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第3章 サイ蔵法師サマ御一行 ☆3
 街のすぐ外。“実りの森”。

「これはっ……」
 愕然とした表情で呟くハチ。
「……。」
 輝矢も厳しい表情を見せている。二人の前に広がっていたのは、森の一部の木が切り落とされた、無残な光景であった。

「実りのっ……!実りの木がっ……!!」
「もうすぐ実がなる予定だったのにっ……!」
「……っ」
 後方にいる街人から漏れる嘆きの声に、ハチが少し振り返って目を細める。

「でも一体、どうしてっ……」
「鬼人じゃな……」
「えっ?」
「そんなっ……!」
「きゃあああっ!!」
「……っ」
 サイ蔵の言葉に驚くハチであったが、街人たちはもっと驚き、怯える者・悲鳴をあげる者が多く出た。混乱状態に陥る街人を見て、ハチが慌てたようにサイ蔵の方を見る。

「おいっ!あんたっ!そんな適当なことっ……!」
「適当ではないっ!」
「……っ!」
 強く言い放つサイ蔵に、ハチは思わず言葉を止める。

「わしは鬼人の気配が読める。鬼人はまだこの近くにおるっ!」
「気配がっ……?」
 サイ蔵の言葉に戸惑うように呟くハチ。

「ああ〜そういえばぁ、私たちも退治屋なんですぅ〜」
『……っ?』
 ハチとサイ蔵の間に割って入ってくる輝矢に、ハチとサイ蔵が不思議そうに振り向く。

「姉ちゃん、退治屋なんっ!?まっすますスッテキぃ〜っ!」
「退治屋……?お主らもっ……?」
「ええっ」
 盛り上がるモンキを無視し、顔をしかめるサイ蔵と、あっさりと頷く輝矢。

「でぇ、私も鬼人の気配が読めるんですがぁ」
「えっ!?おっ……おいっ、お前、気配なんてこれっぽっちも読めねぇーじゃねぇーかよっ」
「こうゆうのはノリです、ノリっ」
「ノリって……」
 サイ蔵たちには聞こえないよう小声で囁くハチに、輝矢が適当に答える。輝矢の答えに呆然とするハチ。

「気配が読めると……?」
「ええっ、でも私の方はまったく気配感じないんですよねぇ〜」
「……っ」
 輝矢の言葉に眉をひそめるサイ蔵。

「何でですかねぇ〜」
「……。」
 サイ蔵に笑顔と鋭い瞳を向ける輝矢。サイ蔵が険しい表情を見せ、河童の方を振り向くと、同じく険しい表情を見せていた河童が小さく頷いた。

「おいおいおいっ!何だぁ〜?てめぇーっ!サイ蔵様に文句付けようってのかぁ!?」
「……?」
 どこのヤクザかというくらい人相と態度悪く、サイ蔵を庇うようにして前へと出てくる河童とブタ。河童が輝矢を見下すように見る。

「お前らも退治屋とか言ってけど、怪しいなぁっ」
「ああっ!?」
 輝矢とハチをじろじろ見ながら言う河童に、ハチが顔をしかめて声をあげる。

「もしかしてお前らが鬼人なんじゃねぇーのぉっ?」
「そうだブヒっ」
「んだとっ!?ふざけんじゃねぇっ!」
「せやせやっっ!!薄汚いイヌはともかく、こぉ〜んなかわゆい鬼人がおるわけないやろぉっっ!!」
「だっれが薄汚いだぁっ!!」

――ざわざわざわざわっっ……!

「……っ!」
 急にざわつき始める街人たちに、モンキと言い争っていたハチが思わず言葉を止める。

「鬼人っ?そういえば何となくっ……」
「人の振りをして街に入り込んだんじゃっ……」
「来る前にここの木を切ってきたのかもっ……」
「なっ……何だよっ……」
 一斉に向く疑いの目に、戸惑うように後退するハチ。輝矢も厳しい表情を見せる。

「お前らがやったんだろっ!!」
「そうだっ!お前らが鬼人なんだっ!!」
「ちげぇーよっ!俺たちはっ……!」
「最早、どちらが正しいかは一目瞭然じゃなぁ……」
「うっ……!」
 街人たちを味方に付け、輝矢たちを追い詰めるサイ蔵。サイ蔵が2人に冷たい目を向ける。

「ええ〜そんなぁ〜」
「お前、どっちの味方してんだよっ」
 追い詰められていく輝矢とハチに、悲しげな顔を見せるモンキ。そんなモンキに河童が突っ込みを入れる。

「仕方ありません。ここは全員、ハッ倒して突破を……」
「一般市民を殺す気かっ!お前はっ!」
 真剣な顔をして言う輝矢に、ハチが追い詰められながらも全力で突っ込む。

「にしてもどうしたらっ……」
『退治しろぉっ!!』
「どわあああっ!!」
「おぉーうっ!退治屋のガキどもじゃねぇーかぁっ!」
「へっ……?」
 街人が輝矢とハチに飛びかかろうとした、ちょうどその時、聞こえてきた一つの声。ハチが目を丸くして顔を上げ、飛びかかろうとしていた街人も皆、振り向く。


「あっ!ホントっスねっ!おぉ〜いっ!輝矢さぁ〜ん、ハチくぅ〜んっ」
「何やってんだぁ〜?んなとこでっ」
「ごっ……ゴンっ……羊スケっ……」
 皆が振り向いた先の道にいたのは、この前の羊の国での鬼人騒ぎで出会った、ゴンと羊スケであった。二人は目立つ黒いオープンカーに乗っている。

「おっおいっ、あれっ、オトポリの制服じゃっ……」
「オトポリと知り合いってことはっ……」
「それに今、確かに退治屋って……」
 街人の疑いの目が徐々に消えていく。

「たっ……助かったっ……」
「ふぅっ……」
「あっ?何だ?」
 肩を落として息をつく輝矢とハチに、ゴンは大きく首をかしげる。

「ほお……オトポリの方々と知り合いであるほどの退治屋の方じゃったかぁ」
 サイ蔵は妙に企んだような笑みを浮かべながら、輝矢たちを見た。

「どうじゃ?ここは一つ、わしらと勝負せんかぁ?」
「勝負……?」
 サイ蔵の言葉に、首をかしげる輝矢。

「ああ、先に鬼人を見つけ退治した方が勝ち。負けた方は退治屋を止め、即刻この街を出る……というものじゃ」
「いいですよぉ〜」
「ええっ!!?」
 あっさり返事をした輝矢に、ハチは大きく驚いた。




 数時間後。

「はぁ〜助かったぁぁ〜〜っ…」
 力の抜けきった様子で呟くのはハチである。

「あのタイミングでゴンたちが来なかったら、俺ら鬼人として退治されちまってたぜぇ〜……」
「ほぉ〜んとゴンザレスが役に立つこともあるんですねぇ〜明日は雨でしょうかぁ〜」
「どういう意味だっ!こらっ!そして俺はゴンザレスじゃねぇっ!ゴンだっ!!」
 安心しきっているハチの横で、明日の天気を心配しながら窓の外を見る輝矢に、ゴンが思い切り怒鳴りつける。街人たちに鬼人と疑われ、退治されそうになった輝矢たちであったが、都合よく現れたゴンたちのお陰で誤解も解け、難を逃れたのである。

「いっやぁ〜俺は信じてたよぉ〜っ!君たちのことっ」
「ウソつけぇっ!思いっきり疑いの目向けてたじゃねぇーかぁっ!!」
 軽い口調で言いながらハチの足のつぼ押しをしているのは、先ほど街の入口で出会った男・タコ吉。誤解の解けた輝矢たちは、とりあえずタコ吉の店で休むことにしたのである。

「だってぇ〜サイ蔵様が仰ったことだしさぁ〜」
「だってじゃねぇーよっ!」
「サイ蔵法師っスかぁ〜」
「……?」
 しみじみ呟く羊スケに、ハチが首をかしげる。

「羊スケ、あのじいさん、知ってんのかっ?」
「知ってるっスよぉ〜サイ蔵法師様御一行って、オトポリ内でも結構有名な退治屋っスからぁ〜」
 オトポリ。正式名称:御伽警察。対鬼人用に形成された組織で、ゴンと羊スケはオトポリの警官なのである。

「この街以外にも、鬼人の被害に遭ってたところをサイ蔵たちに救われたって街がいくつかあるんスよ」
「へぇ〜やっぱスゴいじいさんなのかぁ」
「どうだかなぁ」
「えっ?」
 感心していたハチが、横から口を挟んだゴンの言葉に目を丸くする。

「どうだかなって?」
「どの街にしたってそうだが、ヤツらが倒したってゆーわりに、鬼人の目撃情報が出てなさすぎなんだよ」
 ハチの質問に、曇った表情で答えるゴン。

「それにっ……」
「それに被害状況も妙ですしね」
「そうそうっ……って、俺が言おうとしたこと言うんじゃねぇーよっ!!」
 ゴンに変わって言葉を続けたのは、珍しく真面目な顔をしている輝矢であった。先に言ってしまった輝矢を非難するゴン。

「妙って?」
「タコ吉さん、この街で起こった鬼人の被害をすべて教えていただけませんか?」
「ええっとぉ、ペットいじめ、畑荒らし、食料泥棒、井戸水汚し、屋根瓦割り、街のオブジェ破壊っ」
 ハチの足つぼマッサージをしながら、次々と思い出していくタコ吉。

「そんで最後が今日の森の木切り倒しっ」
「どう思います?」
 輝矢がマッサージを受けているハチに問いかける。

「どうって酷いことすんなぁとしかっ……」
「はぁっ……」
「何かムカつくなっ!その溜め息っ!!」
 ハチの答えを聞いて深々と溜め息をつく輝矢に、ハチが顔をしかめる。

「確かに酷いことは酷いですが、鬼人がやったにしてはショボすぎるんですよ」
「ショボい?」
 輝矢の答えに戸惑うように首をかしげるハチ。

「ええ、簡単に言うと私にもできるってゆーか」
「お前は基準にならんだろうがっ」
 輝矢の例えに突っ込みを入れるハチ。

「今までの鬼人は皆、国主を殺して国を乗っ取ろうとしていました」
「ん〜確かにっ……」
 考えるように俯くハチ。今までの鬼人は二匹とも国に周到に潜入し、国主の命を狙っていた。それに比べると、今回この街に現れている鬼人は確かに妙だ。

「短期間でそう何度も鬼人が出るのも妙っスしねぇ〜」
「こんな国主もいない雑種の街を狙うのは一層変ですよ」
「じゃあもしかしてっ……」
「あれかぁっ!この地方に出る鬼人はちょっと変わってるっつーことかぁっ!」
『……。』
 すごいことを思いつきましたと言わんばかりに輝いた笑顔を見せて言い放つゴンに、皆が呆然と固まる。

「じゃあもしかしてっ……」
「ええ、サイ蔵は……」
「サイ蔵様は御伽界で一っ番強くって、一っ番優しい退治屋だぁっ!!」
『へっ?』
 気を取り直して話を続けようとした輝矢とハチが、横から聞こえてくる幼い声に振り向く。

「あっ……お前っ……」
「……っ」
 輝矢とハチに鋭い瞳を向けているのは、先ほどのサイ蔵に人が集まっていた時に、サイ蔵にサインを求めていた白髪の少年であった。

「イカ吉っ!」
「知り合いか?」
 少年の名前を呼んだタコ吉に、ゴンが問いかける。
「弟ですっ」
「イカなのにっ!?」
「アイツ、名前はイカですけど、立派な蛸人ですよぉ〜っ!」
「イカなのにっ!?」
 笑顔で説明するタコ吉に、繰り返し驚くゴン。

「サイ蔵様の悪口を言うなんてっ……!やっぱりお前たち、悪いヤツじゃないのかっ!?」
「おっおいっ!イカ吉っ!」
 輝矢とハチを指差して責めるイカ吉を、タコ吉が慌てて止めに入る。

「この人たちはなぁっ!あぁ〜のオトポリも認める優秀な退治屋でぇっ……!」
「オトポリっていったってっ……!このお兄ちゃんっ!どう見ても悪役面じゃないっ!」
「んなっ……!!」
『プっ!』
 イカ吉にその悪役面を指差され、思い切り顔を歪めるゴン。その光景にハチと羊スケが思わず吹き出す。

「何笑ってやがんだぁっ!てめぇーらぁっ!!」
「怒らない怒らないぃ〜さらに悪役面になるっスよっ!ゴンさんっ!」
「てめぇーっ……」
 宥めているのかバカにしているのかわからない羊スケに、ゴンは静かに拳を握り締める。

「お前たちなんかっ!サイ蔵様にこってんぱんに負けちゃえばいいんだっ!!」
「イカ吉っ……!」
 タコ吉が止めるのも聞かず、そう言い放ってイカ吉が家を飛び出していく。

「すみません〜〜」
「ホント小憎たらしい弟さんですねっ」
「おいっ!」
 笑顔で冷たく言い放つ輝矢に、ハチが突っ込みを入れる。

「あの子、街のオブジェが大好きだったんですよぉ〜それを鬼人に壊されちゃってから酷く落ち込んでっ」
 イカ吉のフォローを入れるようにタコ吉が話し出す。

「そこをサイ蔵様に救ってもらったんです……」
『……。』
 タコ吉の穏やかな笑顔に、真剣な表情を見せる一同。

「あの子にとって……サイ蔵様は英雄なんですよ……」
「英雄っ……か……」
 大切なものを壊され、その壊した悪いヤツを退治してくれたサイ蔵は、イカ吉にとって何よりも絶対的な存在なのかも知れない。ハチが少し気難しい顔を見せる。

「完っ璧、アウェイだよなぁ〜けど勝負に負けるわけにはいかねぇーしっ」
「何故です?」
「おっ前が“負けた方は退治屋やめる”なんて勝負、あっさり受けたからだろーがぁっ!」
「ああ、ノリで返事したアレですか」
「ノリで退治屋生命賭けたのかっ!?お前はっ!」
 暢気この上なく答える輝矢に、マッサージ中でありながら全くリラックスできないハチ。

「ったく、どうすんだよっ!もしアイツらがでっちあげた鬼人なら、退治のしようなんてないしっ」
「そうですねぇ〜」
 輝矢が少し考え込むように俯く。

「とにかく鬼人の被害に遭った場所でも回ってみますかぁ〜」
「まぁこのまま考えててもしょうがねぇーしなっ」
 輝矢がゆっくりと立ち上がると、ハチもタコ吉のマッサージを終えて立つ。

「ゴンザレスとヒツジは街の方への聞き込みお願いします」
「おうっ!任せとけっ!」
 ゴンの爽やかな返事に見送られ、タコ吉の店を出て行く輝矢とハチ。

「って何で俺様がアイツにコキ使われなきゃいけねぇーんだよっっ!!」
「一回返事しちゃったことに文句付けないで下さいよぉ〜」
「そして俺はゴンザレスじゃねぇっ!!」
 ゴンの怒声とともに、輝矢たちの調査が始まった。





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