第5章 クマった上司 ☆5
「……。うっ……!」
鬼人が砂となって消えたのを確認し、三日月を振り下ろした輝矢が、少し顔をしかめて倒れこむ。
「輝矢っ……!」
倒れこむ輝矢に駆け寄る桜時。
「ううっ……!やっぱ無理っ」
「……。」
やはり輝矢の1m手前で駆け寄ることに挫けてしまう桜時。
「かっぐやぁぁ〜んっ!俺の腕ん中に飛び込んでおいでぇぇぇぇ〜〜〜っっっ!!!」
そんな桜時を追い抜かして、モンキが受け止め態勢を取る。
「ああ、けっこう平気でしたっ」
「ぬわあああああああっっっ!!!」
急にシャキっと立ち上がる輝矢に、モンキは空振りして地面に倒れこむ。
「ううっ……」
「平気なはずないでしょ〜?ほらっ、見せてみなよ」
倒れこんだモンキを思い切り無視して、由雉が輝矢の左腕を取る。
「“癒羽”」
――――プスっ!!――――
「ううっ……!」
火傷の傷口に、容赦なく黄色い羽根を突き刺す由雉。
「嫌がらせですか……?」
「まぁ見てなよぉ」
「……?」
――――パアアアアアアーーッッッ!!!――――
「……っ」
傷口に突き刺さった黄色い羽根が光を発すると、光が傷口を包み、見る見るうちに傷を治していった。引いていく痛みに、驚いた表情を見せる輝矢。
「こんなこともできるのですかぁ」
「まぁねっ」
「けっこう見所のあるキジですねぇ〜旅に同行することを許して差し上げましょう」
「今更っ?」
今更下りた許可に、由雉が少し呆れた表情を見せる。
「ちょいと由雉クン、そんな力あるんやったらこの前、俺が大怪我した時も使ってくれたら良かったんやっ……」
「バカにつける薬はないってねぇ〜」
「がいぃぃぃーーーんっっっ!!!」
冷たく言い放つ由雉に、ショックを受けるモンキ。
「ふぃ〜っ」
――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!――――
輝矢たちがギャーギャーとやっている中、クマ二郎が一息ついて黒熊の姿へと戻る。
「そっ……そういや何者なんだっ?あのクマっ……」
「あの人はオトポリの正刈金汰総長だっ」
「……っゴンっ」
混乱していた桜時が振り向くと、そこにはいつの間にか人の姿に戻ったゴンが立っていた。
「総長って……」
「長官・副長官の次に偉い人っスよっ!実際、鬼人退治する警官の中では1っ番のお偉いさんスっ!」
「そんな偉いヤツだったのかっ!!?」
続いて解説する羊スケの言葉に、大きく驚く桜時。
「やっべぇーっ、俺“クマぁ”とか言っちゃったよぉ」
「ボクも黒いくせにぃ〜とか色々言っちゃったぁ〜」
「大丈夫じゃないっスかぁ〜?あの人、そういうの気にしない人っスよぉ〜」
今更、後悔している桜時と由雉に、羊スケが明るく声をかける。
「ゴンさんがオトポリ、クビにならないで済んでるくらいっスからっ!」
「どういう意味だっ!!こらぁぁぁぁっっっ!!!」
明るく話す羊スケに、ゴンの怒声が飛ぶ。
「けっど輝矢のヤツ、何でんなお偉いさんと知り合いなんだぁ?」
「そりゃ知り合いだろうなぁー」
「へっ?」
桜時の疑問に、当たり前だろうと言わんばかりに頷くゴン。そんなゴンに桜時が首をかしげる。
「総長は10年前もオトポリにいてな、“桃タロー”と相対して“金タロー”って呼ばれてたんだ」
「“桃タロー”と“金タロー”は永遠のライバルって言われてたんスよっ!」
『ライバルっ?』
「んな大層なもんじゃねぇーべさぁっ!桃ちゃんにはいっつも世話になりっぱなしだったべぇ〜」
驚く桜時たちに、金汰が謙遜の笑みを向ける。
『桃ちゃんっ!?』
伝説の英雄相手にかなり親しげな呼び方の金汰に、皆が驚きを見せる。
「桃ちゃんは憧れというより、おいらの理想だべさぁ〜」
「私が師匠の元で修行している時に何度か金汰は訪ねて来ましてね、それで知り合いなんです」
「そうそう、そういう知り合いだぁぁ〜っ!ガッハッハッハっ!」
「初めっからそう説明しとけよっ……」
やっと詳しく話した輝矢と金汰に、桜時が呆れたように呟く。
「おっ……兄ちゃんっ……」
どこか気まずそうに金汰を見る鉄汰。
「あのっ……」
「こんのっ……バカ弟がぁぁぁっっっ!!!!!」
「ぬはあああああああああっっっ!!!!」
「あぁ〜あっ……」
鉄汰が話を切り出そうとした途端に、金汰が鉄汰の腰を掴み、鉄汰を思い切り投げ飛ばした。地面に叩きつけられる鉄汰を見て、力のない声を出す輝矢。
「自分の力驕ってミスした挙句ぅ〜、かっぐやさんにまで迷惑かけおってぇぇ〜っ!!このアホぅがっ!」
「ううっ……」
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!――――
起き上がった鉄汰の体を白い煙が包んでいく。
「んでもぉ〜っ!兄ちゃんっ、おいらぁぁ〜〜っ!!」
次の瞬間、煙の中から出てきたのは、金汰よりももう1サイズ小振りの、金汰とよく似た黒熊であった。
「おいらぁ〜っ!精一杯ぃぃ〜っ……!」
「問答無用だああっ!帰ったら反省書3000枚だべっさぁぁっ!」
「ぞんなぁ〜〜っっ!!」
強く言う金汰クマに、悲しい顔を見せる鉄汰クマ。
「ケケケっ!いい気味だぜっ」
「ってかアイツ、クマやったんや」
「クマのくせにあんな気取ってたのかと思うと腹立つねぇ〜」
「ってか何で熊化したらナマるんだっ……?」
そんな金汰と鉄汰の姿を見て、思い思いの言葉を呟くゴン、モンキ、由雉、桜時。
「そんなんじゃいつまで経っても“桃タロー”みたいになれんどぉぉっ!かっぐやさんを見習いぃっ!」
「いんやっ……でもっ、おいらぁ別に桃タローみたいになりたいとはっ……」
「もっと桃タローに近づくためだぁぁっ!明日から相撲稽古、倍だべぇっ!覚悟するべさぁぁっっ!!」
「ええぇっっ!!!?」
金汰の言葉に、悲鳴にも似た声を出す鉄汰。
「目指せ、桃タローだべぇっ!ガッハッハッハっハっ!!」
「……だからっ……」
鉄汰が今にも泣き出しそうな情けない顔を上げる。
「だから桃タローなんて嫌いとよぉぉぉっっっ!!!!!!」
鉄汰の悲痛な叫びが、夜の白熊の街に響き渡った。
翌朝。
「ガッハッハっ!ほんだらぁ〜かぐやさんっ!桃ちゃんによろしくだぁぁっっ!!」
白熊の街入口付近に、クマ二郎こと金汰の大きな笑い声が響き渡る。鬼人退治を無事終え、金汰たちオトポリも輝矢たちも白熊の街を出ようとしていた。
「ええ、いつ会えるかわかりませんが、会ったら伝えておきます」
「ガッハッハっ!頼むだぁぁぁっっ!!」
―――ボォォォォォォォォ〜〜〜ンッッッ!!!――――
輝矢の言葉にまたしても豪快に笑った金汰が、白い煙に包まれていく。
「じゃあ行くぞ、野郎ども」
『はっ!』
人化して男前に仕切る金汰に、ゴンたちが敬礼をする。
「ある意味、二重人格だな……」
「まぁクマのままカッコつけられても困るけどね」
人間の時とクマの時とでギャップのある金汰に、戸惑いつつも呆れた顔を見せるハチとユキジ。
「おいっ!鉄っ!お前も輝矢さんに礼を言えっ!」
「ええっ!?」
「あんだけ世話かけといて礼言わねぇー気かぁっ!?ほれっ!」
「うわあっっ!!」
嫌がる鉄汰を金汰が無理やり手押しして、輝矢の前へと突き出した。
「……。」
「えっ……えっとっ……」
輝矢が見つめる中、あれこれ考えるように言葉を探す鉄汰。
「次こそボクが君なんかより優れていることを証明してあげるよっ!」
「へっ?」
しおらしく礼を言うどころか、高々と言い放つ鉄汰に、間の抜けたような表情を見せる輝矢たち。
「楽しみにしていたまえっ!!ふわぁーっはっはっはっはっ!!」
「このっ……!」
笑う鉄汰を見て、金汰が拳を握り締める。
――――ボォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!――――
「バカ弟がぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
「ふわぁぁぁぁぁぁ〜〜っっっ!!!!」
――――ボォォォォォォォォォ〜〜〜〜ンッッッ!!!!――――
熊化して拳を振り上げる金汰から、熊化して必死に逃げ惑う鉄汰。追いかけっこを始めた2頭のクマは、そのまま山の下方へと去り、見えなくなっていった。
「なっ……何だったんだっ……?一体っ……」
クマたちの去っていった方を見ながら、呆然と呟くハチ。
「大体なんであの総長さん、来てたの?」
「あの人はいっつもそうだっ」
『えっ?』
ゴンの言葉に、ユキジたちが振り返る。
「銀汰の時も、銅汰の時も、弟が隊長やる事件になると、すぅーぐ混じってくる……」
「要は兄バカなんですよ」
「なるほどねっ……」
ゴンと輝矢の説明に、呆れた表情で頷くユキジ。
「でもまぁさっすが金汰サンは違げぇーよなぁっ」
感心したような声を出すゴン。
「街人に混ざってたの全然わかんなかったもんなぁー!さっすが俺に潜入捜査の心得を教えてくれた人っ!」
「いやっ……全然、わかったけど?」
「めちゃ怪しまれてたもんねぇ〜」
「カエルの弟子はカエルというわけですね」
感心しまくっているゴンに、次々と突っ込みを入れていくハチ、ユキジ、輝矢。
「さぁーてっ、俺らも行くかぁ、羊スケっ」
「おいぃーっスっ!」
ゴンの言葉に、羊スケが車の中から気のいい返事を返す。
「んじゃあ竹取っ、今回も世話になったなっ!」
「いつ奢ってくれるのですか?」
「うっ……!まっまぁ給料日まで待てよっ」
「そんなこと言っちゃっていいんスかぁ〜?ゴンさん、点引かれまくってまた給料ないかもぉ〜」
「うるせぇっ!」
「ぎゃあっ!!」
茶化すように言った羊スケにゴンの拳が飛ぶ。痛がる羊スケの横の助手席へと乗り込むゴン。
「ほいじゃっ!またなっ!退治屋とそのペットどもっ!」
「失礼するっスぅ〜っ!」
2人が軽く手を挙げると、オトポリのオープンカーは勢いよく山道を下っていった。
「ふぅ〜、アイツらが来るといっつもロクなことになんねぇーよなぁ」
「まったくですね」
一息ついたハチの言葉に、輝矢がしみじみと頷く。
「さて、私たちも行きましょうか」
「ああ」
「おうっ!」
「とっとと下ろうよぉ〜こんな寒いとこっ」
輝矢の声に返事をするイヌ、サル、キジ。3匹を引きつれ、輝矢が白熊の街を後にし、ゆっくりと山道を下っていく。
「でもさぁ」
「……?」
ハチの声に、輝矢が振り向く。
「俺、けっこうグッと来たっ」
「えっ?私の笑顔にですか?」
「違げぇーよっ!あの桃タローの教えってヤツっ」
「ああ」
どこかがっかりしたように頷く輝矢。
「いいよなぁ〜」
――――我が師・桃タローの教えはただ1つっ……――――
「さっすが桃タローっ!お前みたいな弟子がいるから、ちょっと人格疑ってたけどやっぱっ……!」
「あの教えには続きがあるんです」
「へっ?」
輝矢が笑顔を見せると、ハチが目を丸くした。
「“誰かを守るためだけに戦え。そうすれば必ずがっぽがっぽとお礼が入る”とっ」
「えっ……?」
教えの続きに、ハチが思わず固まる。
「今回はお礼に金汰から金塊貰えましたし、いやぁ〜退治屋やってて良かったなぁって感じですよねっ」
「……。」
金塊を見ながら笑顔を見せる輝矢に、ハチは最早、言葉も出ない。
「カエルの師匠はカエルってね」
「そうだろうなっ……」
「輝矢ぁぁ〜んっ!その金塊で俺に一生分のバナナを買っ……!」
「骨っ子一生分買ってあげますからね、ハチっ」
「マジっ!?」
「がいいいぃぃぃーーんっっっ!!!!」
「ねぇ〜っササミチーズはぁ〜?」
何はともあれ、こんな感じで輝矢たちの旅は続いていくのであった。
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