第1章 鳥の国の犬王子 ☆5
『ぎゃああああああああああああっっ!!!』
「……っ!あっ……!あれはっ……」
叫びまわる3兄弟と、恐怖からか少し後ずさる千鶴。
「“鬼人”……ですか……」
「鬼人っ!?」
輝矢の言葉に驚くハチ。
かつて御伽界を脅かした異形の生物。“桃タロー”がすべてを退治し、世界に平和をもたらしたはずであったが、10年の後、鬼人は再び現れ始めたのである。
「本当に復活してたのかっ……」
「思いがけない展開ですねぇ〜」
「暢気に言ってる場合かよっっ!!」
感心したように腕組みをしている輝矢に、ハチが少し怒ったように突っ込む。
「ハァーっハッハッハっ!内部から徐々に崩していくつもりだったがぁっ」
「ひぃっ!」
太鷲が孔雀を掴んでいる右手を振り上げる。
「四大国の国主を、こうもあっさり殺せるチャンスが巡ってこようとはなぁっっ!!」
「殺すぅぅっっ!?」
太鷲の狙いが自分の命であることを知った孔雀が表情を凍りつかせる。
「いっやぁぁぁぁーーーっっ!!!」
凍りついたわりに大声で叫びまくる孔雀。
「助けてぇぇぇぇぇっっ!!!我が愛しの息子たっ……!!」
『ひっやああああああああああああああっっ!!!』
孔雀のことなど見向きもせずに、我さきにと逃げていく3兄弟。
「息子たちぃぃぃ〜〜っっっ!!!!」
去っていく背中に、孔雀が悲しげに手を伸ばす。
「愛しの息子たちにも身捨てられたところでぇ、いっちょ死んどくかぁ〜?」
「いっやああああああああああっっ!!」
「まっ……!待てっっ!!」
「……っ」
「息子たちっ!?」
制止を訴える勇ましい声に、眉をひそめる太鷲と期待の目で振り向く孔雀。
『……。』
勇ましい声の主は、どうやら無理に輝矢の腕の中から飛び出したらしきハチであった。こじんまりしたイヌの姿を遥か上から見下ろす太鷲と孔雀。
「何だ、イヌかっ……」
孔雀ががっくりと肩を落とす。
「孔雀サンを放せっ!!」
「誰がっ……!」
「誰があんたなんかに助けてもらうもんですかぁっっっ!!!」
「えっ?」
太鷲よりも大声で否定したのは孔雀であった。
思いがけない孔雀の反応に、少し間の抜けた表情を見せるハチ。
「イヌに助けられるくらいならねぇっっ!あたっしは死んだ方がマシよぉっ!!.!」
「そんなっ……!孔雀サンっ!」
どこか孔雀を責めるように、ハチが突き上げて孔雀を見る。
「ハァーっハッハッハっっ!!いい度胸だぁぁぁっっっ!!!」
「ひいっ!」
ハチには強気だった孔雀であるが、太鷲がその禍々しい顔を振り向かせた途端に背筋を震え上がらせる。
「望みどおり殺してやろうっっ!!!」
「やっぱ死にたくはなぁぁぁぁーーいっっっ!!!」
ハチに助けられるくらいなら死んだ方がマシなようだが、やはり死にたくはないらしい孔雀。
自分の思いのままに叫ぶところは見事である。
「孔雀さっ……!」
「ちょっと待って下さい」
「ぬはぁぁぁっっ!!」
孔雀の意志を無視して飛び出していこうとしたハチであったが、輝矢に容赦なく尻尾を踏みつけられ、その場に顔から倒れこむ。
「何すんっ……!」
「派手派手スズメババア」
「誰っが派手派手スズメババアよっっ!!小娘っっ!!」
ハチの尻尾を踏みつけたまま、輝矢が上を見上げて孔雀を呼ぶ。
「1つ提案があるんですけど?」
「てっ……提案っ?」
輝矢の言葉に、目を丸くする孔雀。
「提案って何よっ!?」
「私がアナタを助けますので、無事助けられたらハチを私に下さい」
「んなっ!?」
倒れこみながら表情を引きつるハチ。
「オーッホッホッホっ!!だぁぁぁ〜〜〜れっがそんな約束っ……!」
「まぁ助けてほしくないならいいんですけどね」
「うっ……」
いつものように高らかと笑いあげる孔雀であったが、輝矢の一言で笑っている場合ではない現状に気づく。
「わっ!わかったわっっ!!OKっ!OKっ!とりあえず私を助けなさいっっ!!」
「決まりですねっ」
孔雀の返答に輝矢が笑顔を見せる。
「さてとっ……」
「おっ……!おいっ!」
ハチの尻尾から足をどけて、準備を整えるかのように手足を動かす輝矢に、ハチが起き上がって声をかける。
「やめろよっ!俺のためなんかに鬼人と戦うなんてマネっ……!」
「別にアナタのことはついでですよ」
「えっ?」
「私は私の仕事をするだけです」
「仕事……?」
輝矢の言葉に、戸惑うように首をかしげるハチ。
「フワァーっハッハッハっ!!貴様のような小娘が私を倒す気かぁぁっっ!!?」
「ええっ」
太鷲の問いかけに笑顔で答えて、輝矢がゆっくりと右耳の三日月形のピアスへと手を伸ばす。
「“げっ……」
「うおおおおおっっ!!!あれは見た限りっ!国主様のだぁーいピィィーンチっっ!!」
『……っ?』
ピアスへ手を触れようとした輝矢とハチが、どこからか聞こえてくる大きな声に振り向く。
「アイツらはっ……」
「ナァーっハッハっっ!!あっ!俺様こそっ!雀国最強集団“ペンタゴン”お頭っ!“銀ペー”様よぉっ!」
「同じく団員Aっ!ペン太っっ!!」
「同じく団員Bっ!ペン吉だぁぁっっ!!」
『……。』
扉を開け放ち、堂々とした自己紹介をするのは、先ほどハチを追い回してきたペンギン軍団。相変わらずのダサいポーズと愛らしい姿に、部屋内の皆を固まらせる。
「ここで国主様を助けられればポイントアップアップっ!間違いなしですよっ!!アニキっっ!!」
「警備隊への復帰も夢じゃあありませんよっ!!アニキっっ!!」
「うおおおおおーーっしっっ!!!やってやるぞぉぉっっ!!!」
場違いな空気を醸し出しながら、やる気だけは満々に部屋の中へと入ってくる銀ペー。
「覚悟しやがれぇぇっっ!!!鬼の化け物ぉぉぉっっっ!!!」
そう叫んで、床に寝転がる銀ペー。
「喰らえぇぇぇっっっ!!!“ペンペンっ!!スライディーーーグっっっ……!!!」
銀ペーが発射準備を整える。
「ジェッッット気流”ぅぅぅっっ!!!」
――――ビュゥゥゥゥゥーーンッッ!!!――――
床を抉りながら、スライディングで太鷲へと向かっていく銀ペー。
「邪魔です」
――――ドォォォォォーーーンッッッ!!!――――
「ぎゃああああああああああっっっ!!!」
『アニキィィィィィィィーーーーっっっ!!』
滑っていく銀ペーを太鷲までの道の途中で、容赦なく踏みつけて止める輝矢。床に体がめり込むまで踏みつけられ悲鳴をあげる銀ペーに、子分たちが声をあげる。
「うっ……ううっ……」
「せっかく話がまとまったのに、ややこしくしないで下さい」
「鬼かっ」
力尽きた銀ペーに冷たく言い放つ輝矢を見て、ハチが思わず突っ込む。
「貴様らの茶番にこれ以上付き合ってる暇はないっっ!!死ねぇっっ!!朱実孔雀っっ!!」
「いっやあああああああっっっ!!!」
「……っ」
「孔雀サンっ……!」
ついに太鷲が孔雀を宙へと放り投げ、その体に右手の鋭い爪を向ける。思わず身を乗り出すハチ。
「“月器っ……」
輝矢が右耳のピアスの、三日月形のモチーフ部分のみを弾く。
――――パァァァァァァーーンッッッ!!!!――――
「……っ!!」
弾かれた三日月形のモチーフは、宙を舞いながら金色の光を放ち、一気に巨大化していく。
驚きの表情でその光景を見つめるハチ。
「三日月”っ」
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