今の店舗に異動となって私は早二ヶ月になろうとしていた。店長として栄転となっていた私は未だにこの新しい職場には溶け込めてはいなかったのだ。店長とは言っても部下が10名足らずの小さな店でる。
この店舗の部下達もかなりの問題児の集まりで他の店舗からも特別浮いていたのだ。会社内でも異動をしたくは無い店舗NO.1の称号もある程に。問題児といっても決して仕事が出来ないわけでは無い。ただ、性格に問題がある人ばかりなのだ。
基本的に暴走族上がり、外見が恐ろしい、日本語が上手く使えない、兎に角生意気な奴らの集まりなのだ。
一番問題なのが日本語、つまり敬語を使えない事だ。接客、販売業なのでお客様に対して敬語を仕えないのは致命的でクレームの多い店舗でもあったのだ。
私が異動となったのも元々この店舗の店長が辞めたからなのだ。何やら会社を立ち上げたらしいのだが詳しい話はわからないが、恐らくこの部下達に嫌気を刺したのだろう。私が辞めるのも時間の問題かもしれない。
そしてこの店舗の副店長を勤めるのが田中という男。入社4年目で一見、優男に見えるが問題児を纏め上げ信頼を得ている。私よりも指揮をを取れる社員なのかも知れない。この男が店長になれば良かったのだがこの会社は未だ年功序列型なので入社8年目の私が抜擢された訳だ。
私は正直この店舗から逃げたかった。とても纏め上げる自信が無いのだ。とりあえず田中副店長を手なずけそれ以下の社員を上手く使おうとしたのだがこの目論見は失敗に終わってしまった。
もし私が独身ならもう退職届けを出していただろう。私は来月、結婚するのだ。本来嬉しく思う事なのだが今となっては喜べずにいた。
「田中、来月の4日の土曜日はオレ休むからな」
その日は私の結婚式の日だった。接客業なので土、日の休みはご法度だ。だが結婚式は別な筈である。
「はぁ?!伊藤店長休むんですか??土曜なのに??」
真顔で私に言ってくる。異動初日の朝礼で結婚する事と日にちは言っといたのだがこの店舗では影の薄い私の話は誰も覚えてはいなかったのだ。
「ああ、結婚式あるから休むよ。申し訳無いけど店頼むな」
「結婚するんすか?へぇ、良いですね」
興味無さ下に言ってくる。本来ならば「オメデトウ御座います」の一言が有っても良いものだろう。
「流石に連休はマズイから土曜だけ休ませて貰うよ」
「解りましたよ。楽しんできてください」
どれだけ私の結婚式に興味が無いのだろうか。前の店長の辞めた気持ちが解る様な気がしてきた。
「あっ、そうだ。店の売り上げの事なら気にしないでくださいよ。ここの店舗は猛者が沢山いますからね」
自信満々に田中は私に言ってきたのだ。この店舗はクレームは多いのだが不思議な事に業績は良かったのだ。
「ああ、期待しているよ」
私は少しトーンを下げて言ったのだ。
その日、私が昼食を終え店内に戻ると何やら騒がしい。
「ダカラァ!何とかすれよ!!」
汚い声。それは男の罵声。その声は玄関先から聞こえていた。
私は近くにいた高橋と言う部下に状況を聞いた。
「どうしたの?」
「えっ?クレームっすね」
「クレーム??また?」
私は思わず呆れ顔になってしまった。クレームをつけているのは細身の男で一見大人し目に見える男なのだが既に周りが見えていない状況で手の付けられない様子だった。クレームの担当をしているのは当店NO.3の鈴木が対応していたのだ。
私は自然と田中を探していた。
「田中は何をしているんだ?何処にいる?」
「えっ?田中さん?カウンター内にいないですか?」
私はその言葉を聞きカウンターに目をやった。
田中はカウンター内で欠伸をしていたのだ。私はどっと疲労感に襲われた。本来ならばクレームが起きた時、対応するのは店の責任者である私かもしくはNO.2の田中がしなければならない。それが常識と言う物なのだ。私は足早に田中に駆け寄った。
「田中、お前はここで何をしているんだ?」
「何って、見てますよ。クレームを」
真顔で言う田中に私は怒りをあらわにしてしまった。
「何を馬鹿な事を言っているんだ!」
「はぁ?!何を怒っているんですか?」
「もういい!」
私は頭が痛くなってきた。兎に角、急いでお客様の元へ向かったのだ。
「お客様!何か御座いましたか?」
少し大きな声でクレームを言いつけている客に声を掛けた。
「ああっ?!誰だてめぇ?」
男の言葉使いは酷い。大人し目に見えるから尚更、苛苛感が膨れ上がってくる。だがここは感情を押し殺して私は対応に当たったのだ。
「当店の責任者です。伊藤と言います。今回は何か御座いましたか?」
「御座いましたじゃねぇ!ここで買った物が不良品なんだよ!今すぐ新しい物に変えろ!!」
客の要望は新しい物に変えろとの事だった。私はすぐこのピンチを乗り切る為に商品を変えようと思い立った。これでクレームが終わるのなら仕方の無い事と結論付いたのだ。
「お客さん、だから言ってますよね?!メーカーに一回出して検査してクレームが通れば新しい物に交換しますよ!」
対応していた鈴木が言葉を割り込ませてきた。今にもキレそうな鈴木の言葉使いと態度に私益々苛苛してきたのだ。なぜ火に油を注ぐような事をするのだと。その言葉に客も応戦する。
「メーカーとか知らネェから!オレはこの店で買ったんだからこの店で変えろ!!」
「だからそれは出来ません!!」
「何回も言わせるなよ?!餓鬼が!本社に言うから電話番号教えれや!!」
本社と言う言葉が出てきて私は冷や汗を掻いた。「本社はマズイ」心の中でそう思ってしまった。
「本社の番号ならお客さんが自分で調べてください」
また鈴木は余計な事を言った。
「なんだぁ?その態度は!??」
客は怒りのあまり呂律も廻らなくなってきていた。
「すいません!今すぐ新しい製品と交換致しますので!少しお待ちください!!」
もう心身ともに疲れてしまった私は口をとうとう入れる事が出来たのだ。
「おう!最初からそうすればいいんだ!」
客も勝ち誇った顔で私と鈴木を見下した。
「高橋!代わり持ってきて!」
高橋に指示を出し私はひたすら客に頭を下げた。本社に電話が行かない様に心で願いながら。
だが隣にいた鈴木は頭を下げずその場から立ち去ってしまった。私は頭を深々と下げて何気に鈴木の行方を追ったのだ。
鈴木はスタッフルームにむかっている。カウンター前で田中に何か言われスタッフルームへと消えていった。そして、私はカウンター内にいた田中と目が合ってしまった。田中の目からは私はどう映っているのだろうか。何やら冷めた目をして田中もスタッフルームに消えていった。
高橋が代えの品を持ってきてこの件は程なく終えたのである。私は気を落としながら高橋に言ってしまった。
「なぜ、謝れないのか。ここの従業員は・・・」
「なぜ謝るのですか?鈴木さんは悪くないですよね?」
その返答にも私はガッカリした。
「そういう問題ではないよ」
呆れ顔で私は倉庫の方へ向かったのだ。高橋が私の背中から話しかける。
「伊藤さん!今のクレームの人、今日で2回目ですよ。しかもアイツ警察官ですからね。本当にどうしようもないですよね」
「警官?そんな馬鹿なことあるか」
私はもうどうでも良くなっていたのでそんな言葉しか返せなかった。
倉庫でタバコを吸っていると田中が私の元に歩み寄ってきた。
「何故、クレームを認めたのですか?」
先ほどの冷めた目のまま私に言い寄る。
「そうしないとあの場は収まらないでしょ?」
私はもういい加減にしてくれと正直思っていたのである。少し一人にしてくれと思っていたのだ。
「伊藤さん、あなたの仕方は間違っています」
「だったら田中お前は何をしていた?カウンターで欠伸をしておきながら良くそんな事が言えるな」
思わず言ってしまったのである。
「欠伸?していましたよ。そんなのしても良いじゃないですか」
「もういいから一人にさせてくれ」
私は立て続けにタバコに火を着けた。だが、田中は引き下がらない。
「鈴木はまだクレームの処理になれていない。だから鈴木にやらせたんですよ。仕事はしないと覚えない。あの客の声ならカウンター内にいてもやり取りが聞こえる。最後、本当にどうしようもない時はオレが入る積もりでした。伊藤さんが入るのは早すぎで客の言いなりになるのはどうかと思います」
年下からそんな事を言われると凄く腹が立った。しかし今の私にはそんな気力もなかったのだ。
「伊藤さんは鈴木の顔をも潰してるんですよ?」
私はその言葉に理解できずにいた。田中は最後に一言言って私から去っていった。
「いい加減、『男』見せてください」
その言葉の意味も今の私には理解できなかったのだ。
ある日の晩の会社帰りに偶然に前の店長にバッタリ会ったのだ。
「岡田さんじゃないですか??」
私は恐る恐る声を掛けたのだ。
「おお、伊藤じゃネェか。元気にしてたか?」
岡田さんとは同期で最初の一年間だけ一緒の店で働いていたのだ。私は今の部下達の上手い接し方を請うために飲みに誘う事にした。
「どうですか?久しぶりに酒でも飲みませんか?」
「ああ、いいよ。飲もう。」
快く聞き入れてくれた岡田さんと近くの居酒屋で飲むことにした。
「岡田さん、独立したみたいじゃないですか。どうですか、順調ですか?」
私はとりあえず岡田さんの事から聞いてみる事にした。こう聞くと「伊藤はどうなの?」って具合になり私の悩みを言い易くなるのだ。
「会社?順調だよ。今は面白くて仕方がない」
とても明るい顔で言ってきた。本当に順調なのだろう。そして続けてきた。
「ところで今の店には慣れたのか?」
期待通りの答えがきた。しかし、また岡田さんは続けたのである。
「田中達、良い奴らだろう?仕事も出来るし面白いしな」
「えっ?!」
私は意外な言葉が出てきたので思わず声が出てしまった。
「なんだその顔は、上手くいっていないのか」
ニヤリと笑みを見せた岡田さん。グイッとビールを飲み干して、
「あいつ等はな、会社内では評判が悪いけど凄く良い奴らなんだ」
「そうなんですか・・・?」
「そうだよ。オレも会社辞めるの辛かったからな。あいつ等と一緒に仕事が出来なくなると思うと会社を辞めようとするのを止めようと思う位に」
岡田さんはビールを追加しながら枝豆に手を伸ばし気落ちしている私の顔を見てまた笑みを浮かべた。
「でも辞めましたよね。会社。あいつ等がイヤだった訳じゃないのですか?クレームも多いし言う事を利かないし」
私はストレートに聞いてしまった。
「それは違うな伊藤。クレームが多いのは仕方の無い事だ。あいつ等はまだ若いし一般常識もまだ足らない。たしかにそれも少しは有るとは思うが、あいつ等は物を売る才能が有る。敬語が下手でも言葉が足りなくても物が売れる。意味が解るか?伊藤」
私にはさっぱり理解出来なかった。
「心だよ。物を売りたいと言う心があいつ等には有るんだ。だから売れるんだ。店の業績は良いだろう?」
「まぁ。業績は悪くは無いですね・・」
「だろ?確かに暴走族上がりとか浮いた人間が多いかも知れない。でもあいつ等は純粋なんだ。言葉使いが悪くてイヤな思いをする客も要るかも知れない。でもそんなの関係ないんだよ」
唖然としている私に岡田さんはビールを注いで来た。
「あれでも結構成長したんだぜ。俺が教えたからな」
「あれで成長してるんですか?」
「ハハッ」
岡田さんは少し大きな声を出した笑い出した。
「お前は何も見ていないんだね。お前はお前の中の常識に捕らわれ過ぎだよ」
その言葉に私は少しカチンと来た。
「ちゃんと見てますよ!あいつ等の事は全然私に気を使わないし、クレームが起きても素直に謝らないし!!」
私はビールを一気飲みをした。
「いいか、伊藤。何故あいつ等がお前に気を使わなければならない?お前が店長だからか?そんなにお前が偉いのか?あの店に至っては田中の方が店を知っている。勿論、客層も田中の方が知っている。あの店ではお前はまだ新参者だ。あいつ等がお前に合わす必要も無い。逆にお前が合わせないといけないんだ。わかるか?」
私があいつ等に合わす?私は納得がいかなかった。私の方が上司なのに何故私が合わせなければならないのか。
「わかりません」
またビールを一気飲みをした。
「あの店の客層は悪い。だからあの店の従業員は気が強いのがばかりなんだよ。これは本社の意図だ。クレームもそう。お前はクレームの内容をちゃんと聞いているのか?聞きもせずに客に頭を下げたりはしていないか?もし、あの店の従業員が伊藤みたいなヤツばかりだったらもっとクレームも多いだろう」
その言葉に少し我に返った私。
確かに客と揉めている従業員にいきなり頭を下げて私が謝るのが殆どだ。しかもあまり本社からもクレーム問題についてどうこう言われない。
「そうなんですか?」
「ああ、そうだよ」
「初めて知りましたその話」
今度は私が岡田さんにビールを注いだ。
「だからお前があいつ等に合わせないといけない。お前が偉いどうこうではないんだ。クレームの内容も聞かず客にすぐ頭を下げる店長。そして、クレームが有ったらイヤな顔をする店長。部下と楽しく話せない店長。そんな上司になぜ合わせなくてはならない?そう思わないか、伊藤?」
自分という人間が如何に小さいと言う事が解った気がした。あいつ等はあいつ等なりに一生懸命やっているのだ。仕事を常に楽しくし物を売る。売る事に関しては気持ちが無いとやはり売れないものだ。初めてあいつ等の事が理解できたと思ったのである。
「じゃ、なんで岡田さんは会社を辞めたんですか?迷っていたんですよね?」
「ああ、迷ったよ。でも田中が背中を押してくれたんだ」
「田中が?」
私は枝豆を口に含みながら岡田さんの話を聞いた。
「簡単な話だよ。迷ってるなら止めろって言葉があるだろう?」
ビールから焼酎に変えた岡田さんはまた笑みを浮かべる。
「迷っているなら止めろでは詰まらない。それじゃ普通の人と同じですよ。オレならやりますよ。だって人生一度しか無いんですから。失敗しても良いじゃないですか。もし失敗したその時は俺達が力になりますから頼ってくださいよ!ってな」
私は少し羨ましく思えた。岡田さんはあいつ等に愛されていたんだと解ったのだ。
「その言葉でオレは吹っ切れたんだ。だから今のオレが有る。部下から学ぶ事も有るから決して部下を貶してはダメだ。常に部下の味方でなければ大成はしない。敵は上に作れ。上にペコペコするな。これがあの店舗でオレが得た事だ」
そう言うと何気に時計を見出した。
「もうそろそろ終電だな。お暇するか」
「あっ!もうこんな時間なんですね」
「じゃ、ここはオレが奢るからな」
と伝票をレジに持っていってしまった。
「なんか自分から誘っておいてなんか悪いですね」
同期なのに頭を下げる私。これが私の小さい所なのだろう。
「なんかなんかって、ウルサイね。気にするな!また飲もうな」
「はい!是非!」
「結婚オメデトウな伊藤」
「えっ?!あっ有難う」
「本当にあいつ等は良い奴らだから頑張れよ!じゃぁな」
そう言うと岡田さんは去ってしまったのだ。私もほろ酔い気分で岐路に帰ることにした。そしてフト思ったのだ。
岡田さんは何故、私が結婚する事を知っていたのだろう?岡田さんには言っていなかったのに。会社内でもこの事を知っている人は少ない筈なのに。そもそも何で田中達と一緒に働いているのが解っていたのか?私の異動先を知っていたのだろうか。
兎に角、今晩は岡田さんに出会えて本当に良かったと思ったのだ。そして、田中達を見る目も変わろうとしていた。私が変わらなければならないと色々考えながら家に足を運ばせた。
翌日、開店時間から私の目に見た事のある男が目に入ってきた。
それは忘れもしないあの警察官とやらのクレームを付けて来た男だった。その男は私を見つけるやら否や私の元に近寄ってきた。
「あっ、責任者!また壊れたから交換してくれや」
「またですか?」
「そうだ。交換だ」
私の背中からは従業員の視線が刺さっているのが解った。
「そんなに壊れるのは可笑しいですね。」
「何言ってんだお前?!交換すれよ!!」
男はまた声を大きくする。
「この製品はそんなに簡単に壊れるモノではありません。ですからメーカーに出し検査に出しましょう」
「そんなもん知るか!」
兎に角、クレーマーは声を大きくするのが特徴だ。
「交換してもまたすぐ壊れるかも知れませんよ?そうなったらお客様に申し訳ありません。ですから原因究明の為に検査に出しましょう」
「何だ?その態度は!本社に電話するぞ!!?」
クレーマーはすぐに上を出せ、本社に言うぞと脅しをかける。
「本社に言って貰っても結構です。私はお客様を思っていっているのです」
「何も思ってないだろ!」
「それが出来ないのなら当店ではお客様に何もしてあげる事が出来ません。交換がイヤとは一言も言ってませんし、只、検査に出しましょうと言っているのです」
「お前!名前何て言うのよ!?」
クレーマーは名前を必ず聞いてくる。
「この店舗の責任者、伊藤と言います」
「伊藤か!!本社に電話するからな!!」
そう言うと男は帰って行ったのだ。
恐らく本社にクレームの電話が行く筈である。でもそんな事はもうどうでも良いのだ。私が変わらなければいけないのだから。
「伊藤さんやるッスね」
田中が話しかけてきた。
「そうか?」
私は笑顔で答えたのだ。
「男ッスネ!」
始めて田中の笑顔を見た気がした。
「伊藤さん知ってました?」
「何を?」
「なんで伊藤さんがこの店に来る事になった理由」
「?!」
「岡田さんの指名なんですよ!」
私はビックリした。何せ初耳なのだから。思わず田中に聞いてしまう。
「なんで?」
「詳しい事は忘れましたね!」
いつもの田中らしい答えが返ってきたのだ。
そして、結婚式当日。
朝から私だけ忙しかった。式場に着いても何やら観やらで急がしかったのだ。祝電の順番とかも内容の確認とかも全て嫁に任せてしまっていた。
式も始まり祝電の読みが始まった。私的には少し気を楽に出来る所で冷や水を口に含みリラックスをしていたのだ。祝電も終わりに近づき恐らくこれが最後と思っていた。
祝電を読み上げる透き通った綺麗な女性の声
「本日は二人の記念すべき日ですな。ボチボチ羨ましい限りです」
変な文の始まりと文の内容と綺麗な声がミスマッチで式場内は失笑が聞こえてきた。
「本日は二人の記念すべき日ですな。ボチボチ羨ましい限りです。ちょっと頼りない伊藤店長だけどきっと綺麗だろう奥さんの前では頼り甲斐があるのでしょう。兎に角、ご結婚オメデトウ御座います。伊藤ちゃんの事だから幸せにする事でしょう。明日からはNEW伊藤ちゃん店長で頑張ってください。 副店長 田中とその一味と元ボスより 」
とても祝電とは思えない祝電で式場内は失笑と大笑いが入り混じっていた。以前の私ならきっと顔を赤らめて怒っていただろう。
只、あの店舗から祝電が来るとは思ってもいなかったのだ。挙式を上げるホテルの名前も時間も言ってもいなかったし、聞かれもしなかったし、オメデトウすら言って貰えなかったのだから。とっても意外な祝電が私の胸に熱いものを込み上げさせる。それは怒りや恥ずかしさではないのは確かで全くの別物だったのだ。
嫁、親族を含め笑いが起きている中、
今の店で働いていて良かったと感謝の気持ちを抱きながら
私一人、下を向き泣いたのだ。
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