発掘☆古代兵器彼女!気付いたら半身埋まってました!?
0724 オルドの口調を修正しました(他変更なし)
気付いたら身体が半分埋まっていた。しかも縦半分、左半身が地中。
どういうことかと思うだろ……? わたしにもわからん……。
とりあえず動く右手で地面をひっかいたが、意外と固く、ほんとうにひっかいただけで終わってしまった。埋められたなら一度掘り返されてやわらかくなってると踏んだのに。超固い。どういうこと。
いや、まず縦半分埋まってるのが「どういうこと」だった。最後の記憶はなんだっけ? ええと、アルバイトがめちゃくちゃ忙しくて日付変わって疲れ切って家に帰った。玄関の鍵を閉めた。そんで、靴を脱ぎながら……寝た……?
玄関で寝たのはまあ仕方ない。仕方ない? うん、気にしない。で、そっからなんで半分埋まってるの。左半身がぬくい。地中がぬくいというのは本当だったらしい。
そこでふと気づいた。呼吸、してない。
左半身というのは、もちろん顔面の半分も指している。口は開かないし、鼻も半分。さらに呼吸すれば腹が動く、なのに今なんの不自由も感じていなかった。
あっ息止めてた、じゃなくて、あれっそういえば呼吸必要なんじゃない? してなくない? という気づき。なんだなんだ、わたしはどうしてしまったんだ。
右手を上げ、右目で見る。手の形は変わってない、見覚えがあるがしかし、なんだか作り物っぽい印象がある。なんか、なんだろ、人型ロボットの皮膚みたいな……?
薄暗い中じっと見つめて、違和感の正体を探る。手相、ある。指紋もある。血管も透けてるし、あとは? うーんと思って、それから毛穴がひとつもないことに気づいた。つるすべだ。写真加工アプリの驚きの白さ。指先まで全身脱毛でもしたのか。いつの間に。
他の毛が心配になって、頭、眉毛と触る。ちゃんとあったセーフ! しかし無駄毛については、産毛さえない感触。残ってた傷痕なんかも消えている。ささくれもない。なんだどういう状況だ。二次元か。
毛穴はないが肌のやわらかさとか暖かさはきちんと人間のそれ。そこでとりあえず自分の無事を納得し、薄暗い周囲に視線をやった。首が動かないので見える範囲はとても狭い。
埋まっている地面は赤っぽく、乾いている。目の前は、手が届かない距離を空けて壁。石造り? ややぼろぼろで、なんか書いてあって、遺跡めいた壁だ。天井は、薄暗いのと視界の端すぎて見えてるのか見えてないのかよくわからない。
さて。
現状が整理できないにも、ほどがある。
しかし考え始めてすぐに放棄した。夢の現状なんて把握して何になるのか。
にしても、なんと起伏に乏しい夢だろう。動けないし、できることと言ったら寝るくらいの、こんなつまらない夢をいつまでも見ていたくない。目を瞑る。
意識が途切れたのは、それからすぐ。
ふっと目を覚ますと、辺りは薄暗い。何時だろうか。左側がなんだか窮屈────まだ夢か。
場所も体勢もなにもかも変わっていない。中途半端なリアリティよりストーリー性を重視してくれ、わたしの脳よ。はふんと溜息を吐いて、なにか変化がないか狭い視界を動かした。呼吸をしていないので肺に空気がなく、溜息を吐くのにもわざわざ息を吸わねばならない辺りが中途半端すぎる。
視界を動かしてもやはり動くものはなにも見当たらない。起きたら疲れてるタイプの悪夢だなこれ。左手めっちゃ痺れてそう。
はあ、もっとハイテンポでストーリー進んでくれないだろうか。半身埋まってるってどういう設定なの、この夢。起きたら夢占いサイトを見よう、なにか面白い診断が下るかもしれない。抜け出せない問題がストレスで云々などと書かれていそうな気もする、夢占いサイトでは直球解釈も散見される。
地面にのの字を書いても確認すらできん。めちゃくちゃ寝たし覚醒夢のわりに身動きすら自由にならないし、だれてしまうのにあくびすらし辛い。あくび出ないけど。
あーあーと焦点をぼかしたり定めたりひたすらじっとしていた。やることがない。ひとりしりとりにも飽きが来たころ、なんと突然人の話し声が聞こえてきた。会話してるからグループだ。よっしゃあ新展開!
それは近付き、声音の判断ができるほどになる。
男二人と女二人。全員年若いようだ。
おうい。声をかけようとして、半分埋まってる状態の怪しさにためらう。しかし夢。旅の恥はかき捨てというが、夢の恥ならなおさらである。半分しか動かない口で「おーい、すみませーん」と叫んでみた。発音は予想以上に明瞭だった。くわくわと窟内に音が響き、若者たちの声が止まる。
男二人女二人、その人数を意識してはっとした。
洞窟に若者って、もしかして肝試し? わたしお化け役? 退治され系? 地縛(物理)なので無害ですよ~、まあ逃げられるオチかなあ。
一応、もう一度「おーい」と口に出す。
声は緊張感がないと評判のわたしそのままであった。
へんじがない。ただのしかばね度は呼吸していないこちらの方が高いかもしれないが、向こうも呼吸してない仲間の可能性とこちらだけが人間でない可能性とでは、どちらが高いだろうか。
三度目の呼びかけに、返事ではないざわめきが聞こえ、その後は静かになった。にげられた。予想通りなので悲しくもない。
そして誰もいなくなった。
つまらない夢は続く。
禅の精神が宿りそうなほど無我の境地に近づいていたそのとき、突然どかんと破壊音。はっと意識が戻される。
若者たちには声をかけれたけど、こんな破壊音を出す生き物にこちらの場所を知られてはいけないような! 気が!
殺す息も無いのに息を殺し、激しく鳴る心臓の幻聴が聞こえる。ばくばく。手に汗がにじ……いや、さらさらしてる……。汗が滲まない……。
心と体は繋がっているとか言うけど、体が反応しないと心も落ち着いてくるのだとはじめて知った。焦りや恐怖によってもたらされる、呼吸のしづらさなんかが、きっとさらに感情を増長させるのだろう。身体が平然としてると、あれっもうちょっといけるんじゃない? 余裕じゃない? という気持ちになる。
心音の幻聴も聞こえなくなり、取り戻した余裕により耳を澄ますこともできた。どうせ夢だ、何が来ても恐るるに足らーず!
気配なんて読めないし、若者たちと違って今度の相手は無言である。近づいてきているのかも判別つかない。だが来ているはずだ、じゃないと物語が進まない。来ないならさっさと夢は覚めてほしい。
そうやってしばらくじっと待っていると、今度の音はすぐ側だった。重いものを引きずってずらす音だ。来るか。来るのか。一体なにが?
わくわく、とも、はらはら、とも付かない妙な緊張感で、右手を胸の前に握る。
どうか、人型! 人型がいいです! というか人間がいいです!
モンスターとか喋るケモノとか獣人とか、ファンタジーならフーンと済ませられるが、現実に相対して平然としていられる自信はない。動物というのは、たとえチワワでも私より立派な武器をもっている。それが大きければ怖いのもおかしくはない、普通の外国人男性だって怖いことあるのに。
そして揺らめく灯りが近付き、静かな窟内で相手の静かな呼吸音が聞こえる。それは私のすぐ足元まで迫っていた。
──── が、その姿を見ることは叶わなかった。
考えてもみてほしい。私は左半身が地中に埋まっており、首が動かせないわけだ。片目の視野なんてたかが知れていて、その範囲に足元は入らないのである。どれだけ頑張っても無理。見えない。
幸いにして相手はすぐにこちらに襲いかかってくることはなかった。しばしの膠着。
揺らめく灯りはおそらく火だろうので、知性ある存在に違いない。人間か、今の私みたいな生命活動してない状態か、はたまたエイリアン的知的生命体かはわからないけども、膠着状態に飽きて動く右手でぴっと足元を指差した。
「そこだと見えないから、こっち来て。私の顔の前、壁際に座って。」
指を正面の壁に向けなおす。夢の主はこちら、敬語をつかうべき気持ちにならなかったのでそれはそれでいいだろう。
へんじがない。
若者たちも同様だったが、もしかして言葉が通じてないのかな? 何か呪いでもかけてるっぽいのかな? と不安になって無言で待つ。またぼっち夢に戻るんだろうか、まだ逃げてないからもう一度声を掛けてみようか。やっと近くに来た登場人物ひとり思い通りにならないなんて、なんて優しくない夢!
迷っていると灯りが揺れた。そういえば、この灯りで照らされる窟内の明暗を見るに、この中は相当暗いらしいのに、陰の部分も隅々までハッキリ見える。なかなか細かい夢である。それなら視野を広げてほしかった。突然俯瞰になる夢も少なくない。
視界に足元。靴はブーツ、皮だろうか。ゴムが使われていない、レトロな感じ。足は大きくて、たぶん男性。
彼はそのままゆっくり、こちらに背を向けないように且つ距離を保って壁際に立った。
そうなると、端に顔が見えるようになる。しかし見づらい。見づらいが、男はイケメンだった。ヒュー! 夢クオリティ! ナイス!
現実離れしたオレンジの髪がちっとも違和感なく、長めに後ろで縛られている。歳は二十代くらいで、すこしあどけない顔。昨今はやりの可愛い系イケメン。
必死にじろじろ観察していると、彼はまあるく開いた薄水色の瞳をぱちぱちさせて、突然機敏にしゃがみ込み私の顔を覗き込んで来た。灯りであろう火のついたランプが頭のそばに置かれる。動けたら思い切り後ずさっていた。
青年は顔を驚愕に染めて、こちらの半分の顔を──特に眼を、まじまじ見つめる。倉庫の隅に転がした漬物石が実は数千万のお宝だったと聞いたような、信じられないけど確かに価値があると知っている、みたいな視線。
いくらイケメンでも不快にすぎる。だって珍獣を見る目ならまだしも、間違いなく珍品を見ているのだこれは。確かに今は呼吸もしてないし眼を開きっぱなしでも乾かないし、今はあんまり生き物らしくないけど、私は確かに人間だもの。
夢とはいえむかついて、口を開こうとする。
が、声を出したのはイケメンが早かった。
まるで呆然とするように、彼は小さく呟く。
「古代兵器、マーリン……」
「マーリン? 魔術師?」
変な呼びかけをされたので聞き返すと、青年はぎょっとして後ずさった。しゃべるとは思っていなかった、みたいな顔をしているけれど、ついさっき移動しろやと声をかけたのは忘れたのかな。
さてそれより魔術師だ。ちがうマーリンだ。
一応言っておくと、私の名前はマーリンではないし、マリとかマユリでもない。萩原千里といいますよろしく。
ハギワラもチサトも、よっぽど変形させないとマーリンにはならない。そこまで変形させたらもはや暗号だ。つまり彼は人違いをしている。
地中に半身埋まっていそうなマーリンさんを浮かべて微妙な気持ちになっていると、壁際ぎりぎりに座り込む青年がおずおずと口を開いた。
「マーリンは、魔術も使えんの?」
「まずマーリンって何? 魔術なんて使えるわけないじゃない」
オレンジ髪のいる夢の世界なら魔術くらいアリかな?
でも地中から出られない時点で自由にならない夢なわけだし、ファイヤー! なんて叫んでも何も出てこない気がする。
うーん? と動かない首を雰囲気だけ傾げると、青年も同じように首を傾げた。
「マーリンだろ? まさかこんな良い状態で動くのが遺ってるなんて信じられないけど」
「だからマーリンって? こんな身動き取れない状況が良いと思うの?」
「マーリンは契約者が死んだら記憶が消去されるって聞いたけど、自分がマーリンだってことも忘れんの? それともただ古いから?」
「古いだなんて失礼ね。それに消去なんて、機械でもあるまいし、そもそも記憶あるわよちゃんと。物心ついた時から今の今まで。」
「もしかして前の契約者が死んでないとか? それならわざとその状態?」
「契約って? さっきからあんた私の質問にひとつも答えてないじゃない。それにわざとこんな体勢に甘んじる趣味はないわよ」
「うーん、共通で残される人格基礎の記憶があるのか、それとも混乱してるだけなのか。なんせ本物のマーリン見るのなんて初めてだし」
「清々しいほど無視するわね動けたら殴ってるわよ」
「とりあえず掘り出してみようか。」
ちょっとカワイイ顔してるからって許されると思うなよ。
和やかな気分をとっぱらって睨みつけるも、半身地中のままでは小屋に繋がれてグルグル回る番犬より無力。無念。
首を捻った腹立たしい青年は、腰のポーチからナイフを取り出し、それを私の眼前に思い切り突き刺した。
「ひぇっ!?」
「あれっ、意外と硬いな。ナイフ一本じゃ済まなそうだ。まあ、ほぼ化石だもんなあ。ここで発掘なんてするつもりなかったから道具がないや。ちょっとマーリン、キミ、自力で出てくれない?」
「で出られるものならとっくに出てるわよ! 危ないじゃないの! 怖いじゃないの!」
「今のままじゃ無理なことはわかってる、契約してないからね。だから俺と契約しない? 出たいだろ?」
なんだかやっと会話になった気がする。このイケメン、話聞かないし配慮も足りないし、全然! 好みじゃ! ない!
私の好みは包容力があってスマートで清潔感があり精悍なイケメンだ! まず顔からしてさほど好みじゃないのに性格もむかつくのでチェンジ! 登場人物がイケメンでGJとか言ったなあれは嘘だ! 人間は欲の出る生き物なのだ!
と言いたいが、動けるようになるなら藁でも掴みたい気持ちなので、苛立ちをとりあえず押し込め、話を聞く体勢を取る。
話を聞く体勢といっても体は動かせないんだけどな! そろそろ動けないネタも繰り返しすぎてうっとおしいのでやめよう。意識して息を吸い、吐く。
抜かれないナイフ越しに、青年の薄水色を見上げた。
「さっきから契約とか契約者とか、そもそもマーリンとか、説明してくれてもいいんじゃない? 契約すれば抜け出せるってどういうこと?」
と、質問を重ねて、ふと大事なことを聞き忘れていたことに気づいて瞬いた。
「というか、あんた、誰?」
青年はきょとんと瞬いて、そうか自己紹介も必要なんだね、と言った。
してなかったね、でなく、必要なんだね。聞かれなかったら言わなかったに違いない。
もしかして自分が夢の世界の住人だとわかっていて、夢の主なら知っててもおかしくないと思っているのかもいれないが、私の思い通りに事が運ばないあたりからお察しである。
チュートリアルの説明役はさ、もっとこう、真摯なひとにしてくれないかな。無表情でも愛想がなくても良い、はじめから順に教えてほしいし質問には答えてほしい。不親切設計すぎる。
本当なら尋ねたこちらから自己紹介すべきなのかもしれないが、呼び方はマーリンといえ、彼はまるでこちらのことを全て知っている──もしくは、自分が知っている以上のことを知りたいと思って居ないようなので、黙って待つ。
ぱっちりしたやんちゃそうな薄水色が、一旦ぼんやり天井を追って、それからにっこり向き直った。
「まず俺はオルド。24歳独身、今は冒険者とかやってる。今は岳華暦627年で、ここはシュライナスって国のアイゼンヒ村。マーリンについてはよく知らないけど、伝承によれば、古代のものすごい人型兵器。千年以上前に滅んだ高度な魔術文明の遺産って呼ばれてる、ちょうどこの遺跡が現役な頃。一体で山を削ったとか、海を割ったとか、辺りを一瞬で焦土にしたとか」
「うえぇ? それならまして私は違うでしょ、そんな恐ろしい力ないわよ。海なんて割れないし」
「そこで契約だよ」
「待ってよ。それより先になんで私をその古代兵器だと断言するのか教えて」
暦の名前とか国や村は、夢なので実在してなくとも気にならない。出典がわからないところは気になるけど、考えても無駄。
でも、私がその古代兵器マーリンだというのは聞き逃せない。
大昔のロストテクノロジーな古代兵器とか、巨神兵じゃないんだから。ロボット兵の方かな。とにかくそれがこんなところで地面に半分埋まって身動き取れないだなんて思えない。
じろっと彼……オルドを見上げると、ベビーフェイスをにっこりさせて自分の目を指差した。
「キミ、瞳孔が四角いだろ。この世界に真四角を持って生まれてくる生き物は居ない。神々は四角の図形を好んでたし、発掘された壊れたマーリンの瞳孔も四角い」
「四角?」
「そう。」
鏡がないから見せてやれないけど。にしても、自分がマーリンだと忘れてるのは兵器としては厄介だよな? やっぱ古いからかな、などとごちゃごちゃ言うのを無視し、その驚愕の事実を確かめるため、目の前に突き立てられたままのナイフを見つめた。
よく磨かれたナイフは、薄っすら私の姿を映している。
顔の右半分だけが地面から出て、記憶と変わらない黒くて肩甲骨を過ぎるあたりまでの癖毛も半分が地面に落ちる。
顔は、確かに私なのだけど、なんというか、上位置換? ものすごく調子が良いときに、ものすごいメイクのプロに変身させてもらって、バランスとか大きさとか整えました! みたいな。面影はあるのだけど、パネマジとか詐欺写とか極加工プリクラとか、そういうのを見せられてる感じ。私をそのまま美少女にした、といえばわかりやすいだろうか。
そして、目だ。
丸っこい二重の、長いまつげに縁どられたそれは、驚きに見開かれている。
だって、焦げ茶色だったはずのそれは鮮やかなチェリーピンクをして、言われた通り正方形の瞳孔が黒いのだ。カラコンでもこんな鮮やかな色は出ない。
確かにこれは人間じゃない、と一瞬思う。呼吸もしてないし。この世界の生き物みんなしてないならまだしも、彼はどうやらずっと呼吸している。
でも言われたまま認めるのはなんだか癪で、たとえ人外設定なんだとしても兵器だとは信じないことに決めた。
それからオルドは、古代兵器マーリンについてもう少し語った。戦争兵器なのかと思ったら、マーリンは人間を傷つけられないらしく、魔獣退治や代理戦争の神話に出てくるのだと言われた。
魔獣が居る世界観なのも気になるけども、『神話』の存在だなんて。アトランティスを信じるような話なのに、アトランティスよりずっとわかりやすい遺物がいくつも発見されているそうだ。それなのに当時の記憶や記録はおろか、文字文化さえ見つかっていないため、研究が進まない。
「だから、マーリンなんて持って帰ったら褒賞ものなんだ」
動くし、と軽く言って、わりと近くにあぐらをかくオルド。私は身動きとれないまま、ナイフも間に鎮座している。
「連れて帰って、研究対象としてバラバラにするの?」
「研究者は動くマーリンと動かないマーリンで比べたいだろうな、バラバラにしてでも。俺は壊さない、誓ってもいい。だから俺と契約しようよ」
「契約ってさっきも言ってたわね。なんなの?」
「マーリンは契約して力を発揮するんだろ? 自分のことなのに全然知らないんだ。知識はないのに意識はあるのか、ちょっと面倒だなあ」
「本人前にして面倒とか言わないで頂戴。で、契約のメリットとデメリットは? あんたが連れ帰るだけじゃなくて契約したいのはなんで? 私があんたを選ぶとどうなるの?」
「そーゆー質問責めが面倒なんだよ。えーと、契約したいのは、持って帰るだけだとギルドやら上司にとられて、はした金で済まされそうだから。契約すると、契約者の意向が最大限叶えられることになって、キミはぜったい壊されないで済むわけ。持ち主の許可なく使ったり壊したりしないだろ、普通? 俺はキミが壊れないほうがいいし、今俺と契約すればたぶんその状態も抜け出せる」
「ふう、ん」
さっきに比べて質問に答えるのは、それだけ契約に魅力を感じてるからか、それとも私の意思が夢に反映されたんだろうか。
今の状態が夢だとわかってる──けど、まるで言い聞かせるように確認しなきゃいけないほど同じ感覚を得ているなら、もう現実と変わらないんじゃない?
夢だから、という免罪符を、今の私が使える気がしない。それなら、あまり軽々しく「動けるようになるならラッキー」と決めてしまっては……。
つまりは、夢なんだから契約しちゃおっ☆という気持ちにならないのだ。うーん。うぬぬ。でも動きたい……。
古代兵器、とは認めないけど、契約したら凄い力を得るかもしれない。オルドはそれを利用して、褒賞が欲しい。利用というのはどのくらいのことなんだろう? 人間が傷つけられないなら、魔獣退治とやらをさせられたり?
戦うのはイヤだと思う。戦い方がわからないのでなんともいえないけど、素手で戦うなんてことになるのは最悪だ。
でも、この機会を逃したら次はバラバラにしたいやつとの契約の可能性もある。治験くらいならいいのだけど、実験動物になるのはイヤ。
しばらく迷ってから、契約しなくっても持って帰ると言ってることに気がついた。どっちにしても、ここから動くことはできるようになる。きっと『バラバラにしたいやつ』に着くまで何人か経由するだろう出会う中には、オルドみたいに出世したくてオルドより真摯な人もいるんじゃない?
だってコイツの説明だと、「契約すると力が発揮できる」「壊されない保証(ただしオルドの気が変わらない限り)」くらいしかメリットないし。契約者を裏切れないって、オルドに従わなきゃいけないならヤだし。
うん、決まった。右半分の顔でにっこり笑う。笑顔になろうと思うと左半分も動くみたいで、突っ張ってちゃんと感覚があることを知った。
ナイフ越しにオルドを見上げると、あぐらに頬杖をついている。
「オルド」
「ああ、契約の方法は──、」
「私、あんたと契約しない!」
「──はァ!?」
それでも私を見逃せないだろうから、ちゃんとがんばってね!
なんでか自信満々だったらしいオルドは愕然としたが、私は待てばここから抜け出せるとわかったので暇つぶしにまた眠ることにする。眠くなくても寝ようと思えば睡魔がやってくるのも、人造人間みたいな設定だからなのかしら。
これで夢から覚めればそれでよし、まだ続いても次は景色が変わるだろう。ちょっと、とか、おい、とか聞こえる声も肩を掴む手も無視して目を瞑り、私は呼吸を穏やかなものにするのだった。
書き始めから時間がたちすぎたので、オルドの口調がごちゃごちゃでした。できるだけ統一しましたが、まだおかしいところがあったらごめんなさい。
小話まとめ http://ncode.syosetu.com/n3417cl/ におまけがあります。