第10章 最期の言葉 ★4
「如意棒・第1の舞っ……“空”っっ!!!」
――――ビュウウウウゥゥゥゥゥンッッッ!!!!――――
高々と飛び上がった門貴が、真下にいるパン児に向かって真空波を放つ。
「……っだああああっっっ!!!!」
――――バァァァァァァァァーーンッッッ!!!!――――
「……っ!」
パン児が巨大な剣を地面に向かって叩きつけ、その衝撃で巻き起こった風で門貴の真空波を弾き飛ばした。少し驚きの表情を見せながら、地面へと降り立つ門貴。
「ちっから技やなぁ〜」
「……っ」
「なっ……!」
感心していた門貴の方へ、衝風の中から勢いよく攻め込んでくるパン児。図体のわりに素早い動きに、門貴が戸惑いながらも如意棒を突き出す。
――――………………………っっ!!!――――
「クっ……!」
ぶつかり合う門貴の如意棒と、パン児の巨大な剣。パン児の力の強さに、受け止めている門貴が少し顔を引きつった。
「……っ」
「……っ?」
不敵な笑みをこぼすパン児に、門貴が首をかしげる。
「“鬼妖剣”……」
「何っ……!?」
――――パァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――
パン児の巨大な剣が、光を放って分裂し、無数の小さな剣となって門貴へと飛びかかってくる。
「クっ……!うううっ……!!うわあああああっっっ!!!!」
何本かは如意棒で弾き返す門貴であったが、すべては弾き返せず、小さな剣を無数に喰らって吹き飛ばされる。
「っ痛ってぇぇぇ〜〜〜っ……」
全身の所々に切り傷を負い、苦しげな表情を見せながら起き上がる門貴。
「変わった武器やなぁ〜」
「そうでっしゃろぉ……?」
感心したように言う門貴に、怪しげな笑みを向けるパン児。分裂した小さな剣は、また1つの巨大な剣となってパン児の右手へと戻っていく。
「ウチにはこの鬼妖剣があるゆえ……残念やけどぉ、あんさんに万に一つの勝ち目もないどすえぇ〜」
「そんなんっ!やってみなわからんやろっ!?」
「……っ」
明るく笑って立ち上がる門貴を見て、パン児が少し表情をしかめる。
「それに俺かて負けられへっ……!」
「“一族の誇り”……が、かかっとるからどすか……?」
「えっ……?」
パン児の問いかけに、目を丸くする門貴。
「“一族の誇り”て……あんさんたちはサルはんもカニはんも、そればっかりや……」
どこか煩わしそうに言うパン児。
「猿蟹合戦?かぁ〜っ!くだらへんっ……!一族の誇りのために命まで賭けて力比べどすかぁ〜?」
「……。」
門貴は静かな表情で、パン児の言葉を聞いていた。
「何と愚かっ……実にバカげとりますわぁ〜」
「……っ」
門貴がハッとしたように目を見開く。
――――“バカげてる”……そう思った……――――
そのパン児の言葉は、かつて門貴の心の中にあったものと、まったく同じ言葉であった。
「まっ、そのバカさを利用するんは、実に楽しかったどすけどなぁ〜ひょっひょっひょっひょっ!」
「……。」
パン児の高々とした笑い声を聞きながら、深く俯く門貴。
――――俺は猿蟹合戦なんかどうでもええねんっ……――――
「……そうか……」
――――俺はどいつもコイツもグサボロにできりゃあそれでええんやっ!――――
「俺は……お前やったんやな……」
「はっ?」
俯いたまま話す門貴の言葉に、顔をしかめるパン児。
「その誇りの意味も知らんままっ……“バカげてる”って否定した……」
くだらない誇りのために死んだ兄を、そんな兄を誇った父を、誇りにすべてを賭ける村を人々を、愚かなものだと下に見て、何もかもを否定した。
「けどっ……」
門貴が切ない笑みをこぼす。
「そんなバカげてると思っとった場所でっ……俺は……1番大切な人と出逢ったっ……」
――――勝負やっ!!猿川門貴っっ!!――――
一花と、出逢った。
「だからっ……今の俺にはちゃんとわかるっ……」
門貴がゆっくりと顔を上げ、まっすぐにパン児を見る。
「“カニカニスラァァァーーっっっシュ”っっ!!」
「“ウッキーウッキーホップステップジャンピィィィーーング”っっっ!!!!」
『ギャアアアアアアアッッッ!!!!!』
次々と緑鬼を消し去っていく二花と移貴。
「おっしゃっ!もう一息やっ!移貴っ!」
「おうっ!!」
『おおぉぉーいっ!移貴ぃぃっっっ!!!!!猿飛ぃぃぃっっ!!』
『……っ?』
聞こえてくる声に、移貴たちが山の頂上の方を見る。
「みんなっ……!」
『村のサルはみんな無事だぁぁぁっっ!!!』
山の頂上からは猿の村のものたちであろう多くのサルが、移貴たちに力強く手を振りながら、柿の木の方へと降りてきていた。そのサルたちの姿に、目を見開く移貴。
「長老さまもこの通りっ!!」
「移貴……」
「……っ!長老っ!」
サルの群れの中から、白髪の老ザルが前へと出てくる。
「移貴……よく耐えてくっ……グボオオオオオウっっ!!!ゲハっ!!ゲハァっっ!!!」
「長老さまっ……!!お薬をっ……!!」
「……。」
相変わらず肝心なところで咳き込む長老に、呆れた表情を見せる移貴。
「……っ」
しかし、すぐさま安心したように微笑んだ。
『おおぉぉーーいっっ!!蟹長っっ!!!移貴ぃぃっっ!!!!』
『……っ?』
今度は下から聞こえてくる声に、移貴たちが振り返る。
「なっ……!」
山の麓から柿の木へと登ってくるのは、蟹の村に住む多くのカニたち。移貴が驚いた様子で目を見開く。
「事情は蟹長からだいたい聞いたぁぁぁぁっっっ!!!!」
「大丈夫かぁぁぁぁぁっっ!!?サルどもぉぉぉっっ!!」
「みんなっ……」
酷い合戦を仕掛けた移貴に、傷つけられたはずのカニたちは皆、明るい笑顔を向ける。カニたちの笑顔に、移貴は少し泣きそうな瞳を見せる。
「行くで、移貴っ」
「……っ」
そんな移貴の肩に手を乗せ、力強く微笑みかける二花。
「……ああっ!」
移貴がしっかりと頷く。
『……っ!』
「ググっ……!!」
最後の1匹となった緑鬼に、同時に飛びかかっていく移貴と二花。
「“カニカニスラァァァァーーっっっシュ”っっっ!!!!!」
「“ウッキーウッキーホップステップジャンピィィィーーング”っっっ!!!!」
――――…………………………っっ!!!!――――
「グっ……!ギャアアアアッッッ!!!!!」
移貴と二花の攻撃を受け、最後の緑鬼が煙となって消えていく。
「なっ……!何やっ……!これはっ……!」
山の上と下から、一斉に現れたサルやカニたちの姿に、さすがのパン児も圧倒された様子で声を出す。
「こんなっ……!」
「猿蟹合戦には……この山に生きてきたサルとカニのたっくさんの思いが詰まっとうっ……」
――――じゃがな門貴、猿蟹合戦は相手を傷つけるための戦場ではない……――――
――――戦場は戦場やろっっ!!?――――
―――― 一族の誇りを賭けて蟹長と猿長が拳と拳でぶつかり合うっ!それが猿蟹合戦やろっ?――――
――――門貴、約束しよう。来年の猿蟹合戦も、猿長と蟹長としてここに来るって……――――
「猿蟹合戦は、この山に生きるすべてのサルとカニの生き様そのものやっ……」
門貴が胸を張って、言い放つ。
「この“誇り”っ……そう簡単には折らせへんっっ!!!」
「……っ」
誇らしく笑う門貴に、パン児が再び顔をしかめた。
「そうかぁ……ほんならっ!誇りと一緒に死になはれぇぇっっ!!!」
「……っ」
勢いよく飛びかかってくるパン児に、門貴が表情を鋭くして如意棒を構えた。
「だああああああっっ!!!」
「……っ!」
パン児が全力で振り下ろした剣から、高々と宙に飛び上がって身を避ける門貴。
「かかったどすなぁっ!」
すぐさま剣を空中にいる門貴へ向けるパン児。
「串刺しになって死になはれっっっ!!!!“鬼妖剣”っっ!!!」
――――バァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
パン児の剣が再び分裂し、無数の小さい剣となって、まっすぐに空中にいる門貴へと飛んでいく。
「ひょっひょっひょっ!随分とあっけない最期どしたなぁぁぁっっ!!!」
自分の勝利を確信し、高々と笑うパン児。
「……っ」
「んっ……?」
空中で如意棒を構える門貴を見て、パン児が眉をひそめる。
「今更何をっ……!」
「如意棒・第2の舞……」
向かってくる小剣に対し、空中で如意棒を振り上げる門貴。
「……“浄”っっ!!!」
――――パァァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!!――――
「んなぁぁっっ……!!!?」
門貴の八方から巻き起こった風に、パン児の剣が1本残らず叩き落される。目が飛び出そうなほどに大きく驚くパン児。
「何とっ……」
「……っ」
「ううっ……!!」
門貴の力に圧倒されていたパン児の目の前に、門貴が降りてきて如意棒を振り下ろす。
「“鬼妖剣”っっ!!!」
――――…………………………っっっ!!!!――――
叩き落された剣を元の1本の巨剣へと戻して、パン児が慌てて門貴の振り下ろした如意棒を受け止める。
「クっ……!」
ぶつかり合う剣と如意棒。剣にかかる力に、パン児が額から汗を流す。
「……うっ!」
――――バリィィィィィィィィィィィーーーーンッッッ!!!――――
「なっ……!!」
如意棒を受け止めていたパン児の剣が、ヒビが入っていき、脆くあっさりと砕き割れる。
「鬼妖剣がっ……」
砕け散り、地面へと落ちていく剣に、どこか茫然とするパン児。
「お前のんが……先、折れたなっ」
「……っ!」
そんなパン児に、門貴が素早く如意棒を構える。
「如意棒・第1の舞っ……」
「うっ……!!まだっ……!まだ鬼爪がっ……!」
「……“空”っっ!!!」
――――ビュウウウウウウゥゥゥゥゥンッッッ!!!!――――
「グウウッ……!ガアアアアアアアッッッ!!!!」
門貴の真空波を直撃し、パン児が全身を切り裂かれ、吹き飛ばされていく。
「ガハアアアアアアアアアッッッ!!!」
力なく地面に倒れ込むパン児。
「こっ……こんなっ……」
砂となって消えていき始める自分の手を見ながら、パン児が表情を歪める。
「ウチがっ……“誇り”如きにっ……負けるなんてっ……ううっ……」
――――パァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
「……。」
どこか悔しそうにそう言って、砂となって消えていったパン児の姿に、門貴は少し目を細めた。
「門貴ぃぃぃっっっ!!!!!」
「門貴さぁぁぁ〜〜んっっっ!!」
「……っ?」
聞こえてくる名に門貴が振り向く。そこには笑顔で手を振る二花や猿飛の姿。その隣には、笑みを浮かべた移貴の姿もある。
「……っ」
「へっ」
ピースを向ける移貴に、笑顔を見せる門貴。
「おっしゃあああああっっ!!!!勝ったでぇぇぇっっ!!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!』
雄たけびをあげる門貴に、サルたちもカニたちも皆、両手を突き上げた。
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