第6章 シンデレラストーリー ★2
朱実の屋敷。中庭側縁側。
「月見団子っ……月見……団子……」
『……。』
縁側に座り込み、魂の抜け落ちたような虚ろな瞳でただ“月見団子”と呟いている輝矢。そんな輝矢を中庭からどこか不安げに見つめるモンキとユキジ。
「ヤバいねっ……いつも負のオーラ出してるけど、いつも以上に負のオーラが出てるっ……」
「月見団子食べ損ねたんがよっぽどショックやったんやろ〜なぁ〜輝矢んっ」
「月見……団子……」
突然現れた桜時の従兄・竹人にさらわれるように食堂を飛び立ったため、輝矢はせっかく注文していた月見団子を後一歩のところで食べ損ねてしまったのである。
「何やら俺を呼ぶ声が聞こえるなぁぁっっ!!」
『……?』
輝矢を見守っていたモンキとユキジが、後方から聞こえてくるど派手な声に振り返る。
「困り事かぁぁっ!?それならこの俺っ!警備隊長っ!あっ!警備隊長の銀ペー様に任せておけぇいっ!」
『いよおっ!!アニキぃぃぃっっ!!』
『……。』
2人が振り返った先に立っていたのは、ダサいポーズを決めた、ツルツル頭の何とも愛らしいペンギンであった。銀ペーを応援する2頭の子分ペンギン・ペン太とペン吉。
「なぁ〜んだっ、“飛べない鳥”かぁ〜」
「ぐほおおうっっ!!」
ユキジが口にした禁断の一言に、銀ペーが顔を引きつる。
『アっ……アニキっ……!!』
「だっ大丈夫だっ……!俺はハチお坊ちゃんのお陰で生まれ変わったんだっ!もうその一言で揺るがないっ!」
『おおっ!アニキぃぃっっ!!』
奮えを堪えて誇らしげに笑う銀ペーに、子分たちが目を輝かせる。
「飛べないくせに鳥とか名乗る資格ないよねぇ〜」
「何だとっ!!?キジっっ!!こらぁぁっ!!」
『アニキぃぃぃ〜〜〜っっ!!生まれ変わったんじゃなかったんですかぁぁ〜〜〜っっ!!』
ユキジの容赦ない一言に、もう堪えきれず殴りかかろうとする銀ペーを子分たちが必死に止める。
「ふぅっ……いやぁ〜君たちっ……」
「切り替え早いなぁ〜」
すぐに冷静さを取り戻した銀ペーに、モンキが感心したように声を出す。
「踏みつけ女の機嫌が悪くてお困りのようだねっ」
「踏みつけ女?ああ、そうそう。輝矢の機嫌がすさまじく悪くってビクビクしてるのぉ〜」
「ここは警備隊長の俺っ!あっ!警備隊長の俺に任せておきたまえっっ!!!」
「やめといた方がいいんとちゃう〜?」
「ハッハッハっ!!見ていたまえっっ!!!」
モンキが不安げに声をかけるが、銀ペーはそれを聞くことなく、自信に満ちた表情で輝矢の元へ歩いていく。
「月見団子……」
「踏みつけ女ぁぁっ!!」
「……?」
まだ月見団子を悔やんでいた輝矢が大きな声に顔を上げると、目の前には銀ペーが立っていた。
「俺の新必殺技を見て元気を取り戻すがいいっ!!行くぞっ!?」
『……っ』
皆が息を呑んで見守る中、銀ペーがモーションに入る。
「見よっっ!!“ペンペン・ツルツル・ハリケーーン”っっ!!」
銀ペーが頭を付いて逆立ちし、そのツルツル頭を回転させて体全体をまるで竜巻のように高速に回していく。
『おおぉぉぉーーっ!!』
『……。』
歓声をあげる子分ペンギンと、静まり返るモンキ、ユキジ。
「……っ」
輝矢も静かに右足を振り上げる。
――――バシコォォォォォォォーーーンッッッ!!!――――
「ふぎゃああああああっっ!!」
『アニキィィィィィィィーーっっ!!』
輝矢に蹴り飛ばされ、塀に激突する銀ペー。その無残な姿に子分ペンギンたちが悲痛な叫びをあげる。
「ううっ……むっ……無念っ……」
「何やってんだぁ〜?お前らっ……」
『……っ?』
力尽きる銀ペーを呆れた表情で見ながら、その場へとやって来たのは孔雀への挨拶を終えた桜時であった。
「ハっ……」
「桜時様を無事連れ帰って下さった恩返しをさせてくださぁぁーーいっ!!」
「……っ」
桜時の方を見る輝矢であったが、桜時の後方から桜時よりも素早く輝矢も元へと1羽の鶴が駆け抜けてくる。輝矢はすぐさま表情をしかめ、突っ込んでくる鶴をひらりとかわした。
――――ドスッ!ドスッ!ドスッ!――――
「恩返しぃぃぃぃ〜〜っっっ!!!」
「相変わらずなようですね……千鶴……」
壁に何度も嘴を突き刺す千鶴を見て、呆れた表情を見せる輝矢。
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――
「ふぅ〜っ」
桜時がハチの姿へと戻って一息つく。
「桜時ぃぃ〜〜っっ♪」
「桜時ぃぃ〜〜っっ♪」
「あっ?」
聞こえてくるハーモニーに、ハチが振り返る。
『おぉぉぉぉぉ〜〜〜うぅぅぅぅ〜〜〜じぃぃぃ〜〜っっっ♪♪』
「2人だけだと何か微妙だな……」
ハチが振り返った先でハーモニーを刻んでいたのは、3バカ兄弟こと朱実の3兄弟の長男・松人と三男・梅人であった。
「竹人兄さん、婚約者決めることになってからロクにハーモニーに参加してくんなくってさ」
「ハーモニーに参加しないなんて、余程、嫌なんだろうねぇ〜結婚するのが」
「何でそんなにハーモニー重要視してんだよっ」
深刻そうに話す松人と梅人に、ハチが呆れた表情で言う。
「あっ!桜ちゃ〜〜〜んっ!」
「……っ?」
そこへ暢気な笑みを浮かべながら、竹人がやって来る。
「どうだったぁ〜?お母様っ」
「どうもこうもやる気満々じゃねぇーかっ。婚約者探しのパーティーやるってでっかい広告まで作って」
竹人にどこかうんざりしたような顔を向けるハチ。
「もぉ大人しく婚約したらいいだろ?」
「ええ〜っ?」
ハチの言葉に、竹人が不満げな声を出す。
「困るよっ……だってボクっ……」
「……っ」
真剣な表情を見せる竹人に、ハチが何かわけがあるのかと息を呑む。
「まだ遊び足りないんだもんっ!」
「最低な理由だな……」
竹人の悪意なき笑顔に、ハチが軽蔑の瞳を向ける。
「その気持ちわかるでぇっっ!!!タケちゃんっっ!!」
「だっろぉ〜っ?さっすがおサルさんっ!」
「気ぃ合ってんじゃねぇぇっっ!!!」
笑顔で手を取り合うモンキと竹人に、ハチが怒鳴りあげる。
「大体もう明日にはパーティー開かれちまうんだろっ?今更、俺にどうしろってんだよっ?」
「そりゃ〜パーティーに乱入してボロボロの台無しにしちゃうとかぁ〜」
「そんなんやったら、俺が孔雀さんにボロボロの台無しにされちまうじゃねぇーかっ」
竹人の無責任な発言に、呆れたように言い返すハチ。
「無理だっ!無理っ!諦めろっ!」
「ええ〜っ!」
ハチが投げ捨てるように言うと、竹人が非難の声をあげる。
「あっ、そうだぁ〜輝矢ちゃ〜んっ」
「はいっ?」
「……っ?」
急に切り換えて笑顔で輝矢を呼ぶ竹人。そんな竹人を桜時が不思議そうに見る。
「これっ!さっき食べ損なわせちゃったからぁ〜っ」
「はぁっ……!」
竹人が輝矢へと差し出したのは、台の上に天井まで届きそうなほどに積み上げられた月見団子の山。これに輝矢は一瞬で表情を輝かせる。
「シェフに頼んで材料あるだけ作らせたんだよぉ〜」
「まぁ〜た無駄なことをっ……」
「月見団子っ……月見団子っ……月見団子っ……」
ハチが竹人に呆れている中、輝矢が無我夢中で月見団子へと手を伸ばす。
「この月見団子ぜぇ〜んぶ輝矢ちゃんにあげちゃうぅ〜」
「えっ!?」
竹人の言葉に、珍しく大きくリアクションする輝矢。
「その代わりぃ〜」
「その代わり?」
「嫌な予感っ……」
含んだ笑みを浮かべる竹人に、ハチが表情をしかめる。
「明日のパーティーぶっ壊してくんないっ?」
「いいですよ」
「良くねぇっっ!!!ってか竹兄っ!頼む人間選べよっ!!コイツにぶっ壊させたら死人が出るぞっ!?」
「やったぁ〜〜っ!」
「聞けいいいっっっ!!!」
「はぁっ……」
雀の街を、溜め息をつきながら疲れた背中で歩いていくハチ。
「結局何だかんだで丸め込まれて、パーティーをぶっ壊すことになってしまったっ……」
調子のいい竹人のペースにはめられて、断ることもできないまま、明日の竹人の婚約者選びのパーティーを壊すことを任されてしまったのである。
「大丈夫ですよ。私に任せておいて下さい」
「任せらんねぇーから悩んでんだろーがぁぁっっ!!」
ハチの横を歩くのは月見団子を頬張りながら、満足げな笑顔を浮かべている輝矢。竹人に月見団子を貢がれ、すっかりパーティーを壊す気でいる輝矢に、ハチは頭をさらに悩ませていた。
「はぁ〜あ〜どうすっかなぁ〜……」
「でもさぁ〜桜時ってホントに朱実のお坊ちゃんだったんだねぇ〜」
「んだよっ?はじめっからそう言ってんだろっ?」
意外そうに言うユキジに、ハチがしかめっ面を向ける。
「だってぇ〜今の今まで疑ってたしぃ」
「何で疑うんだよっ!!」
「だってぇ〜ねぇっ?」
ユキジがモンキの方を見る。
「せやなぁ〜っ!イヌぅ、何か貧乏くさいしっ」
「そうそうっ、ボクの方が高級感あるってゆぅ〜かぁ〜」
「お前らなぁぁっっ!!」
「きゃっ!」
「へっ?うわああああああああっっっ!!!」
モンキとユキジの方を振り返りながら道の中央へと飛び出したハチと、飛び出したハチのすぐ横から歩いてきていた人間が衝突する。
――――バサバサバサァァァァァッッッ!!!――――
ハチとぶつかった人間が持っていた荷物が、道に散らばる。
「痛たたたたたたっ……!」
「んっ……んん〜っ……」
「……っ!!だあああああっっっ!!!おっ!女ぁぁぁっっ!!?」
衝突したらしきすぐ目の前に座り込んでいる人間が女性であることを悟ったハチが、勢いよく後退していく。
「痛たたたたたっ……」
顔を深く俯かせたまま、痛そうな声だけを出し、頭を押さえているその女性。
「あっかんなぁ〜っ!イヌはぁ〜っ!」
「あっ?」
「こういう時はなぁ、こうせなあかんねんでっ?」
――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜ンっ!――――
そう得意げに言ってモンキが人化する。
「痛たたたたたたっ……」
「あっ……んん〜っ、あっ、ああ〜」
まだ痛がっている女性に近づいていきながら、発声を整える門貴。
「お怪我はありませんかっ?お嬢さんっ」
妙にカッコをつけて、門貴が女性へと手を差し伸べる。
「あっ……ハイっ……大丈夫ですっ……」
可愛らしい声で答えながら、女性が門貴の手を取り、ゆっくりと顔を上げる。
「ありがとうございますっ」
『……っ!』
顔を上げた女性は、まるでゴリラのようなダイナミックな顔立ちをしていた。女性の姿に、門貴をはじめとする全員が一瞬、固まる。
「お優しいんですねっ。ムフっ、ステキぃ〜〜っ」
「……。」
女性の言葉と笑顔に、門貴はさらに凍りついた。
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