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第十七節 悪意
「……………。」

何て言えばいいのか、俺は悩んだ。
こともあろうに魔女達は、三千年毎に金環日食のおよそ二週間を生きるのだと言う。そして、ブランシェットから難を逃れて、次ぎの三千年後の金環日食まで眠るのだと。

「………じゃあ、ブランシェットと戦ったことはないのか?」

喋る猫様に尋ねてみる。

「無いわけではない。ブランシェットは6人の魔女を生贄にしなければ、自らの目的を果たせない。今までは、ブランシェットが地上に現れてからの12時間の間に、それが出来なかっただけだ」

引き分けって考えればいいのか?

「第三者から見ればそうかもしれん」

ダンテは不意に発言をし、しかし悔しそうに、

「だが、それではなんにもならんのだ」

三十代半ばの男の、その厳しさの理由を垣間見た気がしたが、なぜこの男が“そう”言えるのか、不思議だった。

「世界を救う為、力を貸してくれんか?」

チェシャ猫は、傍目はその愛らしい小首をもたれた。

「で、でもよ、俺の力は妖かしを消し去るだけの力だ。魔女を狩るのならまだしも、保護するだけなら特に役に立てることはないと思うぜ」

「そんなことはない。当面は魔女の保護でいい。頼む。力を貸してくれ」

当面って………後一週間だろーが。
そんなことより、さて、どうしたものか。正直、まだコイツらから胡散臭さを感じないわけじゃあない。それに、ブレーメンに手を貸せば、間違いなく親父と兄貴は俺を許しはしないだろう。まして、広く深く、権力のある家だ。この世で唯一人、孤独で生涯を生きねばならなくなるだろう。早い話、世界から無視されるわけだ。
そんな苦痛を、ブレーメンの話を鵜呑みにして強いられるのは真っ平だ。もちろん、戯言だったらの話だが。
だから、すぐに答えることなんて出来なかった。
俺は平穏に毎日を過ごせればそれでいいんだ。その為には、真神の人間であることは切り捨てたい。親父達に背いて、縁を切るチャンスを棒に振りたくないんだ。

「“三人”とも、魔女の情報が入ったわよ」

そこへ、アサキがやって来た。
なんてナイスなタイミングだ。チェシャ猫と同類に見られたのはなんだが、今は許そう。せめて一年の猶予があるなら、答えることも躊躇わずに済むのだろうけどな。

「四人目か?」

ダンテが聞くと、アサキは頷いた。

「よしっ!なら一先ずは魔女の保護に行ってくらあ」

これみよがしに言った俺は、威勢で自分の心をごまかした。

「車、貸してくれ。いいだろ?」

早くこの場を離れたかった俺は、わかりやすい態度だったかもしれない。
ダンテはポケットからキーを取り出し、放り投げた。

真神きみんちの車には勝てないが、一応、外車だ。ぶつけないでくれよ」

ダンテも一先ずは俺に猶予をくれるらしい。

「そんときは真神に代替え品もらったら?」

アサキはさらりと言った。

「じゃ、行こうぜ」

その俺の背中に、

「アロウ」

チェシャ猫は声を掛けた。

「ブランシェットは待ってはくれんぞ」

猫よ。俺はまだ心を決めてない。忘れるな。

「はいよ」

適当な返事をした俺だが、まだ何も始まっていないことに気づいていなかった。









「いいのかい?アロウを誘わなくて」

クダイはセツハに言った。でも、答えは解っている。聞くまでもなかったのだが、軽くコミュニケーションを取っておいた方がいいと思い、口にしただけだ。

「何度掛けても圏外だ。構わん。駄目弟などいなくとも、私が魔女を狩る!」

「兄弟なのに仲悪いんだね」

「フン!兄弟だから仲良しとは限らん」

「………ごもっとも。でもさ、僕は一人っ子だから羨ましいよ。兄弟喧嘩さえもね」

くだらんとでも言いたげに、セツハは無言で先を行く。

「…………フッ」

クダイは、じっとセツハの背中を見つめて、

「きっと、何か始まるよ。そのうちね」

微笑を浮かべた。









「この不調和の正体はなんだ………?」

ロングコートの男は、肌で感じる違和感にある種の錯覚を見る。
世界でありながら世界ではなく、街でありながら街ではない感覚。
見渡しても、そこはありふれた街並。しかし、確実に誰かの意志が紛れ込む街。

「………汚れた存在が居るな」

通り過ぎてもよかった街だ。他にやることがある。
だが、興味をそそられた。
彼もまた、クダイ同様に戦いを求めている者。興味がそそられれば、気持ちに嘘をつけない。

「この世界では、一体何が真実なのか………ククク。見せてもらおうか」

男の前では、全ての悪意が平伏す。


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