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吸血記録 作者:Haizi
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第十三幕 二人の距離

第十三幕 二人の距離

 朝、敦史は目を覚ました。
「ん…砂亜羅…?」
 誰もいない部屋の中で、敦史は砂亜羅の姿を探す。だが、砂亜羅の姿はなく、荷物の量にも違和感を感じた。
 まるで、敦史以外が誰もいなかったかのように…。
「嘘…だろ?」
 敦史は急いで家を飛び出して近くを探した。
 だけど、砂亜羅はいるわけもなかった。
 一度家に戻った敦史は、枕元に置かれた手紙を見つけた。
『敦史へ
 やっぱり、私は貴方を傷つけることに耐えられる自信がありません。ごめんなさい。』
 そう書いてあった手紙を敦史は握り締めてポケットに突っ込むと、今度は身支度をして出て行った。
「砂亜羅…どこへ行っちまったんだ。今、人に見つかったら砂亜羅は…。なんとしても見つけないと…」
 敦史は闇雲に走り出した。そんなんで見つかるわけもなく、早々に息を切らしていた。
 もう、あの海辺からは結構離れたところまで来ていた。
 ふと、敦史の目の先に黒い物が見えた。
「何だあれ?」
 敦史は駆け寄って拾い上げ、それが砂亜羅の羽だと直感した。
「そうか、砂亜羅が翼を使って移動しているとしたら…もうこの辺りにも…」
「ねぇ、お兄ちゃん。その羽ちょうだい!」
 前方から駆け寄ってきた少年が、服の裾を掴んで右手を広げて差し出している。
 敦史がその羽を少年に渡すと、少年は嬉しそうに礼を言う。
「その羽、何で欲しかったの?」
 敦史が少年に聞くと、
「だってね、今日の朝、この羽のお姉ちゃんが僕のお母さんたちを探してくれたの。お姉ちゃんの羽なの」
 と、言った。
 敦史は「砂亜羅の事だ…。――ねぇ、そのお姉ちゃん、どこかに行くって言ってた?」
「お姉ちゃんは森のお家に住んでるって言ってたよ。でも、来ちゃダメだって言われたの」
 少年は残念そうに顔を伏せた。
 敦史は、少年の頭を撫でてやると、
「そっか。ありがとう。これあげるから、気をつけて帰れよ」
 と、言った。
 遠くで少年の両親が呼んでいる。少年は「うん」
 と、大きく頷き、両親のもとへ駆け出した。
「――そうか、森ね。どうりで探してもいないわけだ」
 途中のコンビニで、敦史は地図を広げた。
「砂亜羅の性格からして、川の近くで、街から遠くて…。森もある程度広い…」
 ぶつぶつとつぶやきながら、地図をにらむ。
「――あった!」
 条件に合いそうな場所を見つけると、紙を挟んでレジへ行き、地図とついでに水を買う。
 森は少し遠いが、今日中には着けそうだった。
 へとへとになりながら、森で敦史は砂亜羅の名を呼んだ。呼んで、呼んで、呼び続けた。
「くそっ!どこにいるんだよ。…砂亜羅。ここじゃ、なかったのか…」
 コンビニで買った水など、とうになくなっている。半ば諦めの気分になりながら、よろよろと森の中を歩いた。
 川の音につられて歩き、そのほとりで夜を明かした。

 二日目。その川にそって歩き出した敦史は、夜になっても砂亜羅を見つけられなかった。
「今日も…ダメか」
 他の場所かもと朝のうちに地図を見返したが、やはりこの森が可能性として一番高かった。それでも、二日も手がかりがないと、諦めたくなるのが常だ。
 ドサッと荷物を川側の岩におろし、川で水を飲むことにする。月明かりしかない川にそっと手を入れると、月以外にもう一つ明かりが見えた。もう走れるほどの明るさはないが、荷物を持って、ゆっくりその光りを目指すことにした。
 敦史が近づくと、その明るさの中に人影が見えた。
「砂亜羅!」
 確信して叫ぶ。あんなに重かった身体が自分でも驚くぐらい早く動く。
「敦史…?ど、どうして!?」
 砂亜羅が振り向いた。敦史は力強く砂亜羅を抱きしめて「ばかやろう!心配させやがって!何考えてんだお前は!!俺、すっげぇ心配して…良かっ……た…」
 そのまま敦史の身体が重くなる。支えきれず、砂亜羅の身体からズレ落ちて、地面に倒れこんだ。
「敦史っ!」
 砂亜羅は敦史をテントの中に運び込んだ。
「こんなになるまで探してくれるなんて…なんてバカなことを……ありがとう」
 疲れて眠っている敦史に、砂亜羅は寄り添って眠った。

 また朝。でももう探し物は見つかった。――そう、砂亜羅…。
「――砂亜羅!」
 敦史が勢いよく起き上がった。
 すると、テントの外から砂亜羅が顔を覗かせた。
「おはよう、敦史。大丈夫?」
「砂亜羅。良かった…」
「またいなくなったと思った?」
 砂亜羅は敦史の前に座る。
「ばっ…そ、そんなこと…」
 敦史がうろたえているのを見て、砂亜羅は微笑む。
「もう…もう置いていかない。絶対。あんなになるまで探してくれて嬉しかった。もし、私がいつか敦史を殺してしまったとしても、絶対置いていかない」
 と、抱きついた。
「ふふ。やっぱり敦史の側がいい」
 砂亜羅は嬉しそうに言った。
 敦史は砂亜羅を抱きしめると「ここで暮らしていけるのか?」
 と、聞いた。
 砂亜羅は「たぶん。お風呂の代わりに川の一部から温泉が出てるの。たぶん、誰も気付いてないと思う」
 そう答えると、
「ここでなら、敦史以外の人は殺さなくて済む。もちろん、敦史だって殺さない。だから、ここで良いかな?」
 と、言った。
 敦史は「いいよ。それに、俺は殺される覚悟くらいできてる。ただお前を一人にしておくなんて…いや、俺がお前の側にいたい…」
「敦史…」
 砂亜羅はそう言うと、敦史の頬にキスをした。
 立ち上がると砂亜羅は敦史の腕を引っ張って外に出た。
「敦史って、釣り得意だったよね?ここって結構魚がいるのよ。一緒に釣ろう」
 と、砂亜羅は敦史に一生懸命作ったであろう竿を渡した。
 不恰好で粗末な釣竿と呼ばれたものは、とても釣れそうに見えず、実績を聞いてみると砂亜羅は首を横に振った。
「ちょっとまってろ」
 そう言い残し、敦史は自分の荷物から使えそうなものを探し、竿を改良した。
「おっ!釣れた」
 砂亜羅にも竿を渡し、二人で糸を川に流した。最初に釣ったのは敦史。釣れた魚は、小さいのは川に返した。食べごろはいただく。まぁ、自然の摂理だ。
「ねぇ、敦史?」
 唐突に砂亜羅が口を開いた。
「私ね、ここに来てからの二日間、考えてたの。今までの事と、これからの事。でも、結局はわからないままなんだけどね。――でも、わかった事もあるわ」
 砂亜羅は敦史に視線を向ける。
「私がどれだけ敦史を好きかって事。もう、敦史の側を離れたくない…」
 そう言って敦史の側に座った。

 夜になり、布団を敷く。また、布団は一組だけ。砂亜羅はまた敦史の腕の中にいる。
「敦史…あのね…。お願いがあるの…。聞いてくれる?」
 砂亜羅が聞くと、敦史は「お願い?俺にできることなら何でも」
 と答えた。
「本当?…じゃぁ、今夜はもう、離さないでいて…。もっと、近づきたい…」
 と恥ずかしそうに身を寄せた。寄せた胸が大きく跳ねる。敦史の身体が、一気に熱を帯びるのを肌で感じた。
 敦史は、砂亜羅の頭を胸にうずめながら「どうなっても知らないからな…」
 と、囁いた。

――今夜は長い、長い夜になりそうだ…――
 また日は昇り、朝が来た。砂亜羅と敦史は、一つの布団の中で寄り添って寝ていた。
 敦史は、太陽の日差しで目を覚まし、背中を向けて眠る砂亜羅を抱き寄せた。
「おはよう。砂亜羅…」
「ん…あ、おはよう…敦史…。…え?あ、そういえば…」
 自分の状況を思い返したのか、砂亜羅は顔を両手で押さえ、もぞもぞと布団の中で体を動かした。
「あんまり動くなよ。寒い…」
 敦史は砂亜羅を抱き抑えて、また目を閉じた。

「あー…」
 飛鳥が画面を見つめながら、気まずそうに声を出した。
「あ、兄としての心境は?」
 とりあえず、気を逸らすために剛に振ってみる。
「恋人同士なんだから、まぁ、いいんじゃないの?」
 半ば呆れ声が返ってくる。「……あいつら、ゲームから出てきたらビックリするだろうな」
「え?言うの?」
「そりゃぁ、フェアじゃないじゃん?」
「いや、そこは見てみぬフリを…」
 そんなやり取りを繰り返した後、話はどうやってゲームから二人を出すかという論点に遷移する。
「やっぱり、あの引っ越していったとかいう店員を追うのがいいと思う」
 飛鳥が言う。
「でも、一体どうやって?」
「そうよね…」
「あの店員さんが前に住んでいたところで、情報持ってる人がいるといいんだけど…」
「いなかったの?」
 剛は、飛鳥言葉に自分の行動を思い出す。
「やべっ!聞いてない!」
 ガタンッと立ち上がった剛が上着を持って準備を始める。
「飛鳥ちゃんも行こう。手分けして聞いたほうが速い」
 飛鳥は頷いたが、
「砂亜羅ちゃんたちの方は見てなくていいの?」
「大丈夫だろ?たぶんしばらくあのままっしょ?」
 と、呆れ顔で返した。
「はは…確かに……」
 飛鳥も苦笑いし、準備を始めた。
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