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エピソード 1ー1 異世界での邂逅 その一

 気がつけば、俺はまったく別の場所に立っていた。

 古めかしい石造りの部屋で、光源が不明の光が降り注いでいる。幻想的な光景はさながら古代遺跡のようで、それを肯定しているかのように部屋の空気はかび臭い。

 少なくとも、さっきまでいたショッピングモール跡地でないことはたしかだ。


 ……だとすれば遙か遠く、もしくは異世界、なのかな? そう思って軽く周囲を見回してみるけど、今のところ判断がつかない。

 でも、それはひとまずおいておこう。重要なのはここが異世界かどうかではなく、咲夜が連れ去られた場所なのかどうか、だからな。


 俺が踏み込んだのは、四年前に咲夜が連れ去られた魔法陣とそっくりだった。もし本当に同じ魔法陣なら、咲夜がここからどこかに連れて行かれた可能性は高い。

 そう考えれば、昨夜がずっと行方不明なのにも説明がつく。つまり――咲夜はこの世界のどこかで、今も生きているかもしれないと言うことだ。


「――――?」

 希望を抱く俺の背後で、唐突に聞き慣れない言葉が響く。驚いて振り返ると、丈夫そうな服を纏い、腰には思い思いの武器を携えている者達がいた。

 まさか、四年前に咲夜を攫った連中か? そう考えて顔を見るけど……よく分からない。

 誘拐犯の顔自体があやふやなんだけど、これはそれ以前の問題だ。フードで顔を隠している訳でもなく、暗がりで顔が良く見えないという訳でもない。

 にもかかわらず、顔が上手く認識できないのだ。


 けど、連中の冒険者のような出で立ちは、四年前に咲夜を攫った連中と酷似している。だから、彼らは咲夜を攫った連中の仲間かもしれない。そんな風に警戒すると同時、彼らなら咲夜の行方を知っているかもしれないと考える。


「――聞きたいことがあるんだけど、ちょっと良いか?」

 俺が声を上げた瞬間、彼らは一斉にどよめいた。まるで珍獣でも見るような反応でやりにくいけど、俺の聞きたいことは決まっていると、言葉を続ける。

「俺は咲夜って女の子を探してるんだけど――」

 知らないかと、尋ねることは出来なかった。一人が俺の前まで詰め寄って来て――ローブの裾をはためかせて抜刀。俺の首もとに長剣を突きつけて来たからだ。


 あまりに早業に、俺は動くことすら出来なかった。ただ、その剣で喉を突かれたら死ぬだろうことだけは理解する。そしてそれと同時、殺されるかもしれないという恐怖に支配された。

「ま、待ってくれ。俺はただ咲夜の行方を知りたいだけだ」

「――――っ!?」

 俺のセリフを遮るように、男が声を荒げる。

 俺はその言葉を理解できなかった。少なくとも日本語ではなく、英語などの聞いたことのあるような言語ですらない。俺の知らない言語のようだ。

 とは言え――


「あんた達がなにを言ってるか分からない。ただ、敵対するつもりはない」

 言葉は通じなくても、口調や仕草は通じるかもしれない。そう思って出来るだけ友好的な口調で話しかけ、両手を上げて手のひらを見せる。

 それが通じたのかどうかは分からないけど……とにかく、すぐに殺されるような事態にはならなかった。だから、今のうちにと、これからどうするべきかを考える。


 こいつらが咲夜を攫った関係者である可能性は高い……と思う。少なくとも、手がかりくらいは持ってるだろう。でも、もし咲夜が囚われの身なら、助け出す必要がある。

 俺が一緒に捕まってしまったら、再会できたとしても意味はない。この判断は、俺の今後の運命を左右するだろう。そんな不安に駆られ、

「なあ、あんた達は咲夜を知っているか?」

 俺は言葉が通じないと知りながらも、もう念押しのように確認する。その瞬間、目の前の男は激昂。俺に突きつけていた剣を振り上げた。


 殺される! そう思ったけれど、剣が振り下ろされることはなかった。凛とした少女の声が響き、振り下ろされる寸前だった剣がぴたりと止まったからだ。

 言葉が通じないので詳細は不明。ただ、一命を取り留めたことだけは理解する。一体なにがと、声の方へと視線を向けると、少女が進み出てくるところだった。


 やっぱり顔は認識できないのだけど、みずみずしい肌やメリハリのある体型は明らかに少女のそれだ。と言うか、一見大人しそうなデザインの服装なのに、豊かな胸の上下に切れ目が入っていて、上乳と下乳の谷間が見えている。なんと言うか……アンバランスな服装だ。


 そんな推定ちょっとエッチな美少女が、まるで俺をかばうように、俺と男のあいだに割り込んできた。そうして男を一歩下がらせ、くるりと振り返って俺の顔を見上げてくる。

 冒険者風の姿に反して、少女からは甘い香りが漂ってきた――と言うか、近い。少女の瞳に、俺の顔が映り込んでいる。そう思えるほどの至近距離。

 慌てて視線を下げると、胸の谷間が思いっきり目に入った。それに焦って後ずさろうとするけど、今度は少女に手を捕まれてしまった。


「――、――?」

「い、いや、だから、分からないんだってば」

 困った顔で答えると、少女はなにやら考え込むような仕草。

「――――」

 少女がぽつりと呟く。刹那、虚空に光の文字が浮かび上がった。それはまるで、拡張現実(AR)に表示されるウィンドウのようななにか。

 少女はそこに映っている情報と俺を見比べた後、仲間達に何事かを告げた。そうしてあらためて、俺へと視線を向ける。


「――? ――サクヤ?」

「え、いま咲夜って、咲夜って言ったのか!?」

「――――、サクヤ――? ――――――」

 俺の問いになんらかの答えを返し、少女の小さな手のひらが俺の顔を挟み込んだ。


 一体なにをと思ったその瞬間、顔をぐっと引っ張られる。そしてその先には少女の顔。どうやら俺は、キスをされそうになっているらしい………………って、なんで!?

 意味が分からないんですけ――どおおおっ!?

 視界の端から鈍いきらめきが迫るのに気づき、とっさに顔を引く。刹那、俺と少女の顔のあいだに、刀身が差し込まれた。少女の仲間が、キスの邪魔をするように剣を突き出したのだ。


「――、――っ!?」

 少女が剣を払いのけ、男に向かって抗議の声を上げる。けど、先ほどと違って、男はそれで引き下がらなかった。今度は少女に向かって言い返す。

 相変わらず言葉は分からないけど、察するに少女がなにをするのと言った感じで怒鳴りつけ、男がそれに反論している構図のようだ。


 なんと言うか……本当に意味が分からない。

 そもそも、なんで俺はキスされかけたんだ? まさか、咲夜って単語が、彼らの言語で愛の告白――なんて、そんなはずないよなぁ。


 俺はどこにでもいるような普通の学生だし、知らず知らずのうちに愛の告白をしていたとしても、即座にキスで返される理由がない。イケメンなら別かもだけどな――なんて暢気なことを考えていられたのは、その瞬間までだった。

 目の前で、金属音と共に火花が弾けたからだ。

 一瞬遅れて、なにが起きたのか理解する。男が俺にめがけて剣を振るい、それを少女の剣が寸前で弾いたのだ。もし少女が防いでくれなかったら、俺は間違いなく殺されていた。


 ……ダメだ。まったくもって意味が分からない。

 分からないけど……男は敵意をむき出しだ。少女の方には敵意がなさそうだけど、ほかの連中は、男の方に賛同しているように見える。危機感を持たないと、本気で殺されそうだ。

 と言うか、状況を見守っていた男達の一人が剣に手をかけた。そして、言い争いをしている少女はそれに気づいていない。このままだと、最悪の未来しか想像できない。

 なんとか少女とコミュニケーションを取りたいけど……ダメだな。悔しいけど、ここは逃げるしかないだろう。そう思った俺は、視線だけで周囲を見回す。


 右手の方向に、連中が現れた入り口が見える。そしてその向こうから自然光のような光りがわずかに差し込んでいた。

 だからたぶん、そっちが外だろう。そして幸いなことに、入り口付近には誰もいない。

 俺は一瞬だけ少女と言い争っている男に視線を向け、俺から注意が外れているのを確認。一度深呼吸をして、全力で入り口へと駈けだした。


「――っ!」

 俺の動きに気づいた男達が怒号をあげる。その直後、少女の声も響く。それはまるで、いかないでと縋るような音色。俺は思わず足を止めそうになる。だけど――

「――、――――っ!」

 再び響く少女の声。嫌な予感がして振り返ると、誰かが投げたであろう剣が飛んでくるところだった。明らかに、俺への直撃コース。それを見た俺は身をこわばらせた。

 そして剣が俺に吸い込まれる。

「――――っ!」

 寸前、少女の凛とした声が遺跡に響き渡った。その瞬間、少女の側から光の矢が放たれ、俺の目前で剣を弾き飛ばす。

 なに……が? 今のは、魔法……なのか?


「――――っ!」

 呆気にとられる俺に向かって少女が叫び、入り口を指さしている。逃げろと言っているんだろう。それを理解した瞬間、俺は全力で駈けだした。

 そうして自然光らしき光りを求めて通路を駆け抜け、建物の外へとたどり着いた。


 目前に広がるのは――見渡す限りの木々。どうやら、遺跡は森の中にぽつんと存在していたらしい。これなら、連中を撒くのは容易だけど……そのまま遭難するんじゃないか?

 ……いや、遭難するとしても、ここで殺されるよりはマシだな――と、俺は空をちらり、太陽の位置を確認してから森の中へと飛び込んだ。


 そして深い森をかき分けて進む中、俺はわずかながらに違和感を覚える。不慣れな森だというのに、息が上がらない。それどころか妙に身体が軽い。

 理由は分からないけど……今は逃げるのが先だ。そう思った俺は全力で走り続け、なんとか追っ手を捲くことに成功した。

 だけど――


「……ここ、どこ?」

 案の定、俺は道に迷った。いやまぁ、もともと見知らぬ土地だったから、迷ったと言うより、最初から迷ってる訳なんだけど。

 一応、遺跡を出たときに太陽の位置を確認したから、おおよその方向は分かるけど……連中に見つかったら、問答無用で殺されそうだしなぁ。

 かといって、このままでも野垂れ死にしそうだ。

 あの少女とだけ接触できればなんとかなるかもしれないけど……はてさてどうしたものかと、俺は近くの倒木に腰を下ろした。


 取りあえずは――と、持っていたスマフォをダメ元で立ち上げた。

 ……まあ圏外だよなぁ。GPSも……ダメか。衛星とリンクできないってことは……やっぱりここは地球じゃないどこか、俗に言う異世界のようだ。

 実際のところは、ここが異世界なのか、はたまた同じ世界の地球とは別の星なのかは分からないけど……この際どっちでも良い。


 という訳で、その検証は後回し。まずはこれ以上迷わないようにしないと……と、立ち上げたのは、スマフォにある方位磁石。幸いにして、磁石は一定の方向を指していた。

 現在地が分からないとは言え、どっちを向いているかも分からなくなりそうな森の中だからな。方向だけでも確認できるのはありがたい。

 俺は自分が走ってきた方向を確認した後、スマフォを機内モードにしてバッテリーの消費を節約する。これで一日、二日は持つはずだ。


 さて、遺跡に戻って少女にコンタクトを試みるか、人里を目指すか、どっちがいいかなぁ。

 咲夜と再会する可能性が高いのは、少女とコンタクトを取ることだけど……失敗して殺される可能性も高そうだ。

 咲夜が連れ去られたのは俺のせいだから、咲夜を助けるためなら命だって投げ出す覚悟はある――と言うか、その覚悟があったから、得体の知れない魔法陣にも足を踏み入れた。

 けど、咲夜を助けられずにデッドエンドという展開だけは絶対に避けたい。


 それに、四年経っても帰ってこなかったことを考えると、咲夜が監禁されている可能性は高い。咲夜を攫ったとおぼしき連中に投降して、一緒に監禁されては意味がない。

 だとすれば、人里を目指すべきだけど……見渡す限りは森しか見えない。これから、どうするべきか……と考え込んでいると、不意に茂みをかき分ける音が響いた。


 

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