第5章 クマった上司 ☆1
「というわけでだなぁっ」
と言うのは、見た目はヤクザだが実は御伽警察(通称:オトポリ)の警官の孤上ゴン。老けてる22歳。
「白熊の街に出た鬼人の退治をだなぁ、手伝ってもらっちゃったりしたいなぁ〜と思ってんのよっ!」
「面倒なのでお断りします」
ゴンの頼みを、即答で断る輝矢。
「そぉぉーーう言わずによぉっ!俺とお前の“よしみ”じゃんっ!?」
「どんな“よしみ”だよっ」
「俺は“良美チャン”のんがええなぁ〜っ♪」
「アホっ」
必死に懇願するゴンを見ながら、気の抜けた会話を交わすハチとモンキ。
「退治屋に鬼人退治頼むようじゃオトポリも終わりだね〜10年振りの復活とか必要なかったんじゃない?」
「ああっ!?」
横から口を挟んだ青いキジ・ユキジの言葉に、ゴンが顔を引きつる。
「何だぁぁ〜っ!?竹取っ!お前んトコの新しいペットっ!異常にムカつくなぁっ!」
「ペットじゃありません。勝手に付いて来てるだけです」
ゴンの言葉に輝矢が冷たく一言。
この前の幸ノ街での一件で、キジの由雉が押し入るように仲間に加わり、輝矢たち一行はさらに賑やかさを増したのである。
「私のペットはハチだけです」
「ちょぉぉぉぉぉっと待ていっ!俺はペットになったつもりはねぇーぞぉっ!?」
「ええ〜っ?輝矢ん、俺はぁぁ〜っ?」
輝矢の一言に異議を唱えるハチと、手を挙げて自己主張するモンキ。
「とにかく頼むっ!!なっ!?」
「だから何度言われても答えは変わりませんって」
深々と頭を下げるゴンに、輝矢が疲れたように肩を落とす。
「けっど変だよなぁ〜あのゴンがあんな必死に頭下げるなんてっ」
「確かになぁ〜」
「ううううっ!!ゴホゴホっ!うおおおっへんっっ!!」
『……?』
妙にわざとらしく咳き込む声に、会話をしていたハチとモンキが振り向く。
「うううっうんっ!ゲハゲハっっ!!のほほほほっほんっ!!」
「羊スケ……?」
2人が振り向いた先にいたのは、動きもわざとらしく、どこか怪しげに咳き込んでいる羊スケであった。そんな羊スケにハチが眉をひそめる。
「めっちゃワケアリな空気出してんなっ」
「ウソがつけない人なんだよ、きっと」
そんな羊スケに、どこか呆れたように言うモンキとユキジ。
「とぉぉぉぉーーっにかっく頼むっ!!ああぁぁぁぁーー頼むっっ!!」
「だからぁ、何度言われてもっ……」
「今回ばっかりはどぉぉーしても必要なんだっ!!“桃タロー”の弟子であるお前の力がっ!!!」
「えっ?」
「あっ!」
桃タローの弟子という部分を妙に強調して言ったゴンに、輝矢が眉をひそめて顔を上げる。と、ゴンはしまったと言わんばかりの表情で口を押さえた。
「ほぉ〜……どうやら師匠と何らかの関係のあることのようですねぇ〜……」
「ううっ……!そっ……それはっ……!そのっ……」
鋭い目を向けて問い詰めてくる輝矢に、思わず目を逸らしてしまうゴン。
「わかりました、行きましょう」
「マジかっ!?」
「ええ〜っ?」
嬉しそうに聞き返すゴンと、不満げに口を尖らせるユキジ。
「不満なら付いて来なくていいですよ、キジ」
「ブー」
輝矢の返答に、ユキジはさらに口を尖らせた。
「よっしゃぁぁぁっっ!!じゃあっ!“白熊の街”へレッツラゴーだぁぁっっ!!!」
「その掛け声古いっスよぉ〜ゴンさんっ」
「うっせぇっっ!!!」
「ぎゃあっ!」
というわけで、こんなところから今回の話は始まるのである。
御伽界、南東部。雪の降る“白熊の街”。
その名の通り、白熊の獣人たちが暮らす、山奥の小さな街である。
「鬼人が出たのは7日前の夜。街の若い男が襲われて重傷を負ってる。他にも山の動物が何頭かヤラれてるが」
街に入り、輝矢たちに鬼人の出た時の説明をするゴン。
「7日前以来、パッタリ現れてねぇ。どう思う?」
「寒いので帰りたいです」
「そうじゃねぇぇぇぇーーーっっっ!!!!」
輝矢の発したコメントに、ゴンが全力で突っ込みを入れる。
「街に潜伏して機会を狙ってるんじゃないかとか、そういう見解を聞きたいんだよっ!」
「そうじゃないですかぁ〜?」
「適当だなっ!おいっ!!」
いつもの軽装に分厚いコートを着て、体を丸めて言う輝矢。この寒さに一気にやる気が失せたようである。
「うぅ〜んっ……寒いよぉ〜っ」
輝矢と同じように服を着込んで震えているユキジ。
「そんな寒いかぁ〜?」
「いいよねぇ〜イぃ〜ヌは喜びっ庭駆け回りぃ〜だから」
「よくわかんねぇー羨ましがり方だな……」
降り積もった雪の地面を歩いても、平気そうな顔を見せているハチ。ハチはイヌであるため寒さには強いが、キジであるユキジにはこの寒さは堪えるようである。
「俺もわりと平気やでぇ〜っ」
「いいよねぇ〜サルはバカだから」
「ええぇぇっっ!!?何やっ!その理由っ!?」
雪の上に転がって遊びながら言ったモンキに、冷たく言い放つユキジ。ユキジの言葉にモンキがショックを受ける。
「まぁとにかく今からその襲われた人間ってののトコに一緒に聞き込みにっ……」
「やぁーっと到着のようだねっ!狐上さんっ!ふわぁーっはっはっはっはっ!!」
『……?』
「出たっ……」
聞こえてくる声に、皆が顔を上げる中、ゴンだけが表情をしかめる。
「遅かったねぇ〜!待ち過ぎて身長が3センチ伸びたよっ!ふわぁぁーっはっはっはっはっ!!」
『……っ』
丁寧な言葉遣いで輝矢たちの前へと現れたのは、黒髪オカッパ頭に細めの黒目の、どこか嫌味っぽい顔つきの若い青年。19,20歳くらいだろうか。オトポリの黒制服に、その右腕には“鉄”と書かれた派手な赤い腕章をしていた。その背にはかなり重そうな、巨大な鉞を背負っていた。
「鉄汰っ」
「テッタ……?」
厳しい表情で呟いたゴンに、輝矢が少し首をかしげる。
「鉄汰じゃなくて、現場では“正刈隊長”と呼んでもらいたいねっ!狐上隊員っ!ふわぁっはっはっはっ!」
「ああっ!?」
「ゴンさんっ、抑えて、抑えてっ」
「隊長って……」
鉄汰という青年の言葉に、今にも殴りかかりそうになるゴンを必死に抑える羊スケ。どう見てもゴンより若いというのにゴンより偉そうな態度を取っている鉄汰に、輝矢たちが首をかしげる。
「ああ、輝矢さん、紹介するっス。こちら今回の事件で俺らの隊の隊長を努める正刈鉄汰さんっス」
「隊長っ?こんな若いのにっ?」
「オトポリは実力主義なんスよっ」
「どういう意味だぁぁっっ!!?こらぁぁぁっっっ!!!」
ハチの問いかけに答えた羊スケの言葉に、さらに顔を引きつるゴン。
「鉄汰サンはその実力を買われてオトポリが直々に入ってくれぇ〜って勧誘したくらいなんスよぉ」
「へぇ〜」
羊スケの解説にハチが感心したように声を漏らす。
「オトポリ内じゃあ、“桃タロー2世”って呼ばれてるくらいなんスっ」
「桃タロー2世っ?」
輝矢が少し目を丸くする。
――――どうしても必要なんだっ!桃タローの弟子であるお前の力がっ!――――
「まさかそれでっ……」
「うっうううんっ!!ゲハゲハっ!!」
輝矢が冷たい目を向けると、ゴンはわざとらしく咳き込んだ。
「羊スケくん、そちらは?」
「ああっ、この方々は実はっ……」
「聞っいて驚くんじゃねぇーぞぉっ!?」
説明しようとした羊スケの前にしゃしゃり出て、鉄汰に向かってゴンが高々と言い放つ。
「こっの小娘は見た目はたっだの小娘だがなぁっ!何とっ!あの桃タローの弟子の退治屋なんだっ!!」
「桃タローのっ……?」
ゴンの言葉に、鉄汰が一気に眉をひそめる。
「前回の鬼人退治の時も色々と協力してもらったんで今回も手ぇ貸していただこうかなって思ってっ……!」
「必要ないねっ」
「へぇっ?」
『……っ』
羊スケの言葉を冷たく遮った鉄汰に、輝矢たちが首をかしげる。
「鬼人退治はオトポリの仕事だ。素人に入って来られると捜査にも影響が出るよっ!ふわぁっはっはっはっ」
「素人ってっお前なぁっ……!」
「どうしても鬼人退治がしたいのなら君たちもオトポリに入りたまえ!そうすれば仲間に入れてあげよう」
「ああっ!?」
明らかに小ばかにしたような口調で返す鉄汰に、表情をしかめるモンキ、ハチ、ユキジ。
「おいっ!鉄汰、コイツらはホントに強えぇーし、必ず俺らの力にっ……!」
「そういう他力本願な考えだから、いつまで経っても隊長になれないのではないかいっ?狐上さん」
「んなっ……!!」
致命的なところを突かれたのか、ゴンが大口を開けて固まる。
「それにっ……」
「……?」
鉄汰が鋭く輝矢を見る。
「ボクは“桃タロー”ってのが嫌いでねっ」
「えっ?」
思いがけない鉄汰の言葉に、輝矢が目を丸くする。
「とにかくここはオトポリに任せて、部外者はとっとと帰ってくれたまえっ!ふわぁーっはっはっはっ!」
鉄汰が冷たく言い放ち、輝矢たちに背を向ける。
「さぁ捜査に行くよ。狐上さん、羊スケくん」
「おっおいっ!」
歩き去っていく鉄汰に、ゴンが思わず手を伸ばす。
「あのなぁっ……!」
「どうしてもそちらの方々と一緒に捜査がしたいのなら、オトポリを辞めて退治屋に弟子入りするといいよ」
「んなっ……!!」
またしても大口を開けて固まるゴン。
「何じゃっ!!あのクソガキャァァーーっっ!!」
――――バッコォォォォォォォォーーーーーンッッッ!!!――――
去っていく鉄汰への怒りを、近くにあった雪だるまを殴り潰して発散するゴン。
「器物破損で逮捕されるっスよぉ〜」
そんなゴンに羊スケが突っ込む。
「とりあえず行きましょ〜ゴンさんっ」
「ああっ!?俺はあんなヤツなんかと捜査なんて御免だっっ!!」
「まぁ〜た問題起こして出世遅らせる気っスかぁ〜?ほらっ、行くっスよっ」
「だあああああっっ!!ぎゃあああああっっ!!」
喚いているゴンを無理やり引っ張って、去っていく鉄汰の後を追いかける羊スケ。
「そんなわけで色々とすんませぇ〜んっ、輝矢っさんっ!今は失礼するっス〜」
「ええっ!?おいっ!羊スケぇっ!」
ゴンたちの方から輝矢たちを呼びつけたというのに、この雪の中、輝矢たちを残して去っていくゴンと羊スケ。ハチが声をあげるが、2人は鉄汰を追ってその場を去っていった。
「おいっ、輝矢、一体どうすんだよ?」
「とにかくっ……」
「とにかくっ……?」
真剣な表情を見せる輝矢に、ハチが少し息を呑む。
「どこかのお家に押し入って、無理やりあったかいものでも作らせましょうか」
「だあああああああああっっっ!!!」
輝矢の言葉に、ハチが雪の中を思い切り転んだ。
「さぁ〜てどこの家にしましょうか?やはり金のありそうなあの家にっ……」
「ちょっと待てぇぇいいっっ!!」
街に並ぶ家を物色する輝矢を、ハチが必死に止めに入る。
「人の道に反することはするなっっ!!何度言わせる気だぁぁっ!!」
「でもぉ〜このまま寒いのって可愛い上にか弱いボクには耐えられないんだけどぉ〜」
「お前の根性の悪さは絶対長生きだ。俺が保証してやる」
「え〜」
文句ばかり言っているユキジに、ハチが突き放したように言い放つ。
「とにかく上がらせてもらうんだったら、もっと穏便にっ……」
「かっぐやさんでねぇ〜かぁっ?」
『……?』
聞こえてくるナマリのキツい低い声に、輝矢たちが振り返る。
『いっ……!?』
振り返ったイヌ、サル、キジが、一斉に驚きの表情を見せる。
「やっぱりかっぐやさんだぁぁぁ〜〜」
4人が振り返った先に立っていたのは、身長2mはありそうな大きな図体の1頭の黒熊であった。
『黒っ……クマっ……?』
「ひっさしぶりだなぁぁ〜〜っ!ガッハッハッハっ!」
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