第2章 ヒツジが1匹、キツネも1匹? ★6
「ああっ!!あっの退治屋のガキっ!俺様の戦いっぷりを見てろっつったのにっ!」
戦いを始める輝矢に、不満げな叫びをあげるのは、羊スイに火傷の治療をしてもらっている最中のゴン。いつの間にか人の姿に戻っている。
「ったくっ!これだっから素人はっ……!」
『……っ!』
文句を叫ぶゴンの前で、戦いを繰り広げる輝矢とメェ蔵。
「……。」
目にも留まらぬ速さで互角に斬り結ぶ輝矢とメェ蔵に、偉そうに文句を言っていたゴンがどんどん目を見張らせていく。
「輝矢さん、強いっスねぇっ。ゴンさん以上じゃないっスかっ?」
「ああっ、そうだなっ……って、そんなわけあるかぁっ!!」
「痛っ!一回、頷いたじゃないっスかぁ〜っ!」
またしても殴ってきたゴンに、今度は不満げな顔を見せる羊スイ。
「“鬼爪”っ!!」
「三日月っ」
――……………………っ!!
一歩も譲り合うことなく、同等の力でぶつかり合う輝矢の三日月とメェ蔵の鬼爪。
「やるなぁっ……小娘っ……」
メェ蔵が不適な笑みを浮かべる。
「だがっ、これならどうだぁっ!?」
「……っ!」
再び輝矢へ向けて大きく口を開くメェ蔵。
「マズいっ!さっきの炎だっ!」
桜時が思わず立ち上がる。
「“鬼炎”っ!!」
「クっ……!」
メェ蔵の口から放たれた真っ赤な炎が輝矢へと迫り来る。輝矢は表情をしかめ、一瞬考えた後、すぐさま炎に三日月を向けた。
「“月器・十六夜”っ!」
三日月が満ちていき、ほぼ円形の大きな金色の盾・十六夜へと姿を変える。
「そうかっ!アイツにはあの盾があったんだっ!」
諦めかけていた暗い表情を、一瞬で笑顔へと変える桜時。
「十六夜っ」
「何っ!?」
――バァァァァーンッ!
輝矢が十六夜で鬼炎を真正面から受け止める。その様子に眉をひそめるメェ蔵。
「よぉーしっ!この前みたいにそのまま跳ね返しちゃっ……!」
「うっ……!」
「えっ…?」
調子よく応援していた桜時の表情が、十六夜を構えている輝矢の表情とともに曇る。
「十六夜っ……!」
鬼炎の力に溶け出す十六夜。輝矢が少し驚いたように目を見開く。
「ふわぁーっはっはっはっ!我が炎は無敵よぉっ!!」
その光景に勝ち誇ったように笑いあげるメェ蔵。
「このまま盾ともども、我が鬼炎に燃やし尽くされるがいいっ!!」
「クっ……!」
メェ蔵の言葉に表情を引きつった輝矢が、十六夜を振り上げる。
「“月器・三日月”っ!」
――バァァァーンッ!
「ううぅっ!!」
「ああっ……!」
輝矢が十六夜を三日月に変えるとともに、輝矢を襲う鬼炎。輝矢も自ら後方に飛び、直撃を何とかかわしはしたが、炎の威力に吹き飛ばされ屋敷の壁に背中を打ちつけた。桜時が思わず身を乗り出す。
「ふはっはっはっはっ!!とうとう終わりのようだなぁっ!小娘っ!」
「ううっ……」
座り込んだままの輝矢を見て、愉快な笑みを浮かべるメェ蔵。
「チィっ!こうなったら俺様がっ……!」
「ゴンさん出てったって足手まといなだけっスよぉ〜っ!!」
「何をぉっ!?」
飛び出していこうとするゴンを必死に止める羊スイ。
「あの盾でも止められないなんてっ……もうっ……」
打ち付けた痛みを表情に見せている輝矢を見ながら、諦めたように呟く桜時。
――カランっ……
「……?」
思わず後退した桜時の足に、何かが当たる。
「……っ」
それは、孔雀から授かった父の刀・“村雨丸”であった。人化した時に、背負っていたものが落ちたのであろう。
「村雨丸……」
――父親を探すというのなら、少しは手がかりになるかも知れないわね……――
「……。」
そう言って孔雀が与えてくれた。いつも桜時のことを蔑んでばかりで、桜時の存在を決して認めようとしなかった孔雀が、桜時と正面から向き合ってこの刀を与えてくれた。
――俺っ!羽ばたきたいっ!羽ばたいていきたいんだっ!――
そう自分から言ったのだ。もう決意して、羽ばたき始めたのだ。迷っていては、飛んでいけない。
――私には確かに見えますよ?――
「……っ」
桜時が素早く地面に落ちていた村雨丸を拾い上げる。
――アナタが背に、その翼が……――
「……っ!」
桜時が決意した表情で顔を上げた。
「どゅわぁーっはっはっはっ!我が炎はステキっ!無敵っ!快適だぁっ!!」
「ああ〜痛いっ……耳も痛いっ……」
背中を押さえながらゆっくりと起き上がる輝矢。高らかと笑うメェ蔵の大声に、多少顔をしかめる。三日月は少し焼け焦げ、三日月を持っている右手首にも火傷を負っていた。
「ほぉぉぉ〜まだ立ち上がるとは大したものだなぁ、小娘っ」
「どうもっ」
手首の火傷に懐から出した手ぬぐいを巻きながら、輝矢が適当に返事をする。
「レベル三はさすがにキツいですねぇ……この力はあまり使いたくありませんでしたがっ」
「んっ?」
火傷にとりあえずの処置をして、再び三日月を構える輝矢に、メェ蔵が眉をひそめる。
「その目……まだ諦めてはいないようだなぁ」
「ええ」
輝矢が大きく頷く。
「今からアナタの炎を打ち砕いて差し上げようかと思いまして」
「何っ……?」
輝矢のその言葉に、メェ蔵が少し表情を引きつる。
「打ち砕くだとぉ?我がステキにして無敵にして快適な炎を」
「ええ、アナタのスブタにして無糖にして海鮮丼な炎を、です」
「旨そうだなっ」
「何、リアル妄想してんスかぁ〜?」
興味深く呟くゴンに、羊スイが呆れた表情で突っ込んだ。
「なるほどっ……」
少し唇の両端を上げるメェ蔵。
「やれるものならやってみろぉっ!!」
「……っ!」
怒ったようにそう叫び、メェ蔵が輝矢へ向けて大きく口を開く。三日月を両手で持ち、縦に構える輝矢。
「“月器っ…!」
「“鬼爪・天回”っ!!」
「えっ?」
月器を変形させようとした輝矢に対し、メェ蔵が放った攻撃は鬼炎ではなく鬼爪。
「きったねっ!アイツ、賭けに乗ったフリしてっ……!」
ゴンが思わず声をあげる。
「クっ……!」
飛んでくる十本の爪に、輝矢が焦りの表情を見せ、月器を構え直そうとする。
「そのまま構えてろっ!」
「えっ?」
上空から聞こえてくる声に、輝矢が顔を上げる。
「……っ」
輝矢の上を舞う、桜時の姿。
「村雨丸っ……」
桜時が空中で鞘から村雨丸を抜く。姿を現す透き通るように美しい刀を、桜時が振りかぶった。
「“瞬花”っ!!」
――パァァァーーンッ!
「……っ」
「何っ!?」
輝矢へと飛んできていた鬼爪が、一瞬にして桜の花びらへと変わり、散っていく。
「行けっ!!」
降下してきながら、輝矢へと叫ぶ桜時。
「輝矢っ!!」
「……っ」
呼ばれる名に輝矢が目を見開く。
「……っ」
輝矢は桜時へ向けて少し笑みをこぼすと、すぐにその表情を厳しくし、メェ蔵の方へと飛び出していく。
「チィっ……!」
向かってくる輝矢に、メェ蔵が顔を歪める。
「望み通りっ……!!」
メェ蔵が再び口を開く。
「灰にしてやろぉぉっ!!“鬼炎”っ!!」
「……っ」
輝矢へ向けて鬼炎を放つメェ蔵。輝矢が向かってくる炎へ、三日月を向ける。
「三日月っ……」
光を帯びていく月器。
「水月っ!!」
輝く三日月から放たれたのは、無数の水の刃。
「何っ!?」
メェ蔵が驚きの表情を見せる。
「水っ…」
無事、地面へと着地して目を見張らせる桜時。
「たかが水力にっ……!」
――パァァァァンッ!
「……っ!!」
輝矢の水月に、消し去られる鬼炎。
「俺の炎がっ……負けるだとっ……!?」
鬼炎を消し去った水月が、まっすぐにメェ蔵へと飛んでいく。
「ぎゃあああっ!!」
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