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恋愛短編『完成したら』~よく分かるかもしれない作品解説

作者: 赤ポスト

作品解説です

 本作品は、乳酸菌さんの恋愛短編「完成したら」の作品解説になります。

 ※乳酸菌さんに許可を得ています。

 先に下記の作品をお読みになることを推奨いたします。


~~~~~~~~~~~~~~~

 「完成したら」(作:乳酸菌)

 あらすじ:

 『遠距離になるのを目前にして、この頃の私には恋人の言葉が度々別れ話に聞こえる。

 だから今言われた「似顔絵描いてよ」も、「別れよう」に聞こえてしまうのだ』

 ※ページ下部にリンク付けをしております。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 では、さっそく。


 ◆「完成したら」を楽しむための推奨順番

 1。「完成したら」を読む

 2。作品の意味を少し考える。

 3。本解説を読む

 4。もう一度読んで自分の解釈をつくる

 


◆よく分かるかもしれない解説


 「完成したら」は、文学的な手法が使われた、ランキング作品ではあまり見ない類の作品です。

 具体的には、直接心理描写を書かず、文房具で間接的に心理描写を表した作品です。


 5000文字程の短編、5分程で読めるモノですが。

 さらっと読み飛ばさずに、ちゃんと読めば (国語の読解問題風に読むと)味わい深い作品でもあります。

 こう書いても正直よく分からないかと思いますので作品解説します。


 ここではどのような作品なのか、どういう風に解釈すれば心に「ぐっ」とくるか、一つの解釈を示しています。

 ※乳酸菌さんに作品意図も確認済みです。


◆まずどんな話か?

 主人公 (明日香)似顔絵を書くことを通して、別れ話から逃げようとする話です。

 実際は『別れ話』と思っていたのは、主人公の被害妄想ですが、その際の2人の心理表現に文房具を用いています。 


 本作品のポイントとなるのは以下の点です。

 【色紙】【似顔絵】【話の結末】

 この3つを抑えておけば、大きく内容理解を外さないかと思います。


【色紙】

 色紙は明日香の一樹への印象変化を表現しています。

 様々な色の色紙が貼り合わさって切り絵が完成していくことで、とっちらかったよくわからない一樹の人物像 が、明日香の中で纏まった1つイメージに完成されてゆく様子を表現しています。人に惹かれていく姿を切り絵で表現です。

 又、一樹は自らハサミを持って、自分を構成する要素を刻んでゆきながら切り絵を完成させることで、明日香に自分自信を伝えて歩み寄っていきます。


【似顔絵】

 作品を完成させる=現在の想いをのせるて保存する=「思い出」の象徴。

 特に似顔絵は→写真のように現在を切り取るもの、から想起して「思い出」の象徴。

 似顔絵を完成させる=現在を思い出にするです。

 思い出になるということは、現代が過去になる→今の関係が終わる→別れる→別れたくないから絵を完成させたくない!、という心理表現です。 

 そのため明日香は、絵を完成させたら別れてしまうと思い、絵を完成させないように粘ります。

 少しでも現状の関係を続けたいからです。


 この明日香の心理が中心となるため。

 本作はざっくり言うと、「明日香が別れ話から逃げようとする話」となっています。  


 【話の結末・・・】

  明日香と一樹は対になっていて、2人の作品を作る姿勢が、恋愛に対する考え方を示しています。

  話の中で、2人でいる時間を延ばすにあたって違いがあります。

   ・明日香=一枚を完成させないようにする (作品全体の話)

   ・一樹=何枚も書くことで完成させないようにする (途中の切り絵エピソード)


  これは恋愛への姿勢を示しており「作品を完成させる=思い出にする」と考えると。

   ・明日香=「作品を完成させたくない=「この今を思い出にしたくない」 

    状況に対して区切りをつけたくない、あやふやにして結論を出したくない。今の状況を続けたい。

    高校を卒業して状況が変わると、2人の関係が終わると思っています。 (未来に対する悲観)

   ・一樹=「作品をどんどん作っていく」=「思い出をどんどん作っていきたい」 

    結論を出してドンドン進みたい。変わったいく状況を受け入れる。

    高校を卒業して状況が変わっても、2人の関係は変わらない考えています。 (未来に対する楽観)


  となり、2人の大きなすれ違いとなっています。


 ラストで明日香が「何枚でも書く」と言ったのは、明日香が自分の考えを変更して (「この今を思い出にしたくない」→「思い出をどんどん作っていきたい」)一樹の考え方に合わせたという意味です。

 つまり、高校を卒業しても2人で付き合っていこう、上手く行くはずだと思ったということです。

 未来に対する一樹の想いが分からず悲観的に捉え、別れることになると思っていましたが、一樹がこの先を付き合いたいと思っていたことを確認し、別れることに対する不安が消えて、未来に対する希望を持ちました。


  そのため最後の明日香の心理描写、「じゃあ何枚でも、描いてあげるよ。でもきっと何年経ったって、完成はしないから覚悟してて」は、「思い出をどんどん作っていっても、別れることはない (絵は完成しない)。終わりはない、ずっと一緒に思い出を作り続けたい (ずっと関係を続けたい)」という、未来への明るい決意になります。



◆以下にて本文を引用し、細かい解釈を加えています。

 上記の解釈を頭に入れて読みますと、違った味わいがあるかと思います。

 ※記号【】にて、解説を加えております。


ーーーーーーーーーーーーーー


(本文引用しています)


 別れよう。

 この頃私には一樹かずきの言葉が度々こう聞こえる。

 いつ引っ越すん。部屋は決めたん。友達たくさん出来たらえーね。応援してるよ。初デートで見た映画のDVD借りひん。本当に絵が好きやね。

 どれもなんてことない恋人の会話なのに、私は逐一彼に怯える。いつも通りの声音のどこかに、私を拒絶する欠片がほんの僅かにでも含まれているのではないかと息を飲む。

「俺の似顔絵描いてよ」

 たった今彼が言ったこの台詞も、決して別れ話でもなんでもない。だけど私は、終わりの予感に心臓がぎゅっと潰された。

「そこ、座って」

 私は大きな机を挟んだ向こう側を指さして、真新しい鉛筆を手に取った。カッターナイフを握りしめ、カチカチと刃先を出す。美術室は、私と一樹の二人きり。

 下に紙を敷いて鉛筆をカッターナイフで削ってゆく。


【解説↓】

【真新しい鉛筆=明日香の心。カッターナイフ=鉛筆を削るもの=心を削るもの=一樹の言葉。 

 自分で自分の心を削っている。自分で不安を作り出して、自分の心を削っているということ。

 状況:卒業して離れ離れになるので、いつ別れることになるか脅える明日香。彼の一挙一動にビビル】


「えらい本格的やなあ」

 一樹は細い目をぱちぱちさせて、私の手元を見つめた。

 しゃくしゃく。木が削られて、尖ってゆく。


【木が削られていく=一樹の言葉で削れていく心】


「せっかく描くんなら、本気で描きたいから」


【鉛筆 (心)で彼の似顔絵を描く=彼に対する今の想いを表現する=彼に想いを伝える。

 せっかく想いを伝えるなら、本気で伝えたい】


 締め切った窓の外から野球部の声がもれていた。他の部活の三年生はほとんど皆引退したというのに、私は三月になった今もしつこく美術室に通っている。ただ単純に、絵を描くのに便利だからというのは嘘では無い。でも、一樹と二人きりになるのを避けていたというのも、たぶん事実だ。美術室に行くといえば、部外者の彼は中々追ってこないから。以前はお構いなしに入って来る事もあったけど、私が恥ずかしがると部室には来なくなった。今日は他の部員がいなくて、入れてしまったけれど。

 私はこの春から東京の美大へ通う。受験を決めた時、地元の大学へ進学する一樹は寂しい寂しいとひとしきり拗ねた後で「応援する」と笑った。私はそれにほっとして、全力で受験に打ち込んだ。そうして無事に合格して、ふと気が付いてしまったのだ。

 彼が私を捨てない保証は、どこにもない。

 必死で東京の大学を受験して、引っ越しの準備を進める私は、一体彼の目にどう映っただろう。わがままを言うのはいつも私の方で、一樹は文句を言いながら必ず折れてくれる。欲しい言葉を器用にくれる。だから私は、慢心しきっていたのだ。遠距離だって、彼は受け入れてくれるって。

 しゃくしゃくしゃくしゃく。がりがりがりがり。


【遠距離になって別れることを不安に思う=ガリガリと鉛筆 (心)を削ることで、疲弊していく心を表現】


 木の中から黒い芯が出てきて、カッターの刃に当たる感触が固くなる。黒色がぴかぴか光って、綺麗だなと思う。普段は面倒なこの作業も、今は苦にならない。


【一樹の言葉、別れる不安で心が削られていて、黒い芯(心の純粋な部分)が露になる。だから綺麗。

 心の状態と鉛筆の状態がシンクロしており、自分のもやもやとした心 (不安)が目に見えるので、地味な作業も苦にならない。あれです。病人が窓の外から枯れ木を見て『あの葉っぱが私の命の象徴。あの葉が落ちた時私が死ぬ』と自分の現状を何かに投影すれば、地味な作業でもドキドキするのです】


「器用やなあ」

 いつの間にか身を乗り出していた一樹が感心したように息を吐く。私はすぐ近くにある彼の顔を一瞥して「まあね」と唇の端で笑う。

 鋭利に尖った鉛筆を机に置いて、先の丸い違う鉛筆を手に取った。再びカッターナイフで先を削ってゆく。

「え? まだ削るん?」

 薄い唇を歪ませて、一樹が首を傾げる。

「さっきのはB。これは2B」

「はあ」

 寄った眉に嬉しくなる。いつもニコニコ朗らかな彼が、私の言動に困った表情をする。それが、どうしようもなくたまらない。


【複数の鉛筆=複数の心=不安の要因・感情は複数あることを表現】


◆【ここから時間軸戻り、切り絵エピソード開始~】


 藤丘ふじおか一樹は、学年でも有名なお調子者だった。騒がしくて、サービス精神が旺盛で、誰彼構わずに笑顔と軽口を振りまく。だから男女問わずに友人が多くて、いつも楽しそう。

 そんな彼の印象が少し変わったのは、二年生になりクラスが同じになってからだった。

 夏休みが始まったばかりの七月終わり。絵を描くために登校した私は美術室で意外なものを発見した。ど真ん中の机で、大量の色紙いろがみに囲まれて伏せっている人がいたのだ。もちろん、その人こそが藤丘一樹だった。


【大量の色紙いろがみに囲まれて伏せっている一樹

 =色々な要素 (色紙)がごちゃごちゃになっている人。よく分からないけど気になる人】


 僅かばかり悩んでから、私は彼を放っておく事にして書きかけのデッサンの続きに取りかかった。

 美術部の部員は少なくない。ただ、夏休みに学校まで来る部員となると一握りだ。といっても、彼は美術部員でもなんでもなかったけれど。


 三十分以上経っても、彼は目覚めなかった。鉛筆が画用紙を引っ掻く音と、彼の静かな寝息だけが美術室を漂っている。私は持ってきていたアイポッドもイヤホンも不思議と取り出す気にならなくて、誰よりうるさいその人が驚くほど優しく立てる衣擦れの音を、ずっと聞いていた。

 やがて彼は起き上がり、ぼんやりと辺りを見回した。私を見つけると、細い目をもっと細くして笑う。

「明日香あすかちゃん」

「……名前しってるんや」

「名前おぼえんの得意やねん」

 まだ覚醒していないらしい彼は上体をぐらぐら揺らした。右頬が赤く染まっていて、小さく切られた青色の色紙が一枚張り付いている。

「へえ」

 頬の色紙を指摘するのはもったいない気がして、私はそのままキャンパスに向き直る。


【頬についた色紙=彼自身では気付いていない彼の要素で、明日香が魅力を感じた要素。

 この時点で明日香は、「なんだかいいなぁ」と彼に魅力を感じます。彼に魅力を感じた瞬間です

 そのため、『頬の色紙 (明日香が感じた彼の魅力)を指摘するのはもったいない』、彼の魅力を暫く見ていたいと考えます】


 すると横から寝起きで掠れた声がまた聞こえてきた。

「やっぱり今の無し。かわいー子の名前はぜんぶ覚えてんの」

「そりゃどうも」

 私は目をぱちぱちさせてから、彼を見やった。少し寄れたカッターシャツから伸びる腕が日焼けし始めている。

「信じてないやろお」とケラケラ笑って、彼は大きく伸びをした。ひらり。やけに緩慢に、青色が頬から落ちる。


【青色が頬から落ちる=一瞬一樹に惹かれて魅力を感じましたが、日常に戻ります】


 彼は盛大な欠伸を一つして色紙をつまみ上げると、ハサミで細かく切り刻み始めた。

「なにしてるん?」

 デッサンの手を止めて、私は首を傾げる。

 チョキチョキチョキチョキ。カラフルで不揃いな紙切れが次々に出来てゆく。

「美術の課題。なんでもいいから夏休み中に完成させたら三年生にさせてくれるって」

「ふうん。適当に絵とか描けばええのに」

「ばっかやろう。絵なんて適当に描けるもんちゃうねん。こういうのだとなんか下手でも良い感じに見えやすいやん。そりゃあ明日香ちゃんは上手いからさあ」

「そうでもないけど。それで、それ、なに描いてるん?」

 見たところ手当たり次第に色紙を切り刻んでいるようだし、広げられた画用紙に貼られた紙からも、まるで方向性が掴めない。

 私の問いに彼はハサミを下ろして腕を組み、じっと考え込んだ。長い沈黙の末、ぎゅっと眉根を寄せて面を上げる。

「あれだ、いわゆる抽象画ってやつ」

「……貼り絵で?」

 彼は神妙に頷いて、また黙り込んだ。机の上で乱雑に広がる色紙を見つめて、やがてぱっと目を輝かせる。

「明日香ちゃん教えてよ。貼り絵」

「え、私まともにやったことないけど」

「雰囲気だけちょこっと教えてくれたらええから」

 懇願する彼の上目遣いと、完成の兆しの見えない貼り絵を交互に見て、私は思わず了承してしまった。


【色紙を切り刻んで切り絵を作っていく一樹&明日香に積極的に絡む一樹=

 彼は自らハサミを持って、自分を構成する要素 (色紙)を刻んでゆきながら、明日香に歩み寄ってきます。

 自分の性格&内面を少しづつ見せていきます。

 一方明日香の中では、とっちらかっていた一樹のイメージ (色紙)がひとつにまとまっていきます】


 それからというもの、彼は意外なほどまめに美術室へ通った。

 アルバイトをしているらしく一日に三時間程度の滞在だったけれど、元からセンスはいいのかコツコツと腕を上げていった。私以外の美術部員ともいつの間にやら仲良くなり、部員達の参加率まで向上した。私は奇特な人もいたものだとすっかり感心していた。


【一樹は美術室にマメに通って、自分を明日香に伝えていきます】


 そうして数週間が過ぎ、久しぶりに二人きりになった八月の日の事だ。

 私は頬杖をついて彼の完成間近となった作品をじっくり眺めていた。大きな画用紙に、鮮やかなスイカが切り絵で描かれている。

「力作やね」

「先生のお陰です」

「私なんもしてへんけど」

 ぺこりと頭を下げる一樹に笑ってしまう。ただ美術の成績のためにやりはじめたはずが、どうやら貼り絵が気に入ったようだ。この絵はもう三枚目で、とうとう先生に提出するらしい。

「えらい時間掛けとるね」

 やけにじっくり取りかかっていることが不思議になって訊ねてみると、彼は顔を赤くした。

 いや、ほら、だって、その。存分に言いよどんだ後で、お喋りな彼に似合わない小さな声が聞こえてくる。

「完成したら、終わっちゃうやろ」


【絵の完成=この頃には明日香の中では、一樹のイメージが出来上がっています】

 

【で、なぜ一樹が作品提出をしぶっていたかというと。

 作品を提出して課題が終われば会う口実がなくなる、2人の時間が終わると思っていたからです。

 そのため何作品も完成させつつも、作品を提出していなかった。

 しかし、もう明日香に自分を伝えきった。これでダメなら無理だと思って最後の作品を提出しようとします】


◆【切り絵エピソード終了~】


 まるであの日の立ち位置が、逆になったみたいだ。

「お、やっと描き始める?」

 結局五本もの鉛筆をゆっくり削った私に、一樹が声を弾ませた。私はそれをみて、練り消しを練り始める。

「これ練ってから」

「……絵描くのって大変なんやなあ……」


 【絵を描く=心を伝える=心を伝えるって大変やなぁ】


 すっかり暇をもてあましている一樹は唇を尖らせた。練り消しを指先でこねながら、私は彼の顔を目に焼き付ける。

 クラスでは人一倍騒がしいのに、彼は私と二人きりの時決して無理に話を盛り上げようとしたりしない。ちょうど良い距離感でそこにいて、私はこんなに自分勝手なのに、心地よい空間を作り出してくれる。

「なになに? 見つめちゃって」

「……イケメンやなあと思って」

「やっぱり?」

 ニマニマと頬を緩める一樹に、私は小さく吹き出してしまう。

 ついに練り消しも準備し終わって、渋々と画板に画用紙をセットする。鉛筆を手にとり、大きく息を吐いた。

 向かいの席で一樹が決め顔をしている。男前に描けということだろうけど、残念ながら彼は顔立ちが特別端正な訳ではない。

 私は下唇を噛みしめて、さっと鉛筆を動かした。

「はい」

 画板をひっくり返して見せると、一樹があからさまに顔を顰めた。画用紙の中央にへのへのもへじが描いてあるだけだから、当然だけど。

「似てるやろ、特にこの「の」の辺りとか。かなり横長に描いてみた」

「誰が切れ長で涼やかな目元や」

「細目を良いように言わんとって」

「えーでも酷くない? めっちゃ待ったのに」

 私からへのへのもへじが描かれた画用紙を受け取った一樹は不服そうにため息を吐いた。

「……だって、ちゃんと描いたら、終わっちゃうと思ってんもん」


【明日香が絵を完成させなかった理由は、作品を完成させる=自分の心 (不安な想い)を伝えたら、つまり今後の不安、高校を卒業したら別れる事になるという不安を一樹に伝えたら、それが実現して別れることになると思ったから。

 だから絵の完成をぐだぐだ引き伸ばした。高校卒業後の話題には触れなかった。

 似顔絵を完成させるという行為から=現在を思い出にする→今の関係が終わる→別れる→別れたくないから絵を完成させたくない!と直感的に感じたからでもあります】


「へ? 何が?」

 渋かった表情が打って変わって、彼はきょとんとしてみせる。ああ嫌だなあと思った。この顔が見れなくなるのは、嫌やなあ。

「遠距離、嫌がってたやん」

「ああ、うん」

「似顔絵なんか描いたら、これを最後に振られるような気がしたの!」

 勢いに任せて語尾を強めると、一樹は目を丸くした。美術室に静寂が訪れる。削るだけ削って全く使っていない鉛筆が机の上で転がっている。ああもう、


【削るだけ削って全く使っていない鉛筆=

 一人で勝手に作った不安が、実際にぶつけてみたらとんだ的はずれだったことを、一樹の反応で実感。

 安堵とばつの悪さを感じる明日香。一人で悩んで、不安がっていた私がバカみたい・・・・と思い、ちょっと自己嫌悪。

 その心理を表現しています】


「なんか言ってよ」

「――やから最近ヘンやったん?」

「そうだよ!」

 私は最早取り繕っても仕方ないと開き直る。すると、一樹はへらっと笑った。

「なにそれ、かーわいいー」

「……真面目な話なんやけど」

 口元を歪めた私の頬に、彼の手が伸びてくる。両側から押されて、私は口を開けなくなった。

「今回の事で、俺がほんまに不満やったのは、そこちゃうよ。……付いてこいって、言ってくれへんかった事」

「はあ?」

 ぱっと手が離れて、同時に私は頓狂な声を出した。だってえ、と一樹がぶつぶつ言っているのが聞こえる。ちょっと待って、この人、何を言っているんだ。

「とりあえずこれは貰っておくけど、これからも描いてね、似顔絵」


【これからも絵を描いてね=これからも心を伝えてねという意図と同時に。

 遠距離になってもずっと付き合っていこう=つまり別れないで恋人関係を続けようという意味】


 一樹の顔の横で、へのへのもへじがぴらぴら揺れている。

「付いて来いって言ったって、付いてこなかったやろ?」

「さあ、それは言ってみんとわからんで」


【今回の様に一人で不安を抱えていないで、伝えて欲しいという意味です】


 得意げにしてみせた彼の顔は、驚くほどへのへのもへじに似ていて、私は可笑しくなってしまった。

 じゃあ何枚でも、描いてあげるよ。

 でもきっと何年経ったって、完成はしないから覚悟してて。


【最後の文「じゃあ~覚悟してて」は、思い出をどんどん作っていっても、別れることはない (絵は完成しない)。終わりはない、ずっと一緒に思い出を作り続けたい (ずっと関係を続けたい)という、未来への明るい決意になります。

 二人の想いが重なってハッピーエンドです。 】


(引用終わり)


ーーーーーーーーーーー



 と、こんな感じで。

 5000文字の短編ですが、様々な要素が入っている作品になっております。

 ちょっと説明が分かりにくかったかもしれませんので、作品の魅力が伝わったか分かりませんが。



 因みに乳酸菌さんの作品は中々凝ったモノが多く、純粋に「おぉう・・・すごいなぁ~」と毎回感心しております。

 よくある「なろう世界観」に頼ったものではなく、オリジナル世界観で魅力を出せる稀有な方かと思います。

 中々他では類を見ないものです。


 又、明るい感じのエッセイも面白いので、宜しければどうぞ。

 特に『恋人の出来ない人生を考える』は、2016年なろう年間ベストエッセイかと思います。

 ※下部にリンク付けしております。


 ではっ


【完】

 

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解説元の作品です→「完成したら」作:乳酸菌
完成したら

 

おすすめエッセイです→
「恋人の出来ない人生を考える」作:乳酸菌
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