第10章 最期の言葉 ★5
「“鬼爪”っっ!!!」
「“月器・十六夜”っ」
――――パンッ!パンッ!パンッ!パァァァァァンッッッ!!!――――
「クっ……!」
輝矢の十六夜にあっさりと弾き返される鬼爪に、赤鬼・粒栗が唇を噛む。
「パっ……パパパっ……パン児までっ……!」
門貴に倒されたパン児を見て、顔を歪める粒栗。多くの緑鬼たちも桜時や移貴たちに一掃され、残る鬼は粒栗だけとなっていた。
「こっ……!こうなったら一旦退いて、体勢を整えてからもう1度来るんだのぉっ……!!」
粒栗がサルやカニたちに背を向け、逃げ去ろうとする。
「させると思いますかぁ?」
「うっ……!」
そんな粒栗の前へと回り込み、粒栗に冷たい瞳を向ける輝矢。
「これほどのことをして……今更逃げようなどと……」
「まっ……マロは何もやっていないんだのぉぉっっっ!!!!」
「……っ」
叫ぶ粒栗に、輝矢が眉をひそめる。
「人質には手は出しておらんしっ……!カニたちを傷つけたのは、サルたちとパン児だのぉぉぉぉっっ!!!」
両手を肩ほどまで挙げて、必死に訴える粒栗。
「マロは誰も傷つけていないんだのぉぉぉぉっっ!!!!」
「いいえっ……」
「……っ!」
すぐさま否定する輝矢に、粒栗が顔をしかめる。
「アナタは……強く踏み躙りました……」
1度俯いた輝矢がゆっくりと顔を上げ、突き刺すように粒栗を見る。
「サルやカニの誇りを……強く……」
「ううっ…!」
責めるように見つめる輝矢に、粒栗が少し後ずさる。
「万死に値します……」
「クっ……!」
粒栗が唇を噛み締め、拳を握り締める。
「逃げる前に、お前だけは殺していこうかのぉぉぉぉっっ!!!!!」
そう叫んで、粒栗が輝矢に向かって大口を開く。
「黒焦げになるんだのぉぉっっ!!!!!“鬼炎”っっっ!!!!!」
「……。」
口から輝矢に向けて赤々とした激しい炎を放つ粒栗。炎は輝矢に避ける隙も与えず、迫っていく。しかし、輝矢は顔色1つ変えない。
――――バァァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!――――
鬼炎が輝矢を直撃し、輝矢のいた辺り一帯を燃やしていく。
「ほっほっほっほっっ!!!跡形も残らないんだのぉぉぉっっ!!!!」
燃え盛る炎を見て、高々と笑う粒栗。
「ほっほっほっ!!ほっ……?」
妙に早く消えていく炎に、粒栗が眉をひそめる。
「なっ……何っ……」
「ふぅ〜暑い、暑いっ」
「……っ!まさかっ……!!」
消えていく炎の中から見えてくる人影に、粒栗が目を見開く。
「跡形なら……だいぶ残りましたけどっ?」
「うっ……!!」
左手を突き出し、自分の前に水の壁を張った輝矢が、傷1つなく粒栗に笑いかける。
「さてっ、“月器・三日月”っ」
右手に持っていた十六夜を、三日月へと変える輝矢。
「待っ……待てっっ!!!マロはっっ……!!」
「待ちませんっ」
「ひいっ……!!」
三日月を構え、飛び出してくる輝矢に背を向け、怯えるように逃げる粒栗。
「マロはっ……!!マロはまだっ……!!」
「残念ですが、容赦はしませんっ」
「ううっ……!!」
逃げる粒栗の、すぐ目の前へと現れる輝矢。
「実は私っ、いつもより少し怒っているのでっ」
「うううっ……!!!」
「三日月っ……」
「……っっ!!!」
輝矢が粒栗へ向け、三日月を振り下ろす。
「グッ……ギャアアアアアアッッッ!!!!」
三日月に切り裂かれ、粒栗が砂となって消えていく。
「地獄で赤鬼のバイトでもして下さいっ……」
風に吹かれていく砂に、輝矢はそっと言い放った。
「終わったみたいだなっ」
「ってか、いっつも容赦とかしてたんだぁ〜」
「気持ちの問題だろっ?」
粒栗を倒し終えた輝矢の方を見ながら、笑顔をこぼしつつ暢気な会話をする桜時と由雉。
「さっすが俺の輝矢んっっ!!!ラブラブリィィィィーーンっっっ!!!!」
「ちょっとぉ〜回想シーンのイメージ壊れるからやめてくんないっ?」
「まったくだっ」
「へぇっ?」
一花との話の中のクールさは欠片もない、いつものアホ門貴に、由雉と桜時が少しうんざりしたように言う。2人の言葉に首をかしげる門貴。
「あっ、そういや移貴ぃ〜お前怪我、ユッキーにぃっ」
「猿蟹合戦に参加した者っ!全員、ここへ集まりぃっ!!」
「……っ?」
門貴が移貴に声をかけようとした時、移貴が集まっていたサルたちにそう言い放った。猿飛をはじめ、猿蟹合戦に参加した若いサルたちが次々と移貴の元へ集まっていく。
『……?』
その光景を、戸惑うように見つめる二花たちカニ。
「揃ったかっ!?よしっ!」
二花たちカニの前に、移貴を先頭にしてサルたちがきれいに並ぶ。
『すみませんでしたぁぁぁぁっっっ!!!!!』
『……っ!』
一斉に頭を下げて謝る移貴たちに、二花たちカニが少し驚く。
「鬼人に脅されとったとはいえっ……俺らはお前らをたくさん傷つけたっ……」
移貴がサルたちを代表し、頭を下げたまま言葉を発する。
「俺たちがやったんはっ……猿蟹合戦を裏切る行為やっ……」
「移貴……」
言葉を続ける移貴を、目を細めて見つめる二花。
「この償いはっ……」
「せやなっ!償ってもらおかっ!」
「えっ……?」
二花の声に、移貴が戸惑うように顔を上げる。
「二っ……」
「明日っからホンマの猿蟹合戦やろっっ!!!!」
「……っ」
二花の笑顔に、移貴が思わず目を見開く。
「みんなで誇り賭けて戦おっっ!!!それが償いやっ!なっ!?猿長っっ!!!」
「二花っ……」
移貴が笑みをこぼす。
「みんなもそれでええやろっ!?」
『おおぉぉーーっっっ!!!!明日っからは負けねぇーぞぉぉっっ!!サルどもぉっっ!!』
『そりゃーーこっちのセリフやぁぁぁっっ!!!!カニどもぉぉぉっっ!!!!』
『……っ』
盛り上がるサルとカニたちを見て、移貴と二花がさらに笑う。
「負けへんでっ?移貴っ」
「おうっ……でも二花ぁぁぁぁっっっ!!!俺、やっぱりお前のことが好っ……!!!」
「断るっっっっ!!!!」
「うううっ……」
「懲りへんなぁ〜移貴さんも」
またしても一瞬で二花に断られ、悲しむ移貴を見て、猿飛がどこか呆れたように呟いた。
「“めでたしめでたし”といったところですかねぇ〜」
「うん〜」
「そうだな」
月器を元のピアスへと戻し、こちらへとやって来る輝矢の言葉に、由雉と桜時が笑顔で頷く。
「まぁこれでサルもっ……」
「……。」
「……っ」
輝矢が門貴の方を振り向くと、門貴は憂いを帯びた表情で、静かに風に吹かれる柿の木を見上げていた。そんな門貴を見て、輝矢は声をかけるのをやめる。
「んっ……?」
そんな時、由雉が風に吹かれて目の前を横切る、白いものに気づく。
「何だろぉ〜?これっ」
その白いものを思わず手に取る由雉。それはとても薄く、小さい花びらのようなものであった。
「ああ、それはっ……」
「……っ」
由雉に答える桜時の言葉に、輝矢はハッとした表情を見せた。
数時間後。柿之木山頂上・“猿の村”。
「かぁ〜っ!やぁ〜っぱ自分の生まれ故郷は落ち着くなぁ〜っ!」
戦いを終え、輝矢たちを別れて1人、村へと戻った門貴は、移貴・猿飛とともに村で最も高い、長老の家の屋根の上へと並んで座っていた。もう間もなく、長かった夜も明けようとしている。
「久しぶりですもんねぇ〜3人でここ来るなんてっ。ねぇ?移貴さんっ」
「おうっ……」
「……?移貴さん?」
返って来る元気のない返事に、猿飛が首をかしげて移貴の方を振り向く。
「まだ気にしてるんですかぁ〜?カニさんもみんな、許してくれたやないですかぁ〜」
「うぅんっ……」
気を遣うように声をかけた猿飛に、またもや冴えない返事を返す移貴。
「何でも1人で抱え込むからやろぉ〜」
そんな元気のない移貴に、門貴が声をかける。
「まぁ巻き込むんが嫌で二花に黙っとったんはわかるけどぉ、なんで俺にすぐ言わんかってんっ?」
「……っ」
門貴の言葉に、移貴が少し顔をしかめる。
「俺が来てすぐ言うといてくれれば、俺や輝矢んがすぅ〜ぐ何とかしたのにぃ〜」
「ボクもそう言ったんですけどねぇ?移貴さんてば、“門貴にだけは言うなぁ〜”って」
「どうせ意地張ったんやろぉ〜ったく、昔はすぅ〜ぐ何でも頼ってきとったくせにっ」
「だからやろっ!?」
「へっ?」
急に声をあげ、立ち上がる移貴に、門貴が目を丸くする。
「俺っ……!俺がっ……!何でもすぐお前に頼ってばっかやったからっ……!」
「移貴?」
「ばっかやったからっ……一花ん時もっ……」
「……っ」
移貴の口から一花の名が出ると、門貴が少し表情を曇らせた。
「俺があん時っ……腕相撲なんてくだらんこと頼まんかったらっ……!お前、一花のこと看取れっ……!」
「看取れんで……良かったんよっ……」
「えっ……?」
俯いたまま微笑む門貴に、移貴が首をかしげる。
「看取ったりなんかしたら……きっと俺、一緒に死んでもた思うから……」
「……っ」
――――門貴っ……!――――
あの笑顔をもし目の前で失ってしまっていたら、きっと耐えられずに死を選んでしまったと思う。一花の死を目にしていないから、まだどこかで生きているのではないかと、またどこかで会えるのではないかと思い、生きていられたのだと思う。
「門貴っ……」
「だから……良かったんよっ……」
「……。」
笑顔で顔を上げる門貴を見て、移貴は少し辛そうに俯いた。
「そんなこと気にせんと、もっとどんどん頼れやぁ〜」
「えっ?」
門貴が立ち上がり、移貴の肩を叩く。
「何年来のダチやねんっ?俺らっ」
「……っ」
門貴の言葉に、移貴も笑みをこぼす。
「ああ〜でもあん時の約束のバナナ、まだ奢ってもらってへんかったなぁ〜」
「へっ?」
――――ったく、しゃーないなぁっ、移貴はぁっ……――――
――――サ〜ンキュっ!帰ってきたらバナナ奢っからよぉっ!――――
「そういやぁっ……」
思い出したように言う門貴。移貴も思い返して頷く。
「じゃっ!バナナ10本、よろしくっ!」
「はぁっ?5本でええやろっ?」
「あっ!もう日が昇りますよっ!門貴さんっ!移貴さんっ!」
長い長い夜が明け、昇った朝日が久々に笑い合う3人を照らした。
|