慰め
女は落ち込んでいる相手に聞いた。
「キリンの首は何故長いのだと思う?」
突然の問いに戸惑いながらも相手は答えた。
「う~ん、何ででしょうか? …遠くの景色が見たいから?」
「うん、まあ半分正解。体が大きいと敵に見つかりやすいのだけれど、それは反面、敵を見つけやすい事にもなるから…。あとは、高い所の木の葉を食べる為ね」
「そうなんですか…」
「じゃあ、ウサギの耳が長いのは何でだと思う?」
再びの問いに、若干の鬱陶しさを感じつつも相手は答える。
「…音がよく聞こえる為」
「それも半分正解。敵の物音を素早く察知する為に長くなったのと、それから、体温を調整する為とも言われているわ」
「・・・」
「キリンの首もウサギの耳も…。彼らだけではないわ、ゾウの鼻が長いのも、カメレオンが風景と同化するのも、それぞれの環境に応じた進化なのよ。だから、あなたの硬い甲羅も、あなたが水中で長く呼吸を我慢出来るのもそれと同じよ」
「でも、僕は…」
「あなたは命の恩人にお礼をしようとした、ただそれだけ。仕方ないのよ、人間は水中で息を出来ない。そんな進化をしていないのだから…。考えてご覧なさい、例えば、あなたはサバンナでは一日として生きられないでしょう? それは、あなたがサバンナではなく、水中で暮らせる進化を遂げた生物だからよ」
「はい…」
「さあ、もういい加減元気を出して…」
竜宮に連れてくる途中で溺死させてしまった恩人に対し、深く自責の念にかられるカメを、乙姫はいつまでも慰め続けた…。