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花の如く 作者:秋保千代子

第一章

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弐の五「魔物を消せるのが、【かんなぎ】の力だ!」

冬装束の桜の木が立ち並ぶ丘の上に逃げてきた人の数は増えていた。
「律斗さん!」
全力で駆けて戻ってきて、鞍にまたがったまま叫ぶと、彼は真っ直ぐ歩いてきた。
「どうだった?」
切れ長の目が鋭く光る。
颯太は、ごくり、と唾を呑みこんでから。
「校尉が、正門のところに居た部隊に援助をお願いしてます」
と言って、脇に抱えていた弓矢を出す。
「これを借りてきたんですけど…」
「…へえ」
律斗の唇の端がくっと上がる。
「なら、少しは手伝うか」
「…何を?」
「魔物退治だよ」
そう言って弓矢を取り、ぐるぐる巻きのままの襟巻に首を少し埋めてから。
「颯太。お前、後ろに人を乗せて馬を走らせられるか?」
訊く。
颯太は瞬いてから。
「できます」
力強く頷いた。
「っていうか、馬を走らせるの大得意です。俺の実家、馬を育ててるんですよ」
「よし!」
律斗は笑うと、颯太の後ろに飛び乗った。
「じゃあ、走れ」
「…どっちに!?」
手綱を握り直して、颯太が叫ぶ。
「南西… いや南東だな。魔物の群れの背後に回れ。正面は国府の隊が迎え撃つだろうからな。それを援助する!」
律斗も叫び返す。
「…分かりました!」
手綱を引き、馬の首を返す。
「ちょっと!」
そこに声がかかる。
二人振り返ると、美波が駆け寄ってきた。
「どこに行くのよ!?」
「魔物の群れの近くまで」
律斗が低く答える。
「…普通に国府の兵が迎撃に向かっていれば、こっちに群れが寄ってくることはないだろう。大人しく待っていろ」
「…弓だけで行くつもりか」
すると、ゆらり、と時若が美波の後ろに立った。
「魔物をただの武器で倒すのは難しいぞ」
「…それを普段から成している」
律斗の唇が歪む。
時若も同じように歪む。
「…【かんなぎ】の力無しにいけると思っているのか」
「だから、そうすると言ってるんだろう!」
律斗は吐き捨て、首を振り。
「…行くぞ」
颯太の肩を叩く。
「は、はい!」
馬は一気に坂を駆け降りる。
「馬鹿か」
時若が呻く。
それから、彼も馬に乗り、駆けだした。
「嘘! 三人とも行くの!?」
美波が唖然とする。
「そりゃあ、普通にしてれば、こっちにあそこの魔物たちは来ないでしょうけど…」
ふう、と息を吐いてから、後ろにずり落ちていた衣を被り直し、視線だけで三人の背を追った。
倖奈も唖然として見送った。



街の正門の上の見張り台に昇り、周りを見回す。
「南の方が… 本隊だな、やっぱり」
風に目を細め、左手をかざして、史琉は独り呟いた。
南方の野原を揺らしながら、奇妙な色の群れが走ってくる。
街の南門からは、迎撃のための隊が出たらしく、そこに向かっていく馬と人の群れも見える。
右の人差し指で、奇妙な色の影の数を数え。
「18かあ… 国府の街の近くにも、これだけの数の魔物って出たっけなあ…?」
首を傾げる。
「北の草原ではまとめてドカンってのはずっとあったけどな。この辺は、単品が多かったような気が…」
うーん、と唸ってから。
「分かんないな」
うん、と頷き、前を向き直る。
その視界の端に、東から南へ駆ける馬を2頭見つける。
「律斗と颯太だな」
笑う。
「じゃあ、あっちは任せて、救援の手伝いをするかな」
そう言って、門の下を見ると。
先ほど言葉を交わした男と兵の幾人かが馬を出すなどしている。
「…準備には時間がかかりますってね」
あはは、と乾いた笑いを零してから。
「待っていようと思ったけど… 先に戻るか。助けがくるって伝えるだけでも必要だろ」
よし、と拳を握り。
史琉は梯子を降りた。



「なんで、おまえまで来てるんだ!」
「おまえたちだけで行く理屈があるか!?」
律斗が叫ぶと、時若も声を張り上げる。
「ひたすら武器で斬りつけることしか知らぬ奴め!」
「…燃やせば良いってものじゃないだろう!?」
「馬鹿者、必要なことだ!」
颯太は手綱を握ったまま首を傾げ。
それから、はっと前を向き直る。
「もう5町切りますよ!?」
もう少し駆ければ手が届きそうな位置に奇妙な色の鱗に覆われた大きな獣がいて、叫ぶ。
「じゃあ、このまま、背後に付くように走れ!」
叫び返すと、律斗は、鞍の端に足を掛け、立ち上がった。
「え!?」
颯太は思わず振り向きそうになり。
「駆け続けろ!」
言われ、前を向き直る。
律斗は、右手で矢を取るを弓を引いた。
魔物の背が目前まで迫らんとした時に。
それが、ぱあん、と音を出す。
真っ直ぐに走った矢は、一匹の魔物の背に突き立った。
魔物が咆哮する。
「えっと…」
「構わず走れ。止まると反撃で狙われる!」
颯太は、魔物の群れの後ろを平行に、馬を走らせる。
律斗は、2本、3本と同じように撃つ。
3本目で、魔物がどうと地に倒れた。
「…全く」
群れの手前で止まって。
時若は、馬の背に乗ったまま、髪を掻き上げた。
「文字どおり、倒すことしかできないだろうに」
言って、右手を魔物の群れに向ける。
「…跡形もなく消さねば、瘴気は残り、魔物が続けて発生することも有り得るんだぞ?」
ぼう、と右手の周りが光り始め。
それが熱を帯び、ごう、と渦を巻く。
「それを完全に防ぐように魔物を消せるのが、 【かんなぎ】の力だ!」
ごうごうと炎が燃える。
時若はぐっと拳を握りしめ。
「行け!」
振り上げる。
炎は龍のように宙を掛け、魔物を呑みこんで行く。
3匹呑みこんで弾けた炎は、倒れていた魔物に燃え移り、その影もぶすぶすと消えていった。
ふう、と時若は息を吐く。
颯太の駆る馬は変わらずに駆け、律斗が矢を放っている。
群れの正面には、国府の部隊と思しき兵が刀を振るい、魔物が少しずつ地に倒れていっていた。
「残りも消すか」
ぼやき、もう一度右手を突き出した。
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