乙女ゲーの主役?え、これで?
――人生は、ほんっとうに思い通りにいかない。
四月。
私もはれて女子高生になりました。
顔も体も性格も家柄も、すべて「ザ・平均」な私だけど、恋の一つはしてみたい……。
――なんて、この時は思っていたました。(遠い目)
さすが出会いの季節。
入学式のその日から、色んな男性と知り合いになりました。
一人目。掲示板にはられたクラス分け表を見に行った時、手が触れ合ったクラスメイト。
二人目。在校生代表で、祝辞を読みあげた生徒会長。なぜか目があった気がする。
三人目。穏やかな敬語口調が印象的な、担任の先生。
四人目。誠実そうな人柄の、ルーム長。
五人目。部活見学で会った、独特なオーラをもつ個性的な部長さん。
しかも、なぜだか皆さん異様に私との接触を図ってきます。
これが人生に三度くるというモテ期か!一気にきすぎじゃないですか!?
正直、彼ら五人以外の顔を私は認識していませんしできません。
あれー?私のクラス、半数は男子のはずなんだけどなー?
声はわかるけど顔はわからない。なんだこの現象。
そうそう、高校に入って、なぜか新しい習慣ができました。
一つ。一週間の行動予定を、日曜の夜にたてるようになった。
勉強や運動をしていると音が聞こえます。体育でこけた時にブブーって。
何。喧嘩うってるの?
幻聴聞こえる歳でもないのに、おかしいな。
二つ。土日は積極的に出かける。
布団の中がマイヘブンな私から見ればすごいことです。
たいてい誰かに遭遇します。というか、たまに目的地じゃなくて玄関も会ったりします。
偶然だね、なんて言われてもこんなあからさまな出待ちで偶然なんて思えるかー!
なんて、面と向かっては言えないので、無言でダッシュです。
敵前逃亡?いいえ、戦略的撤退です。
奴らを撒いて買い物に行けば、日本円でなんか変なアイテムも買えます。雑貨屋で。
三つ。帰りは誰かと二人で帰宅する。
だって校門の前で必ず誰かが待っているという……。
拒否権?
ないない。常にYes or はい選択です。
私に選べるのは誰と帰るか、であり帰るか帰らないか、ではないのですよ。
待ち合わせがブッキングしたときとか、もう修羅場です。最高に胃に悪いです。
まぁ、ここまでくると。なんとなく分かってくる。
あ、乙女ゲー(?) の主人公みたいな状況になったんだなぁ……と。
あくまで(?) です。
なんというか、その。
乙女ゲーだ!と言い切るには、男性陣が、ね。
残念、の一言に尽きるわけです。
クラスメイトは、スポーツ万能、だけど病弱。顔はふつう。
この前、授業でサッカーをしているのを見ました。
ゴールしてガッポーズして血を吐いていた。もう見慣れてしまいましたが。
会長は、家柄が素晴らしいけど俺様性格破綻者。顔はふつう。
会長になったのも、生徒からの推薦じゃなくて「皆面倒がってやらないから、内申のためにやれ。でなきゃ卒業は無理」という学校側からの強制指名とのこと。
しかも彼が会長になることを知った生徒が、副会長以下立候補しなかったため、生徒会は一人。
どれほど人望ないんだ、と全私が嘘泣きです。
先生は、半端ないくらい頭がいいけど卑屈かつ守銭奴。顔はふつう。
即座に一円単位まで割り勘計算して請求するような人。
極彩色の上着を着ていて、センスが行方不明。
だれか探してあげて。目が痛いのです。
「俺なんかが教師をしてていいのか」が口癖だけど、私は見ました。
授業で難問奇問をだして、生徒が答えられないときのあの表情を。
※性格訂正。卑屈ではなく陰湿。
委員長は、とてもとてもまじめでクール、だけど頭が全くよろしくない。顔はふつう。
剣道一筋で、腕前は師範レベルらしい。が、この前剣道の漢字を間違っていた。おい!
「ああ」「いや」という返事しかしないので、無口なのかと思ったが……語彙力がないだけかもしれないという疑惑が生まれてきてしまいました。できれば知りたくなかった!
部長は私にだけとても優しくてお姫様扱いをしてくれるけど、えろい。顔はもちろんふつう。
茶道部だから、とお茶を点てていただいているときに見てしまいました。
がっつり変な液体入れているところを。
あまりに堂々と入れているから、逆に不審がるこっちがおかしいのかと思ったよ!
「大丈夫、気持ちよくなるだけだから」と言われ、含んだお茶をすべて吹きかけてきました。顔面に。
喜んでた。きもい。
※性格追加。えろい、のあとに 変 態 (赤字で二重線)
神は二物を与えず、とか言うけれど。
お願いです、神様。
たまにはイレギュラーで二つぐらい与えてやってください……!!
そうひそかに願っていた私だが、実は神様は違う方面で頑張っていたらしい。
それを私が知ったのは、彼らの家族構成を親友という名の情報屋でもある美紀に彼らの家族を教えてもらった時。
彼らの兄弟は、素晴らしい、の一言。
曰く、クラスメイトのお兄様は「美形・儚げ・有望なヴァイオリニスト」である。
曰く、会長の弟様は「美形・家柄よし・温厚・人望厚い」である。
曰く、先生の弟様は「美形・エリート・金持ち・オシャレ」である。
曰く、委員長のお兄様は「美形・クール・でも動物好き・学年主席」である。
曰く、部長の弟様は「美形・スポーツ万能・爽やか・純情」である。
しかも、皆、性格がよくて超進学校である青藍高校に通っているor関係者らしい。
先生の弟さんは、何を隠そう青藍の校長をしているという。引き抜きで。
なんだこれ。DNA仕事しろ!
あ、うん。そりゃあ先生やさぐれる。わかる、わかるよ、でもね……。
え?ふつうこっちじゃね?乙女ゲーの逆ハーの王道はさ。
そう思っても仕方ないでしょう?なんだこのハイスペック集団。
平凡顔が平凡顔(しかも中身に癖ありすぎ)の逆ハーレムなんて誰得なの!?
そんな疑問に、美紀が軽やかに一言。
「青藍には、来週あたり聖マリアからかなりの美少女が転校してくるらしいよ」
別 の 逆 ハ ー フ ラ グ キ タ ー !
あー……美形には美少女、平凡には平凡ですか。
分 相 応 、ってやつですか。
そんな平等主義いらないよ!ちょっとくらい夢を見せてよ!
……よしわかった、青藍に転校届書いてくる!
この乙女の夢だけど胃の痛い逆ハーレムより、正統派逆ハーレムを見ながら、だれとくっつくかニヤニヤ見てるほうがいい!
良い案!とスキップして帰宅し、「まだ入ったばかりだし、制服も高かったのに……」とぼやく両親を説得し、書き上げ提出した転校届。
まさか、いい笑顔の兄に目の前でシュレッダーにかけられるとは思ってもいませんでした……。
兄よ、顔だけはいい兄よ。
まさかのヤンデレ属性とか言わないよね!?
「周りが平凡顔ばかりだと、俺の素晴らしさに気付くと思ったのに。
俺以外を求めて転校?……許さないよ」
すみませんすみません美形のほうがいいとか思って本当にすみません!
お願いだ、顔は平凡でもいいから性格も平凡な逆ハーレムにしてくださいー!