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異世界の無人島

作者:あずきの あん
非常にまずい事になってしまった。
何がまずいのかと問われれば、全てまずいと答えるのだが、何よりも深刻なことは、見上げた空に緑色が映ることだろうか。

そればかりではなく、目の前に広がる海さえも緑色なのだから、何から驚いて良いのかすら分からない。
つい先ほど目覚めたばかりの頭に、一面緑色の世界は些か刺激が強すぎる。

さて、試しに驚いたことを二つばかり挙げてみたものの、驚きはそれだけに留まらない。
昨日の夜は間違いなく自室のベッドで眠りについたはずなのに、目が覚めればここにいたのだ。

ここはどこだろう。なんて暢気なことを考える前に、まずい事になったと考えるほうがよっぽど自然だ。
もっとも、今になってようやく考えることが出来たその疑問も、おそらく自分の中にある知識だけでは到底解決は出来ないだろう。

控えめに考えて、異世界のどこかにある島といったところだろうか。
何故島だといえるのかは、目の前で波音を立てる緑色の海と、足元に光を反射する本当の意味で真っ白な砂浜が、面積の小さいこの陸地を取り囲んでいるからだ。

試しに一周ほど歩いてみたが、体感で10分も経っていないような気がする。
島の中央には申しわけ程度に森が生えているわけだが、ここに果たして自分を生き長らえさせるものは存在するだろうか。

何分島が狭いもので、見るものといえば残りは森くらいなのだが、憎たらしいことに、森だけは変わらず緑色をしていて嫌になってしまう。
きっと、緑色が好きな人を一年ほどここに閉じ込めれば、さぞ大喜びするだろう。そして、地球に帰ってからは途端に青色信仰をしだすに違いない。

さて、もう完全にここを異世界だと決め付けてしまったのだが、そうなるとやはりまずい。
もしくは、ここは本当は地球で、何らかの異変と共に自分がここに送られたという可能性もあるのだが、それを知る術はないため、楽観的な方向で考えることにしよう。

一口に異世界といっても、地球とどの程度異なるのかによって状況は変わってくる。
例えば、今の気温は少し熱いくらいで、湿度はそれほど高くはない。つまり、人間が過ごすのに問題はない。

これが夜になるとどうなるのかは分からないのだが。そもそも夜があるかどうかも分からない。
つまり、考えるだけ無駄なので、今は省くことにしよう。

続いて重力だが、心なしか体は軽い気がする。
だが、地球と大きく違うというようなことはなさそうだ。

ここまで現時点で感知できる環境について問題はなさそうだが、大事なのはこれからのことだ。
人が生きていくうえで絶対に必要なものは、水、食料、睡眠の三つである。

水や食料は、そもそもあるのか。あったとしても体に合うのか。自分の体で実験しなければいけないのだから恐ろしい。
睡眠についても、絶対的な安全が確保できるまではしない方が良いと思う。

いつまでもこうして考え込んでいても仕方がないので、まずは森の中にでも入ることにした。
もし危険な動物でもいたら嫌なので、足元に落ちていた手軽な木の棒を申しわけ程度に持って行くことにしよう。

いくつもの木が所狭しと並んでいる様子は、鈍く光る空と相まってとても不気味に見える。
普通の森だと言われればそれまでなのだが、こんな状況になってしまった不安感があるため仕方ない。

木の棒を片手に、がさがさと先に進んで行く。途中に拾った食べられそうな木の実をいくつか抱え、飲み水になりそうなものを探して歩く。

「あっ」

数時間森の中をうろつき、ようやく飲めそうな水を見つけた。
手に持っていたものを全て一旦地面に下ろし、水に口をつけてごくりと飲んだ。

「おえっ!」

自分で出したその声は、この島での生活を続行することが不可能な証明になってしまった。
かなり森の中心に近い、つまりは、ほぼ島の中央部の水がとてもしょっぱかったのだ。

ここまで塩水が入り込んでいるということは、この島に人間が飲むことの出来る水は存在していないだろう。
ああ、ここまでか。

落ち込んでいても仕方がないので、見つけた木の実をもう一度抱え込み、来た道をがさがさと戻っていった。
再び砂浜に着く頃には、外は暗くなっていた。

上を見上げると、今度はしっかりと黒い空に、三つの月が等間隔に浮かんでいた。
月と言うと語弊があるな、おそらくこの星の衛星だろう。

しかし、この時点でここが地球ではないことが確定してしまった。
これでは救助を待つなんてことは期待できそうにない。

浮かぶ星を見ながら持ってきた木の実に手を伸ばしたが、それが固くて食べられそうもないので、今度こそ絶望した。

ただぼーっと時の過ぎるのを待つ。それをしばらく続けていたが、やはり人間とは欲望に抗えない生き物らしい。
どうも、水が飲みたくてたまらなくなってしまった。

からからに乾いた喉が、中から手が出てくるほど水を欲しているのが分かる。
気がつけば、ふらふらと海の中に手を浸し、その水を掬い上げていた。

手に取ると既に緑色ではなくなった水は、何の抵抗もなく喉をすり抜けていった。
そうだ。ここは異世界だった。死を覚悟するくらいならばなんでも試してみるべきだったではないか。

まさか海の水がしょっぱくないなんて、考えもしなかったが、ここが異世界ならおかしくないはずだ。
あたりをきょろきょろと見回すと、視界に紫色の草が映ったので、それを試しに口にした。

草は、鶏肉の味がした。なるほど、ここは最早なんでもありらしい。
しかし、これで生き残る算段が付く。

沸いてきた生への希望に、心を燃えさせて立ち上がると、ぱっと目の前に茶色いドアが現れた。
驚きのあまり一歩二歩後退してしまったが、これは帰っても良いという事だろうか。

やっと生きる術を確保して燃えてきたところだというのに、野暮なことをするドアもあったものだ。
しかし、帰れるならそれに越したことはない。私は警戒しつつもドアノブを回した。

するとそこは、なんと見慣れた自分の部屋だった。ほっと顔の表情が崩れたのが自分でも分かる。
しかし、更に驚くことに、ベッドには自分がいびきをかきながら眠っていた。

このままでは困った。地球に自分が二人もいては、いろいろと不都合が起きるだろう。
しかし、そこに自分の部屋があるというのに、わざわざ帰らないという選択肢を取ることもない。

どうしたものか。そうだ、良い事を思いついた。
思いつけばすぐに実行しよう。私は深く眠っている自分をベッドから引き摺り下ろして、砂浜の水がかからない位置にそっと下ろした。

自分がまだ寝ているのを確認して、部屋に入ると、さっきまであったドアは消えてしまった。
そこでようやく安心してベッドに入り、一日分の疲れを癒すように体を伸ばして目を閉じた。

緑色のベッドが嫌な夢を見せないように、明日早速青いベッドを買ってこなければ。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
この作品は、最近忙しくて更新できていない「能力名:異世界転移」の読者の方ならば、連載作品ほったらかしてなにやってんだ!となるかもしれませんが、その点に関しては申し訳なく思います。
一度短編を書いてみたかったのと、連載作品のほうの息抜きとして書きたかったため、書かせていただきました。
「能力名:異世界転移」については、しばらくこの更新ペースが続くと思いますが、今後とも是非よろしくお願いします。
さて、この作品を見て面白いなと思ってくださった方は、是非連載中の上記作品にも目を通してみてください。URLを下に張っておきます。

http://ncode.syosetu.com/n3323dv/

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