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くじ引き勇者と魔物使い  作者: 坂道草
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1話 終わりの始まり

 思えば俺は、子供の頃から恵まれていた気がする。


 家は先祖代々続く農家だった、物心付いた頃から家の農作業を手伝っていたが、別に嫌じゃなかったし、おかげで身体はとても丈夫だった。


 両親は子供の俺から見てもとても仲が良く、たまに喧嘩をしてもすぐ仲直りをしていた。


 父方の祖父母は厳しくも優しい人だった、事故で両親を無くした母をまるで我が子の様に愛し、俺が生まれた時も凄く喜んで甘やかしたそうだ、それは覚えてないけど。


 小学生になり、未だに俺に物凄く甘い両親の元でも全くグレたりしなかったのは祖父のおかげだろう、普段はとても優しかったが俺が度を越した悪さをしたら、失禁するほど怒られたもんだ。


 勿論両親は大変尊敬している、俺が何不自由なく生活出来たのは高校で教師をしていた父と、祖父母と一緒に沢山の農作物を育てた母達のおかげだ、だけど一番尊敬しているのは祖父だ。


 祖父は農業をする傍ら、猟師もやっていた。


 中学生になった俺はまだまだ元気だった祖父に沢山の事を教えてもらった。


 ナイフの使い方、弓の引き方、猟銃の撃ち方……まあ、銃は実際には撃たせて貰えなかったが。


 猟に連れて行って貰ったこともある、猟犬のけんたろうと一緒に猟をする祖父はとても格好良かった、俺は大人になったら祖父の様な人間になりたかった。


 祖父に教わり、初めて鹿の死体を捌いた時は血が沢山出て、とても怖かった……俺は祖父と自然に、命の大切さや沢山の事を学んだ。


 人生の転機は高校の時だ、俺は全寮制の農業高校に通っていた。


 あれは二年の夏、何時も通り畜産の世話をして後一週間……一週間で夏休みになる、俺は一旦家に帰る予定だった。


 しかし、待っていたのは祖父母と両親が自損事故で死んだ、という一報だった。


 まさか…とも思ったが、連絡をしてくれたのは昔から、月に一回は家に帰って来て一緒に農作業をしていた父の弟…叔父さんからだった。


 それからの俺の人生は激動だった。


 叔父さんは俺を引き取ると言ってくれたが、叔母さんが猛反対した、叔父さんの家は子供が三人も居て皆大学を目指しているから余裕が無かったのだ。


 祖父母と両親の死後、俺の知らなかった祖父の借金が見つかった、先祖代々の土地を売った所でとても返しきれない金額だった。


 遺産放棄をし高校を中退、働きに出ることになった。


 しかし、世の中そんなに甘くない、保証人こそ叔父さんが引き受けてくれたが、高校中退の中卒を雇ってくれる所何て、殆ど無い。


 それでも何とかしなければ、叔父さんに迷惑になると、俺は色んな所へ就活した。


 結果、雇ってくれたのは世間一般では、ブラックと呼ばれる会社だった。


 仕事は、終電までサービス残業も当たり前だった。


 俺は持ち前の身体の丈夫さもあり、何とか10年働いた。


 流石に10年も働けば古株だ、多少は待遇も良くなっていていた、会社も偶々俺が手掛けた仕事が大当たりし、売り上げが上がりに上がった。


 その日は28歳の誕生日、仕事が休みだった俺は会社の同僚と飲み歩き、帰りに飲み足りないと缶ビールを追加で買い帰宅した。


 ―ミシ…ミシミシ…


 上機嫌で帰宅した俺が聞いたのは、そんな音。


 古いアパートだ、部屋の木が軋んでいるのだろう、部屋に入り机にビールを置こうとした時―全てが終わって、全てが始まった。


 突然天井が落ちてきた、反応する間もなく俺は死んだ…筈だった。


◇◇◇


 そこは見たこともない、真っ白な空間だった。


 俺も最近は色んな本を読んだ、その中の一つ、後輩に勧められて読んだ異世界物が大体こんな始まりだった、自分がどうなったのかも忘れ、酔っていたのもあり年甲斐もなくちょっとテンションが上がりワクワクした。


 しかし妙な事もあった、こういった場合選ばれし勇者よ―とかの筈なんだか、周りには28人…俺を含めて29人もの人混みが合った。


 中には俺と同じような物語を読んだのだろう、小太りの若者が「勇者キタコレ」と騒いだりしていたが、大半の人間は混乱し事態が掴めていない。


 ザワザワとした空気の中、変化が起こった。


 目の前に現れたのは、赤・青・緑・黄・ピンク・白・黒に光る7つ丸い物体と、人の形をした1体の薄い金色の光。


「うん、集まったね、君達は勇者に選ばれました、これから君達の世界とは違う世界、異世界へ行き、その世界を魔王の手から救ってもらいます」


 金色の人形ヒトガタがそう告げた、やはり異世界…しかしこの人数は何なんだ?


「はいはいはい!質問があります!」


 勇者キタコレと騒いでいた若者が手を挙げた、大反対の人間が混乱している中にこの行動、ある意味のムードメーカーだ。


「ん?何だろう?言ってみて」


「一つは何でこんなに居るんですか?勇者の予備ですか?

もう一つは俺、見た目通りの強さしかないんですが、どうしたら?」


「ああ、それはね、これから行ってもらう異世界には7つ、大陸があるのよ、んで、何と7つ全部の大陸に魔王が現れた、だからちょっとでも早くに終わらせる為に各大陸に四人ずつ、勇者を送り込む事にしたんよ、予備じゃないよ、因みに戦う力はちゃんとあげるからさ、安心してね」


 成る程―しかし、落ち着いてきたら、そもそも何故命掛けで異世界を救わなければならないのか…と疑問に思う、そう思ったのは俺だけじゃ無かった様だ。


「ちょっと!ふざけないでよ!何で私達がそんなことしないといけないのよ!!」


 真っ先にキレたのは、金髪プリン頭の高校生らしき女の子だった。


「そうだ!そうだ!」

「早く俺達を解放しろ!」

「明日早いんだぞ!」


 それに追従するように、皆から不満の声が出る。


「ふん、本当に良いのか?貴様達がココに来る前に、何があったのか思い出してみろ」


 赤く光る物体が機嫌が悪そうにそう呟いた。


 ―そして思い出す、自分が死んだ事を。


「えっ…あれ?」

「あっ、何でだ!?」

「本当だ!何で生きてるの!?私!?」


 口々に思い出した事を話している…つまり、ここに居るのは俺を含めて、何かしら不慮の事故で死んだ人々だったのだ。


「状況を思い出したか」


「まあ、簡単に説明するとね、君達は本来死んでるんだよ、死ぬ直前に俺達があっちの世界から抜き出したんだけどね」


「つまりだ、貴様達が生きる為には魔王と戦って勝つしか道は無い」


 金色の人形ヒトガタは口調が軽く明るいが、赤く光る物体は終始不機嫌そうだ。


「そ…そんな…」

「でもさ、このまま死ぬよりはマシだよ…な?」

「た…確かに!」


「はい、納得してくれたかな?因みに魔王倒してくれたら、生き返る以外にもご褒美があるから期待してね」


 ザワザワ…ザワザワ…生き返る上にご褒美と聞いて、皆やる気になってきたようだ。


 しかしそこで、彼の言っていた事の中に一つ、疑問が出た。


「す…すみません、俺も質問があります」


「…何だ」


 更に機嫌が悪くなる赤い人、しかし聞かねばならない。


「あの…先ほど、7つの大陸に四人の勇者と仰りましたが…今ここには29人居ます」


 カッ!と赤い人が更に光る。


「おい、天の」

「ちょ…え?ひのふのみの…ちょっと!マジじゃん!」

「馬鹿な…」

「どうします?送り返します?」

「いや、今更それは薄情じゃない?」

「しかし…」


 暫くして、話し合いがおわったようだ。


「うーん…計算外だなぁ…取り敢えず28人には勇者の力をあげられるけど、1人だけ大した力があげられないや、そこでね―」


 どうやら余った1人は何処かの大陸に一緒に入れて、勇者じゃない何らかの力を与えて異世界へ送り出す事になった様だ。


 せんせー、さといくんがあまってまーす、ええ?じゃあどこかにいっしょにはいって!…みたいな感じ?


「よーし、じゃあ皆が何処の大陸に派遣されるか、今から決めますよーっとね」


 金色の人がゴソゴソと何かを取り出した。


「はい、皆これ引いて行ってね~」


 …くじ引きかよ!


「く…くじ引き…」

「くじ引き勇者とか、ふはははは」

「てか外れあるんだよな…」

「「「あっ…早く引こう!」」」


 俺は完全に出遅れた…くじ順は最後から2番目だ。


「あ、A-1勇者だって」

「私はD-4だって書いてあるよ」

「G-4よかった…当たりだ…」


 皆勇者が当たって喜んでいる、しかし俺は逆に考えた。


(むしろ外れたら、魔王と戦わなくてもいいんじゃね?)と


 前から順番に、どんどん勇者が決まっていく、まだ外れは居ない。


 そして俺の番…残り2本…どちらかが勇者、1人は外れ。


 そして俺の後ろには、さっきの小太りの若者が物凄く不安そうに見ている…そこで俺はある提案をした。


「えっと…後ろの彼に、当たりをあげてください」


 瞬間ざわつく…それはそうだろう、この状況で勇者の力を他人に譲る、普通は出来ない筈だ。


「あの人スゲェ…」

「格好いいかも…」


 と評価が上がっていた、しかし実際にはただ魔王と戦う権利を放棄して、他人に押し付けただけなんだが、皆気が付いていない。


「あ、あの!その人、A班が引き取ります!」


 既に集まっていたA班の勇者達がそう宣言した。


「ん?良いの?」


 金色の人が俺の思惑に気が付いたのかはわからないが、A班に確認していた。


「はい!」


 俺としてはラッキーである。


「りょーかい、んじゃ君はA班ね」


「えーっと、魔王との戦いにどれだけ役に立つかわからないけど、よろしく」


「「「「よろしくお願いします!」」」」


 A班は二人の男の子に二人の女の子のチームだった。


 1人目は田中たなか獅子レオ、金髪長身イケメンだが全く嫌味な感じが無く、凄くモテそうなタイプ、どうやらハーフらしい。


 2人目は鈴村すずむら林太郎りんたろう、中々の巨漢で始めは格闘技でもやっているのかと思ったが、どうやら趣味は料理と活け花…全く意外だった。


 3人目は伊島いじままこと、ショートカットの髪が良く似合うスポーティーな可愛い女の子だ。


 4人目は桜宮さくらみや鈴羽すずは、黒髪の美人の女の子、桜宮とは結構有名な企業の社長と同じ名字だ、もしかしたら社長令嬢なのかもしれない、何か気品があるし。


 全員16歳との事、さっきの譲ったのがどうにも4人の琴線に触れたらしくやけに気に入られた、何か年下を騙しているようでちょっと申し訳ない、いや実際騙してるか?まあいいや―


 そして俺は滝白たきしろしょう、今日28になったおっさんである。


 これから俺の異世界の冒険が始まるのである、ちょっとワクワクしてきたぞ。

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