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ワルプルギスガーデン 作者:フジムラ

ワルプルギスガーデン

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ひと狩り行こうぜ!

 さばきの件は保留にし、聖ルヒエル女学園へと向かう。
 街並みはまだ新しく、学園のある区画には、ヨーロッパ風の建物が並んでいる。学園の礼拝施設のものだろうか。建物の合い間から鐘楼が見えた。

 夏季休暇中なので人は少ない。忍び込めない事もなかっただろうが、女子校ゆえにセキュリティはやや高めに設定されている。中に入るには、学生証を兼ねたIDカードを要求される。

「本物のIDカードを用意しましたわ。学園内に限れば、泥棒の真似事をせずとも調査できますわ」
「本物? このために転校までしたのか?」
「まさか。見学用の仮のものですけれど。宗蓮院しゅうれんいんの名を出せば、簡単に発行して頂けましたわ」

 ブルジョワめ。確かに行動はしやすいが、一戸建てを借りた件といい、目立ちすぎて足元をすくわれなければ良いが。

「寮生や、部活で出てきてる奴に話を聞いてみるか」

 学園内ではまず危険は無いと判断し、手分けして聞き込みを開始する。眼帯の女が仮に前の鍵の持ち主、裁と接触していたなら、無名都市むめいとしで姿を見た者もいるだろう。一目見れば記憶に残っているはず。

 もっとも、そっちはそれほど期待していない。あたしが求めるのは天屍てんしの情報の方だ。常人には見えていないにせよ、何らかの影響が出ていないはずがない。空を見上げると、今も昼間の月のように薄っすらとその姿が見える。時折風に吹かれたかのように羽根を撒き散らしているが、あれに降られる場所にいくわしたらどうなるのか。

 学園の敷地内には初等部から高等部までの校舎が存在し、かなりの広さだ。とりあえず人の姿を探しながら歩いていると、英国庭園で二人連れの少女達を見つけた。

 姉妹だろうか。どこか顔付きが似ている。姉の方はジャージにブルマ。ヘルメットを被り、金属バットを手にしたその姿は、試合中のグランドを抜け出してきたように見える。あたしよりも年下のようだから、中等部だろう。初等部の制服を着たお下げの妹は、あたしに気付くとさっと姉の影に隠れ、ジト目で睨み付けてくる。ジャージの裾を妹に引っ張られ、あたしに気付いた姉は、素っ頓狂な歓声を上げた。

「凄い、金髪パツキンだ! 高等部からは染めていいんだな!」
「染めてねえよ。お前こそ何だ、その格好。こんなところで自主練か?」
「あー、違う違う。モンスター退治」
「あぁ? モンスター?」

 姉のほう、あきらの話によると、園芸部の妹が管理を手伝っている庭園に、化け物が出るので追い払いに来たという。

「猿とかイタチのことか?」

 英国庭園の奥には木立が見える。塀で囲われてはいるが、すぐ裏手に山が続いているから、餌を求めた動物が入り込んでもおかしくはない。

「!!」

 激しく首を振った妹、そのが胸に抱いていたノートを開く。そこには拙い筆致で、片羽 の生えた蛇のようなものが描かれていた。

「マジでバケモンだな。お前らだけで大丈夫か?」
「……しんじるの?」
「ああ、あたしは魔法使いだからな」

 そのが目を見開く。あたしは嘘を吐いてないし、あんたも同じだろう? 微笑みかけると、真っ赤になって俯いた。

「姉ちゃんもパーティーに参加するか? 魔法使いなら後衛な!」
「魔法使いちがう……お姫さま」

 お世辞や下心込みじゃない褒め言葉には慣れてない。

「ありがとな」

 あたしまで赤くなってやしないかと、少し心配になった。

「そんじゃあ、出発!」

 制服の腰のあたりを掴んでくる、そのの頭をぽんぽんと叩くと、勇ましくバットを振り上げた晶に続いて歩き始めた。

 残念ながら薔薇は盛りを過ぎてしまっている。植え込みや煉瓦積みが続く様は、初等部の生徒には迷路のようで楽しいだろう。実際、そのは友だちとのかくれんぼの最中に、化け物に追いかけられたという。

「出るのはこいつだけか?」
「学園の外だけど、犬とか鳥のモンスターも見たやついるんだって。空にもっと大きいのが飛んでるのを見たとかいう噂もあるけど、怪獣映画じゃないんだし」

 モンスターはいて怪獣はいないのか。晶の線引きは恣意的で当てにならないが、やっぱりアレが見えるやつもいるのか。歩きながらそのが見せてくれたノートには、耳から鳥の羽根を生やした犬や、翼を複数枚持つ鳥の絵が描かれている。

「ネットにアップしてもいまいちバズんないけど、捕まえて役所に持って行ったほうが、いいお金になるって話もあったかな」
「明治時代かよ!」

 役所はともかく、情報を統制している組織がいてもおかしくはないか。

「いた!」

 何かのゲームのマップBGMらしきものををハミングしていた晶が、立ち止まり声を上げる。前方の道を阻むように、蛇が這っているのが見える。赤と黒の斑紋からすると、ヤマカガシか。1.5mを越えるほどの長さだが、この程度なら異常なサイズともいえない。

「普通の蛇と違って、逃げないで向かってくるから気をつけて!」

 なら手を出すなと、制止する前にバットを振り下しやがった。尾を打たれた蛇は、潜り込みかけていた植え込みから頭を引き戻し、鎌首をもたげた。首周りに羽毛を生やし、小鳥くらいの大きさの翼を一枚だけ持っている。バットを構える晶を威嚇するように首を揺らしていたが、身を屈めたかと思うと、大きく口を開け飛びかかってきた。

「葬らん!」

 晶のフルスイング。大きく打ち返された異形の蛇は、それでも鎌首をもたげ、再び攻撃の姿勢を見せる。

「硬い!」

 いや、違う。あの蛇はバットが当たる前に、自分から後ろに飛びやがった。

「おねえちゃん!!」

 怯えるそのはぎゅっと目をつむり、あたしの腰に抱き付いている。

「も一回!」

 スイングにタイミングを合わせ、気付かれないように圧縮した風を撃ち込むと、異形の蛇は頭を弾けさせ地に落ちた。

「や……やった! インスタ!」
「……おねえちゃん……」

 興奮していた晶も、そののしょんぼりした呟きで我にかえる。バットにこびり付いた血と、頭を無くし動かなくなった蛇に目を落とし、言葉を失う。

「墓でも作ってやるか」

 異形化していた頭部を無くしては、サンプルにもならない。蛇の尾を摘んで持ち上げたあたしに、姉妹は黙ってこくこくとうなづいた。
 そのに園芸部で使っている移植ごてを借り、庭園の隅に蛇の死骸を埋めた。

「それじゃあな。危ないから、今度からは大人に知らせるだけにしとけよ」

 それぞれのやり方で祈りを捧げ、別れを済ませた後も、そのはあたしの制服をつかんで放そうとしなかった。

「姉ちゃん、高等部? また遊べる?」
「……学校始まったらな」
「ほらその、姉ちゃんまた今度遊んでくれるって言ってるだろ」

 俯き、頑なに制服を握りしめるそのに、気休めの嘘を吐く。

「やくそく」
「ああ、またな」

 いつまでも手を振り見送る少女の姿に、少しだけ胸が痛んだ。
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