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鬼斬り かぐや 
作:千風



第9章 猿蟹合戦 ☆3


 
 御伽界、南西部・“柿之木山”。
 山の中腹に1本だけ、何とも巨大な柿の木が立っていることからその名が付いたと言われている。

 柿之木山・中腹。柿の木平原。
「来たぞぉぉっっっ!!!サルたちだぁぁっっっ!!!」
「防衛体制を取れぇぇっっ!!!柿の木より先、山を下らせるなぁぁっっっ!!!」
『うおおおおおおおおおっっっ!!!!!』
 中腹に立つたった1本の柿の木を中心として、言葉をしゃべる多くカニたちが列を作るように広がっていく。カニたちの表情は緊張感が走っており、その鋭いハサミを構えていた。
移貴(うつき)猿長(さるおさ)っ!」
 一方、中腹より頂上側で、列を成していくカニたちを見下ろすのは、こちらも言葉を話すサルの軍団。その軍団の先頭へ、柿の木のカニたちの様子を見ていた子ザルが戻ってくる。
「カニたちはみんな、いい感じに赤色でしたぁぁっっ!!!」
「誰がんな報告しろ言うたんやっ……?猿飛……」
 胸を張って報告する子ザルを、冷たく睨みつける1匹のサル。黒ブチメガネをかけ、他のサルとは違い、真っ赤な法被を着たサルである。軍団の先頭に立っていた。
「陣形とか数とかあるやろ?」
「ああ〜それならよう見えませんでしたぁっ!」
「……。」
 明るく答える子ザル・猿飛に、言葉を失うメガネザル・移貴。
「カニはんなら、柿の木辺りで防衛線張っとうみたいやでぇ?」
『……っ』
 移貴の横に立つ、少し目つきの悪いチンパンジーが移貴に笑いかけると、移貴と猿飛が少し表情をしかめた。
「パン()っ、お前、こっからでも柿の木見えるんか?」
「ウチの視力は5.0,5.0どすえぇ?猿飛はんっ」
 不思議そうに問いかけた猿飛に、パン児は笑顔で答えた。
「ほなっとっとと行きまひょかぁ〜猿長はんっ」
「……。」
 不適な笑みをこぼす男を移貴が鋭く見つめ、そして前を向いて高々と右手を挙げた。
「全サルっっ!!合戦用意っっ!!」
 移貴が下方に見える柿の木を指差し、強く叫ぶ。
「今日こそカニどもを蹴散らしてやれぇっ!」
『ハイウッキぃぃぃぃぃーーっっっ!!!!!』
 サルたちが棒やら剣やらを構えて、我先にと柿の木の方へ横歩きしていく。

「サルたちが来たぞぉぉぉっっ!!!!迎え撃てぇぇぇっっ!!」

「カニの誇りを見せ付けろぉぉっっ!!!」


『うおおおおおっっっ!!!!!』


 サルの軍団とカニの大群が、山の上と下から一斉に走り出していき、やがてぶつかり合っていく。
「おりゃああああああっっっ!!!」
「ぎゃああああああっっっ!!!」
「こっのおおおおおおおおっっっ!!」
 カニたちが強くそのハサミを繰り出せば、サルたちは素早い身のこなしでそれをかわす。サルたちが鋭く武器を突き刺せば、カニたちはその硬い甲羅でそれを受け止める。


「……。」
 サルの大群の後方から、厳しい表情で戦況を見つめる移貴。

「温いっ……温いなぁっ……」

 パン児が、戦況を見ながら冷たい表情を浮かべて呟く。
「どっちも相手を殺さんよぉ〜う、気ぃつけて気ぃつけて戦こうてるっ……なんちゅ〜退屈な戦いやろかぁ」
 鬱陶しそうな表情を見せながら言葉を続けるパン児。
「そう思わはりまへん?猿長はんっ……」
「……っ」
 問いかけるパン児に、移貴が少し目を細める。

「わいやったら……一瞬でカニどもみぃ〜んな蹴散らしてやりますのにぃ〜なぁ?」

「……前へ出ていいぞ、パン児」
「なっ……!」
 含んだ笑みを向けてきたパン児に、前線へ出る許可を出す移貴。移貴のその言葉に、移貴の猿飛が驚きの表情を見せる。
「移貴さんっ……!何をっ……!」
「ありがとうございますぅ〜ほなっ」
「あっ……!」
 移貴に温かみのまったくない笑顔を向けて、素早く前線へと行ってしまうパン児。移貴に異議を唱えようとしていた猿飛が、去っていくパン児に表情をしかめる。
「移貴さんっ!なんであんなことっ……!」
 猿飛が責めるように移貴を見る。
「アイツがどういうヤツやか移貴さんもわかっとるでしょっ!?アイツまたカニたちをっ……!!」
「堪えろ……猿飛っ……」
「……っ」
 移貴の低く重い声に、猿飛が思わず言葉を止める。
「今はとにかく堪えるんやっ……」
「移貴さんっ……」
 そう呟いた移貴は、確かに何かを必死に堪えているような厳しい表情を見せていた。


「ぎゃあああああっっっ!!!」
「うがああああああっっっ!!!!」


「……。」
 勢いを増すサルたちの攻撃に、カニたちは徐々に押され、サルたちの前に次々と倒されていく。

「これが……猿蟹合戦……かつて“聖戦”と呼ばれ……サルとカニが一族の誇りを持って挑んだ戦いか……」


「がぁぁーはっはっはっはっっ!!きかねぇーなぁっっ!!カニどものちゃっちいハサミなんかぁっ!」
「とっととくたばりやがれぇぇっっ!!!薄汚いカニどもがぁっっ!!!」
 かつては誇りと呼ばれた聖戦も、今はただの醜くて汚い争い。


「今のこの戦いを見たら……お前はどう思うんやろな……」

 移貴はどこか遠い瞳で呟いた。


「ぐはああああああああああっっ!!」
 サルの飛び蹴りを喰らい、カニがその場に倒れ込む。
「よしっ、次にっ……」
「何言うてはりますのぉ?」
「……っ?」
 カニを倒したサルが他のカニと戦いに行こうとした時、そのサルの前へと現れたのはパン児であった。
「パン児さんっ……!」
 パン児を見たサルが、少しかしこまって背筋を立てる。
「まだ動けるでっしゃろぉ?そこのカニっ」
「えっ?」
 パン児の言葉に、サルが目を丸くする。
「いやっ、でもっ……あれじゃあ、しばらく立ち上がることもっ……」
「甘いどすなぁ〜」
 サルの言葉を遮り、パン児がゆっくりと首を横に振る。
「もしあのカニが根性で立ち上がって、背中向けたあんさんを後ろから突き刺したらどないするんどすぅ?」
「そっ……それはっ……」
 パン児に突き刺さるような瞳を向けられながら問いかけられ、サルは言葉を詰まらせて俯く。
「こういう時はぁ……ちゃんと2度と動けんようにしていかんとっ……」

――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――

 パン児が白い煙に包まれると、チンパンジーから茶髪に長身の若い男へと姿を変える。
「……っ」
「……っ!ひぃっ!」
 倒れているカニに向け、冷たく笑うパン児。倒れているカニが恐怖に顔を歪める。
「たっ……助けてくれカニっ……!」
「そういう命乞いはっ……」
 パン児が腰に下げた長い剣を抜く。

「言葉の通じる人間にするもんどすえっ……?」

「ひいいいいいいいっっっ!!!!」
 パン児が笑顔でカニに剣を振り下ろす。

――――パァァァァァァァァァーーーーーンッッッ!!!――――

『……っ!』
 カニへと振り下ろされた剣を止める何か。移貴や猿飛、周囲のサル・カニたちが思わず目を見張る。
「……っ」
 少ししかめた表情を上げるパン児。

「随分と活きのええヤツやなぁ〜」

 そう言ってパン児へと笑いかけたのは門貴であった。パン児の剣を止めたのは、門貴の構えた如意棒である。

「あんさんは……」
「門貴っっっ!!!?」
「……?」
 パン児が眉をひそめて剣を引き、門貴を見つめる中、近くのサルが大声で門貴の名を呼ぶ。
「門貴っ!!!?」
「門貴って……元・猿長のっ……!!?」
 カニたちを圧倒していたサルたちが、皆、門貴の名を呼び、門貴の姿に目を見張る。


「何々ぃ〜?門貴ってばもしかして凄いおサルさんだったのぉ〜?」
「これだけいればカニ雑炊も食べれますね」
「とりあえずカニに食べる以外の用途を持てよ」
 門貴に遅れるようにしてその場に現れる輝矢たち。場違いなテンションを醸し出す由雉と、カニを食べることしか考えていない輝矢に、呆れた表情を見せるハチ。

「大丈夫かっ!?アンタたちぃっ!!」
 輝矢たちに続いて、二花とチョキ三郎も戦場の最中へとやって来る。

「二花さんっ!!と、チョキ三郎……」
「二花 蟹長(かにおさ)っっ!!と、チョキ三郎っ」

「どうせ俺は姉ちゃんのオマケですよ……」
 姿を現した二花に、倒れ込んでいたカニたちが目を輝かせる。がしかし、チョキ三郎には大して感動しないカニたちの様子に、チョキ三郎が少し拗ねるように呟いた。

「ウチがおらん時に合戦しかけてくるたぁ、どういうこっちゃっ!?移貴っっ!!」
 二花がサルの大群の後方に位置どっている移貴を睨みつける。
「アンタっ!そこまで汚なったんかぁっ!?このクソメガネザルっ!!だいたいアンタはなぁっ……!!」
「そんくらいにしとけやぁ〜二花」
「……っ。門貴っ」
 戦場の真ん中で怒鳴りまくる二花を、門貴が止めに入る。

「おうっ!ひっさびさやなぁ〜っ!移貴っ!」

「門貴……」

 門貴が明るく手を挙げると、移貴は少し眉をひそめた。




メガネザル・移貴と門貴の関係とは…??
次回もよろしくお願いしますっ♪






千風のブログ「千風の押入れ」へっ!←裏話満載っ!の予定です。





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