第9章 猿蟹合戦 ☆2
30分後。アライグマの街・すぐ外の山道。
「痛てててててっ……」
右腕に負った切り傷を見ながら、表情を歪めるモンキ。
「はいっ、塗り薬ぃ〜」
「ええっ?“癒羽”はぁ?」
「もったいない」
「ぎゃいぃぃーーんっっっ!!!!」
キッパリと答える由雉に、ショックを受けるモンキ。
「で、あなた方は一体、どこのどなたなんです?」
「あっ!はいっ!申し遅れましたぁっ!」
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!!――――
輝矢に問いかけられたチョキ三郎の体を白い煙が包んでいく。
「俺っ、蟹人一族の蟹江チョキ三郎っていいますぅっ!」
煙の中から現れたのは、赤毛の短髪に大きな黒目のまだ幼い、14,15歳の少年であった。優しい笑顔のよく似合う、小柄な少年。二花同様、背中に大きなハサミを背負っている。
「あっ、こっちは姉の蟹江二花ですぅ〜」
チョキ三郎が不機嫌面でそっぽを向いている二花に手を向けながら、笑顔で言う。
「門貴さんとは生まれた村が近くってぇ、まぁいわゆる幼なじみといいますかぁ〜」
「まぁ別にサルの生い立ちに興味はありませんが」
「そんなぁぁ〜〜っっ!!冷たいでぇっ!!輝矢ぁぁぁぁぁ〜〜〜んっ!」
「……っ」
輝矢に泣きつくモンキを見て、二花が少し眉間に皺を寄せる。
「アンタっ」
「……?」
急に立ち上がり、輝矢の方を睨みつけるように見る二花。そんな二花に輝矢が少し眉をひそめる。
「アンタっ……門貴の何やっ?」
「はいっ?」
二花の思いがけない問いかけに、表情をしかめる輝矢。
「何って……」
「そらもちろんっ!恋びっ……!ふぎゃああああああああああっっっ!!!」
「“飼い主”です」
笑顔で答えようとしたモンキを踏みつけ、輝矢がさらりと答える。
「“飼い主”っ……?」
輝矢の答えを聞いた二花が、上を見上げて妄想を膨らませる。
二花の“飼い主”のイメージ。
「ふぅ〜っ……今日も長旅で疲れましたねっ……」
夜も暮れた頃、今日の旅を終えて地面に座り込む飼い主・輝矢。
「おみ足をお揉みしましょう。輝矢様」
1日歩き通しで疲れのたまっている輝矢の足を、そっとマッサージするペット・門貴。
「ああ、ありがとうございます。門貴」
「いえっ、輝矢様のお足に触れさせていただけるだけで私は光栄ですから」
「フフっ……アナタは正直ですね……」
門貴の言葉に、輝矢がそっと微笑む。
「今夜は冷え込みますかね……」
「よろしければ私がずっとお傍におりましょう……」
門貴が輝矢の手を取り、輝矢を見つめる。
「貴女が眠りにつくまで……」
「それはいい夢が見れそうですね……」
「ぎゃああああっっっ!!!何が“サルの抱き枕”やぁっ!エロいっ!エロいわぁっ!飼い主とペットっ!!」
「何、想像してんだかね……」
自分の妄想内容に苦悩し、叫び声をあげる二花に、由雉が冷たい視線を送る。
「やめて下さいよ。私はそんなこと、ハチとしかしません」
「しねぇーよっっ!!!」
輝矢の言葉に、ハチが全力で突っ込む。
「ぐうううううううっ……!!おのれっ……飼い主とペットぉぉぉぉっっ……!!」
「姉ちゃんっ、姉ちゃんっ!」
「何やぁぁぁぁぁっっっ!!?」
「ひいっ!」
未だ妄想に苦悩する二花にチョキ三郎が声をかけるが、二花に強く睨みつけられ、思わず震え上がる。
「それより早くっ……本題にっ……」
「ああああっっ!!そうやったぁぁぁぁっっ!!!」
チョキ三郎の言葉に、思い出したように叫び声をあげる二花。
「ウチら、アンタを探して遠路遥々“蟹の村”からやって来てんっっ!!!」
「蟹の村?」
「俺を探してぇ?」
二花の言葉に首をかしげるハチとモンキ。
「何やぁ?二花、お前結婚でもするんかぁ?あっ、そんなわけないかぁ〜誰も貰てくれへんもんなぁ〜」
「……っ」
「あっぎゃあああっっっ!!!!」
フザけた口調で話すモンキが、顔を引きつった二花に容赦なく殴り飛ばされる。
「一体っ……何があったんでごさいまひょ……?」
右頬を大きく腫らして、改めて問いかけるモンキ。
「……“猿蟹合戦”が始まったんやっ!」
「……っ」
『猿蟹合戦〜っ?』
輝矢たちが聞いたことのない不可思議な言葉に首をかしげる中、モンキが表情を一変させる。
「何だぁ?それっ」
「サルとカニがパン食い競争するんじゃないですか?」
「何でパン食い競争なのさ…」
「何てこっちゃああああっっっ!!!!」
『うわっ』
輝矢やハチ、由雉が暢気に言葉を交わす中、耳が痛むほどの大声を放つモンキに、皆の視線が集まる。
「そりゃ大変やぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「せやねんっ!とりあえず大変やねんっ!!」
「えっ……?そんな大変なことなのか……?猿蟹合戦て……」
かなり焦った様子のモンキと二花に、戸惑うように呟くハチ。
「さぁっ!そうとわかったら、とっとと蟹の村へっ……!!」
「でもなぁ〜」
「へっ?」
気合を入れて走り出そうとした二花が、やる気なく話すモンキに目を丸くする。
「俺、今そういう気分やないってゆ〜かぁ〜」
「……っ」
モンキの言葉に、二花の血管がブチ切れる。
「つべこべ言っとらんとっ!死にたくなかったら付いて来いやぁぁっっっ!!!!」
「あっきゃああああっっっ!!!!」
二花に尻尾を掴まれ、無理やり連れ去られていくモンキ。
「あっ!待ってよっ!姉ちゃ〜んっ!」
「さらわれていくけど……どうすんの?輝矢」
「んん〜っ」
モンキを連れ去っていく二花の後を慌てて追っていくチョキ三郎。取り残される形となった由雉が、横にいる輝矢に問いかけると、輝矢は少し考えるような声を漏らした。
「まぁとりあえずあのサルのことはキレイサッパリ忘れて、旅の続きをっ……」
「だあああああっっっ!!!!」
「へっ?」
やけに遠くの方から聞こえるハチの悲鳴に、輝矢が眉をひそめる。
「離せっ!!離せよっ!!クソザルっっ!!」
ハチは二花に尻尾を掴まれ連れて行かれているモンキに尻尾を掴まれ、間接的に連れ去られようとしていた。
「何で俺まで巻き込まれなきゃいけねぇーんだよっっ!!」
「お前でも連れてこな、輝矢が付いて来んやろがっ」
怒鳴りあげるハチに、わりと冷静に答えるモンキ。
「あのクソザルっ……」
「で……どうすんの?」
拳を握り締める輝矢に、由雉が改めて問いかける。
「まぁたまにはペットの里帰りに付き合ってやるのも悪くありませんねっ。行きますよ?キジっ」
「……。」
足早にモンキたちの後を追いかけていく輝矢の姿に、少し呆れた顔を見せる由雉。
「桜時がさらわれなきゃ……絶対、行かなかっただろうな……」
輝矢に遅れるように歩きながら、こっそりと呟く由雉であった。
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