幽霊面接
草木も眠る丑三つ時。
とある崩れかけの洋館に彷徨える魂の悲痛な声が木霊する――
「お願いします! 俺スゲー頑張りますから! シフトもいっぱい入ります!」
「だからうちじゃ雇えないって言ってるでしょ。何度来られてもダメなものはダメなんだよ」
「そこをなんとか! 俺、死んだらここの幽霊になるって決めてたんスよ!」
足の無い半透明の二人の男が洋館の応接間でなにやら言い争いをしている。
一人は髭の生えた紳士、もう一人は大学生風の茶髪の男である。紳士が茶髪の男を眺めながらため息交じりに首を振る。
「申し訳ないけど募集してるのは髪の長い女の幽霊なんだ。うちは伝統ある心霊スポットだからね、イメージを壊すような事できないんだよ」
「なんでっスか! そんなん男性差別っスよ! 考え古すぎッス!!」
「うん、言いたいことはわかるけどね。この洋館できたの100年くらい前なんだよね。だから古くて良いんだよね」
「ううううう、じゃあ分かりました! 主役は他の娘に譲りますけど、俺には相手役をさせてください!」
「相手役って?」
「カレシっすよ、か・れ・し! 若い女の子には普通彼氏の一人や二人いるっしょ?」
「ええ……君みたいな彼氏がいたら変に生々しくなっちゃうじゃないか。だいたい、うちでは姿を現す幽霊は一人ってきまってるんだよ。主役を際立たせるために、主役以外の幽霊には裏方の仕事しかさせていないんだ」
「なんすかそれ! こんな広い家に幽霊が一人だけなんてもったいないっすよ! これを機にホーンデットマンションみたいにやりましょうよ!」
「それホラーというよりコメディー映画だよね。うちは正統派心霊スポットだから。ホーンデットマンションやりたいならうちじゃなくて舞浜いきなよ」
「いやーあそこ幽霊多すぎてギッチギチなんスよ。999人どころの騒ぎじゃないッス」
「みんな考えることは同じなんだね」
「もう彼氏じゃなくても良いッスから雇ってくださいよー。執事役でもなんでもいいッスからぁ」
「うーん。そうは言われても茶髪の幽霊に出られると時代が合わなくなっちゃうんだよね」
「分かりました、じゃあ裏方で良いっすから! 俺頑張って花瓶倒します!」
「本当に君ちゃんとやれるの?」
「絶対頑張りますから! マジ頑張ります! っていうか雇ってくれるまでここ動きません!」
「うーん、困ったなぁ。断ったら本当にずっと居着かれそうだし。分かった、じゃあ今日から裏方でやってみてよ」
「っっしゃ! マジ嬉しいッス! マジ天にも昇る気分ッス!」
「ははは、幽霊だけにね」
日が昇る少し前、紳士が館内の点検を行うが例の茶髪の幽霊がどこにも見当たらない。
不思議に思い、同じ部屋を担当していた幽霊に茶髪の男の事を尋ねた。
「あの新人どうなった?」
「ああ、なんか夢が叶ったとかいって成仏しちゃいましたよ」