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吸血記録 作者:Haizi
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第十二幕 始まって、また別れて…

第十二幕 始まって、また別れて…

「だめだ、もうこれ以上被害者を出すわけにはいかない」
 真剣な面持ちで敦史が言った。
「でも、どうすれば…?」
 砂亜羅も返す。
 暫く悩んだ末に、敦史は街を出ることを切り出した。
 砂亜羅も悩んだが、このままこの街にいることは、自分が吸血鬼であることを気付かれてしまうことにも繋がると考え、賛成した。
 街を出た砂亜羅たちは、電車を乗り継ぎST町で暮らすことにした。
 海辺にある家を借り、家についたときには既に辺りは真っ暗だった。
「やっぱり不安だなぁ…」
 布団に入って砂亜羅が言った。
「どうした?」
 寝返りを打って、敦史が聞く。
「あの街を出ても、吸血鬼が直るわけじゃないし…」
 砂亜羅が言うと、
「じゃぁ、こっち来るか?」
「え?」
「俺が砂亜羅を抱きしめて寝てやるよ。吸血鬼にならないように」
 と、言いながら掛け布団をめくった。
「来いよ…」
 敦史の言葉に砂亜羅はためらいつつも、本心の嬉しさに勝てず、敦史の布団に入った。
「おやすみ…」
 そう言って、抱きしめる敦史に、砂亜羅は早々と寝てしまった。
 次の日の朝、砂亜羅たちはびっくりした。
 海辺を散歩しようと家を出たら、水平線から見えた太陽が、あまりにも綺麗だったからだ。
 散歩を始めた二人は、しばらくして浜辺に座った。
 海をしばらく見ていると、
「お兄ちゃん、今どうしてるんだろう…」
 と、砂亜羅がつぶやいた。
「本当に、どうしてるんだろうな…」
 敦史もそれに返す。
 砂亜羅がもう一度海を見つめて、
「なんかここのところ騒がしかったから、落ち着くね。来て良かったと思わない?桜田君」
 と言った。
 敦史は「うん。砂亜羅と来てよかった」
 と、答えた。
「えっ…」
 砂亜羅が振り向くと、敦史が恥ずかしそうに海を見つめていた。
――ここからは、ご想像にお任せします…。――
 その後、家に帰ると敦史は買出しへ行き、砂亜羅は部屋の掃除をする事になった。
 砂亜羅は、嬉しさのあまりお皿を一枚割ってしまったが、そこらじゅうを綺麗にした。
 夕方頃、敦史が帰ってくると、
「本当にここは今朝までいた家か…?」
 と、驚いてくれた。
 敦史の買ったものは、食料品がほとんどだったが、職探しのチラシもたくさん入っていた。
「お金も稼がないとな」
 敦史はそう言うと、チラシを見始めた。
 それを見て砂亜羅が「私も」
 と言うと、敦史は「辞めた方がいいんじゃないか?」
「なんで?大丈夫だよ。一人で家に居るほうが危なくない?」
「うーん…。じゃぁ、俺と同じところにしろよ」
 敦史の言葉に、砂亜羅は自分はこんなにも想われていると照れ笑いをしながら、
「うん」
 と、返事を返すのだった。
 夜、もう布団は一つしか出さなかった。
 最初から二人で入って、砂亜羅は敦史の腕の中で目を閉じる。これでいいと思った。
「おやすみ…」
 二度目の夜、砂亜羅の耳元で囁かれる敦史の声は、心地よいリズムになった。
「桜田君…」
 砂亜羅は敦史の方を向き、抱きつくとキスをした。
「砂亜羅…?ど、どうしたんだよ」
 敦史が言うと、
「好きよ、桜田君。――大好き…」
 と、砂亜羅が微笑んで言った。敦史は砂亜羅を見つめて、
「俺も好きだよ、愛してる…」
 と、返した。
「桜田君…、今日はこうしてても良い?」
「いいよ」
 敦史が答えると、「――あとさ、もう”桜田君”なんて呼ぶなよ」
「え?」
 敦史の言葉に砂亜羅が聞き返すと、敦史は目をそらしながら「敦史でいい…」
 と、言った。恋人と名前で呼び合えるのは、嬉しいものだ。
 砂亜羅は、敦史の体に顔をうずめて、
「あ…敦史…。お、おやすみなさい!」
 と言った。
 敦史も「お休み、砂亜羅」
 と。言って目を閉じた。

 また朝が来た。なんだかむさ苦しい朝。そんな中、砂亜羅たちは目を覚ました。
「なっ!何これっっ!」
 砂亜羅がとび起きると、黒い翼が広がった。そしてそれは、間違いなく砂亜羅の背中から生えていた。
「う…そ…」
 砂亜羅は鏡の前に立ち、自分の姿を見ると、床に座り込んだ。
「何これ…。何で私の背中に?ねぇ、敦史…どうし…て?」
 敦史は、
「砂亜羅…。今日は絶対に外に出るな。わかったか?」
 と、戸惑いながら砂亜羅に言い聞かせた。
 そして、仕事を決めた敦史は「なるべく早く帰ってくるから…それまで大丈夫でいろよ」
 と、半ば自分に言い聞かせるように、砂亜羅に言った。
 砂亜羅は一応頷いてみたものの、たいして自身はなかった。
 敦史が仕事を始めてから、一週間が過ぎようとしていた。
 砂亜羅はいつものように敦史が仕事に行っている間、家事をしながら、その帰りを待っていた。
――相変わらず翼は消えないけど…。信じ続けて、奇跡を…――
「ただいまー」
 敦史が帰ってきた。
「あれ…。砂亜羅?」
 いつもなら「お帰り、敦史」
 と言って、顔を覗かせるはずの砂亜羅がいない。近くを探しに出た敦史は数十メートル離れたところで倒れているさ亜羅を見つけた。
「砂亜羅っ…!」
 敦史が駆け寄って砂亜羅を抱き寄せた。
「ん…。あ、敦史。おかえり」
 砂だらけの姿で、砂亜羅は言った。
 敦史が「よかった」
 と、ほっとしていると、砂亜羅の胸元に付着している赤い染みが見えた。
「砂亜羅…これ、血…――」
 敦史の指差す方へ視線を向けると、真っ赤な血がべっとりと服についていた。
 すると、遠くの方から救急車のサイレンが聞こえた。
 近所のおばさんたちが話している姿が見えて、敦史は砂亜羅に家で待つように、
「ちょっと話聞いてくるから、砂亜羅は家に入って風呂に入ってて」
 と、言うと走っていった。
「何かあったんですか?」
 声を掛けた敦史は、おばさんから、「いやー吸血鬼だって。恐ろしいもんだわ」
 そのおばさんたちは、未だに信じ切れていない様子で話していた。
「今まではK町にしか出なかったのにねぇ。とうとうこっちにも来た感じなのかねぇ」
 それを聞いた敦史は、これ以上は聞くに堪えず、家に帰ることにした。
 砂亜羅がお風呂から出てきて「やっぱり…私が?」
 と、不安そうに言った。
 敦史は言葉に出せず、きつく抱きしめた。
「…ねぇ敦史。…別れよっか…――」
 砂亜羅が、切り出した。
「私、誰もいないところへ行くわ。――もう、誰も殺さないために。だから、敦史は地元に帰って、いつもの生活に…」
「ちょっ、ちょっと待てよ!なんだよ、それ…。そんなこと言うな!」
 敦史は、砂亜羅の肩を掴んで顔を見据える。
 砂亜羅は目から大粒の涙をこぼしていたが、目を背けると「もう寝よう。布団敷くね」
 と、言った。
 布団の中で、砂亜羅はできるだけ敦史から離れて目を閉じた。
 敦史はどうしていいのかわからぬまま、砂亜羅の言葉を頭の中で繰り返し続けていた。
――手放したくない…。
 そう、敦史が思ったとき、敦史は砂亜羅を強く抱きしめていた。
「敦史…痛いよ…」
「俺…砂亜羅と離れたくない」
 砂亜羅の言葉を無視して、敦史は言った。
「でも…私は敦史のことを殺したくな…――」
「俺はお前の側で死ねるならそれでいい」
 砂亜羅の言葉を遮る。その声は震えていた。
「敦史?泣いてるの?」
「いっ、いいだろ別に。それに俺、お前のことマジだから、本気で愛してるから。別れるなんて言われたら、男でも泣くことだってあるんだよ…」
「敦史…」
 砂亜羅は背中の熱に胸が熱くなった。
「ありがとう…敦史」
 砂亜羅はそう言うと、再び目を閉じた。
 少しして、砂亜羅の寝息が聞こえてきた。敦史はその規則的なリズムに眠りに落ちていった。
 三時半頃、敦史はもうすっかり眠っていた。
 砂亜羅は目を覚ますと、手紙を枕元に置いて、静かに身支度を済ませた。
「ありがとう…敦史。さようなら」
 家を出た砂亜羅は、
「どこに行こう…。――とりあえず、ここから離れよう」
 とつぶやくと歩き出した。
 ところが、砂亜羅は自分の背中にある翼を思い出した。
「道なんか歩かなくても良かったんだ」
 と言うと、空高く飛び上がる。初めて飛んだはずなのに、不思議と怖くなかった。

 朝になり、人の活動が活発になってきた。
 砂亜羅は隠れながら少しずつ町を離れていく。
 次のタイミングでもう一度空へ飛ぼうと決め、そのタイミングが来た。
 ふわっと飛び上がると、
「あ、お姉ちゃん!」
 と、突然呼び止められた。少年だった。まだ朝早い時間だというのに、なぜか一人だった。
「どうしたの?」
「あのね。僕、お母さんとお父さんと車できてね。トイレ出たらいなくて…ここ、見たことないの…」
 少年は、今にも泣きそうな顔をしている。
 砂亜羅は散々迷ったあげく「わかった。お姉ちゃんと一緒に探そう」
 と言って、少年を抱え空へ上がった。
 少年の言っていた駐車場はわりとすぐに見つかった。
 駐車場で両親らしき人が名前を呼んでいるのが聞こえる。
 砂亜羅は駐車場から見えない位置へ降りると、少年を下ろした。
「ここまで来れば、もう大丈夫ね。ここまっすぐだから、早く戻りなさい」
 砂亜羅がそう言うと、少年は「ありがとう、お姉ちゃん。あ、お姉ちゃんってこの近くに住んでるの?また会える?」
 と、聞いてきた。
 砂亜羅は、「森の中よ。でも、絶対に来ちゃだめ。迷子になっちゃうからね、わかった?」
 と言った。
 少年は残念そうな顔をしたがしぶしぶ頷き、「うん。それじゃぁ、バイバイ」
 と言い、駐車場へ走り出した。
 少年を見送り、砂亜羅は息をついた。
「ふぅー。さてと、行こうかな。――……。そっか、森の中ね。よし、そうしよっと」
 砂亜羅は空高く上って、森のある場所を探した。
「あそこなら、広いし川もありそう…」
 めぼしい場所を見つけ、砂亜羅は向かった。
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