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鬼斬り かぐや 
作:千風



第10章 最期の言葉 ★2


 

 日も暮れた頃。柿之木山・柿の木すぐ傍。
「何っ……!!?」
 驚きの表情を見せるのは、1匹のメガネザル。移貴である。
「今から蟹の村に夜討ちを仕掛けるやてっ……!!?」
「そんなっ……!!」
「へぇっ」
 怒りに震えるような声をあげた移貴と猿飛に、不敵な笑みで頷いたのはパン児であった。
「何、アホなことをっ……!!」
「アホなことちゃいますよぉ〜もう手っ取り早くカニはんたち皆殺しにしてまおぉ〜言うとるんどすぅ」
「皆殺しやとっ……!?」
 パン児の言葉に、移貴が目を見開く。
「何をっ……!」
「蟹の村の土地が手に入ればっ……!カニたちは追い出すだけでええってっ……!!」
「カニはんたち、早々簡単に出て行かはりまへんでっしゃろ〜?ほんなら殺してもた方が早いって話どすわ」
『なっ……!!?』
 パン児の冷酷な笑みに、言葉を詰まらせる移貴と猿飛。
「お前ぇぇぇっっ!!」
「猿飛っ……!」

――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――

「だああああああああっっっ!!!!」
 移貴が手を伸ばす中、猿飛が人の姿となって怒り全開にパン児に殴りかかっていく。

「……っ」

「ぐあああああっっ!!」
「猿飛っっ!!!」
 猿飛殴ろうと突き出した右手をパン児に軽々と掴まれ、体ごと捻り上げられる。痛々しい声を出す猿飛に、思わず身を乗り出す移貴。
「今更、ゴタゴタ言わんといて下さいなぁ〜」
「ううっ……!!」
 弱った猿飛を体ごと投げ飛ばすパン児。
「ううっ……」
 猿飛は力なく地面に倒れ込んだ。
「これは決定事項どすえぇ〜?」
「誰がんなことっ……!!」
「貴方はんに選ぶ権利はないんだのぉ、猿長はん……」
「……っ」
 パン児の言葉に逆らおうとした移貴にそう言い放ったのは、頂上から柿の木へと降りてくる粒栗であった。
「粒栗っ……。……っ!何やっ?そいつらはっ……」
 粒栗の背後には、十数匹のチンパンジー。
「マロの可愛い手下たちだのぉ」
「何っ……!?」
「ううっ!!」
「猿飛っ……!!」
 チンパンジーの1匹が倒れていた猿飛を容赦なく踏みつける。
「お前らっ……いつの間にっ……!」
 扇子で口元を隠して微笑む粒栗に、移貴が表情を歪める。
「こやつらの仲間が村で待機しておる……マロが合図すれば、すぐにでも人質どもの首が飛ぶのぉ……」
「……っ!」
粒栗の脅迫に、顔をしかめる移貴。
「貴方はんは……マロの要求に“イエス”と答えるしか道はないんだのぉ……ホッホッホっ」
「外道っ……」
「……っ口を慎んだ方がサルたちのためだのぉ……」
 粒栗を睨みつけながら呟いた移貴に、粒栗が扇子を閉じて冷たい目を向ける。
「さてとぉ〜ほなっ、サルはんたち呼び出してとっとと夜討ちといきまひょかぁ〜猿長はんっ」
 パン児がそう笑いかけ、移貴の肩に手を置く。

「……っ!」

「あっ?」
 肩に置かれたパン児の手を、強く振り払う移貴。
「酷いどすなぁ……」
 パン児が振り払われた手を見て呟く。
「確かに……みんなの命守るためや思て……一族の誇りも何もかんも捨ててお前らに従った……」
 拳を強く握りしめ、少し震えた声で言い放つ移貴。
「けどなぁっ……!!」

――――ボォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――

 移貴が顔を上げた途端、移貴の体を白い煙が包む。

「己の誇りまでっ……捨てる気はないっっ!!!」

 人の姿となった移貴が、腰に差していた棒を伸ばし、粒栗へと飛びかかっていく。

「粒栗ぃぃっっ!!!」
「……っ」

――――パァァァァァァァァァァァァンッッッ!!!!――――

「……っ!」
 粒栗に振り下ろした移貴の棒を、粒栗の手前でパン児の剣が止める。
「クっ……!」
 移貴が後方へ飛び、パン児と距離を取って再び棒を構える。
「愚かなおサルはんっ……ウチが天国まで送って差し上げましょ……」
「……っ」
 微笑んで剣を構えるパン児に、移貴が目つきを鋭くする。
「だあああああああっっ!!!」
 移貴は全力でパン児に向かっていった。





 その頃、蟹の村。蟹江家・二花の自室。
「……。」
 灯りもつけていない暗い部屋に立ち尽くす二花の手の中には、1年前の門貴たちと二花たちの写った写真があった。写真の中、門貴の横で穏やかな笑みを浮かべている一花。
「姉ちゃん……」
 写真の中の一花に、そっと呼びかける二花。
「門貴な……まだあの種、持っとんねんて……」
 一花が門貴に託した、ただの柿の種。1年経っても、村を出ても、門貴は手離すことなく大事に持ち続けていたのだろう。
「持っとると思たわっ……アイツ、意外と女々しいトコあるしっ」
 二花が写真の一花に、無理に作ったような笑顔を向ける。
「アイツ……ホンマのホンマに……姉ちゃんのこと、好きやったんよっ……?」
 写真に写る門貴は、隣にいる一花の方を見つめ、笑っていた。
「それは……私が1っ番知っとるっ……」
 写真に写る二花は、そんな門貴を見て、あまり楽しくなさそうな顔をしていた。
「だからなっ……姉ちゃっ……」
「姉ちゃぁぁぁーーんっっ!!!」
「だああああああっっっ!!!!」
 いきなり大声を出して、全力で襖を開いて、部屋の中へと入ってくるチョキ三郎に、二花が思わず驚く。
「姉ちゃんっっ!!!もお門貴さんたち行っ……!」
「ノックくらいしてから入って来いやぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃあああああああっっっ!!!」
 部屋に駆け込んできたチョキ三郎が、二花の飛び蹴りで部屋の外まで吹き飛ばされる。
「襖でノックてそない難しいこと言うたかてぇ〜」
「ノックの問題ちゃうわいっ!空気読めっちゅーこっちゃっ!空気っ!!」
「空気っ?って、そんなことより姉ちゃんっ!門貴さんたち、もう猿の村に行っちゃっ……!」
「わかっとるっっ!!」
 チョキ三郎に強く答え、写真を懐にしまって、壁にかけてあったハサミを背中に背負う二花。
「あのアホのせいで色々考えとったら、色々腹立ってきてもたんやっ」
 拳を鳴らし、二花が部屋を出る。
「一暴れしに行くでぇぇっっ!!チョキ三郎っっ!!」
「うんっ!!」
 二花の声に、チョキ三郎は大きく頷いた。





「があああああああっっっ!!!!」
 パン児の剣に切り裂かれ、倒れ込む移貴。
「うっ……ううっ……!」
 すでに棒は砕かれ、全身に傷を負い、移貴はもう立ち上がることも困難な状況であった。
「猿長はん言うても……大したことありまへんなぁ〜」
「クっ……!」
 ゆっくりと近づいてくるパン児に、移貴が顔を引きつる。
「そろそろ終わりにしまひょか……」
「……っ」
 冷酷な笑みを浮かべて剣を振り上げるパン児。移貴には最早、受け止める力も避ける力も残されていない。

「移貴さんっっっ!!!」
 チンパンジーに動きを封じられている猿飛が、移貴の名を呼び、助けに行こうと必死にもがく。
「移貴さんっっっ!!!!」

「ほなっ……」
 パン児の振り上げた剣が、宙で止まる。

「さいならっ」

「……っ!」

 振り下ろされる剣に、覚悟を決める移貴。


「第1の舞……“空”っっ!!!」


「……っ!何っ……!?」

――――ビュウウウウウウウウウウンッッッ!!!――――

 剣を振り下ろそうとしたパン児に、横から吹き込んでくる真空波。
「があああああああああああっっっ!!!!」
「なっ……!」
 吹き飛ばされていくパン児に、移貴が目を見張る。
「今の技は……」
「猿長ともあろうもんが何ちゅ〜ザマやぁっ!」
「……っ!」
 聞こえてくる明るい声に、戸惑いの表情を浮かべていた移貴が勢いよく振り返る。

「修行が足りてへんのとちゃうかぁ〜?移貴っ!」

「門貴……」

 移貴が振り向いた先に立っていたのは、明るい笑みを浮かべ、如意棒を構えた門貴であった。








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