第10章 最期の言葉 ★6
日も昇った柿之木山。柿の木の前。
「……。」
実の生っている柿の木を見上げ、考え込むように立ち尽くしているモンキ。
「……っ」
顔を下に向けたモンキが、小さな手の中にある、小さな1粒の種を見る。
――――これっ……姉ちゃんがアンタに……“最期の言葉”やって……――――
「……。」
一花が門貴に最期に残した柿の種。
「結局……お前の最期の言葉の意味は……わからんかったな……」
門貴が少し微笑んで、また柿の木を見上げる。
「なぁっ……一花っ……」
「やはりここでしたか……」
「……っ?」
麓の方から聞こえてくる声に門貴が振り返る。
「輝矢んっ」
門貴のすぐ後方へとやって来たのは輝矢であった。
「もう行くんかぁ?ほんなら準備をっ……」
「サルっ……」
「へっ?」
輝矢が呼びに来たのかと思い、旅立ちの支度のために猿の村へと戻ろうとした門貴を、輝矢が呼び止める。柿の木の横を通り過ぎたところで、輝矢の方を振り返る門貴。
「柿の花言葉を……知っていますか?」
「花ぁ?柿に花なんてっ……」
「あるのだそうです……」
不思議そうにする門貴に答えながら、輝矢が少し山を登り、柿の木の幹に手を触れる。
「咲いている時は目立たず、散って初めて花が咲いていたのだと気づかれるような白い花が……」
「散って……初めて……」
門貴が考え深げに輝矢の言葉を繰り返す。
「そして……その花言葉は……」
ゆっくりと柿の木を見上げる輝矢。
「“この美しい自然の中に私を埋めよ”……」
「……っ」
輝矢から伝えられる柿の花言葉に、門貴が思わず目を見開く。
「この……美しい自然の中に……私を……埋めよ……?」
「ええ……まぁすべてハチの受け売りですけどっ」
花言葉を繰り返す門貴の元へ、輝矢が歩み寄る。
「だからこの種っ」
「へっ?うわわわっ!ちょっちょっとっ…!」
門貴の手の中から、一花の柿の種を奪い取る輝矢。門貴が焦ったように輝矢に手を伸ばす。
「かっ……!輝矢んっ……!!その種だけはっ……!!」
「この種に込められた思いは、“後生、大事に持ち歩け”ではありません。ハチっ!」
「おぉぉーーうっ!」
「ほいっ」
「だああああああああああっっっ!!!!」
柿の木のすぐ横へと現れた桜時に、勢いよく柿の種を投げる輝矢。桜時の横には由雉の姿もある。放り投げられる種を見て、門貴が思わず声をあげる。
「よっ!」
柿の種を右手でしっかりと受け取った桜時が、種に左手を向ける。
「おっおいっ!イヌっ!何をっ……!」
「まぁ見ていなさい」
「えっ?」
焦る門貴に、諭すように声をかける輝矢。
「……っ」
ハラハラと門貴が見守る中、桜時の両手が桃色の光を帯びていく。
「“瞬花”っ!!」
――――パァァァァァァァーーーーーーンッッッ!!!――――
「……っっっ!!!」
桜時の光を受けた柿の種を、桜時が土へと投げ放った途端、柿之木山の柿の木の横にもう1本、たくさんの実を付けた、立派な柿の木が咲き誇った。
その木を見て、門貴が目を見開く。
「……。」
「種を植えれば新しい命が芽吹く……一花がアナタにあの種を託したのは……」
咲いたばかりの柿の木を見上げて立ち尽くす門貴に、輝矢が後ろから声をかける。
「アナタの手で自分を……新しい命へと送り出してほしかったからではないのですか……?」
「……っ!」
――――姉ちゃんがアンタに……“最期の言葉”やって……――――
「一っ……花……」
やっと辿り着いた、最期の言葉。
「ううっ……!うううっ……!!」
門貴が涙を流し、その場に膝をつく。
「ううっ……!一花っ……!」
「……。」
涙に暮れる門貴を、静かに見守る輝矢。
『……。』
そして、桜時、由雉。
「輝矢んっ……」
「はいっ?」
門貴が少しかすれた声で、輝矢を呼ぶ。
「輝矢んの胸で泣き暮れていいっ?」
「冗談じゃありません」
「……ハハっ……」
あっさり断る輝矢に、いつもはショックを受ける門貴だが、今回は少し笑みをこぼした。
「釣れへんなぁ〜……輝矢んはっ……」
そう言いながら、門貴がゆっくりと顔を上げる。
――――今度っ……
顔を上げた門貴の目の前に咲き誇る、柿の木。
―――今度、この木に実がなる時は……きっと笑顔で出逢えるね……――――
「やっとっ……」
柿の木を見上げ、門貴が笑う。
「やっと逢えたなっ……一花っ……」
――――そうやね……門貴っ……――――
こうして、サルとカニを巻き込んだ戦いは終わった……。門貴と一花の思い出とともに……。
1時間後。“猿の村”入口。
「もう行くのか?」
「そうですよぉ〜もう1日くらいゆっくりして行けばええのにぃ〜」
旅立ちの支度を整えた輝矢や門貴たちは、移貴や猿飛、蟹の村から駆けつけた二花たちに見送られ、この柿之木山から旅立とうとしていた。
「すまんなぁ、移貴、猿飛っ……この世界にはまだまだ、俺の助けを必要としてる人たちがいっ……」
「別に残っていただいても全然、構いませんよっ?サルっ」
「そんなぁぁ殺生なぁぁぁ〜〜〜っっ!!俺を見捨てんといてやぁぁぁ〜〜っ!!輝矢ぁぁぁ〜んっ!」
『……。』
カッコつけようとしたモンキが、輝矢の笑顔の一言に、一瞬にして激しく泣きつく。そのモンキの情けない姿に、呆れた表情を見せる移貴と猿飛。
『ああっ!移貴さぁぁぁぁ〜〜〜んっ!!』
『……っ?』
聞こえてくる黄色い声に、移貴やモンキたちが振り向く。
『今日の猿蟹合戦、見に行きますねぇ〜っ♪♪』
振り返った先にいるのは、若くて可愛らしい女の子の3人組。移貴にハートを飛ばしながら、手を振っている。
「ああ、おうっ」
『きゃあああああ〜〜っっ!!“おうっ”って言われちゃったぁぁぁっ!!』
「……っ?」
妙に盛り上がって去っていく3人娘たちに、首をかしげる移貴。
「おっ……おいおいおいっ、移貴っ!今のって……村のアイドル、“ウキウキ猿っ子3人娘”じゃっ……」
モンキが喰らいつくように移貴を見上げる。
「お前っ……!いつの間にっ……!?」
「へぇっ?」
必死に問いかけるモンキに、移貴が首をかしげる。
「移貴さん、猿長になってから妙にモテるんですよぉ〜メガネが誠実さアップ〜って好評でぇ〜」
「何っ……!!?」
猿飛の言葉に、敏感に反応するモンキ。
「やっ……やっぱ村、残ろうかなっ……アハっ」
「どこが純愛一筋なんだよっ」
「これじゃあ一花さんが生きてたところで愛想つかされただろうねぇ〜」
下心見え見えの笑みを浮かべるモンキに、ハチとユキジが呆れきった表情で呟く。
「なぁ〜っ?ウッキー、今度合コンせぇ〜へんっ?」
「はぁっ?」
「……っ!」
移貴に合コンを迫るモンキを見て、二花が背中のハサミに手をかける。
――――バギコォォォォォォォォーーーンッッッ!!!――――
「ぐぎゃあああああああっっ!!」
二花の大バサミがモンキの後頭部を攻撃する。
「何すんねんっっ!!この暴力カニ女ぁぁっっ!!」
「姉ちゃんの代わりに殴ったまでやっ」
「ああっ?」
しかめっ面で答える二花に、モンキが首をかしげる。
「あっ、そうやっ!お前に大事な話があってんっ、二花っ」
「えっ……?」
そう言って二花の肩に飛び乗るモンキ。二花が少し裏返った声を出し、頬を赤くする。
「あんなっ……」
「……っ」
緊張したようにゴクリと息を呑む二花。
「お前、ちゃんと移貴のこと、考えたれよっ?」
「はぁっ?」
想定外の内容に、二花が勢いよく顔をしかめる。
「お前みたいな乱暴下品カニ女、移貴みたいな物好き逃したらもう一生、相手おらへんでぇ〜?」
「……っ!」
モンキの笑顔に、二花の堪忍袋の緒が切れる。
「アホオオオオオオウッッッ!!!!!」
「どわあああああああああっっっ!!!!」
二花の怒鳴り声に、モンキが肩の上から転げ落ちる。
「どおおおっっ!!!痛っつぅぅぅぅぅ〜〜〜っっ」
転げ落ちた勢いのまま、地面に思い切り頭を打ちつけるモンキ。
「何やねんっ、いきなりぃ〜」
「アンタなんかもう知らんわっ!!はんっっ!!」
「ああ〜っ?」
頭を押さえて起き上がったモンキが、怒った様子でそっぽを向く二花を見て、首をかしげる。
「何、怒っとんねんっ?アイツっ……」
「当ったりめぇーだろっ」
「ちょ鈍ぅぅ〜っ」
わけのわかっていないモンキに、ハチとユキジがまたまた呆れきった様子で呟いた。
「あっ……おいっ、門貴っ!長老がっ」
「……っ」
首をかしげていた門貴が移貴の言葉に振り向くと、村の奥から村人を数人従えて、白髪の老ザル・長老が入口へとやって来た。
「じじいっ」
長老の姿を見て、門貴が笑顔を見せて立ち上がる。
「行くのか……」
「おうっ!」
「うむっ……」
明るく答えるモンキを見て、しみじみと頷く長老。
「どうやらお主っ……グホホホホホホホウっっ!!!ゲハっっ!!ゲハァっっ!!グフウっ!!フウっ!」
「長老さまっ……!!お薬をっ……!!」
『……。』
咳き込む長老に、薬と水を差し出すサル。その光景に輝矢たちが呆れた表情を見せる。
「あっはぁ〜っ!相変わらずやなぁ〜っ!長老はっ」
「あんなので相変わらずとか危なくねぇ〜かっ?」
「だぁ〜い丈夫やってっ!長老、10年くらい前からあんなんやけど、未だに生きてるしっ」
「それで大丈夫なのかっ……?」
モンキの笑顔に、思わず突っ込みを入れるハチ。
「うっううんっ……うんっ……あっああっ……」
薬を飲んで、呼吸を整えた長老が、改めてモンキを見る。
「どうやら……また、いい“出会い”をしたようじゃな、門貴……」
「……っおうっ!」
長老の言葉に、モンキが大きく笑みをこぼす。
「俺っ……今回は逃げて出て行くんちゃうからっ……」
長老や移貴たちに、モンキが穏やかな笑みを向ける。
「今回はちゃんとっ……旅立っていくんやっ……」
「門貴っ……」
「だからっ……ちゃんと帰って来るっ!」
『……っ』
モンキの笑顔に、移貴や長老、二花たちが皆、笑みを浮かべる。
「ではそろそろ行きましょうか」
「ああっ」
「うんっ」
「おうっ!!」
輝矢の言葉に大きく頷くハチ、ユキジ、そしてモンキ。
「じゃあっ!行ってくるっっっ!!!!」
大きく手を挙げ、輝矢たちとともに山を降りていくモンキ。
「おうっ!行って来いっ!!」
「たまには返ってくるんやでぇっ!?アホザルっっ!!!」
「またねぇ〜っ!!門貴さんっっ!!!」
「ありがとぉぉ〜〜〜っっ!!!みなさんっ!お元気でぇぇぇぇぇ〜〜〜っっ!!!!」
移貴や二花、猿飛、チョキ三郎が、大きく手を振り、モンキを見送る。やがて2本の柿の木の間を通り、モンキたちは柿之木山を後にした。
「さっ!猿蟹合戦始めよかぁ〜っ!!猿長っ!!」
「ああっっ!!蟹長っっ!!」
モンキたちが見えなくなると、移貴と二花は笑い合った。
「怯むなぁぁっっ!!サルの誇りを見せつけろぉぉぉっっ!!」
『うおおおおおおおおおっっっ!!!!』
移貴の掛け声に、勢いよく山を駆け下りていくサル軍団。
「来たでぇぇぇっ!!!どんどん暴れぇぇやっっっ!!!!カニ一族っっ!!!!」
『いえっさああああああああああっっっ!!!!』
二花の掛け声に、勢いよく山を駆け上るカニ軍団。
秋の空広がる、普通の日。今日も柿之木山で、2本となった柿の木の下、猿蟹合戦が始まる……。
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