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第3章 サイ蔵法師サマ御一行 ☆4
「うぅ〜んっ……」
 無残に破壊された、街のとある家を眺めながら、気難しい表情で唸り声を発している輝矢。もう日が暮れ始めており、街にはオレンジ色の光が差し込んでいる。

「鬼爪で攻撃されたというよりはハンマーか何かでバッコォンとやったような感じですねぇ〜」
「そうだなぁ〜」
 輝矢の言葉にハチが頷く。
「井戸水汚しも食料泥棒も鬼人がやったにしては細かいっつーかショボいっつーかだったしっ」
「次は畑ですねぇ〜」
 色々と考えながら、輝矢とハチは畑へと移動していく。


「いっづもいづもあんがとぉ〜ごぜぇ〜ますだぁ〜門貴さぁ〜ん」
「いいってことよぉ〜っ!」
『……?』
 畑へと着いた輝矢とハチが、聞こえてくる声に気づく。

「あれはっ……」
「んっ?ああっ!かっぐやぁ〜んっ!!」
 畑の前で老婆と話していたモンキが、輝矢に気づき、笑顔となって駆け込んでくる。

「はいっ?」
「んぐっ!」
 嬉しそうに飛び込んできたモンキを、顔面から足で受け止める輝矢。

「ほいっ」

――バァァァァーーンッ!

「ぐへぇぇっ!!」
 輝矢がそのまま足でモンキを地面へと押し付ける。カエルが苦しんでいるような変な声を出すモンキ。

「そんなっ……お転婆なお前もっ……好きやっ……ぐふっ……」
「アホかっ」
 輝矢の足の下で力尽きるモンキを見て、起き上がったハチが呆れた顔を見せた。

「でもでもぉこんなとこで会えるやなんてっ、二人の運命やったりしっちゃったりしっちゃっとうっ!?」
「しちゃってません」
 輝矢の足の下でモジモジと動きながら浮かれきったことを言っているモンキに、きっぱりと答える輝矢。

「つーかお前、こんなトコで何やってんだよぉ?」
「へっ?」
「門貴さんはぁ、鬼人に荒らされたぁ〜ウチの畑を直すのを手伝ってくれてるんでずぅ〜」
「手伝いっ?」
 畑の方からやってきたのは、皺の目立つ小柄な老婆であった。老婆の言葉にハチが目を丸くする。

「このサルがぁ〜?」
「ええぇ〜、私はこの通り、もう体が動きませんのでぇ〜ひんじょ〜に助かっておりますぅ〜」
「まぁ困った時はお互い様やからなっ!」
 モンキが笑顔を見せて立ち上がる。

「人助けはしちゃう性質(たち)っ……こんな俺ってどおっ!?輝矢んっ!」
「別にどうでも」
「ううっ……」
 輝矢の淡白な反応に悲しむモンキ。

「お陰様でぇ〜もうほっとんど元通りになってきますたぁ〜ほんどに門貴さんはすばらしいお猿さんです〜」
「えへへっ」
「そうですかぁ?」
 老婆の言葉に、照れるモンキとあまり納得していない表情で返す輝矢。



「じゃあ婆ちゃんっ!明日もくっからなぁ〜っ!」
「どうもぉ〜」
 モンキがいるところで詳しい話も聞けぬまま、モンキとともに畑を去る流れとなった輝矢とハチ。


「へっ?他の被害者んトコにも手伝いに行ってんのかっ?」
 道中、モンキの話を聞いていたハチが、驚いたように声を出した。

「おうっ!俺、身軽やしわりと何でも器用にこなすねんでぇっ?」
 モンキが得意げな笑顔で話を続ける。

「けど街のオブジェだけはどうにも直せんでなぁ〜」
 急に難しい表情を見せるモンキ。

「あっのオブジェ作ったヤツとは、どうも芸術的センスが噛み合ってへんみたいやね〜んっ」
「つーかお前に芸術的センスがねぇーだけだろうがっ」
 考え込むように腕組みをするモンキに、ハチが突っ込みを入れる。

「せやけど鬼人も酷いことしおうよなぁ〜」
「えっ?」
「みんなが大切にしとうもん、平気で壊してっ……許せへんわっ」
「……っ」
 その時のモンキの表情からは本当に鬼人に対する怒りが感じられ、ハチは少し戸惑うようにモンキを見つめた。

「まっ!せやから師匠の弟子になってんけどなぁっ!」
「そうっ……なのかっ……?」
 今度は曇りない笑顔を見せるモンキに、ハチが少し言葉を詰まらせながらも聞き返す。

「おうっ!俺がなぁ〜んもなくって腐っとった時に、師匠が言うてくれてんっ」
 モンキが笑顔で話を続ける。

「“お前は人々の役に立つために生まれてきたおサルや”ってっ!」
「……っ」
 輝いた笑顔を見せるモンキに、驚いたように目を見開くハチ。まっすぐな、そして完全にサイ蔵のことを信じきっている目。このモンキが鬼人の振りをして街人の大切なものを破壊することなどできるだろうか。

「おいっ、アイツが鬼人のでっちあげなんかしてると思うか?」
「サルは見かけによりませんからね」
「けどよぉ」
「おっ!あれやでぇ〜っ!街のオブジェっ!」
『……っ?』
 モンキについて小声で会話をしていた輝矢とハチが、モンキの大きな声に振り向く。

「あれっ?」
「……。」
 街の中央に、無残に破壊されて倒れている像。その前で、悲しげな表情のイカ吉が1人、佇んでいた。

「……?お前たちっ……」
 やって来た輝矢たちを見て、表情をしかめるイカ吉。

「なんやっ!ボーズぅ〜っ!もう暗なんのに一人で出歩いとったら危ないでぇっ?」
「……っ!門貴さんっ!?」
 明るく声をかけるモンキを見て、イカ吉が急に目を輝かせる。

「門貴さんっ!?門貴さんだよねっ!サイ蔵様の弟子のっ!」
「えっ?あっああ〜そうやけどぉっ?」
「ボクっ!超ゲキマジ本イキスペシャルファンなんですっ!」
 輝いた目をモンキに向け、熱く語るイカ吉。

「如意棒操る姿とか最高にカッコ良くてっ!それでめっちゃくちゃ強くってっ!」
「そんなぁ〜照れるなぁ〜っ」
 誉めまくるイカ吉に、嬉しそうに頭を掻くモンキ。

「ボクっ!大きくなったら門貴さんみたいな強いサルになりたいんですっ!!」
「俺たちへの態度とはまるで違うな」
「というかサルにはなれないでしょう、イカは」
「いや、タコだって」
 輝矢たちへの冷え切った態度とは一転して、何とも嬉しそうに語るイカ吉に不満の声を漏らす輝矢とハチ。

「おぉーうおうっ!いいボーズやぁ〜っ!お前ならきっとなれるでぇっ!俺みたいなサルにっ!」
「ホントっ!?」
「だからサルにはなれませんて、イカは」
「いや、だからアイツはタコだって」
 イカ吉の頭を撫で、少しカッコつけながら言うモンキ。さらに目を輝かせるイカ吉を見ながら、輝矢とハチはくだらない会話を繰り返す。

「おぉ〜いっ!退治屋ぁ〜っ!」
『……?』
 聞こえてくる声に振り向く輝矢とハチ、そしてモンキ、イカ吉。街の中央から畑の方へとやって来るのは、ゴンと羊スケであった。

「何かわかりましたか?ゴンザレス」
「偉そうに聞くなぁ!そして俺はゴンだぁっ!!」
 輝矢の問いかけに、怒声のみを返すゴン。

「やっぱり街人で実際に動いてる鬼人見たって人はいなかったっスよぉ〜輝矢さんっ」
「あっさり報告すんなっ!てめぇーもぉっ!」
「みんな、サイ蔵が倒した後の残骸しか見たことないそうっス。それもすぐ砂になっちゃったって」
「やはりそうですか……」
 羊スケからの報告を受け、ゴンのことは無視して、考え込むように俯く輝矢。

「門貴、少し聞きたいことがあるのですが」
 顔を上げて輝矢がモンキの方を見る。

「何々っ!?俺が動物占い何やとかっ!?」
「いえ、まったく興味ないです」
 嬉しそうに勢いよく聞き返すモンキ。

「アナタ方がこの街で倒してきたという六匹の鬼人のことなんですが」
「へっ?鬼人?」
 輝矢の問いかけにモンキが目を丸くする。

「レベル・形態、その他特徴を教えていただけますか?」
「へぇ〜っ?」
 さらに目を丸くするモンキ。

「さぁ〜っ?」
「さぁってお前っ、見たことくらいあんだろっ!?」
 大きく首をかしげるモンキに、横からハチが強い口調で問いかける。

「いっやぁ〜俺っ、いっつも寝とって、その間に師匠たちがちゃっちゃと倒してまうからさぁ〜」
「はぁっ!?」
「えっ……?」
 モンキの言葉に顔を引きつるハチと戸惑いの表情を見せるイカ吉。

「じゃっ……じゃあっ!お前っ、鬼人見たことないのかっ!?」
「おうよっ!師匠がなぁ、“お前はいざという時のために力を温存しとけ”てさぁっ!」
 モンキが誇らしげに語る。

「まぁそんだけ、俺への期待がデカいっちゅーこっちゃなぁ〜っ!うんうんっ」
「なっ……」
 満足そうに頷いているモンキを見ながら、唖然とした表情を見せるハチ。

「おいっ、まさかアイツ、本当に何も知らないんじゃっ……」
「有り得ますね。あのサル結構強いですから、本当に鬼人が現れた時のために仲間にしておいたのかも」
「ええ〜?何々っ?」
 小声で話している輝矢とゴンに、陽気に話しかけてくるモンキ。

「そんなっ……」
 イカ吉がショックを受けた様子で俯く。

「もうこうなったらサイ蔵の所へ行って直接っ……」
「サイ蔵様は悪いヤツなんかじゃないっ!!」
「えっ?」
 輝矢の言葉を遮って、大きな声をあげたのはイカ吉であった。

「やっぱりお前たちは悪いヤツだっ!悪いヤツだからサイ蔵様を追い出そうとしてるんだっ!」
「あのなぁ、俺らは根拠があっからこうしてぇっ……!」
「お前たちなんかサイ蔵様にやっつけてもらうっ!!」
「ああっ!おいっ!」
 ゴンが止めるのも聞かず、どこかへ走り出して行ってしまうイカ吉。

「参ったなぁ〜」
「何、わめいてたんやぁ〜?あのボーズ」
 困ったように頭を掻くゴンの横で、状況をまったく飲み込めていない様子で首をかしげるモンキ。

「でもサイ蔵んとこに行ったんならマズいなっ……おいっ!サルっ!俺らをサイ蔵んとこまで案内しろっ!」
「いっややねぇっ!だいったい誰も連れてくんなって師匠に言われてんねんっ!」
 ハチの言葉を、あっさりと断るモンキ。

「頼みます、サル」
「喜んでいっ!!」
「おいっ!!」
 輝矢の頼みにはあっさりと頷くモンキに、ハチは不機嫌な顔で声を荒げた。


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