ?」
「長靴……」
「キャット?」
街人の言葉に、一斉に首をかしげる輝矢たち。
「待ちやがれぇぇぇぇっっ!!怪盗・長干しマットぉぉっっ!!」
『んっ……?』
何やら妙に聞き覚えのある怒鳴り声に、輝矢たちが眉をひそめて振り返る。
「待てっつってんだろうがぁぁっっ!!こんちくしょぉぉぉっっ!!」
『ゴっ……ゴンっっっ!!!?』
街の奥から長靴キャットを追いかけるようにして駆け込んでくるゴンの姿に、ハチやモンキが目を見開く。
「んっ?おおっ!竹取っ!そしてペット大勢っ!」
「誰がペット大勢だっ」
駆け込んできながら軽い笑顔で手を挙げるゴンの言葉に、ハチが少し顔を引きつる。
「ちょうど良かったっ!!アイツっ!捕まえんの手伝ってくれっっ!!」
ゴンが屋根の上に立つ長靴キャットを指差す。
「嫌です」
「だああああああああああああっっっ!!!!」
あっさりと断る輝矢に、ゴンが勢いよく転ぶ。
「何故そんな面倒なことを、何の義理もないキツネのためにして差し上げなければならないのです?」
「アイツ、泥棒なんだよっ!!この先ん家の代官ネコから大事な箱を盗んでったんだっ!」
「箱っ……?」
倒れたまま叫ぶゴンの言葉に、ハチが少し眉をひそめる。
「中身が大金でお礼が9割というなら考えて差し上げてもっ……」
「待てぇぇっっ!!!」
「へっ?」
輝矢がゴンに条件を出している最中に、1匹で長靴キャットを追いに飛び出して行ってしまうハチ。
「あっ……!ちょっ……!待って下さいっ!ハチっ!」
ハチが輝矢の制止も聞かずに、近くの家の屋根へと飛び乗り、逃げ去っていく長靴キャットを追っていく。
「待ちやがれぇぇぇっっ!!長靴キャットぉぉぉっっ!!」
「……っ」
追いかけてくるハチの方を振り返り、少し眉をひそめた長靴キャットが走るスピードを速める。
「うっ……!さすがネコっ……!」
ハチも全力で走るが、2人の距離は徐々に広がり始める。
「こうなりゃあっ……!!」
――――ボォォォォォォォォォ〜〜ンッッッ!!!――――
ハチが白い煙に包まれ、桜時の姿となる。
「“瞬花”っ!」
桜時が、長靴キャットが次に飛び移ろうとしている家の屋根に両手を伸ばした。
――――パァァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!!――――
「えっ?」
長靴キャットが屋根に飛び移った途端、その屋根が桜の花びらとなる。
「きゃああああああああっっっ!!!!!」
総崩れしていく足元に、勢いよく落下していく長靴キャット。
「……っ!しまったっ……!」
その時、長靴キャットの持っていた箱が、長靴キャットの手からこぼれ落ちる。
「……っ!あれかっ……!」
長靴キャットの手離した箱を、屋根の上から飛び降り、全力疾走して見事キャッチする桜時。
「とりあえずこの箱をっ……」
「させないわっ……」
「何っ……!?」
桜時がゴンたちの所へ戻ろうと向きを帰るが、その時、背後から聞こえてくる声に慌てて振り返る。
「ウフっ……」
「クっ……!」
振り返ったすぐ先に立っているのは、余裕で微笑む長靴キャット。先ほどの落下からは抜け出したようである。
「クソっ……!」
桜時がしっかりと箱を抱え、その場から全力で走り去る。
「……っ“手招き”っ」
笑みを浮かべたまま、飛び上がる桜時に向かって左手を手招きさせる長靴キャット。
「ふぇっ?」
走っていた桜時の体が、突然、空中に浮く。
「なっ……何っ……どえええええっっっ!!!?」
体が宙に浮いたまま、何かの力に引っ張られるように、長靴キャットの元へと引き寄せられていく桜時。
「ぐわあああああああああああっっっ!!!!」
「おいでっ」
「げっ……!!」
引き寄せられていく桜時を迎え入れようと、大きく両手を広げて微笑む長靴キャット。その受け入れ態勢に、桜時が顔を引きつる。
「ぎゃあああっっ!!!無理無理無理っ!1mっ!止まれっ!止まれっ!」
「ウフっ」
長靴キャットの引力に逆らおうと必死にもがく桜時を見て、長靴キャットがさらに微笑む。
「うっぎゃあああああああああああああっっっ!!!!」
――――パシィィィィィィィィッッッ!!!!!――――
「……っ」
「ふぇっ?」
空中で急に止まる桜時の体に、長靴キャットが眉をひそめ、桜時が目を丸くする。
「私のハチに、これ以上近づかないでもらえます?」
「輝……矢っ……」
引き寄せられていた桜時の腕を左手で掴み止め、余裕の笑顔を見せた輝矢が、右手に構えた三日月の矛先を長靴キャットへと向けた。
「ってか俺の半径1m以内に近づくな且つ俺に触るんじゃねぇーって何度も何度もっ……!!」
「怖い思いをさせてすみませんでしたねぇ〜ハチっ。あんな怪盗、私が瞬殺してあげますからねぇ〜」
「人の話を聞けっ!!ってか瞬殺はやり過ぎだろっっ!!?」
笑顔を向ける輝矢に、桜時が突っ込みまくる。
「おおぉぉ〜〜いっっ!!!竹取ぃぃぃぃっっ!!」
「輝矢ぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜んっっ!!!」
『……っ』
こちらへとやって来るゴンやモンキたちの声が聞こえ、長靴キャットがさらに眉をひそめた。
「さぁ、観念していただきましょうか。怪盗さん」
「……ウフっ」
「……っ?」
危機的状況にあるというのに怪しげに微笑む長靴キャットに、輝矢が眉をひそめる。
「いいわっ……」
『……っ!』
長靴キャットがそう呟くと、すぐさまその場から姿を消し、一瞬にして輝矢と桜時の目の前へと現れる。あまりに速いその動きに驚き、戸惑うように固まってしまう輝矢たち。
「今日は私の負けにしておいてあげる!チュっ」
「ういっっっ!!!!?」
「んなっ……!!」
長靴キャットが怪しく微笑みかけ、桜時の額にキスをする。青ざめる桜時と、顔を歪める輝矢。
「また会いましょっ!ワンちゃんっ」
「待っ……!」
「……っ」
高々と飛び上がった長靴キャットが、追いかけようと足を踏み出した輝矢の方へ、懐から取り出したボールのようなものを投げた。
――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!――――
「うっ……!」
地面に当たったボールから大量の煙が発生し、輝矢が思わず手で顔を覆う。
「あっ……」
煙が収まった時、そこに長靴キャットの姿はなかった。
「どこにっ……?……っ」
輝矢が前の道へと駆け出し、すぐ左にある角を曲がる。
――――ガッツゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーンッッッ!!!――――
「痛っ!」
「きゃっ!」
勢いよく角を曲がった輝矢が、向こうからやって来た人物と正面衝突し、ぶつかった顔面を痛そうに抑える。
「すっ……すみませんっ……!」
「ああっ、いえっ、こちらこっ……。……っ」
「……?」
輝矢と衝突した勢いで地面へと腰をついていたのは、柔らかそうな長い茶色の髪に、大きな金色の瞳をした、15,16歳くらいの愛らしい少女であった。眉をひそめる輝矢に、少女が首をかしげる。
「あのっ……どうかしました……?」
「あっ、いえっ」
「おおぉぉぉぉ〜〜〜いっ!桜時ぃぃぃぃぃ〜〜〜っ!」
「……っ」
後方から聞こえてくる声に振り返る輝矢。振り返った先ではモンキとユキジが、道端に倒れ込んでいる桜時の顔を覗き込んでいた。
「ぐっ……ぐぷっ……」
「あかんっ……気絶しとうっ」
「はぁっ……デコキッスくらいで情けない……」
白目剥いて気絶している桜時の姿を見て、深々と肩を落とすモンキとユキジ。
「まぁ箱は取り返せたみたいだなぁ〜っ」
ゴンが桜時の抱えていた箱を持ち上げる。
「大金ですねっ」
「どわああああああっっ!!!」
すぐ横に現れる輝矢に、驚いたように声をあげるゴン。
「お礼は9割ですよ?」
「わぁってるよっ……相変わらず金に汚いヤツだなぁ〜そんなんじゃロクな大人になれねぇーぞっ」
輝矢にブツクサと文句を言いながら、ゴンがゆっくりと箱の蓋を開ける。
『おおっ!?おおおおぉぉぉっっ……!!おっ……おっ……?……。』
開いていく箱の蓋に目を輝かせていた輝矢とゴンの表情が、徐々に曇っていく。
「かつお……節っ……?」
開いた蓋の向こうには、箱一杯に詰まったかつお節の山。
「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」
そこへ先ほどの代官ネコがやって来る。
「これじゃっ!これっ!街人から巻き上げた、わしの大好物のかつおぶっ……!」
『じとぉぉぉぉぉぉ〜〜〜っっ……』
「うっ……!」
ゴンから箱を取り、嬉しそうな笑みを浮かべた代官ネコに、集まってきていた街人たちの冷たい視線が注がれる。その視線に顔を引きつる代官ネコ。
「ニャっ……ニャハハっ……ニャハっ……!」
「悪代官めぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
「捕まえろぉぉぉぉぉっ!!」
「ふにゃあああああああああああっっっ!!!!」
怒った街人たちによりお縄になる代官ネコ。
「何だったんです……?一体……」
「さぁなっ……」
「ねぇ〜これ、どうするぅ〜?」
呆然とする輝矢とゴンに、気絶した桜時を指差し、ユキジが問いかけた。
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