第3章 サイ蔵法師サマ御一行 ☆1
「だっはぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っっ……」
力の抜けきった何とも情けない声を出すのは、ひたすら続く山道をゆっくりと4つ足で歩くハチ。声だけでなく、その顔も力の抜けきった何とも情けない顔である。
「そんなにダハダハ言ってるとエリマキトカゲになってしまいますよ、ハチ」
「何故にっ!?」
涼しげな表情で前を歩いていく輝矢の言葉に、大きく反応するハチ。
「つーかさぁ、羊の国出てからロクに飯食ってねぇーしっ……イヌの俺でもキツいってぇ〜」
「まだ3日じゃないですか。私なんていつも1ヶ月はロクにご飯食べてませんよぉ?」
「やっぱ俺に旅って無理だったのかな……」
輝矢の笑顔に、ハチが自信を失う。
「そんなにお腹が空いているのなら、先ほど見かけた山小屋の老夫婦宅へ押し入って食料をっ……」
「頼むから、人の道に反することは止めてくれ……」
卑劣極まりないことを言う輝矢に、ハチがやつれた表情で願う。
「だっはぁぁぁぁ〜〜っっっ……って、ああっっ!!」
「えっ?」
エリマキトカゲになっていたハチが何かを見て大声をあげる。
その声に驚き、ハチの見ている方を見る輝矢。
「バナナっっっ!!!!」
森のとある木に違和感たっぷりに生っている一房の黄色いバナナ。
「何故、このような森にバナナが?」
「神のお導きだぁぁっっ!!!ひぃぃやっほぉぉぉーーうっっっ!!!」
「あっ」
輝矢の疑問を完全に無視し、バナナの生っている木へと飛び出していくハチ。
「いっただっきまぁぁぁぁぁーーーーっっ……!!」
「おおっとっ」
「のわあああああああああああっっっ!!!」
「ハチっ」
バナナに飛びつこうとしたハチが、横から出てきた影に地面へと突き落とされる。
――――ドッスゥゥゥゥゥゥーーーンッッッ!!!――――
「痛つつつつつつつっ……」
「ハチ、もしやショックで私との美しい思い出をすべて忘れてしまったのでは?」
「大してねぇーだろっ!思い出っっ!!」
地面に落下したハチが、輝矢の言葉に割りと元気よく怒鳴りながら起き上がる。
「ったく誰だぁぁぁっっ!!!こんなマネしやがったのはっ……!!って、うえっっ!!?」
上を見上げたハチが、大きく目を見開く。
「サル……」
「サルぅぅぅぅっっ!!!?」
「よぉーうっ!」
木の枝の上に自然と立ち、ハチが獲ろうとしたバナナの房を抱えて、下にいる輝矢とハチに笑顔で手を上げたのは、何とも可愛らしい茶色の子ザルであった。
話しているところを見ると、“猿人”のようである。
「“よう”じゃねぇっ!!お前なぁっ!いっきなり人っ……いやっ、イヌを突き飛ばして一体っ……!」
「お前が俺のバナナ獲ろうとしたからやんかぁ〜ワンコっ」
「ああっ!?」
サルの小ばかにしたような笑みに、顔を引きつるハチ。
「俺のって、それは生ってたバナナだぞっ!?見つけたもん勝ちだろっ!?」
「それを言うなら獲ったもん勝ちやろぉ?何なら獲ってみるかぁ?」
サルがハチを挑発するかのように、ハチの方へとバナナをひけらかす。
「よぉぉーーしっ!!臨むところだぁぁっっ!!獲ってやろうじゃねぇーかぁっっ!!」
怒りを全面に押し出して、木の上にいるサルへと飛び出していくハチ。
「どりゃああああああっっっ!!!!」
「もぐもぐっ」
飛び出してくるハチを見ながら、素早くバナナを1本、皮を剥いて食べる。
「ぽいっ」
「へっ?」
木の上へと4つ足で器用に登っていっていたハチの足元を目がけて、サルが食べ終えたバナナの皮を落とした。
――――つるんっ……!――――
「だあああああああああっっっ!!!!」
バナナの皮に足を滑らせ、見事に木から落下していくハチ。
――――ドッスゥゥゥーーーンッッッ!!!!――――
「ぐへぇぇぇっっっ!!!」
地面に全身を打ちつけ、死んだような声を出すハチ。さすがに本日2度目の落下はきいたようである。
「イヌも木から落ちるってやつですね」
特に手を貸すわけでもなく、冷静に呟く輝矢。
「どうやら俺の勝ちみたいやなぁ〜っ!ほなっ、バナナは貰ってくでぇっ!ワンちゃんっ」
「かっ……!」
「じゃっあにぃ〜っ!」
余裕の笑みを浮かべて、素早く木を飛び移り、どこかへと去っていってしまうサル。
「何じゃあっ!!あのサルわああああっっっ!!!!」
力の限り叫ぶハチ。
これが今回の事件の、そもそもの始まりであったのである。
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