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もし異世界で未来を観たなら 作者:Sue

第一章 『原点の未来』

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第一章18 『貴女の命を』

 


「あなた、ひどい顔してるけど……大丈夫なの? あの、もしかして今入っちゃ……いけなかった?」

「――――」

 心配を顕にした黒髪の少女が、小屋から出ようか迷っている風な素振りを見せる。結果、うずくまるイツキの横で、顔だけを扉から覗かせるという妥協点に落ち着いていた。
 イツキの足元の『それ』は、彼女には見えてはいないようだった。

 脳の理解が追いついていないイツキは、無意識の内にゆるゆると首を横に振る。未だ受け入れ切れていない現実への否定か。
 それを彼女は、己の言に対する否定と受け取ったのか、

「えっと、じゃあ失礼して……」

「―――! く、来るなッ!!」

 小屋の中に足を踏み入れようとするアイラに、予期していなかったイツキは拒絶反応を示す。眉を八の字に曲げて目を見開き、それはまるで親に叱られるのを嫌がる子供のようだった。
 肩をわななかせるイツキに、アイラは踏み込む寸前で立ち止まり、

「なに……? なん、なの?」

「……ッ。来るな。こっちには絶対……絶対、来るな」

「……なんで?」

「―――ッ」

 イツキのその拒絶的な反応に、アイラが警戒の色を強める。それは至極当然だ。
 しかし、だからと言って追及されても、イツキには答える術がない。

 正義感の強いアイラに、もし『これ』を見られれば、疑われることは必至なのだ。そうなれば、イツキにはもう、弁解の余地はない。
 すると、

「あなた……何かを、隠してるんじゃないの?」

「ぁ……い、いや……」

 うずくまる姿勢と断固とした拒否反応に、アイラは核心的な疑問に至る。それに対し、イツキは明らかな動揺を見せていた。それで、決定的だろう。
 しかし、首を振る。それしか、今のイツキには出来ることがないからだ。

「――――」

 が、アイラはそれに、聞く耳を持たない。

 イツキの主張も無視して扉から内に侵入すると、凹凸の激しい床に靴音を響かせながらこちらへ迫る。
 足は速く、吊った赤い目はさらに吊り上がり、まさしく悪戯をした子供を叱る親のそれだ。
 彼女はイツキの元まで辿り着くと、暗い視界にも躊躇せずイツキの肩を掴み、

「見せなさい」

「やめ……やめろ! 違う! お前には、関係が……ッ」

「無いことない! そんなこと、疚しいことがあるからに決まってる! いいから、退いて」

 一瞬は感情を昂らせ、しかしやがて落ち着かせるようにゆっくりと、アイラはイツキに語る。
 その割には肩を掴む力が強く、イツキは表情を強ばらせながらも抵抗を見せた。が、聞き分けのないイツキに、流石のアイラも強行突破に出るを余儀なくされていた。

「いい、から……っ!」

「―――! う、ぐぁ……」

 アイラの揺さぶりに反応したのは、後頭部の痛みだ。
 衝撃に反応した痣は再び鈍痛を引き起こし、自然、一時的に抵抗の弱まるイツキをアイラが押し退ける。
 その場から退けられ、しかし気が付いた時には既に遅い。

「――――」

「――なに、これ」

「ふぅ、ぐ……ッ!」

「……あなたが、やったの?」

 『それ』を見たであろうアイラは、認識した後、肩を震わせているのが分かった。
 正義感が強い彼女だ。故人を――こんな死に方をした人間を見て、涙を流して悼む少女なのだろうな、というのは勝手な想像である。

 しかし、案外彼女はあっさりとそれを受け止めたらしく、立ち上がり、こちらを見下ろす。
 その紅の双眸には蔑視、恐怖――何よりも、怒りが込められていて。

「ち、違うッ!! 俺じゃ……俺、じゃ、ない……ッ」

「なら、何でさっき、あんなに隠すような真似をしたの? そんなに、怯えた顔をしているの?」

「それ、は……」

 アイラの冷たい質疑に、イツキは応答することが出来ない。それどころか目を逸らし、顔を伏せる始末。
 その反応そのものが、アイラに答えを導かせている決定的な行動だというのに。

 本当は、分かっているのだ。

「俺が、あの時……」

「あの時?」

「――――」

 そこまで言って、イツキは意識的に『そのこと』を理解する。

 ――己が、無くしていた空白の記憶を取り戻していることに。

 それは、一定上のショックを突然受けることによって障害が治ったりする、稀に起こる一種の『奇跡』であった。もちろん、イツキが意識的にそれを行った訳では無い。
 だが、己がいつの間にか記憶を取り戻していることを自覚して、次々と溢れ出てくる色付いた光景達に、イツキは絶句していた。

 なぜなら、全てを理解していたから。

「……そうだよ」

「え?」

「俺があの時……殴られてさえ、いなければ」

 そしてイツキが回想するのは、今は亡き長身の男を捕まえて、直後に後頭部を鉄の鈍器で殴られた記憶だ。
 あの時、小柄な男のことを度外視してさえいなければ。目の前の男のことで頭がいっぱいになって、もう一人残っている彼のことをあくまで『ついで』として考えてさえいなければ。

 ――俺は人のために、善意を持った行動が出来ている。
 そんな矮小なことに、かまけてさえいなければ。

「俺が、油断してたから……だから! これが! その結果だ!!」

「――――」

 だから、ただただそんな自分に込み上げるのは、紛れもない憤怒だ。
 あるいはそれは、己の罪と向き合わないための、虚勢だったのかも知れない。

「説明もせずに! ただこうするのが手っ取り早いってだけで、てめえにとっちゃ訳の分からねえ行動をして! その始末がこれだ! この惨状で、今の俺達だ! だから全部! 俺が悪いんだよッ!!」

 唾を散らしながらイツキは立ち上がって、小屋の隅々に転がっている『六つ』のパーツをそれぞれ指差す。
 アイラはそれに、ただ困惑するだけだ。この時のイツキはまるで、追及されるのを拒んで癇癪を起こす、支離滅裂な子供なのだから。

「何が所詮RPGだ! 何が、たかだか異世界だ!! 命を軽んじるなんて、俺にはできねえってちゃんと分かってたくせに! こんな下らねえ……甘ぇ目で臨んでたから、こんな馬鹿みてえな結果になるんだッ!!」

「落ち着いて。ちゃんと、話をしましょう?」

「話もクソもあるかよ! それに、アイラ……てめえもだ!!」

 諭すように宥めるアイラに、しかしイツキは聞く耳を持たない。
 それどころか、その怒りの矛先をアイラに向けると、鋭くもない目を鬼のように吊り上げて、

「なんで、考えもなしにこんな所に現れたんだ! 舐めてんのか、あぁ!?」

「何、言ってるの? それとこれとは、本当に関係がないじゃないの!」

「―――ッ! 何も、知らねえくせに……ッ!」

 地獄は、これだけでは終わらない。
 この先に待つ地獄も、何もかも、イツキは身を以て経験してきた。そしてそれが、どうにもならないのも、分かっている。

 それなのに、とぼけた顔してのうのうと抵抗してくるアイラが、憎たらしくてしょうがなかった。
 最終手段は、あの三人組のように暴力で強行突破。――しかしそれも、アイラの前では通用しないことに、さらに腹が立つ。

「きゃ……っ。なに、するの……ッ!」

「いいから来い! ここにいたら駄目だ! 抵抗しねえと……ここから、逃げねえと! お前は死ぬぞ!!」

「死ぬ、って……何のことよ!」

 逆鱗に触れたアイラが、腕を掴んでいたイツキの、更に腕を掴み返し投げ落とす。
 ワンピースを着込んだ少女に呆気なく投げられる男児――明らかに無様なのが、苛立たしい。

「はっきり言って。何も説明せずに言うことを聞けなんて、出来ないから」

「―――ッ! 事情は後で話す! だから今は来い! じゃねえと、大変な事に……!」

 『何も説明せずに言うことを聞けなんて』
 その言葉が、たった今イツキを苦しめたものと何ら変化ない内容で、さっきから何も変われていない己に舌さえ噛み切りそうになる。

 髪を荒く掻き毟ることによってそれを踏みとどまり、イツキはアイラの腕を無理やり解いて立ち上がる。
 しかし、出てくるのはやはり冷静になれない激昂。それに反論するようにアイラも声を荒らげて、

「大変な事って何!? あなたは誰なのよ!! 私はあなたの名前すら教えてもらっていないのに……まずそれは、人として当たり前のことじゃないのっ!?」

「あぁ当たり前だ。当たり前のことだよ! けどな、それは生きてて初めて言える話だ!! 死んでからじゃ遅ぇってんだ! それとも、ここで仲良く死んで、魂同士で挨拶すんのか? 下らねえ!!」

「生きる死ぬって、なに簡単にそんなこと口にしてるの!? 私はまだ死なないし、あなたもまだ死なせやしない! 根拠もないのにそんなこと、私が許さないっ!!」

「―――ッ!! 根拠が、無ぇだとぉッ!!」

 アイラの、それこそ根拠の無い発言に、遂にイツキの怒りが沸点に達する。
 青筋を浮かべ、眼を充血させながら、アイラの胸座を掴んでやる。視界が真っ赤に染まっていくのが分かり、音を立ててワンピースの襟の部分が破れるが、それも聞こえない。

「馬鹿みてえな正義感に駆られて、なに人様に偉そうにもの語ってんだよ!! ただ力があるだけで、何様のつもりだよ! あぁ!?」

「そんなこと、支離滅裂じゃないの! あなたこそ、いきなり遺体の目の前で泣いてたかと思えば、私に訳のわからない戯言ばっかり! 何様のつもりなの!」

「―――ッ! それとこれとは、関係がねえじゃねえかぁッ!!」

「えぇ、そうよ! 関係ない! ただの時間の無駄なのよ! なのにあなたは何で……ッ!」

 しまいには二人共、言葉を詰まらせながら互いに罵倒する結果に。両者とも、己が何を言いたいのか、分からなくなってきているのだ。
 それがイツキにも分かって、必要が無いことだと首を振る。
 そして、

「ああそうだ。時間の無駄だ! だから来い! 早くしねえと、あいつが! エバンの、野郎が……ッ!」


「―――僕のことを、呼んだかな?」


「――――」

 その瞬間、月光に照らされた薄暗い小屋に、突如として閃光が走っていた。


 _______________________



「――――」

 風が――否、爆風がその場を覆い尽くす。
 丸太を積み上げただけの簡素な壁は安易に吹き飛び、床もそれは同様だ。ガラスの割れる音が鳴り、薄ら聞こえる鉄の音は設置されていた檻によるものか。
 この風では、もしかしたら三つの死体すら、消し飛んでいるかも知れない。

 イツキが見たのは、長方形の天井が縦に裂ける光景だ。

 夜だというのにその隙間からは光が差し込み、そしてそれは太陽とも月とも違う。そう、例えばライトのような、明るいけど直視もできる、そんな人工的なものだった。
 豆腐建築なので頑丈なのだろうが、しかしそれは上から押し潰された場合だろう。天井を丸ごと『斬ら』れれば別だ。

 そして突如として耳に入った、忘れたいのに鮮烈に残る声色。

 聞くに成人男性によるものであるそれは、声だけ聞けば誰もが純潔な美丈夫を想像することだろう。実際、それは正解だ。
 もっとも、『純潔な』という部分を除いてだが。

「――――」

 やがて砂煙が晴れ始め、イツキはいま、自分がいる場所を理解する。

 予想通り、小屋は解体。広場の砂は抉れ、瓦礫がその場に散布している。しかし同時に、例の三人組の体が無事であることを確認し、安堵。
 見当たる生存者は、今のところ三名だ。

 まずはイツキ。
 眼前の少女に守られる形で座り込み、見るからに情けない。が、そのお陰で助かったのは事実だ。
 なるほど、イツキが吹き飛ばされなかったのはそのためか。擦り傷はあるものの、大して目立った傷はない。

 そしてアイラ。
 彼女も目立った外傷はない。だが、先ほどとは決定的に違うものがある。

 ――彼女の両手に握られた、鋸を思わせる柄の長い大剣。
 『黒龍の大剣』とさえ呼ばれるそれは、少女が持つには不相応ないかにも厳ついものだ。その効力は見た目だけでは計り知れず、触れたものの魔法を無力化してしまう権能を持つという。

 細かく言えばそれだけではなく、黒のワンピースは所々ほつれており、しかしそれを彼女は気に留めてなどいない。
 なぜなら、彼女が見据えているのは眼前の、二人とは明らかに異なる異質な人物だからだ。

「騎士様じゃないのよね。あなたは……誰」

 アイラの警戒に微笑むのは、月夜でも輝く青髪を長めに切る美丈夫だ。
 白を貴重に青の線が引かれる服装――この国の騎士だけが着込むことを許された制服に身を包むその青年は、片手に全ての元凶であろう白い大剣を携えている。

 ――極悪人で、イツキの目の敵とも言っていいその男。

「この、エバン・フォークシー。――貴女の命を、攫いに参じた」

 アイラとエバンの決戦、開始。


最近の小説を書く時の作業用BGMは、だいたいAqoursです。おはヨハネ!

あ、あと活動報告にも目を通しといてくれるとありがたいです。

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