いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は欠点でございます。
ごゆっくりどうぞ。
俺はイケメン。
誰がどうみてもイケメンだ。
顔はなかなかのもの。
小学校の頃から女の子にはモテモテにモテ始めて、いつも帰りは女の子達に両手を引っ張られて大変だった。
しかも、同じクラスの女の子だけでは飽き足らずに、隣のクラスの女の子まで覗きに来る始末。
しかも帰り道は、校門をでたところで違う学校の女の子まで、よく見に来られて、それを見たクラスの女の子達はよく喧嘩をしていた。
俺はそれをよく止めに入った。
イケメンもツラいこともあった。
俺はスポーツも万能だ。
体を動かすのが元々大好きで、野球はいつも四番。
サッカーはストライカーだったし、バスケットはシューター。水泳はクラスで一番早かったし、走りも短距離、長距離どちらでもトップ。
剣道、柔道、体操、それにスケート、スキー、スケボー、サーフィン…。
何でも得意だし、何でも楽しかった。
お陰で男友達にも恵まれた。
嫌味やヤッカミを言う奴はいたが、そんなことは大したことではなかった。
勉強も好きだった。
特に英語は得意だったし、数学もすぐに頭に入ってきた。
理科なんて、実験が楽しかったし、歴史はワクワクしたし、音楽は楽器を持つと直ぐに弾けるようになった。
先生からも評判が良かったし、成績も必ずAかB、1かもしくは2だった。
当然親にも誉められるし、何か小言を言われることもなかった。
それに、スタイルも完璧。
食事の管理は何も気にしないでも太ることもないし、今までやってきたスポーツのお陰で筋肉も程よく付いてい、それも俺をイケメンにする理由の一つだった。
俺は自分が完璧だと思っていた。
出来ないことなんてないと思っていたし、それが当たり前だった。
でも、一つだけ誰にも言えない欠点があった。
それは俺が高校卒業する辺りに気が付いた。
俺にはその頃に彼女と呼べる女の子がいた。
彼女は綺麗だったし、気立てもよくて優しいし、スタイルも抜群だった。
俺達は周りが認めるお似合いのカップルだった。
彼女とは何度となくデートをしたし、友達同士で旅行なんかもした。
両方の親とも顔は合わせていたし、将来このまま一緒になるんじゃないかなんて、よくからかわれた。
それぐらい二人はお似合いだったし、お互いを好いていた。しかし事件は起こってしまった。
俺は彼女と付き合って、とうとうその日を迎えることになった。
それは、彼女が俺の部屋に遊び来た時。
俺の両親は留守だった。
二人の様子はいつもと違っていた。
二人ともモジモジしていて、あまり話しも弾まなかった。
でも、俺はタイミングを見計らって、彼女にキスをした。
いいムードの洋楽を流して、曲と曲の間を狙ってタイミングを合わせたのだ。
彼女は嫌がる訳でもなく、そっと俺に体を寄せてきた。
彼女の唇は柔らかく、ほんのり、ほんのりあま、ほんのり苦かった。
俺は頭の中で首を傾げた。
ファーストキスとは甘いと聞いたが、こんなものだろうか?
俺は頭の中をリセットした。
何とか、ムードを立て直さないと。
俺は次に流れてきたロマンチックなジャズの音色で頭の中のイメージを膨らませて、いよいよ彼女の背中に腕を回して抱きしめた。
彼女の吐息が耳元で熱く放たれた。
俺は自然に任せた。
あまり色々な事を考えずに、本能のままに。
しかし、しかし俺は、俺は想像と違い、体にはなんの変化も表れなかった。
俺は頭の中でまた首を傾げた。
こんなものなのか?
俺は世間の巻き散らす知識から、ある程度は知っているはずだったが、でも、こんなものだろうか?
俺は抱きしめた彼女を一旦自分の体から引き離し、見てみた。
彼女は色っぽかった。
彼女は今か今かと、恥じらいながら、その瞬間をかなりの勇気と期待を込めて待っていた。
俺は焦った。
普通ならすでに出ている手は何も望んでいる様子がないのだ。
このままではまずい。
完璧なイケメンの俺のイメージが崩れる。
俺は自分を守るために仮病を使う手に出た。とっさの判断だった。
いきなり腹を押さえて、痛いと叫びだしたのだ。
彼女は突然の事に驚き、俺の体を支えてくれたが、俺は必死に彼女に帰ってくれるように頼んだ。
腹を押さえ、彼女の体を押しながら、玄関まで連れていき、苦しそうに謝り、彼女を送り出した。
彼女は心配そうに、だが、残念そうに俺を見ていた。
俺は急いで自分の部屋に戻り、頭を抱えた。どうなっているのか、全然わからなかった。
それ以来、俺は戸惑うばかりだった。
いつもいつもその事が頭から離れずに、結局彼女とも、顔を合わせずらくなって別れしまった。
その頃から俺の人生は崩れ始めた。
完璧な俺を、彼女があの時出来なかったフヌケだと周りに言い振らさないだろうか?
また、いつ俺のイメージは崩れるのだろうかと、気が気でない思いが俺を狂わせて、壊して行った。
俺は勉強に打ち込めなくなったし、スポーツですら、何をしても面白くなくなった。
周りの仲間とも上手くいかなくなり、俺は孤立していった。
俺はいつの間にか、札付きの問題児になった。
そんな俺に惚れる女はいくらでもいたが、俺にはそれがストレスになり、突き放して、けなして、寄り付けなくした。
それでもやはり、女というものは恐ろしい生き物で、噂が噂を造り上げて、俺という男はコワモテで、しかも、女の子を選ぶ目が厳しいと、俺をものにしたいという女が変わる代わる押し寄せてきた。
俺はそれから逃げるのに必死だった。
しかし、転機が訪れた。
そんな俺の噂を聞き付けて、アイドルのスカウトマンと名乗る男が、俺に声を掛けてきたのだった。
アイドルになってみないか?
俺には、そんな言葉がなんの魅力にも思えなかったが、次の一言が俺の脳裏にくっついた。
君がアイドルになれば世界の女の子は君のものだ。但し、誰か一人のものになるのは難しくなるが。
俺はこれだと思った。
アイドルになれば確かに、周りからの目は憧れや尊敬や親しみの意で見られる。
それは俺が全てを持っていたあの頃と同じだった。
しかも、俺をバカに出来る秘密を守り通せる、立派な理由が出来る。
俺は久しぶりに心の底から嬉しさが込み上げてきて、知らぬ内に涙を流していた。
俺はアイドルになった。
俺はデビュー早々、引っ張りだこになった。
昼も夜も働き詰で忙しかったが、何もツラいことなどなかった。
むしろ楽しかった。
俺は今まで塞ぎ込んでいた分を取り返すように勢力的に活動する姿がまた、周りにいい印象を与えて人気は鰻登りだった。
俺は崩れた人生を取り戻した。
俺は歌った。
俺は踊った。
俺は演じた。
俺は生きた。
そして、俺はアイドルを卒業して役者という路線に移り、その軌道を順調に走っていた。
そんなある日、俺の元に一通の手紙が送られてきた。
それは俺の運命を変えた彼女からだった。
俺はそれを見て固まった。
かなり戸惑ったが、手紙に目を通した。
手紙には、この頃の活躍を褒め讃える文章と、そして最後に会いたいと付け加えてあったのだった。
俺は迷った。
俺はあれから結局、女の人を抱いたことがなかった。
俺はケリを着けなくてはと、薄々思っていた。
そして会うことを決意したのだった。
俺は彼女を高級料亭の特別な部屋を取り、招待した。
久しぶりに会う彼女は昔の面影を残して、綺麗だった。
彼女は笑顔で俺の顔を見た。
懐かしい話しを色々した。
別れた後の話も彼女は話してくれた。
彼女は結婚して子供が二人いるそうだ。
幸せだと言った。
俺はなぜ、俺と会おうと思ったのかと訪ねると、彼女はゆっくり話始めた。
それは意外な内容だった。
彼女が言うには、彼女は俺と部屋で過ごした時以来、男の人に抱かれる事に抵抗を覚えてしまって、誰とも一緒になれなかったと言った。
しかし、少し前まで連れ添っていた彼はそんな彼女でも愛してくれ、子供を生む代わりに、事情がある子供を孤児院から引き取り、育てようということになったのだと言う。
しかし、その彼氏は亡くなり、今は一人になって子供を一人で育てているのだそうだ。
俺は驚き、声も出せなかった。
彼女は俺の活躍を知っていたが、何故に所帯を持たないのかと気になっていたが、まさかと思って今日まできたのだそうだ。
俺は涙が出ていた。
それに気付くまでに時間が係った。
そしていつの間にか、彼女を抱きしめていたのだった。
俺はその時悟った。
アイドルになって取り戻した人生は、やはりあそこに忘れ物をしていて、いつでもそこから逃げていた人生だったんだと。
彼女は俺と違って、勇気を持って闘っていたんだと。
俺は彼女に一緒になって欲しいと囁いた。
彼女も頷いてくれたのだった。
俺は事務所に言って、その事を公にするかを相談すると、社長は、もうアイドルではないし、公表しても問題はなし。隠していて後でバレるより、こちらから言った
ほうが、当たりもいいだろうということになり、彼女の詳細は明らかにしない約束で、結婚発表をした。
ちまたは大騒ぎになったが、一ヶ月も経たない内に落ち着いた。
俺達は新居を構えて、彼女の子供たちと新しい生活を始めた。
そして、子供たちが学校の旅行に行った夜、俺達ははれて結ばれた。
あの時の続きを、二人は何とか成し遂げ、要約、俺はイケメンの道に軌道修正できたのだった。
彼女は思った。なんかガッカリだ。と。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。 |