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第2章 ヒツジが1匹、キツネも1匹? ★4
 そして、その日・夜更け。

「んん〜〜っ……」
 羊スイに教えてもらった、怪しげな料理長・ゴンの自室の前を、壁に隠れながら見張っているハチ。時計も十二時を回り、重くなってくる瞼を何とか持ち上げながら、目を光らせている。

「んっ?」

――キィっ……

「……。」

「あれはっ……」
 扉を音を立てないように静かに開けて、部屋の中から現れたのはゴンである。厨房の時の白いコック姿とは違い、全身黒い服を身に纏っているところがいかにも怪しい。ゴンは辺りに人がいないかを用心深く確認してから、ゆっくりと部屋を出る。


「おっ……おいっ、ついにアイツ、動き出したぞっ……って……」
 ハチの振り向いた先にいるのは、ただの木。
「いねぇっ!あっ、あわわわわっ」
 一緒に見張っていたはずの輝矢の姿がなくなっており、思わず叫ぶハチであったが、ゴンに悟られてしまうので慌てて口を塞いだ。


「……っ」
 ゴンはどうやらハチの声には気づかなかった様子で、辺りを警戒しながらどこかへと歩き出していく。

「仕方ねぇっ……こうなったら俺だけでっ……」
 輝矢を探していて見失っては元も子もないと、ハチが静かにゴンの後をつけ始める。
「ったく、こんな肝心な時にどこいったんだよっ、アイツぅ〜っ」
 輝矢への文句を呟きながら、悟られないように適度に距離を離してゴンを追っていくハチ。ゴンは人気のいない廊下を進み、裏口から庭へと出る。
「外っ……?国主が狙いじゃねぇーのかっ……?」
 眉をひそめながら、ハチも続いて庭へと出る。


「あっ、ゴンさんっ!こっちこっちっ!」
「バッカヤローっ!でっかい声出すんじゃねぇーよっ!気づかれんだろーがぁっ!」
「いえっ……ゴンさんのんが十分でかいっス……」


「……っ?」
 ハチが裏口へと続く扉の陰に隠れながら、庭に出たゴンの様子を覗う。庭の木の陰に隠れていたらしき人物が姿を現し、どこか親しげにゴンに声をかけた。

「仲間……?なっ……!?」
 その姿を見せた人物に、思わず目を見開くハチ。
「羊スイっ……!?」
 そう、それはハチたちを案内してくれた、あの羊スイであった。しかし夕方に顔を合わせた時のゴンと羊スイの雰囲気とはどこか違う。


「どうっス?そっちの様子はっ」
「ああ、ついにシッポを見せやがったっ」
「へっ?」
 問いかけた羊スイに得意げに話すゴン。

「お前らグルだったんだなっ!」
「まんまとおびき出されやがったなっ!」
 同時に言いながら、扉の陰から飛び出していくハチと振り返るゴン。

『観念しろっ!!鬼人めっ!!』

――…………。

『って……ええっ!?』
 同じタイミングで同じ台詞を言い放ち、これまた同じタイミングで驚くハチとゴン。

「ハチ……くん……?」
 出てきたハチを見て、羊スイが首をかしげる。

「バッカ言ってんなよっ!てめぇーが鬼人だろーがぁっ!」
「ふざけんなっ!お前こそ鬼人だろっ!」
「鬼人でなけりゃあ、何でイヌがヒツジの国にいんだよっ!?」
「お前こそ、ヒツジだってんなら何でそんなにツリ目なんだよっ!?」
「ああっ!?」
 段々、くだらない言い争いになってくるハチとゴンの会話。

「あっのぉ〜っ……」
『ああっ!?』
「ひえぃっ!」
 遠慮がちに話しかける羊スイであったが、ハチとゴンに一遍に睨まれて、背筋を震え上がらせる。

「すみません、俺、帰るっス」
「帰んなっ!言いたいことがあんならとっとと言えっ!!羊スケっ!」
「はっはいっス!」
「羊スケ?」
 ゴンに強く言われた羊スイが、帰るのを思い留まる。ゴンが呼んだ羊スイの名に首をかしげるハチ。

「ハチくんは鬼人じゃないと思うっスよぉ?」
「何でだよっ?」
「だってぇハチくん、雀の朱実一族だしぃ〜」
「朱実っ!?」
 羊スイの言葉に、この上なく驚くゴン。

「マジかっ!?」
「マジだよっ」
 ゴンの問いかけに、ハチがどこか不機嫌面で答える。

「おいっ!羊スケっ!何っで、んな大事なこと、とっとと言わねぇーんだよっ!?」
「あれっ?言ってなかったっスかぁ〜?すんませぇ〜ん、あははぁ〜っ」
「……っ」
 羊スイの謝っているかどうかもよくわからない軽い笑いに、顔の血管を浮き出させるゴン。

――バッコォォォーンッ!

「ううっ……」
「……。」
 怒ったゴンに思い切り殴られ倒れこんだ羊スイを見て、少し呆然とするハチ。

「んでぇっ!?他に言いたいことはっ!?」
「はっ……はいっ……実はっ……羊の国の近隣の聞き込みを行っていた第二捜査班から報告が入ってっ……」
「聞き込み?捜査班?」
 羊スイの言葉に、どんどん首を傾けていくハチ。

「何だっ!?」
「実はっ……この国の近くの村である男が発見されまして……」
『……っ?』







 同刻。屋敷内、芽里の自室。

――キィッ……

 静かに開く扉。扉の外には、門番らしき武装ヒツジが何頭か、気を失って倒れこんでいた。

「……。」
 ゆっくりと部屋へと入ってきたその者が、まっすぐに部屋の奥にある寝台へと向かっていく。寝台のすぐ横へと立つその者。寝台は恐らく芽里が眠っているのであろう、掛け布団が大きく膨らんでいる。

「……っ」
 高々と右手を上げるその者。

「死ねっ……!!」
 その者が、寝台へと手を振り下ろす。

「あっれぇ〜?」
「……っ!!」
 背後から聞こえてくる声に、その者の手が止まる。
「こぉ〜んな時間に、国主様のお部屋に何の御用ですかぁ〜?」
「……っ」
 その者が振り返った先にいたのは、芽里の部屋のソファーにゆったりと腰を掛け、笑顔を浮かべている輝矢。

「ねぇっ……?」
 輝矢が鋭くその者を見つめる。

「メェ蔵サンっ……」
「……っ」

 輝矢の見つめた先に立っていたのは、メェ蔵であった。







「メェ蔵っ!?メェ蔵だとっ!?」
 羊スイの報告を聞き、驚いた表情を見せるのはゴン。

「そうっス。病気にかかって、一ヶ月ほど前から故郷であるその村で療養してたそうっス」
 驚いているゴンを前に、報告を続ける羊スイ。

「第二班が聞いたところによると、ちゃんと休暇届は出してきたとっ……」
「一ヶ月だとっ?俺が潜入した二週間前には、アイツはちゃんといたぞっ……!」
「どっ……どういうことだよっ!?じゃあもしかしてメェ蔵さんがっ……!……っ!」
 ゴンと羊スイの話に混乱していたハチであったが、何やら嫌な予感が頭の中を駆け、思わず言葉を止める。

「まさかアイツっ……」
 ハチの頭を過ぎる、輝矢の顔。

「……っ!」
「あっ……!おいっ!ワン公っっ!!」
 ゴンの制止も聞かず、ハチはその場を走り出していった。






「なっ……何をしているかですって?」
 妙に焦ったような表情を見せながら、鋭い輝矢の視線から目を逸らし、笑顔を浮かべるメェ蔵。

「わっ……わたくしは、肩凝りがひどくて眠れないと言うメリー様のために、肩揉みをしに来ただけでっ……!」
「へぇ〜門番を倒してわざわざっ?」
「……っ」
 輝矢の問いかけに、表情を引きつるメェ蔵。

「そっ……それはっ……!」
「ああ、それとっ、国主様なら隣のお部屋でぐっすりお眠りになられてますよぉ〜?」
「何じゃとっ!?……っ!」
 輝矢の言葉に、メェ蔵が寝台の掛け布団を払い取る。

「んなっ……!?」
 そこに寝ていたのは、芽里ではなく巨大なヒツジのぬいぐるみ。

「図ったかっ……」
「さぁ、懺悔の時間ですよ」
 輝矢がメェ蔵に笑みを向ける。

「子羊さんっ……」
「……っ」
 今まで見せてきていた穏やかな表情を消し、ゆっくりと輝矢の方を振り返るメェ蔵。

「そうだな……消え逝く貴様の命に祈りでも捧げようかっ……!!」
「……っ」

――バァァァーンッ!

 黒いスーツが引き千切られ、白い肌が赤色の皮膚へと変わり、メェ蔵が天井を突き破るほどに巨大化していく。金色に輝く一本の角を持った、赤色の鬼が姿を見せる。

「赤鬼……」
「まずは貴様から血祭りにしてやろうっ!」
「やれやれ……」
 輝矢が面倒臭そうに呟きながら、ゆっくりと右耳のピアスに手をかける。

「“月器げっき・三日月”っ」

――パァァァァーンッ!

 輝矢が右耳のピアスを弾き、巨大化した三日月を剣のように構える。

「うおおおおっ!!」
「竹取輝矢っ……鬼退治いたしますっ……!」
 迫り来るメェ蔵に、輝矢が三日月を構えて飛び出していく。



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