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球根のおはなし

作者:徒耀子
 むかしむかし、一つの球根がありました。
 初めて目を覚ましたのは、あたたかな土の中です。
 となりには、自分とそっくり同じ姿の球根が、いくつも埋まっていました。ときどき、おしゃべりの声が聞こえました。土の中は、とても気持ちがよくて、ぼんやりしたり、うとうとして過ごすのにピッタリでした。
 頭のてっぺんが、じんわり、じりじりとあったかくなる日が続いたある日のこと、
「春だ。春だぞ」
「よおし、芽を出すぞ」
 なんだか、おまつり騒ぎです。
 球根は、はて何かしら、と思って、聞き耳をたてました。
「よおし、ぐんぐん」
「もっと、ぐんぐん」
「ぐんぐんぐん」
 これまで静かだった土の中が、かけ声でゆれるようでした。やがて、球根もいっしょになって、「ぐんぐん」と声を張りあげました。
「わあい、出た出た」
 数日後、うれしそうな声があがりました。まだ土の中にいる仲間たちは、いっせいに聞きました。
「外はどう?」
「光がいっぱいで気持ちがいいよ。風も吹いている」
 その答えで、みんなは、いっそうやる気を出しました。
 土の中は、大合唱で満たされます。
 光だ 風だ 会いに行くぞ ぐんぐんぐん
 球根も、根っこをちょろちょろ踊らせながら、歌いました。

 歌声が、一つ、また一つと減っていきます。土の中は、前のように静かになっていきます。
 とうとう、球根が一人だけになってしまいました。
 それでも「ぐんぐん」と唄っていると、上から声が振ってきました。
「君は、まだ出てこられないの。ちょっと遅すぎるよ」
「もうすぐだと思うんですけど。他の仲間は、どんな様子ですか?」
「順調順調。もう、つぼみがふくらんでいるのも、いる」
「つぼみ? それは、何ですか?」
 球根は、つぼみを、花というものを、知りませんでした。
「眠っている花びらが起きると、花が咲くんだよ。ぼくたちは、とてもたくさんいるから、このあたり全部、ぼくたちの花でいっぱいになるだろうね」
 なんだか、すてきそうです。球根は、わくわくしてきました。
「わたしのつぼみは白」
「わたしは黄色」
「わたしは赤」
 口々に自慢げな声がしました。
「さあ、君も急いでね。みんなで咲いたほうがきれいだから」
「はい!」
 球根は、はりきって答えました。
 やがて数日後、上のほうで、わあっと楽しげな声があがりました。
 仲間たちの花が咲いたのです。
 コーラスが聞こえます。
 けれども、球根は、まだ土の中。一面の花畑を、ほんのちょっとも、見られませんでした。

 土に水気がなくなって、熱がこもるようになりました。じりじり暑くて、蒸し焼きにされているみたいです。球根は息苦しくて、イライラしていました。そのとき、近くに伸びる、細い根っこに気づきました。
 仲間がまだいたのかしら。自分と同じように、春に咲かなかった球根が。
 球根はうれしくなって、どきどきしながら声をかけました。
「こんにちは!」
「こんにちは」
 小さな声でした。
「君は、春に咲かなかったんだね」
「ここにも来たばかりなんです。外の様子もまだわからなくて。外って、どんなところでしょうか?」
 小さな声の主は、種でした。
 球根は、仲間から聞いたことを話しました。
「とてもいいところらしいよ」
 二人は仲良くなり、ずうっとおしゃべりしていました。
 ある日のこと、球根が起きると、種が興奮して言いました。
「外へ出ました。とても暑いです。火の玉がジリジリ照らしています。でも、とてもいいです。ぼくは好きだなあ」
 球根の頭からは、芽の出る気配はありません。
 球根は、また置いていかれるのかと、さみしくなり、やがてイライラしはじめました。
 種は、毎日せっせと報告してくれます。
「つるが伸びます。もっと高いところから見えます」
「ふうん。そうかい」
 種はぐんぐんすくすく伸びていったようで、やがて声が聞こえなくなりました。球根は、また独りぼっちになりました。

 土の中はまた居心地良くなりました。秋が来たのです。
 球根はふいにさみしくなって、しくしく泣いていると、
「どうかしました?」
 とたずねる声がしました。
「君はだれ?」
「わたしは落ち葉です。枝から落ちたんです」
 球根は、独りぼっちなのだと話しました。
「わたしのほうが独りぼっちですよ。兄弟とは別れてしまいました。もう会えることもないでしょう」
 落ち葉は、球根をなぐさめてくれました。
「さあ、もう泣くのはやめて」
 落ち葉に、ギュッと抱きしめられると、とてもあたたかでした。
 だんだん寒くなっていきました。球根と落ち葉は、寄り添って眠りました。

 落ち葉に話しかけても、返事がなくなりました。落ち葉は、土の中にとけていたのです。
 球根は、頭のてっぺんがムズムズしてきました。
 ついに眼が出たのです。
「わあいわあい」
 けれども、外の世界は、寒くて、誰もいません。
 空は灰色で、太陽は見えません。木は丸裸、葉っぱが一枚もありません。
 球根は、さみしくなりました。
「やっと外へ出られたのに。独りぼっちだ」
 冷え込みはひどくなるばかり。
 球根は、ぐんぐん、と春に口ずさんでいた歌をもう一度、歌い始めました。
 すくすくと茎が伸びて、やがて、頭に白いつぼみができました。
 ぱっと花が咲いた日、球根は泣きそうになりました。
 空からふわふわと白いかけらが落ちてきました。
「やあ兄弟」
 雪は冷たく、球根のまわりに降り積もります。けれども、球根はうれしくて、もっともっと、と歌いました。

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