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もし異世界で未来を観たなら 作者:Sue

第一章 『原点の未来』

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第一章10 『嘘&嘘&嘘』

 


 ――どういう条件下で、俺は戻るのだろうか。

 石畳の上を走りながら、そんなことをふと思っていた。

 イツキは一度目の周回―――そこから戻る瞬間の記憶は、エバンに剣先を振るわれる直前だった。大剣が、事情を把握すら出来ていないイツキの喉に向けられた。しかしそれは、『直前』以下でも、以上でもない。
 実際に振るわれた瞬間は、見ていない。つまり、血を盛大に流してしまうより早く、戻されたとイツキは把握している。

 しかし、二度目。―――あの時は、一度目とは印象が異なりすぎている。
 脳を破壊されるかのような絶望、激痛、狂相。肩が根元から切断され、滴る血とずる剥けた筋肉は今も忘れられまい。息が出来ず、視界も儘ならないまま、イツキは苦痛の海に溺れてゆき。

 ―――死んだの、だろう。

「―――――」

 一度目は、死ぬ前にループ。
 二度目は、死んだ後にループ。

 もっとも、その違いはあくまでイツキ自身だから分かる誤差でしかない。

 これが『死に戻り』でも無く、単なる『時間遡行』だとしたら、それが行われる条件は一体、何なのか。
 イツキにこの権能を与えた人物の気紛れ、ということは無いだろう。何か、何か条件があるはずなのだ。
 そしてそれは、イツキが無意識に成している事のはずだ。

「取り返しの付かない、ピンチに陥った時……」

 ふいに、そんな呟きがイツキの舌に乗って出る。
 もしそうだと仮定すれば、なるほど頷ける。両者とも、命を失った直後にループしているのだ。
 となれば、死者を出さずに難題をクリアする――それが、イツキなりの異世界での生き方だろうか。

「こんな経験、これっきりにして欲しいけどな……お?」

 ふいに走っていた足を止め、イツキは眼前を見やる。
 石畳の先に小さな広場があり、野菜や果物、雑貨を売っている商店が目立つ。石レンガの家々に囲まれながら、イツキは群衆に紛れる一人―――一際背の高い、筋肉質な男が目に入った。
 青紫の髪が天然パーマを成していた、いかにも厳つい巨漢の男だ。
 それにイツキは既視感を覚え、

「や―――っと見つけた……!」

 同時に、その男の傍で歩く、二つの人影を見つけていた。


 _______________________



「――あ、のぉ〜……」

 最初に会った時から、イツキの体感ではおおよそ二時間が経過していた。しかし、現実世界では初対面ということになる。
 つまり、それは相手からすれば見ず知らずのの相手にふいに話し掛けられる、ということで、こちらがいくら誰にも理解されようのない親しみを持っていても、警戒するのは余儀なくされることで。

「……あァ? 誰だよてめェ」

「すいません、ちょぉ〜っとだけ、お話良い、か?」

 通常は有り得ない親近感すら覚えてしまう男の口ぶりに、イツキはほっと安堵。そのまま眼前の男三人に目をやって、道の端に行くように促した。
 公衆の真ん前でこんな話、どうにも出来そうにないから。


 _______________________



「お話って、何なんですか?」

「さっさと終わらせてくれやァ。今からこのクソガキ、締めなきゃいけねェんだよォ」

「ひ、ひぇえ……っ! ご勘弁おぉ……」

 まず最初にイツキに話しかけたのは、細身で黒髪の、いかにも弱々しいもやし男だった。終始もじもじしている男を、巨漢が脅し口調で軽くどつく。
 どつかれている男が怯えた風に、イツキへちらちらと目線を向けているのが、どうにも面白おかしい。

 ―――彼らのこの見え見えの上下関係が、全て相手を出し抜くための演技だという事は、とっくに分かっている。

「……そんな演技、やめちまえよ。俺の前ではあんまり、意味が無いから」

「――! なんです? どこに演技っていう可能性が……」

 悪い目ででそれを見るイツキに、今まで黙っていた小柄な男――スネ夫が、無表情でそう言い返す。
 ここでまだ偽るか、と思いながら、イツキはなんて言うかを考えて、

「―――もういい。お前らは、黙ってろ」

 しかしそれより先に、空気をがらっと変える細身の長身が一歩前に出た。
 これ以上の演技は無駄と感じたのか、その瞳には明らかな『敵意』が宿っており、

「やっと、ちゃんと話す気になったか」

「お前は、どこまで知ってんだぁ?」

「時間的に、一演技……いや、二演技終えた感じですかねぇ……『兄貴』ぃ?」

「―――! て、めぇ……!?」

 『兄貴』とは、彼の子分である男二人が、この長身を慕って呼ぶ時の特有の呼び方だ。勿論それはこの三人組だけの共有の約束で、イツキが知っていること自体異常だ。
 しかし唯一『戻った』イツキだけは、それを知っている。『兄貴』――イツキは勝手にのび太と読んでいるが、彼からしたらイツキは異質ここに極まれりといったところだろう。

 これは、賭けでもあった。
 イツキがこのループに舞い戻り、眼前の三人組を見つけるまでにおおよそ一時間半掛かっている。
 対して、一度目のループで、イツキが三人組と出会うまでに二十分も掛からなかったろう。

 単純計算で一時間強の差――その間に、この三人組はイツキにやったように、まるで強盗が弱々しい男を襲っているかのように演出を施していたであろう。そして同じように、近くにいた誰かに助けを求めていたのだ。一度目ではたまたまそれがイツキだっただけ。
 つまり、イツキがこの男達を探している間に、もし『誰か』がこの演技じみた長身を救っていたら、その人が魔法にかけられ、誘拐され、そしてエバンが現れる。
 その道に進むことを、余儀なくされていただろう。

 だからこの場に三人組がいた、ということは、演技の成果が得られなかった―――つまり、誰も捕まえられなかったということ。これは幸運であり、チャンスであった。
 イツキが安堵したのも、それが理由だ。

 だから自然と、自分で調子に乗り始めるのが分かり、それを落ち着かせながら、さも全てを知っているかのように振る舞うイツキに、

「てめぇ……どこでそれを知った!! いや……てめぇは、何者だ! まさか、政府の……」

「政府なんてとんでもない。俺はただの、通りすがりの被害者で、他の男には『鬼』とはやし立てられた男だよ」

「何言ってんのか分からねえよ……! ……仕方ねぇ。どこまで知っているのか知らねえが、俺達に不必要に干渉したお前は、生かしちゃおけねぇなぁ」

「……いいや、お前は俺を生かすはずだ。何としても」

「はぁ? 終いには頭まで狂っちまったかよ。本当は恐ろしいんだろ!? 何とか言えよおいッ!!」

「いいや。お前は俺を殺れねぇ。――このまま魔法で気絶させて、アジトに連れた行った挙句、奴隷商人に売り渡すための、俺だからな」

「―――ッ!! お前ら、下がってろッ!!」

 悪い笑みを浮かべて、次々と知り得られない情報を羅列するイツキに男は青筋を浮かべる。
 そのまま牙を剥き、拳を思い切り振りかぶって、

「――――」

「おっと。魔法がばれたら肉弾戦か? 残念ながらそれは無理だな。空手家を舐めないことだ」

 甘い。
 洗練されていない拳は、常人には速く見えても、イツキからしたら遅い。
 ふいに避け、伸ばされたままの男の腕を掴むイツキに、

「―――お前、『器』がねぇな」

「―――!!」

 周りの群衆がざわつく中、それを意に介さない男は不敵な笑みを浮かべる。
 ――小さい声だったのに、その呪詛と憤怒は、とてもはっきりと聞こえた。
 ふいに男の片方の腕が伸び、手の平が思い切り広げられ、その手相を強調しながらイツキの顔面へ伸ばされる。
 ゆっくり、ゆっくりとそれはイツキの眼前へ迫り、やがて陽の光が遮られ、やがて暗闇と化し、

「―――『イームズ』!!」

 どくんと、イツキの心臓が鳴った。



 _______________________




「――――」

 音を立てて、イツキはその場に倒れ込む。
 その瞳は閉じられ、もはやあの威勢の良い意識は欠片も無いだろう。
 男はその場で屈み、イツキの髪の毛を掴んでその顔を見る。そのまま悪々しく唾を吐き、

「なんだったこいつぁ。調子に乗ってんじゃねえってんだ、糞ガキが」

「――――」

「奇妙な奴だったですね。どこでその情報を入手したか……もしかしたら、政府と繋がっているとか」

「――――」

「政府なんかが、俺達みたいな小さい輩に付け込むことなんかねえだろぉよ。十五年前のことがまだ残ってんだ。現れるまでは下手な動きは出来ねぇよ」

「――――」

「それよりィ、そいつのことどうすんだァ? 奴隷のことも知ってたァ……殺すか?」

「――――」

「いや、約束通り商人に引き渡すさ。舐めてた口を叩きやがったんだ。苦痛と恐怖の中で、死ねない生き地獄を、一生味わうがいいさ。そしてその中で思うんだよ。『あの時あの男に」

「―――逆らってさえいなければ』、か?」

「―――ッ!?」

 ふいにあるはずの無い声が三人の鼓膜を震わし、三人が顔を見合わす。そして同時に、石畳に寝転ぶ少年に目をやった。
 しかしそこには寝ていた筈の人影が無く、あったのは二つの大きな足で、

「……っと、一生生き地獄なんて死んでも嫌だな。そんな所に行かされる所だったのか。危ねぇ危ねぇ」

「―――て、めェ……ッ」

「それを聞くのも今日で二回目だな。いい気味だ。はっはっは。……俺の演技も、中々の迫真的なものだったろ?」

 言いながら、イツキはそこで大欠伸。そのまま両肩を確認するようにしっかりと回し、

「なんで、無事なんだよ……『器』は無かったはずだろぉ!?」

「悪役テンプレの驚き方だなぁ……うつわがなんやら知らねえが、確かに俺にそれは無いよ。三回くらい言われたから、それは事実だと思う」

「じゃあ、なんで……」

 無傷で立ち上がるイツキに、男三人は警戒心剥き出しで三歩ほど下がる。
 もちろん、イツキは無事だった訳ではない。魔法耐性がないのは一度目のループでしっかりと確認済みだった。あのまま魔法を食らっていれば、無抵抗のまま気絶し、アジトに連れていかれ、そしてエバンと出会って死――その未来を、迎えていたことだろう。

 イツキが何も対処していなければ、の話だが。

「俺が無事だったのは……これがあったから、だな。本当に助かった。何事も安全装置を設けとくべきだな、うん」

 そう言ってイツキがポケットから取り出すのは、人差し指くらいの大きさの石だ。それはイツキの手の中で青白く光り、何より内側に埋め込まれた魔法陣が存在を誇張していた。
 穴が開けられ、そこに紐を通して、首から掛けることも出来るようになっており利便的だ。

 これは何か。そんな顔を見せる男三人にイツキは、

「『退魔石』だ。異世界あるあるな物だけど、お前らからしたら通常じゃ手に入らない物だろ? ってか、知ってる人も少ないんじゃねえか?」

 『退魔石』―――魔法的要素が組み込まれた漫画ではよく登場する、魔法の効果を無効化する便利な物だ。しかもこれは、持っているだけで魔法が効かないというチート級な奴。
 サン婆によると、これは『退魔石』でも小さい方に部類するらしい。大きさで『退魔』の効果が違うわけではないらしいのだが、そもそもなぜサン婆がこれを持っていたかが謎だ。
 そして、

「この魔法陣……この紋様が、ベルニザの最高位っていう証明になることも、分かるよな?」

 それを聞いて、今度こそ本当に、三人組が目を丸くする。
 ますますなんでサン婆がそれを持っているのか分からなくなる。彼女はもしかしたら、とんでもない大物ではないか。
 後でお礼を言っておこう。そんなことを思いながら、

「何故……お前が、それを……」

 声を震わせてイツキの得物を指差す男に、イツキは自身を親指で強調させて、

「何せ俺が、国からこれを奪った張本人……『北のスパイ』ホノヤ・イツキだからな!!」

 と、高々とホラを口にして見せたのだった。


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