第4章 不幸な女の青い鳥 ★6
「“月器・十六夜”っ」
――――バァァァァァァァァァーーーーンッッッ!!!!――――
「……っ」
桜時の前へと広がり、鬼口を弾き返す金色の盾。桜時が思わず目を見開く。
『ギャアアアアアアッッッ!!!!』
弾き返された自らの鬼口を喰らい、2匹の鬼人が吹き飛ばされていく。
「ふぅぅぅ〜っ」
「…………輝……矢っ……」
「はいっ?」
桜時の声に、笑顔で振り返る十六夜を構えた輝矢。
「…………はぁっ……」
「大丈夫ですか?ハチ」
輝矢がやって来てホッとしたのか、桜時が深々と肩を落とす。そんな桜時に声をかける輝矢。
「遅くなってすみません。あの桜が咲くまで位置がわからなかったもので」
「道を聞こうとしたコウノトリを誰かさんが恐怖与えすぎて気絶させちゃったからねっ」
「……?由雉っ」
聞こえてくる声に桜時が振り返ると、そこには呆れた表情を見せた由雉が立っていた。
「由雉っ……良かった……無事だったのねっ……」
「……っ」
現れた由雉に安心したように笑みをこぼすミチル。しかし由雉は、気まずそうに視線を落とす。
「痛ぅっ……!」
「……?どこか痛めたのですか?」
「ああっ……ちょっと吹っ飛ばされた時に背中をっ……」
少し表情を引きつり、背中を押さえながら桜時が答える。
「私のハチに怪我をさせるとは…許し難いですねぇ……」
「別にお前のものになった覚えはねぇーよっ」
「かっぐやぁぁぁぁ〜〜〜んっ!あなたの門貴がこぉぉ〜んな大怪我をしちゃってるよぉぉぉ〜〜っ!!」
「使えないサルですね」
「がいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜んっっっ!!!!」
「鬼っ……?」
ショックを受けている門貴の横で、幸コがこっそりと呟く。
「ハチに怪我をさせた罪を償ってもらいましょうか。“月器・三日月”」
十六夜を三日月へと変形させ、鬼人に向けて構える輝矢。
「竹取輝矢っ……鬼退治いたしますっ」
輝矢が三日月を構え、3匹の鬼人の方へと飛び出してくる。
『グワアアアアアアアアアッッッ!!!!!』
「……っ“水月”っ」
――――バァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!!――――
「ギャアアアアアアアッッッ!!!!」
輝矢が三日月を振り払うと、三日月から無数の水の刃が飛び出し、鬼人の1匹を吹き飛ばした。
「ガアアアアアアアアッッッ!!!」
「……っ!」
横から飛びかかってきたもう1匹の鬼人の爪を、三日月で受け止める輝矢。
「“鬼口”っ!」
「うっ……!」
さらにもう1匹が、輝矢に向かって鬼口を放つ。
「クっ……!」
「ガアアアアアアアッッ!」
――――バァァァァァァァァーーーンッッッ!!!!――――
三日月で対峙していた鬼人を払い飛ばし、何とかギリギリのところで鬼口を避ける輝矢。
「ふぅっ」
着地した輝矢が、険しい表情で1つ息をつく。
「さすがに3匹相手は厳しいですね……」
少し汗を流しながら、再び三日月を構える輝矢。
「“鬼口”っっっ!!」
「……っ」
輝矢に休む暇も与えず飛んでくる鬼口。
「第1の舞“空”っっ!!」
「……っ?」
――――バァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!――――
輝矢へ向かって飛んできていた鬼口が、輝矢の後方から飛んできた真空波に掻き消される。
「よぉーしっ!何とか握れるなぁっ!」
「サルっ……」
輝矢が後ろを振り返ると、そこには門貴が立っていた。先ほど鬼口で受けた右腕の傷に白い布を巻いて血止めをし、さらに右手と如意棒も布で巻きつけるようにして何とか構えている。
「こんな体で戦う俺っ……どおっ!?輝矢んっ!」
「いえ特には」
「ううっ……」
輝矢の淡白な反応に悲しむ門貴。
「“鬼爪”っっ!!」
『……っ』
「“瞬花”っっ!!」
――――パァァァァァァァァーーンッッッ!!!!――――
2人に飛んできた鬼爪が、2人の目の前で桜の花びらとなって散る。
「ハチっ」
輝矢の横に立ったのはもちろん、村雨丸を構えた桜時であった。
「何やぁ〜?怪我犬は大人しくしてたらええねんでぇっ?イヌぅ〜」
「てめぇーこそ静かに寝てろよっ!重傷猿っ!」
『グワアアアアアアアッッッ!!!!』
『……っ!』
向かってくる鬼人たちに、3人が一気に表情を鋭くする。
「三日月っ」
「村雨丸っ!」
「如意棒っ!!」
それぞれに武器を構え、鬼人1匹ずつと交戦していく輝矢、桜時、門貴。
「……。」
3人の戦いを静かに見守る由雉。
「クっ……!うわあああああああっっっ!!!!」
「だあああああああああああっっっ!!!」
「ううっ!!クっっ……!!マズいですねっ……」
3匹の鬼人を相手に、傷を負っている桜時と門貴は完全に押され、輝矢も2人の様子が気になっているのか、力が出し切れずに押され始める。このままでは3人とも負けてしまう。
「もうダメっ……このままじゃみんな殺されちゃうっ……」
「ミチルさんっ……」
「……っ?」
諦めたように呟く幸コの横から、由雉が静かにミチルを呼ぶ。
「ボクっ……コウノトリになりたかったんじゃないよっ……?」
「えっ……?」
「ただっ……ミチルさんを……幸せにしたかったっ……」
「由雉っ……」
少し笑みをこぼしながら話す由雉に、ミチルが少し目を細める。
「だって……ミチルさんはっ……1人ぼっちだったボクの……家族になってくれた人だからっ……」
「……っ」
振り返った由雉を、ミチルがまっすぐに見つめる。
「だからねっ……ミチルさんっ……ボクはミチルさんを幸せにはしてあげられないけどっ……」
由雉が言葉を続ける。
「ミチルさんの幸せはっ……ボクが守るよっ」
「由雉っ……」
「……っ!」
覚悟を決めたように表情を鋭くし、輝矢たちの元へと駆け込んでいく由雉。
「ああっ!!由雉ぃぃっっ!!」
「……。」
不安げに幸コが呼ぶ中、ミチルは穏やかな笑顔でその背中を見つめていた。
「がはぁぁぁぁぁっっ!!」
「ううううううっっ!!」
鬼人の攻撃を喰らい、並んで地面に倒れこむ桜時と門貴。
「“鬼口”っっっ!!!」
「ハチっ!サルっ!」
『ううっ……!』
倒れこんでいる2人に向け、鬼口を放つ鬼人。輝矢が振り返って2人を呼ぶが、最早2人に避ける力は残されていない。
『クっ……!』
「“左翼・滅羽”っ!」
――――バァァァァァァァァーーンッッッ!!!――――
『……っ!』
2人に向かってきていた鬼口に、強く光る赤い羽根のようなものが突き刺さると、その瞬間、鬼口は光を放って自ら砕け散った。砕け散った鬼口を大きく目を見開いて見つめる桜時と門貴。
「なっ……」
「ったく、だらしないなぁ〜」
『えっ?』
2人がゆっくりと起き上がり、声のする後方を振り返る。
「ボクが力を貸してあげないと、あれくらいの鬼も倒せないわけぇ〜?」
『ああっ!?』
そこにいたのは面倒臭そうに言い放つ由雉であった。その由雉の言いっぷりに、一気に怒りを起こして立ち上がる桜時と門貴。
「何やとぉぉぉっっ!!!?クソキジぃぃっっ!!!」
「もっぺん言ってみろっ!!こらぁぁぁぁっっ!!!」
「“ボクが力を貸してあげないと、あれくらいの鬼も倒せないわけ?”」
「ホントにもっぺん言いやがったぁぁぁっっ!!!!」
繰り返し言う由雉に、桜時と門貴の怒りは最高潮に達する。
「三日月っ」
「グワアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
「……?」
交戦していた鬼人を振り払い、3人の元へと合流する輝矢。輝矢と由雉が目を合わせる。
「どうやら覚悟を決めたようですね」
「別にぃっ。君たちの不甲斐なさに見ていられなくなっただけだよぉ」
『んだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!?』
『グワアアアアアアアアアッッッ!!!!!』
『……っ』
鬼人が3匹一斉に4人の元へと向かってくる。
「同時に行きなさい、イヌ、サル、キジ」
「喜んでぇぇぇぇっっ!」
「ええ〜っ」
「いいから殺されたくなかったら聞いとけっ!」
輝矢の命令に素直に頷く門貴と、不満げな由雉を必死に諭す桜時。
『グワアアアアアアアッッッ!!!!!』
「村雨丸……“瞬花……」
「如意棒・第1の舞っ……」
「“右翼っ……」
飛びかかってくる鬼人に、桜時が村雨丸を、門貴が如意棒を、由雉が青い羽根を一斉に構える。
「終刀”っっ!!」
「“空”っっ!!」
「裂羽”っっ!!」
『ギャアアアアアアアッッッ!!!!』
3人が繰り出した剣技・真空波・羽根に、鬼人3匹が同時に吹き飛ばされていく。
「“月器……」
吹き飛ばされていく鬼人たちに、輝矢が月器を向ける。
「望月”っ……」
――――パァァァァァァァァァーーーンッッッ!!!――――
三日月が満ち、やがて金色の球体・望月となって鬼人たちを包み込んでいく。
「……っ“新月”」
――――……………………っっっ!!!!――――
『……っ!!ギャアアアアアッッッ!!!!!』
望月は輝矢の言霊により、鬼人たちとともに一瞬にして闇へと消えていった。鬼人たちの断末魔が森に響き、やがて掻き消えた。
「……。」
空から三日月が降り落ちてきて、輝矢のピアスへと戻る。
「どっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っっ」
「ああ〜疲れたっ……」
戦いが終わった途端に、力なくその場に座り込む桜時と門貴。
「ふぅぅ〜っ」
「あらっ?きゃあああああっっっ!!!!」
「……。」
一息ついていた由雉が聞きなれた悲鳴に、少し呆れた表情で振り返る。由雉が振り返ると案の定、足でも挫いたのか、ミチルが地面に転がっていた。
「今度はどこ痛めたのぉ〜?」
やれやれといった表情で、ミチルに歩み寄っていく由雉。由雉がミチルのすぐ前でしゃがみ込む。
「ミチルさっ……」
「……っ」
「……っ?」
ミチルの顔を覗き込もうとした由雉の頬に、そっとミチルの手が触れる。
「ミチルさん……?」
「……。」
戸惑うように由雉が見つめる中、ゆっくりと顔を上げるミチル。
「……っ」
ミチルは穏やかな笑みを浮かべ、その優しい瞳から涙をこぼしていた。ミチルの涙に、由雉が少し驚く。
「こんな立派な息子を持って……私は……“幸せ者”ねっ……」
「……っ!」
ミチルの言葉に、由雉が思わず目を見開く。
「……っ」
唇を噛み締め、目を細めたその由雉の瞳から、溢れ出るように涙がこぼれた。
「…………“母さん”っ……」
「……っ」
そっと呟いた由雉を、ミチルが力いっぱい抱きしめる。
『……。』
その光景を穏やかな笑顔で見つめる輝矢たち。
「これ以上の“幸せ”はありませんね……」
「ああっ……」
「せやなぁっ」
こうして、幸せの街での戦いは終わりを告げた。
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